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英雄たちの目指した旅路

 天幕の向こうに見えた雨。

 視界のすべてを灰色に塗りつぶす、滝のような大雨。

 濁る草木と、茶色の世界が、白く切り取られた天幕の向こうに見えていた。

 目深にかぶったフードからわずかに視線を上げて、ただぼんやりとその景色を眺めていた。

 心臓が締め付けられるような切迫感。なのに、どうしてだろう。心のどこかで、その光景を美しいと思った。


 雨でぬかるんだ泥道が、煉瓦模様に変わるころ。

 荷馬車が大きく揺れて、停車したのがわかった。

 目的地に着いたことを理解して、身体が動く。

 荷台の天幕から飛び出すと、大粒の雨が容赦なく外套を叩いた。

 目の前にはくすんだ赤煉瓦造りの倉庫があった。

 フードを深くかぶりなおし、軒先へ駆け出す。

 地面を蹴るたび、水飛沫が弾け、足元を濡らす。雨水が容赦なく頬を叩いた。


 雨粒が髪を濡らし、頬を伝う感触だけが、やけに鮮明だった。

 まるで世界から音と温度だけが抜け落ちてしまったみたいに。


 不思議に思って、乗ってきた荷馬車を振り返る。

 一緒に乗り合わせた人たちは、ともに運んできた荷を下し始めていた。

 御者に乗っていた男が、一人の男に駆け寄る。

 身なりのいい服を着た壮年の男。元は一張羅だったことをうかがわせる品の良い服は、男の顔いろと同じくくたびれて見えた。暖かな土色の髪とは裏腹に、深くしわの刻まれた目元からは苦労の色が見えた。商会の倉庫を管理する責任者だろう。

 御者がこちらを指さす。つられて振り向く壮年の男と目が合い、どちらともなく駆け寄る。男の背後には、見守るように立ち尽くす小さな女の子と女性がいた。


 壮年の男が口早に何かを言う。が、やはり音が抜け落ちている。

 そのはずなのに、私は男が何を言っているのか、理解しているかのように言葉を返していた。

「この雨で、この先の道を行く荷馬車は出ないのだろう? 二輪マシンがあると聞いた。申し訳ないが、それをお借りしたい」

 壮年の男が渋るように何かを言う。

「一刻を争う。どうしても、あの山の向こうまで行きたいんだ。金は払う。頼む」

 金貨の入った袋を差し出すと、男は沈痛な面持ちで首を横に振った。

 私の手首をつかむと、もう片方の手を掴んで、金貨の入った袋を私の手の中におさめさせる。


 それを受け取るわけにはまいりません。


 音は聞こえなくとも、男が何を言っているのか、何を言わんとしているのかわかる気がした。温もりのない世界で、男の手のぬくもりがはっきりと伝わったように思えて、何故だか胸が締め付けられた。


 男がこちらへと、手を差し出して内部を案内する。

 倉庫の片隅に、白いシーツをかぶせられた“それ”が置かれていた。

 誰の目にもとまらぬよう片隅に置かれているというのに、シーツには埃一つついていなかった。折を見ては丁寧に管理されてきたことがうかがえる。

 男がシーツを取り払うと、それはあった。この国では最早造り手すらいないとされる、旧世界の遺品マシンがそこに保管されていた。

 鍵はここに、加速装置はここ、制動装置はここ、と言葉は聞こえてこなくても、男の丁寧な仕草で何となく何を言っているのかわかる気がした。

「恩に着る」

 一言伝えると、男は恭しく腰を折った。


 動力を作動させると、内燃機関が低く唸りを上げた。地面を蹴り、半円を描くように転がしてみる。二輪マシンは時を超えたかのように滑らかに地面を滑って見せた。

「いい二輪マシンだ」

 その動きは、きちんと整備されたものだった。いつ使うともしれないものを、いつでも使えるように。ただひたすら、見も知らぬ誰かのためを思って果たされた仕事の結果だった。

 誰かのためを思って、何かをしている人がいる。ここにだって、まだいるのだ。

 見てみろ、人間を。まだまだ捨てたもんじゃないだろ。そう、誰かに言ってやりたかった。山の向こうにいる相手に。そのおかげで、私は前に進める。そう思ったら、自然と目元が緩んでいた。


 ご武運を。


 ふと目があった男がそう言っているような気がした。

「行ってくる」

 その言葉だけを残して、加速装置を踏み込むと、二輪マシンは風を切るように走り出していった。




*****




「マヤ!」

 声が聞こえた。

 音のない世界を遠ざけるように、少女の声が耳元で鳴り響いていた。

「マーヤ! 起きて! 起きてってば!」

「ん……」

 瞼をあけると、薄汚れた白い天幕が見えた。

 その手前に、のぞき込むあどけない少女の顔がある。

「ニコがもうすぐ着くって!」

 そうか、目的地に着いたのか。

 まだぼんやりする頭で体を起こそうとするが、どうにも上半身が重い。まるで、体が地面に縫い付けられているみたいだ。

 がたごとと容赦なく揺れる荷台の上で横になっていたせいか、体中が痛い。そのせいだろうかと、視線を下げると、なんのことはない。少女が横たわる体の上に馬乗りになっているだけだった。

「リン……重くなったな……」

 感慨深く思いながら言うと、少女――リンはぷうっと頬を膨らませた。

「うそつき! リン、重くないもん! マヤはすぐそうやって言う!」

「嘘はついていない」

 言いながら、リンの足の下から何とか自分の両腕を引っこ抜いて、リンの身体を抱き支える。出会ったころには、抱き上げれば骨に触れるだけだったリンの体は、いつの間にか肉付きがよくなっていた。

「せーの!」

 リンを抱き上げながら上半身を起こすと、まるでゆりかごの上ではしゃぐ赤子のように、リンはきゃっきゃっと笑った。胡坐をかいた片膝の上に乗せると、甘えるように抱き着いてくる。

「もう一回! ねえ、マヤ、今のもう一回やって!」

 よほど気に入ったらしい。リンは何度もせがんだ。

「やらない。背中じゅう痛いんだ」

 背中どころか、肩も首も関節の節々が痛い。こきこきと首を鳴らしながら、肩を回していると、リンが胡乱な目を向けていた。

「ずっと寝てるからだよ」

 自業自得だと言いたげなリンの頭を撫でてお茶を濁す。が、それでは気が済まないようで、リンは抱き着く腕にさらに力を込めてきた。

「やだー! 遊んで、遊んで! マヤが寝てる間、一人でつまんなかったんだから!」

 まるで詰まらなかったのはお前のせいだ、と言わんばかりのリンの猛攻。

「御者台に行けばジルとニコがいるだろ」

「行ったよ!? そしたら、落っこちたら危ないから、中に入って休んでろって!」

「外の景色でも見ていれば良かっただろう」

「見てたよ! マヤが寝ちゃってるから! でもさ、ずっと、ずーっと、同じ景色じゃん! 山! 土! 岩! って他に何もないじゃん! ねー! 他に何かあったんなら教えてよ! ずっと寝てたくせにー!」

「んー……それなら、鞄の中に本が……」

「読んだよ! 何回も読んだよ! もう、本が無くてもそらで読めるくらい読んだよ!」

「そうか。じゃあ、あの本を売って、新しいのを……」

「違うの! そうじゃないの! 今は本じゃないの! かまってほしいのー!」

 わめくリンの声が森の中に響き渡るようだった。

「マヤのばか! もう、だいきらい! ぜんぜん好きじゃないんだから!」

 ここ最近になって、かまってくれないと、お決まりのセリフとなってきた鳴き落としの文句を聞き流す。

「リン、そろそろ荷物をまとめないとおいていくぞ」

 リンの頬を両手で挟んで言い聞かせると、リンはぐずりながらもしぶしぶと荷物をまとめ始めるのだった。


***


 たどり着いたのは、赤煉瓦造りの倉庫だった。

 いや、元倉庫と呼ぶべきだろう。かつてこの地を拠点としたマテリア商会が、物流倉庫の一つとして使っていた建物だった。

 荒廃した時代に人々の生活を支えた元英雄の一人、ブラウリオ=マテリアが営んでいたマテリア商会。しかし、数年前に組織の柱だったブラウリオがいなくなってからは衰退の一途を辿ったという。今は倉庫だった建物を活用し、行商人や旅人たちが利用する簡易宿舎になっているとの噂だった。


 荷馬車から下すためリンを抱き上げていると、中世的な顔立ちの青年が走り寄ってきた。

 色素の薄い柔らかな髪に、丸い瞳。ともすれば少し背の高い少年に見間違えてしまうほど幼い顔立ちをしているが、すでに立派な成人だ。

「マヤさん! 先にジルと荷馬車を置いてきます」

「そうか、ありがとう、ニコ」

「いえ、そんな……!」

 えへへ、と照れたようにニコは笑う。

「マヤたちはどうします? このあたりで待ってます?」

「いや、先に中に入って、宿泊の手続きを整えてくる」

「わかりました。それなら、受付の前で待っていてくれますか?」

「わかった。そっちは任せる」

「はい!」

 走り去るニコの背中を視線で追いかけながら、リンが言う。

「えっとねー、リンはね……リンはね……」

 働き者のニコに感化されたのか、リンはそわそわと落ち着かない様子だ。

「リンはこっちだ。私の手伝い」

「わかった! リンはマヤの手伝い!」

 仕事を任されたことがうれしいのか、はしゃぐリン。

 手を引いて歩くと、赤煉瓦の建物に圧倒されたのか、口をぽかんとあけて見上げていた。

 三階建ての建物は、高さこそないものの、民家が四、五軒は入るほどの広さを誇っている。

「すごい! ねえマヤ! 赤いね! それにすごく大きい!」

「その昔、大きな商会の倉庫として使われていたらしい」

「マヤ、物知り!」

 物知りだと信じて疑わないリンの言葉に、思わず苦笑してしまう。

「ジルが調べたんだ」

「物知りはジルだったか」

 リンは正確に情報を修正したようだ。

「この辺りは少し標高が高い。昔は、周辺や道中に木々を植えていたはずなんだが……」

 見渡す限り青空の広がる景色。周辺には荒廃した大地が広がっていた。

「……そうか、すべて伐っしてしまったのか……」

 知っているようで知らない景色に、胸が締め付けられるような哀愁を覚える。

「それもジルが調べた?」

 ぼんやりとあたりを見渡していると、うかがうようなまなざしでリンが見上げていた。

「ねえマヤ、何か思い出した?」

 子供は大人の顔色をよく読んでいるものだ。

 聡いリンの様子に口元を少しほころばせ、つないだ手の甲でリンの頬を一撫でする。

「さて、どうかな」

「えー! どっち? どっち?」


***


 木目の扉をくぐると、室内の視線が集まった。

 原因は先ほどから、隣で「ねえ、マヤ。どっちなの? 早く教えてよ!」と騒いでいるリンだ。甲高い子供の声は煉瓦造りの屋内によく響き渡る。

「リン」

 名前を呼んで、口元に人差し指を立てると、意図を察した様子でリンは口をつぐんだ。

 そこで初めて、周囲の視線を集めていたことに気づいたようで、ひっ! とリンのしがみつく手の力が強くなった。


「宿泊を頼みたい。山越え前に二、三箔していくつもりだ」

「おや、親子連れのお客様ですか? 可愛らしいお嬢さんですね。仲良く、同じベッドお休みになりますか?」

 宿屋の受付に座っていた男がリンをのぞき込みながら言う。

 周囲の視線にさらされて、リンはすっかり委縮してしまったようだ。足元にひっついて、手続きが一刻も早く終わることを祈る体制に入っている。手伝いをすると言っていた言葉はどこへ行ってしまったのやら。

「連れがあと二人いる。出来れば四つ、最低でも三つはベッドが欲しい」

「では三つご用意いたしますね」

 足に引っ付くリンの様子を見て、受付の男はすっかりリンのことを母離れできない子供か何かだと誤解した様子だった。

 そんなやり取りから一拍遅れて「は! 三つ? 三つってことはリンのベッドは?」と引っ付き虫と化したリンが事態に気付いた様子だったが、時すでに遅しである。

「私かジルかニコのベッドになる」

「えー! リンも一人でベッドで寝たい!」

「もう三つで頼んだ」

「えー! うーん、うう……マヤと一緒でいいよ。しょうがないから、一緒に寝てあげる」

 と、何かをあきらめた様子で言い放つ。

 保護者に対しての酷い言いように、受付の男はくつくつと苦笑をこぼしていた。


 不意にじっと刺すような視線を感じて振り返る。

 受付の脇、二階へ上がる半螺旋階段の影に一人の女の子が隠れていた。年のころはリンより少し年上、ニコよりは年下くらいだろうか。陽だまりのような暖かな土色の髪が目を引く、愛らしい女の子がそこにいた。驚きに彩られたつぶらな瞳。その視線は真っすぐリンに注がれている。

 ふと、服の裾を引っ張られて、視線を落とす。リンもまた、自分以外の女の子の存在に気が付いたようだ。

「マヤ、マヤ、見て! 女の子がいるよ!」

「リンも女の子だろう」

「そうだけど……」

 興味津々なのかリンは何度もこちらを見上げ、それからちらりと女の子の方を振り返った。

 大人ばかりに囲まれて旅をしてきたおかげで、同い年くらいの子供と遭遇すると、どうしたらいいのかわからなくなってしまうようだ。

「気になるなら、行ってきてもいいぞ」

「行ってきて、どうするの?」

「こんにちは、って声をかけてきたらいい」

「声をかけるだけ?」

「遊びたいなら、そう言えばいい」

「んー……うん……」

 気恥ずかしさが勝っているのか、リンはそばを離れようとしなかった。どうやら、人見知りをしているらしい。どうしたものかと苦笑しながら顔をあげると、女の子と目が合った。

 肩をびくりと震わせる女の子に笑いかける。すると女の子は気恥ずかしそうに目をそらして、ホールの奥へと消えていった。子供が極端に少ないせいか。あちらの女の子も御同様のようだった。

「あ、いっちゃった」

「そうだな」

 名残惜しそうに少女のいた場所を何度も振り返るリンの手を引いて、待合用に並べられたテーブルの一角を占拠することにした。


***


「おう、嬢ちゃん、母ちゃん美人だな」

 リンと二人とで、ジルとニコを待っていると、何人かの輩に声をかけられた。

 野次とも独り言ともつかないざらついた喧騒を、特に気にするでもなく聞き流していたのだが、うっかりリンが捕まった。相手は口ひげを生やした細身の浮浪者だった。他の輩に比べれば、子供の扱いに慣れている様子で、向けられる笑みには嫌みがない。歯抜けの笑顔はどことなく間抜け見るが、愛嬌はいい。

 だからなのか、からかうような野次に委縮して縮こまっていたリンは、その男の問いかけにだけ顔を上げて反応した。

「マヤは母ちゃんじゃないよ」

 努めて冷静を装うような、淡々とした切り返しに、男は目を丸くする。

「じゃ、なんだ? 姉ちゃんか?」

 と、聞かれて、リンは首を横に振る。

「マヤはマヤだよ」

 なんとも哲学的な答えに、聞いている側が思わずうなる。

 リンとの関係性を問われれば、旅の連れであることは間違いない。が、仲間とも家族とも言い難い、ただ何となく連れだって各地を回っている。それだけの関係だった。

「ほーん……どっから来たんだ?」

「うんとね、あっち? こっち?」

 方角に自信のないリンがちらちらとこちらを見上げながら、尋ねてくる。

「あっちだ」

 フォローを入れると、リンは自信満々に「あっち!」と男に答える。

「サキアスの町か」

「そう! そこ!」

「んじゃ、あれかい……? 目的地は……」

「山の向こう! 英雄たちの目指した場所!」

「なんでまた、そんなことろに……観光か?」

「ううん……うんっとねー、うんっとねー、マヤがねえ……「そんなところだ」

 放っておくと何でも喋ってしまいそうなリンの口をそっと塞いで、代わりに答える。

 歯抜けの男は、「ほーん」と疑問を呑み込むように頷いた。

「お節介かもしれねえが……感心しねえなあ、有りもしねえ英雄譚に子供を付き合わすなんざ」

 愛嬌の良さに比例して、悪い人間ではないのだろう。男の忠告めいた言葉に肩をすくめて返すと、腕の中のリンが暴れ出した。口元を塞いでいた手を払いのけ、歯抜けの男に食ってかかるように言い返す。

「うそじゃない! 英雄はいたん……! んー! んんーっ!!」

 再び小さな怪獣と化したリンの口をふさぐと、今度は小さな手を振り回しはじめた。

「はっはっはっ! そうか、英雄にご執心なのは嬢ちゃんの方か」

 口をふさがれ、手足をばたつかせるリンの頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、歯抜けの男は豪快に笑った。ひとしきり笑った男は、不意に苦み走った笑みを浮かべて

「けどなあ、嬢ちゃん……あそこには、なんもねえぞ」

 ぽつりと零れ落ちた言葉には、空虚が混じっていた。

「なんも、なかったんだ……」

 歯抜けの男もまた、それを目指した一人であったことを察してか、腕の中で暴れていた筈のリンは、目を見開いて男を凝視したまま動かなくなっていた。



 昔々、東にそびえる青峰の向こうに悪しき怪物が棲んでいたという。

 人里に現れては暴れまわり、子供たちをさらっていったという。

 怪物の魔の手がお城まで伸びたその時、人々の中から英雄たちが立ち上がる。

 お城を守り抜いた英雄たちは、怪物を追って東へ向かった。

 悪しき怪物を討ち滅ぼした英雄たちは白い光の中へと消えていった――……。


「ねえ、マヤ、山の向こうには、本当に何もないのかな?」

 歯抜けの男の言葉に何か思うところがあったのか。

 ベッドに広げた絵本を寝転びながら眺めていたリンが、ぽつりとつぶやく。

 視線は恐ろしい怪物が描かれた絵本に釘づけだ。ぱたぱたと不規則に揺れる両足が、リンの落ち着かない心を物語っている。

「さあな」

「何もなかったら、どうしよう……」

 荷ほどきしていた手をとめて、振り返るとリンがベッドに突っ伏していた。

 柔らかなシーツに顔をこすりつけて不安を振り払おうとしているようだった。

「どうして?」

 問いかけながら、ベッドのわきに腰かけるとリンはゴロンとベッドを転がって仰向けになった。

「もし本当に何もなかったら……マヤの記憶、もう二度と戻らないのかな……」

 この幼い子供はどうやら、子供ながらに他人のことを心配していたらしい。

 いじらしいその姿にふと笑いが零れ落ちる。

「記憶が戻らなくても、何も変わらない」

「そうだけどー! リンは、マヤの記憶が戻って欲しいと思うよ。だって、マヤは……」

 その言葉の続きをさえぎるように、わしゃわしゃと頭を撫でまわす。

「マヤぁ!」

「夕餉の時間になる。ここが“最後の宿屋”だ。早くいかないと食いっぱぐれるぞ」

 あやすように言うと、リンはきょとんとした顔を浮かべた。

「……マヤ、何か思い出した? ここに来たことあるの?」

「さあな」

 はぐらかすと、リンは頬を丸まると膨らませて、拗ねたような顔を浮かべた。



 薄い壁で仕切られた部屋での会話は周囲に筒抜けだったようで、マヤとリンが部屋を出ると計ったかのように隣の部屋からジルとニコが出てきた。視線で合図を交わして階下に向かうと、その昔、巨大な倉庫だった場所に丸椅子とテーブルをひたすら並べた大きな食堂にたどり着く。

 山越えを前にした最後の宿屋は行商人や冒険者、観光客でごった返し、熱気に満ちていた。


「さすが、元マテリア商会。簡易宿屋の食堂にしては豪華すぎるほどです」

 席に着くや否や、ニコが感心した様子で天井を眺めながら言った。

 簡易に改装された二階の宿舎はともかく、倉庫として見るのであれば、頑強な造りをした立派な煉瓦造りの建物だった。高天井のいたるところにちょっとした装飾が凝らされており見る者の目を楽しませる。

「倉庫から宿舎に改装しただけであって、ここは今でもマテリア商会ですけどね」

 横やりを指すような声が聞こえて、振り返るとトレーを抱えた女の子が立っていた。

 短く切りそろえられた赤髪に、そばかすが浮かんでいる。宿屋にたどり着いたときに見かけた女の子だった。

「あ、すみません……つい……」

 申し訳なさそうな顔を浮かべるニコに、女の子は溜飲を下げたようで、

「まあ、商会としては凋落したのも事実だし……「ケイ! さっさと仕事しろ!」

 厨房から響く怒声に、ケイと呼ばれた女の子の肩がびくりとはねる。

「わかってるよーもう、うるさいなあ」

 女の子はぼやいて、次の瞬間にはにこやかな笑顔を浮かべながら、女給へと転身する。

「本日のメニューは鹿肉シチューよ。付け合わせは?」

「パンとワイン」

「リンも! リンもー!」

「この子以外には、全員同じものを。この子はワインの代わりに、水かミルクで……」

「リンも! ワイン飲みたい!」

 という無邪気なわがままをニコは笑顔でいなして、ついでに付け合わせをいくつか追加で注文する。

 一通り注文を取り終えた女給の女の子は何やら探るような眼差しで、尋ねた。

「お客さんたちも青峰の向こうに行くの?」

「ええ、まあ」

 愛想のいいニコが答える。こんな時に受け答えに回るのは大抵ニコの役割だった。

 マヤもジルも何を考えているかわからない不愛想を浮かべているだけだ。リンはと言えば、人見知りを発揮して、足をプラプラさせながら女給とニコの会話に耳を傾けている。

「やっぱりあれかしら? 英雄様の足跡を探す旅ってやつ?」

「そんなところです」

 ニコはちらりと、食堂の壁に貼られたチラシに目をやってあいまいに答えた。

 チラシには、【求む! 英雄の足跡!】と書かれていた。

 おとぎ話の題材は何も大昔の話ばかりではない。怪物が姿を消したのも、それとともに英雄たちが姿を消したのもつい数年前の出来事だ。

 王国は怪物の消失を宣伝したが、その理由も実情もわかっていない。調査と並行して進む青峰とその向こう側の開拓。そこにばらまかれたお金に群がる人間でにぎわっているのが、この山越え前の最後の宿屋だった。

「ふーん」

 煮え切らないニコの答えに女給はじーっとマヤを見つめた。

 何かを怪しむというよりは、何かを確かめるように。視線に気づいたマヤが顔を上げると、女給はすっと逃げるようにニコへと視線を戻した。

「ならさ、その英雄譚にあやかって、ちょっとしたゲームがあるんだけど……お客さん、参加していかない?」

「ゲーム!?」

 目の色を変えて食いついたのは、リンだった。

 しかし、女給はランランと目を輝かせるリンには眼もくれず、ニコとマヤの間で視線を行ったり来たりさせている。軽快な口調とは裏腹に、その表情には言いしれない緊張の色が浮かんでいた。

「ちょっとしたマシンレースよ。山の頂上まで行って戻ってくるだけ。一本道だからコースは簡単。参加料に三千コル頂くけど、勝てば一万コル支払うわ!」

 女給の言葉に周りのテーブルから野次が飛ぶ。

「出たよ、ケイの小遣い稼ぎ」

「英雄って聞くとこれだもんな」

「この商売上手!」

 もっと言ってと言わんばかりに、女給はこなれた笑みを向けて周囲をあおる。

「マシンは二台しかないから、対戦相手は私。申し遅れたけど、私はケイト。ケイト=マテリアよ」

「マテリアさん、ということは……」

 驚きを隠せないニコのつぶやきに、ケイトと名乗った女給は自信にあふれた笑みを浮かべて答えた。

「お察しの通り、マテリア商会を営むマテリア家の人間よ」

「そうとは知らず、先ほどは失礼いたしました」

 経営者一族の前で失言していたことに気づいたニコは、恥じ入る様子で陳謝した。

 ケイトは「気にしていないわ」と笑い飛ばす。

「それより、英雄譚を知っているなら、あなたたちも知っているでしょう? 青峰の向こうの怪物が白い光とともに消える前、英雄たちはこの山を駆け抜けて……」

「申し訳ないが、」

 ケイトの話を遮るように、マヤが声を上げた。そうして静かに首を横に振る。

 やる気がない。と言わんばかりの仕草に、狼狽えたのはリンだった。

「え? マヤ、やらないの?」

 なんで? どーして? と食い下がるが、マヤは静かに首をかしげるだけだ。

「やろうよ! 何かカンケーあるかもしれないよ?」

「興が乗らない」

 一言で切って捨てるマヤの言葉に、場が白けたように静まり返った。

「英雄と同じ場所を目指すにしては、大したことないのね」

 残念と言いたげに肩をすくめてケイトが言う。その視線はマヤに向けられていた。

「マヤがやらないなら、リンがやる!」

「やめておけ、ケガをするだけだ」

「どうしてマヤはここまで言われてやらないの?」

 マヤの服の袖を引っ張り、これでもかというくらい悔しさを全身ににじませるリンを見やって、マヤはふっと笑った。

「単純に興味がないだけだ」

 それ以外の意味など微塵もないと笑い飛ばすように。

 そんなマヤの笑みを見ても、リンの悔しさは微塵も晴れないようだった。

「マヤがダメって言ってもリンはやるから!」

 一度言い出したら聞かないわがまま娘に、マヤは静かに息を吐いた。



 夕食の間、リンが何を言おうと、マヤは「ダメだ」の一点張りだった。

 僕も一緒についてますから、というニコのフォローも聞き入れられず。

 ジルは我関せずを貫いている。

 険悪になる空気に見かねた通りすがりの気のいい青年が「お前の母ちゃんおっかねえな」とリンを慰めていったが、マヤは鋭い一瞥をくれてやるだけだった。


 そんな些細な喧嘩は就寝前まで続き、リンはマヤと一緒のベッドに横になるまで口をとがらせて「マヤのわからずや」とふてくされていた。

「わからずやで結構だ。ほら、もう寝るぞ」

 マヤがそう促すと、大人しく同じ毛布の中に収まるのだ。生意気な口をたたいても、庇護下にあることを甘んじて受け入れるような仕草に、マヤは小さく笑ってしまう。

 互いの体温の暖かに安堵を覚えるころには、どちらともなく小さな寝息だけが音を立てていた。




*****




 顔を嬲るように叩きつける雨の感触。

 気が付くと、また音と温もりの無い灰色の世界にいた。

 土砂降りの雨の中を二輪車マシンは進む。槍のような雨が全身を叩きつけようと、まるで意に介さないかのように。まともに瞼もあけきらない視界。最低限、人の手が行き届いた砂利道のおかげで何とか道を走れているが、少しでも順路をそれれば崖下に真っ逆さまだ。

 それでも、先人たちの手によって造られた道の上を、二輪車は滑るように走った。


 そう。青峰は、決して前人未到の地などではない。

 人が行き交った痕跡のある土地だ。

 文明や文化が行き交った痕跡のある土地だった。

 青峰の向こうにいるのは、決して分かり合えない怪物などではない。

 細くとも、交流はあったのだ。

 その事実を無かったことになどしたくはない。

 言いようのない悔しさが、胸を締め付ける。

 手遅れになる前に、絶対にたどり着かなければならない。


 焦りにとらわれる視界の端に、崩れた崖が見えた。

 根をあらわした木々が、崖にかろうじて引っかかっている。まるで何か重いものを支えようとして、引き抜かれたかのような。

 明らかな滑落の痕跡に、束の間、迷いが生じる。


 この道を急がなければならない。

 だがもし、滑落者がいたとしたら。まだ生きていたとしたら。

 足を止めたところで何になる。

 装備は青峰を走り抜ける最低限の防寒着と食料と武器。王城から預かった紙切れ一枚。

 滑落者を見つけたところで、引き上げる装備も時間もない。

 無駄なことだとわかっていながら、何故二輪車マシンを止めたのか。

 何故降りてしまったのか。

 何故、恐る恐る足を向けてしまったのか。


 ダメだ。先を急がなければ。見るな。見てはいけない。

 頭の中で鳴り響く警鐘。

 それを理解していながら、私は滑落の形跡が残る崖下をのぞき込んでいた。


 色の無い灰色の世界で、ひしゃげた兵士の死体だけがやけに鮮明に見えた。それは先陣を切った兵士たちの軍服だった。

 あと一日、あと二日。ここに来ることができたなら、見るはずもなかった光景だ。

 これは英雄と怪物が出てくるおとぎ話ではない。

 これは戦争だ。これが戦争でなかったら何だというのだ。

 もし、物語に出てくる怪物が実在するとするならば、それは間違いなくこの惨劇を生みだした者たちのことを言うのだろう。




*****




「……――っぅ!」


 無意識のうちに叫び声をあげながら、飛び起きる。

 酷く嫌な夢を見た。夢の内容はおぼろげで思い出せないが、全身を這うような冷や汗が、何か恐ろしいものを見たのだと告げていた。

 肩で息を整えながら、ふと隣に視線をやるが、眠りにつくまでいたはずのリンの姿が見当たらない。

 乱れた髪をかきあげ、呼吸を整えながらゆっくりと室内を見渡す。

 木戸を締め切った窓の外から激しい雨の音。

 その音をかき消すかのように、力強く扉をたたく音が響いていた。


「マヤさん! 大変です! リンが…!!」


 ニコが扉の向こうで叫んでいた。



「何があった?」

 寝起きを邪魔され、不機嫌そうな顔で扉を開けたマヤは、寝癖で跳ねた髪を乱暴にかき上げた。

 こめかみを押さえるマヤの様子に、ニコは思わず息を呑む。が、今はマヤの機嫌を窺っている場合ではない。

「リンが戻ってこないんです」

 眉間にしわを寄せるマヤに、ニコはまくしたてる。


 ベッドに沈み込んだマヤを置いて、リンとニコとジルの三人は朝食を摂りに食堂に降りて行った。その際、給仕をしていたケイトとリンが些細なことから口論を始め、決着をマシンレースで付けることになったという――……。




***




「さあ、皆さん! お待ちかねのマシンレースの時間よ! 対戦するのはこの私! ケイト=マテリアと! リン!」

 酒樽を集めて作った簡易の壇上でケイトは高らかに、試合の開始を宣言した。

「大人げねえぞ! ケイト!!」

「賭けに何ねーぞ! こんな試合!」

 飛び交う野次を気にするそぶりも見せずに、ケイトは意地の悪い笑みをリンに向ける。



 きっかけは些細なことだった。朝食ににぎわう食堂で、忙しなく仕事をこなしていたケイトに絡んだのはリンだった。

『マヤは大したことなくなんかない……!』

 一晩経っても、リンの中にくすぶり続けた悔しさが、ケイトの姿を視界に入れた瞬間に暴発した。

『マヤはすごいの! 英雄と同じくらい! 英雄にだって負けたりしない!』

『……はあ?』

 普段なら気にも留めない客人たちの面倒な絡み。

 愛想笑いを浮かべて、相槌の一つでも打って、適当にかわしていたはずの言葉。

 それなのに、なぜかケイトの心はざわついていた。

 相手が大人なら、心の中で嘲笑って気にも留めていなかった。

 相手が子供だったから。おとぎ話を信じていられる、その無邪気さがケイトの胸の内を逆なでていくようで。


『……英雄なんかいるわけないじゃない。だっさ』


 その言葉にぎょっとしたのはリンだけではなかった。

 普段のケイトを知る常連の客たちでさえ、ケイトの言葉の真意を計りかねるように、固まっていた。場の空気が凍り付いた刹那、沈黙を破るようにして声を張り上げたのはリンだった。


『英雄はいるもん!』


 そこから先は取っ組み合い、引っかきあい。ジルとニコが仲裁に入るまで、子供のけんかは続いた。引っぺがされ、羽交い絞めにされたケイトはとっさに叫んでいた。


『そんなに英雄がいたっていうなら、私にマシンレースで勝ってみなさいよ!』


 かつて、怪物を止めるたった一つの希望を手にした英雄が駆け上がっていった青い峰。

 誰よりも速く、敵とも仲間ともわからぬ数々の死を踏み越えて、英雄が運んでいった希望が何だったのか。向かっていったその先の結末を誰も知らない。

 この地に残るまことしやかなおとぎ話から産まれたマシンレース。叩きつけられた勝負を拒むものは、どこにもいなかった。



「ルールは簡単! ここから半刻ほどマシンを走らせた場所にある石碑をぐるっとまわって戻ってくるだけ。石碑の周りに赤い花が咲いてるから、証拠に採ってくるのを忘れないで!」

 広場に響き渡る声でルール説明をするケイトの視線の先、乗り慣れないマシンに跨ったリンは、ぎゅっと唇をかみしめた。武者震いかはたまた大人でも扱いの難しい魔導機構式二輪駆動車を前にして戸惑っているのか。

 乗せられている感の否めない小さなリンのもとに、ジルがそっと歩み寄る。

「代わるか?」

「ダメ。これはリンの勝負」

 一度言い出したら聞かないリンに、ジルは弱ったように眉根を寄せる。

「でもね、ジル。一個だけお願い。マヤ怒るから」

 その時は、一緒に怒られてほしい。

 笑顔で言うリンに、ジルはしぶしぶ道を明け渡す。


「それじゃあ、いくわよ! 3、2……」

 続きを言い切る前に壇上を飛び降りたケイトは、そのままマシンに跨り、魔導機構を作動させる。唸る音は一瞬。次の瞬間にはケイトのマシンは走り出していた。


「あ、ずるいっ!」


 慌てて追いかけるリン。出だしこそ、呆気に取られてもたついていたものの、乗るのが初めてとは思えない器用さで、真っすぐに走り出していた。

 二人が向かう山頂の空には暗雲が垂れ込め、遠雷が轟き始めた。ぽつぽつとふり出した雨に、次第に周囲の心配そうな声が大きくなっていく。




***




「ジルはどうした?」

 防水布の外套を身にまといながら、廊下を連れ立って歩くニコにマヤは苛立った声で問いかけた。

 寝ていた自分も悪い。喧嘩を売ったリンも悪い。リンを止められなかったジルはもっと悪い。そんな苛立ちがマヤの口調ににじみ出ていた。

「その、しばらく前に、様子を見てくると言って……」

「馬で追いかけたのか?」

「いえ、ええと……」

 言いよどむニコの様子から、ジルが馬も使わずに追いかけたのだと悟り、マヤのこめかみに青筋が浮かんだ。

「あのアホウドリめ」


 階段を駆け下りると、階下はざわめきに満ちていた。

 片道半刻の道のり。往復でマシンを走らせても一刻だ。その時刻はとうに過ぎ、日暮れが近づいていた。捜索に向かう人手を集めているのか、宿屋の入り口では従業員たちが顔を突き合わせて何やら話し合っていた。

 そんな様子を眺めて、マヤはその人だかりへとそっと歩を進める。

「すまない」

 断りを入れながら、従業員たちの輪の中に身体を滑り込ませる。

「お客様……」

 と、進み出てマヤの歩みを止めたのは、受付にいた支配人らしき男だった。

「連れが迷惑をかけた。捜索に向かうなら協力させてほしい」

「しかし……生憎の天候でして……」

 言いながら、支配人は激しい雨が叩きつける扉の外へと視線を向けた。

 遠雷が暗くなり始めた空に光る。

「すでに捜索に人を向かわせておりますので、お客様は……「いつだ?」

 話を遮るようにマヤは鋭い声で問う。

「いつ、捜索に出た?」

「四半刻ほど前だったかと」

「マシンは二台しかないと言っていたな? この雨では馬もぬかるみに取られる。徒歩で探し回るには日が暮れる距離だ」

「しかし、この悪天候の中、慣れないものが探し回るには余りにも危険です」

「道なら、“知っている”」

 その言葉に反射的に顔を上げたのは、マヤの後を追ってきていたニコだった。

 期待か不安か、言いしれない表情を浮かべて見上げるニコを、マヤはちらりとだけ振り返った。

「それに、まだ残っているんじゃないのか? 古いマシンが」


 王城に出入りしていた商会長ブラウリオ=マテリアは、魔道具愛好家として知られていた。魔道具とは人族の生体エネルギーに反応して動く優れものであり、人々の生活を豊かにするものではあったが、この国においては生産方法が確立していなかった。手に入れるためには海の向こう側から運んでくるしかなく、それこそ金持ちたちの嗜好品でもあった。

 中には出土不明の魔道具も多く、青峰の向こう側からやってきたなどとまことしやかにささやかれるものまであったという。怪物が出現する青峰に接する位置にあるこの巨大な煉瓦造りの倉庫も、何故こんな危険地帯に建設したのかと、皆が首を傾げた。大方、青峰から流れてくる魔道具などという根も葉もない噂話に踊らされたのだろう、と皆が笑った。


 危険地帯に倉庫を建造したブラウリオの真意などマヤは知らない。

 けれど、ブラウリオが魔道具の中でも無二の二輪車愛好家であったことを知っている。自在に乗り回せる高性能なものから、すでに壊れて我楽多となってしまったものまで、一つ一つ異なるそのすべてを彼はとても好んでいた。


「仰る通り、壊れたマシンはいくつか残っておりますが、動くものは一台もございません」

「故人のものに触れることを許してもらえるのならば、少しでいい、見せてくれないか?」


 有無を言わさぬ圧力に耐えかねた支配人は、一息こぼして、「どうぞ、こちらへ」と故人の遺産が眠る倉庫の奥へと案内した。



 馬たちがいななく馬小屋の奥。従業員以外が決して立ち入らない備品庫の中にそれはあった。白いシーツには蜘蛛の巣が張り、埃が厚く積もっていた。

 積もり積もった埃ごと白いシーツを引き抜くと、ところどころに錆が浮かぶ旧式のマシンが姿を現した。


 注意深くマシンの状態を観察するマヤの背後から、支配人は声をかける。

「直せるのですか?」

「“壊れているわけじゃない。癖が強いだけだ”」

 まるで誰かの言葉を借りてきたように不自然な口調で語るマヤに支配人は目を見開いた。

 扱いが難しく、ブラウリオ以外には決して乗りこなせなかったため、皆が口をそろえて壊れていると告げた二輪。しかし、壊れていると言われるたびに、ブラウリオは笑って言うのだった。マヤと同じ言葉を。

「前商会長とお知り合いだったのですか?」

 その問いかけにマヤは答えなかった。代わりに、マシンの駆動部に手を掛ける。

「すまないが、借りていくぞ」

 決定事項のように言い放つマヤに、後ろからついてきていたニコが慌てて呼び止める。

「マ、マヤさん!?」

「ニコは待機だ。あのわがまま娘がひょっこり帰ってくる可能性もある。ジルが戻ってきたら、“周回しに来い”と伝えてくれ」

「わかりました。今回は置いて行かれたことに文句は言いません。こんな状況ですから」

 ほんのりと拗ねて見せるような表情を浮かべながら、ニコは言う。

「ただ、一つだけ、無事に戻ってきてくださいね。あと、次は置いていかないでください」

 冗談めかして言うニコに、マシンにまたがりながら、マヤは小さく笑った。

「一足先に下見してくるだけだ」

 永い眠りについていた古い魔道具をたたき起こすように、手のひらに力を籠める。

 魔道具は目覚めを拒むようにバチッバチッと“乱光”を放つ。機嫌の悪そうな音を上げて、マシンがふわりと浮き上がった。

「行ってくる」

「お気をつけて」

 見送るニコの言葉を背に、マヤを載せたマシンは暴れ馬のように乱暴な動きで、地面を滑り出した。




***




 黒く濁る雨空の下を、黒い影が舞う。

 否、それはカラスよりも巨大な、黒い翼を持つ魔族だった。

 リン、と名を呼ぶ、その黒い魔族はジルだった。

 青峰から吹き下ろす向かい風。弾丸のように突き刺さる豪雨の中を進もうと、黒い羽を広げながら地上を見下ろしていた。


 人間たちの開拓の手が進み、土色がむき出しになった麓を駆け上がると、しばらくしてすぐに“青峰”という名の由来となった、青々とした木々の中に迷い込んだ。

 山道には足跡一つ見当たらない。それもそのはず、行方知れずとなった少女たちは、魔道具に乗っていたのだから。二輪の下、地面との間に薄い魔力の膜を生成し、その上を滑るように走る魔道具だ。

 使用者が停まるために、地面に足を着けない限り、その足跡を探すのは困難を極める。

 もしも魔道具に乗ったまま滑落でもしていたら、見つけられずに通り過ぎてきてしまっている可能性もある。とはいえ、人間よりも格段に速く移動できる種族も存在する怪物――魔族が利便性を追求して生み出した魔道具だ。

 ジルが少しばかり上空を飛んだところで、そう簡単に追いつけるものではない。


 雷雲が、周囲に雷を落とす。鼓膜が破れそうな轟音に、音が一瞬遠のいて無音の世界が広がる。ピリピリと空気を通して、音が肌を打つ。

 上空を飛ぶジルが雷に打たれることはない。が、しかし、雷を蓄えた雷雲の下を好き好んで通りたいわけではない。飛ぶべきではないと、ピリピリとした焦燥が脳を焼くように警告していた。


 それでも、少女を探そうとしているのは何故なのだろうか。

 音を拾えない無音の中、ジルの思考は空を覆い尽くす暗雲のような暗闇の中に迷い込むようだった。


 ジルにとって少女は、争いの『口実』に過ぎなかった。他の魔族と何ら変わらない。

 主君たる魔王が如何に少女に執着していようとも、ジルにとってはただの異質な少女だ。

 半分は同族。もう半分は同族以外の何か。魔族からも人間からも遠ざけておきたい厄介の種でしかなかった。そのはずだったのに。


「クソ」

 激しさを増す雷雨に、人間の捜索隊が道中を引き返していくのをジルは苦々しく見送った。脆弱な人間どもがこの雷雨の中、少女を見つけ出せるなど、最初から期待してはいなかった。しかし、ここで自分が見つけなければあの少女は二度と生きて戻ってこないかもしれない。

 このまま見つからなかったら、どうする。

 それを考えると、胸を押さえたくなるような痛みに貫かれた。焦燥が胸を焼く。

 焦りとは裏腹に、雷雨を潜り抜けていた羽が悲鳴を上げるようにバランスを崩す。急激な体温低下に、身体の感覚が遠のいていた。

 諦めが脳裏をよぎったその瞬間、背後から古めかしいマシンの轟音が迫ってきた。



「そこのアホウドリ! 今すぐ降りて来い!」

 などというマヤの怒声が聞こえているのかいないのか。

 空中で体勢を崩しかけたジルは、数度羽ばたいて立て直すと、何事もなかったかのように山道に舞い降りた。

 後を追って山道を駆け上がったマヤは、立ち尽くすジルの横にマシンを滑り込ませた。

「リンは?」

 短い問いかけに、ジルはふるふると首を横に振った。

 その顔は血の気が失せたように真っ青になっていた。

 マヤは全身びしょ濡れのジルに問答無用で手を伸ばした。

 魔族とはいえ、生物だ。血も流れているし、熱もある。そのはずなのに、手のひらに感じる熱はなく、氷に触れているかのようだった。

 先ほど、空中でバランスを崩したように見えたのは、見間違いなどではなかったのだろう。雷雨の中、当てもなく飛行したせいで、著しく消耗しているのが手に取るようだった。

 触るなと言いたげに、ジルは無言でマヤの手を払いのけた。

「おい……」

 心配と呆れの混ざった声が思わずマヤの口をついていた。

 そのあとに続きそうになる罵声を何とか呑み込んで、マヤは自身が身にまとっていた外套を脱いで差し出す。

「必要ない」

 と意固地に首を振るジルに、マヤはため息をついた。

「この先、山を登るにつれて山道はどんどん狭くなる。もしリンが滑落していたら、誰が引き上げる?」

 言いながら、いささか強引にジルに外套を被せる。

「心配するな。リンは必ず見つけ出す。そういう約束だ」

 言い聞かせるように呟かれたマヤの言葉にジルは目を見張った。

「おまえは、どこまで思い出した?」

 問いかけに、マヤは素知らぬ顔で「さあな」と肩をすくませるだけだった。




*****




 いったい、何をやっているんだろう。

 降りしきる雨の中、ケイトは後悔に押しつぶされそうになっていた。

 地面に横たわるマシンは、故障を訴えるかのように、火花をまき散らしていた。

 その数メートル先にある、滑落の痕跡。

 それらを前にして、何もできずにただ座り込むしかない現状。

 体温を温存させるように膝を抱えて、泣きはらした目を押し付ける。

 それ以上に腫れあがった足首が、じんじんと熱を帯び痛みを訴えていた。


 こんなことになるなんて、思ってもみなかった。どんな言葉を並べてみても、言い訳にしかならない。魔法で動く魔道具であったとしても、雨の山道を駆け抜けるのがいかに危険か、わかりきっていたはずなのに。事故は起こってしまった。

「おじいさま……」

 祈るように呟けば、故人の姿ばかりが脳裏をよぎる。足元に縋りつくように抱き着けば、いつでも頭を撫でてくれた大きな手。

 あの日もそうだった。あの雨の日。祖父にとっての英雄がこの商会を訪れた日も。

 大勢の兵士たちが通り過ぎていった、そのあとを追うようにして一人の女騎士が転がり込んできた。雨の中、荷馬車を乗り捨て、祖父が大事にしていたマシンに乗り換え、嵐のように去ってしまった。兵士たちを見送るたびに険しい表情を浮かべていた祖父が、たった一人の女兵士の背中をいつまでも見送っていた。何かを祈るように、希望を託すように。


 けれど、祖父にとっての英雄は、全ての人にとっての英雄ではなかった。

 ブラウリオ=マテリアは反逆の罪に問われながら、失意の中で息を引き取った。

 今でこそ、英雄たちを手厚く導いた商会とされているが、ブラウリオ一人を切り捨てることで得た風評に過ぎなかった。


 果たして英雄とはいったい誰のことであったのだろうか。


 その疑問に誰も答えてくれないまま、月日ばかりが過ぎ去り、そうして彼女が現れた。

 白い光の中へ消えていったはずの人間が――……。


 見間違えるはずなどない。祖父にとっての英雄を。

 けれど、他の人にとっては英雄などではなかった彼女を。

 それなのに、どうしてあの少女はあんなにも真っすぐに言い切ってしまえるのだろう。

 疑う余地すらない、真っすぐとした瞳で。


『英雄はいるもん!』


 彼女が英雄だというのなら、何故、祖父は見捨てられたのか。

 彼女が生きていたのなら、何故、祖父を救ってくれなかったのか。

 恨んでいないとは言えない。けれど、それよりも答えを知りたかった。

 なぜ今さらになって、ここに姿を現したのか。

 その答えを知りたかっただけなのに、そのつまらない意地のために、一人の女の子を巻き込んでしまった。


「こんなはずじゃ……無かったのに……」


 嘆くケイトの耳に、マシンの唸り声が届く。

 雨音をかき分けるようにして、次第に近づいてくるその音に、ケイトは反射的に顔を上げた。倉庫に残っていたのは、壊れたマシンしかなかったはずだ。それを動かせる人間がいるとすれば、愛着を持って整備していた祖父しかいない。そうでなければ――……


 縋るような視線の先に現れたのは、彼女だった。

 あの小さな女の子が信じて疑わない英雄。

「おい、大丈夫か?」

 マヤと名乗っていた女は駆け寄るや否や、気遣うようにケイトの頬に手を伸ばした。

「冷えてるな……どれくらいこうしていた?」

「日が、沈む前から……」

「どこかケガをしたのか?」

「足を、ひねって……」

「歩けないのか?」

 女から矢継ぎ早に飛ぶ質問に、ケイトは必死に声をひねり出すようにして答えた。

「リンは……?」

 その問いかけに、ケイトはとっさに答えることができなかった。

 口から絞り出すようにして出てきたのは「ごめっなさい……」という謝罪の言葉だった。

「子供のけんかに口を出すつもりはない。だが、謝る相手は私ではないはずだ」

 諭すような言葉に、じんわりと目元が熱くなる。

 唇をかみしめ、声を上げて鳴きだしそうになるのをなんとかこらえる。

 ケイトにできたのは、細い樹木がなぎ倒されていった滑落の痕跡を、指し示すことくらいだった。

「落ちたのか?」

 泣きながら何度も頷くケイトの肩をたたいて、女は崖下をのぞき込む。

 急斜面のその先は、枝葉が幾重にも折り重なり、視界を阻んでいた。

 どこまで転がり落ちたのか、リンの姿をとらえることはできなかった。




***




 夢を見ていた。

 夢の中にはマヤがいた。


 出会ったころのマヤは頭から血を流して、鎧も血で染まった、血まみれの人形だった。

 ぼんやりした目で、うろうろと森の中を歩き回っていた。

 そこらじゅうで躓いて、転びそうになって、きっとよく目が見えていなかったんだろう。

 そんなマヤの様子を、私はじっと見ていた。

 ケガをして大変そう、助けてあげたい。そう思ったけれど、できなかった。

 何日もご飯を食べていなくて、お腹が空いて、お腹が空いて、気持ち悪くて、声の一つも上げられずに寝てたから。

 代わりにお腹の虫だけがきゅるきゅるひっきりなしに鳴いていて、マヤはしばらくしてから、その音にようやっと気づいたようだった。

『子供……?』

 一言そう呟いて、マヤはばったりと私の目の前で倒れた。

 ああ、可愛そうに。この人も私もこうやって動けなくなっていくんだ。

 ぼんやりとそんなことを思っていた。


 でも、そんなことはなかった。


 おぼろげな視界の中で、マヤは必死に起き上がっていた。

 死にそうに見えるくらい血まみれなのはマヤなのに、『おい、生きる気はあるか?』って、私を拾い上げて頬を叩いた。笑いそうになるくらいおかしな光景だったのに、顔が引きつって私はちっとも笑えなかった。かわりに『あえ……』なんて間抜けが音が口から漏れ出ただけだった。たったそれだけのことに、体力を消耗してしまった私は眠ってしまったみたいだった。


 それからは、目を覚ますたびに、マヤがいた。

 口の中に布を突っ込んだり、野イチゴを突っ込んだり、顔をごしごしふかれていたり。

 扱いが乱雑だった気もしたけど、その乱雑さが心地よかったりして、ぼんやりしていたら、いつの間にか起き上がって動けるようになっていた。

『お前も一緒に行くか?』ってマヤが言うから、私はマヤについていくことにした。

 だから、マヤとはどこに行っても、ずっと一緒。

 リンという名前もマヤがくれた大事なもの。


 ジルがついてきて、ニコが一緒に行くことになっても、マヤが一緒なのは変わらない。

 街で迷子になっても、必ず迎えに来てくれる。

 屋台のお菓子が欲しくて、地面に寝転がって駄々をこねたら、置いてくぞって言うのに、結局は待っていてくれる。

 人攫いにさらわれたって、見つけてくれる。


 マヤは、私の英雄だ。

 だから、腹が立った。

 マヤを馬鹿にされて。

 私の英雄を侮辱されて。


 けれど、マヤは笑っていた。

 私はすごく腹が立ったのに、当の本人が笑っているんだもの。

 もどかしくてたまらなかった。

 けれど、今になってみたら、どうしてマヤが笑っていたのか、少しだけわかる気がしてきた。


 ジルと出会ったころ、マヤに尋ねたことがある。

『何も覚えていないのか?』

『東の山に行かなければならない。覚えていることはそれだけだ』

 マヤはそういっていた。その記憶だけを頼りに、旅をしているだけだった。

 その旅路が英雄たちの目指した旅路と重なっていただけ。

 ただ、それだけのことで、英雄なんてマヤにとっては関係の無いものだった。


 私はマヤと一緒に旅をするのが楽しかった。行く先々にある英雄の物語を知るたびにマヤを重ね合わせた。私にとっての英雄はまさしくマヤだったから。

 できることなら、まだ旅を続けたい。楽しい旅を続けていたい。


 走馬灯のように、いくつもの思い出が駆け巡っては消えていった。

 これは夢なのだと、とっくに気づいていたはずなのに、目を覚ますのに時間がかかった。


 瞼を開けるころには、あたりはすっかり暗くなっていて、私が転げ落ちてきた断崖絶壁が視界一杯に広がっていた。


「うっ……!」


 転がり落ちたがけはどう見たって、一人で登れるような高さではなかった。

 全身がずきずきと痛みを訴えている。ヌルりとした感触が、顔の右半分を覆っていた。

 どうやらどこかに頭をぶつけて、出血しているらしい。

 腕や足、ところどころで、じくじくと熱を帯びるような痛みが広がっているのに、全身は凍えていた。

 見上げるほどに広がる闇は孤独を煽り、絶望が胸を引き裂きそうだった。


 勝手に飛び出していったのは、他でもない私自身だ。

 家族でもない、仲間でもない、ただ寄り添いあって旅をしてきただけの集団だ。

 わがままを言うとマヤはいつも『置いていくぞ』と言った。

 今度こそ、本当に置いていかれてしまうかもしれない。

 だって、こんなに自分勝手を押し通したことなんて今までになかったから。

 けれど、もし叶うなら、助けに来てはくれないだろうか。

 みんなの英雄でなくていい。

 ただ、私を拾い上げてくれた時のように。

 私の英雄であってくれるのなら、それでいい。


 だから――……


「助けて!! マヤ……!!」


 ここにいる。私はここにいる。お願い。私を見つけて。ここにいるから!

 何度も何度も必死に叫んだ。

 マヤならきっと見つけてくれる。そう信じて。

 次第に声がかれて、かすれても叫び続けた矢先――……視界の端で、暗闇が動いた。ように見えた。


 真っ暗闇の中で、マヤの顔が見えた気がして、安堵のせいか、そこで私はまた眠りについていた。




*****




 それら全てが夢の世界の出来事であったかのように、目を覚ますと宿屋の一室に戻ってきていた。隣ではマヤがすやすやと寝息を立てている。

 マヤだ。マヤがいる。その安心感に包まれ、寝返りを打とうとすると、全身が悲鳴を上げた。

「いたたっ……」

 その声に、マヤが目を覚ます。

「ん……なんだ、もう起きたのか?」

「ねえ、マヤ、マヤ」

「ん?」

「ぎゅってして?」

「リン、一応言っておくが、おまえは骨折しているからな」

 呆れた声音で言いながら、マヤの腕がおりてくる。

 安心感のある重みが腹部にのせられ温もりに包まれる。

 一人じゃないことを実感させるようなその温もりに、思わず笑みが零れ落ちる。

「マヤ、おはよう」

「うん」

「それとね、ごめんなさい」

「謝る必要はない」

 マヤにしてはずいぶん優しいことを言う。

 ケガをしているからだろうか。と思ったが、そんなことはなかった。

 マヤが優しいと思ったこと自体が間違いだ。

「が、次から一人で出かけるときは、自力で帰ってこられる範囲にしておけ」

 まるで、迎えに行くのがしんどいからと言いたげな口調には、思わず笑うしかなかった。


 どうやら、旅はまだ続けられるらしい。

 そう思いリンはマヤの隣で再び眠りについた。

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