起きたら悪役姫だった上に、今日婚約破棄&魔界にポイ捨てされるらしいですわよ?
テンプレと好みを混ぜつつあっさりしたものを書こうしたらこんな感じになりました。
ふわふわ設定気味ですが、お口に合えば幸いです。
いつものようにフカフカのめっちゃ寝心地良いベッドの上で目覚めると、全くの別人として生きて交通事故にあって死ぬまでの記憶がわたくしの中にありました――クォーツ・トランスペアレント17歳、何の脈絡も無く今朝前世の記憶がよみがえりました。おはようございます。
前世のわたくしの性格と昨日までのわたくしの性格も、めっちゃガッツリまじりあっておりますわ。思考ですらこんな雑な言葉づかいではなかったというのに……でも雑な言葉の思考めっちゃ楽ですわぁ。
ああ、もっとちゃんと考えねばならない事がありますわね。
前世の記憶を得て気づきました。わたくし、乙女ゲームの悪役令嬢……じゃなくて悪役姫でしたのね。わかります。ずぃす、いず、てんぷれ展開。ちなみに世界観はゆるめのファンタジー。魔王とかもいる感じですわね。
今日はこの後メイドが迎えに来たら丸一日予定が埋まっているようなめっちゃ盛大な宴の日。そしてこの日はゲーム上ではわたくしが婚約者(攻略対象の一人)から婚約破棄を叩きつけられて発狂して、でも周囲は全員「知ってた」なので一人だけザマァをくらって魔界にソロ追放される日でございます。
わかります。これもテンプレ展開。
手遅れ状態での前世思いだしでございますわ……これはあれですわね?細かいゲーム内容をただでさえ整理できてない前世の記憶から引っ張り出すよりも、わたくしの人生を思い返して突破口を探した方がよさそうな奴ですわね?
はい決定、使用人もそろそろ来るころですし、身支度を彼女たちに任せながら思い返していきましょう。ほら、そうこうするうちにノックの音が鳴りましたわ。
「おはようございます、姫様。朝のお仕度の時間でございます」
「おはよう。今日はめでたき日ですから、最上のわたくしに仕上げるように」
朝シャンならぬ朝風呂(使用人たちによる自動洗浄)に入りつつ、思考はバンバン過去に飛ばしてまいりましょう。
まずは……わたくし、そもそも悪役やってましたかしら?
やってねえ気がするな?
そもそもヒロインが誰かも全く分からねえ状態ですわ。攻略ルートで出自が変わるヒロインだからあたりがつけども誰がヒロインの何ルートかもわかりませんし、特定しようにも人をいじめた記憶がマジにございませんわ。そうかあ、何もしてなかったかぁ。
いやでも、何の悪気もなく何かやらかしてるかもしれないし……婚約者関連では何かありましたっけ?……なかったなぁ。そもそも交流が無かったなぁ?
ていうか婚約も気づいたら決まってたぐらいの勢いですし、ゲームのわたくしみたいな婚約者への執着もございませんわ。
たしかゲームだと、隣国のパーティーに御呼ばれした際にズッキュン来た第三王子と、国力の違いを盾に強引に婚約を結んだ悪役姫って感じでしたわよね?
……たしかに該当のパーティーでズッキュン来た方はいましたが、第三王子ではなかったですわ。ズッキュンきてわがまま言ったのは事実ですが、わたくしが自国に連れ帰ったのは現役引退してのんびり見守りモードの元神獣ですもの。
しかも互いに一目惚れで、わたくしの守護を行うと契約していただけて……それでおそばに居られるようにとこちらの国に来ていただけたのももう十年近く前。だというのに、未だに見るたびにドキドキしてしまうんですのよね……落ち着いた深い蒼の瞳といい、麗しい紅色の中に白が混じる鬣といい、馬と龍の中間めいた姿と言い……あ、前世記憶によればあの方の種族は麒麟ですわね!そういやビールの缶とかにも描かれてましたわ!!
「……ふふっ」
「姫様?いかがなされましたか?」
「コランダム様の事を思ってしまって、つい」
「姫様の守護聖獣様ですね」
「ええ、今日のパーティーには姿をあらわさずとも来ていただけるそうだから……楽しみですわ」
使用人たちの笑顔がめっちゃ優しい……でもわかりますわ。わたくしたぶん今、恋する乙女の顔ですもの。
実際に思い出したことは種族名ですけれども。
さて、乙ゲーっぽい事なんかやったかについてですが……うん、やはりわたくしは特に悪い事してませんわね。
ヒロインがいたとしてもいじめていませんし、そもそもわたくしが好きなのは麒麟のコランダム様ですし?
何もなさそうですわね。
普通に予定をこなす感じで、コランダム様と宴の最中にちょっとお話しできるのを楽しみにして一日頑張ることにいたしましょう。
――などと思っていたのが、どうやら間違っていたようで。
「クォーツ姫、あなたとの婚約は、破棄いたします。理由はお分かりですね?あなたが、自国の権力を盾に我が国に無理難題を吹っかけた挙句!私の友人であることが気にくわないと、か弱き乙女を貶めようとしたからです!もちろん、そんな方との婚約は取り下げさせていただきますし、身内にすら悪意の手を伸ばすあなたに容赦はしません!覚悟の準備をしておいてください!」
(こいつ、嘘テク攻略にだまされてブチギレた人みたいになってますわね)
建国記念パーティーの終盤、わたくしは婚約者だった王子……何王子だったかは今ちょっと思い出せないけど、とりあえず婚約者に婚約破棄を叩きつけられてしまいましたわ。
彼の隣には、キラキラと虹めいて光を反射する淡いピンク色の髪をした女の子が震えながら立っていますわ。この子の名前はわかりますわ、オーラちゃんですわね。つい数か月前にわたくしの妹になったばかりの子ですわ。
「クォーツねえさま……わた、私はせめて、姉さまにあのご無体の事を謝っていただければ……」
大人しい良い子かな~とおもっていたのですけれど。やってもいない何を謝れとおっしゃっているのでしょうね?
父上もこう、落胤見つかったからって即座に王宮にあげてしまうのうかつですわよね~~残念ながら顔的にも髪の虹っぽい特徴的にも完全に王族なので妹なのが確定ですし、姉をハメる悪女だったとしても血的にガチ王女ってことになっちゃいますわね。つらたん。
「一言もないままですか?まさか、未だこのオーラ姫を妹と認めていないなどというつもりはないでしょうね?!」
「……そういうつもりではありませんが、どういうつもりかはわからないですわ」
わたくしの言葉に周囲から疑問符が飛んでくるのを感じるのですが、なぜでしょうか……?
「そもそもわたくしは、あなた方が仲の良い事にすら気づいておりませんでしたし、妹と婚約者が友人でも"親戚内の不和が無いのは良い事"ぐらいの受け取り方をしますけれど……?そもそも、無体とは?やってもいない事を謝ることはできませんわ」
「で、ですが……わ、わたし、そのせいで、皆様の前であられもない姿にっ……うぅ……」
「オーラ姫、僕が言いましょう。 僕の母国からあなた個人の守護として連れ出した聖獣をつかって、オーラ姫に嫌がらせをしていたじゃぁないですか!ドレス姿の女性を、空中で振り回すなどという事をして知らないなどと言わせません!」
「ぅ、うぅ……こっ、国民の殆どが、宙づりになって空を引きまわされる私を目撃していますっ!そ、それに、そのことを問われた聖獣様が『我が姫の夫となる者と距離が近いからだ』とおっしゃったのも各地で聞かれていますっ!!」
なるほどそれは目立つ。ついでに全員わたくしのせいだと思いますわ。
そしてオーラちゃんごめんなさい。あなたは別に姉をハメる悪女じゃなかったし、単なる遊びとも思われないレベルで本気で怖がらせたっぽいのに当日にブチギレずにちゃんと周囲と調整してくれたあたりいいこでしたわ。
そもそも他国から連れ出した大事で神聖な方を使ってのストレス発散目的イジメとかあらゆる面で一発でアウトですわ。
自国の象徴だった方をくだらない事で使われたうえに、好意を持つ妹への危害という事で怒り心頭倍プッシュの王子あたりにザックリ斬り捨て御免やられても世論的が王子の見方になるのやむなしやつですわ。
めでたい席で各国要人が集まる中で婚約破棄で傷物になる程度はまだまだ優しい対処ですわね。これに追放が乗っても『殺さなかったの?えら~い!』ってペンギンちゃんに言われるレベルのものですわ。
ですが、黙っているわけにはいきませんわね……まずは事実確認ですわ。
「コランダム様、本当にそのようなことをなさったのですか?」
わたくしがそのように問いかければ、彼は人の身への変化をした状態でわたくしの前に現れてくれました。
麒麟の姿のほうが美しさが前面に出ていて好きですが、人化状態もまたお美しいのですよね……前世で老け専だったというわけでもないのに、変に若作りせず生きた時間を感じさせるお姿なのがまた素敵で……原型から美しい上に変化しても顔がいい。すごい。
刻まれた皺に、安定感のある肉体、その上で美しすぎてぼーっと見てるとヨダレ垂れちゃいそうですわ。
「事実だ。だが、我が姫が指示したというのは誤った認識である。そも、こやつらは自覚がなっていない。婚約者の居る存在に近づく小娘も、その小娘に絆される小童もだ。それをしつけるために、まず奔放な小娘のほうに罰を与えたにすぎん」
「……しかし、それでもやり過ぎではないでしょうか?」
「そうはいかぬ。我は今、そなたを守護するものだ。この小娘が城にあげられた頃合からそなたが悲しそうにしている気配を感じていた。そやつと交流を持つようになったと知り、害にならぬか身を隠し伺うようになってからは、どんどんとそなたの悲しみが深まっていった……それを見て、何故放置しようなどと思えるだろうか?」
「……では、あなたは、わたくしのためにと妹を連れまわしたのですね?」
「そうだ。我が姫よ、あなたを曇らせるものを我は容赦せぬ。だが、貴女があの娘をひどく恨んでいるわけではないというのもわかる……故に、これ以上親密になるようならばそのまま何処にでも落とせるという警告に留まったのだ」
国を守護する神獣の職を与えられていただけあって、コランダム様のお声は全ての人に確かに届く強さを持って響きますわね。美声。
そのように言われてしまえば、王子も気まずそうにするし、ヒロインだったらしいオーラちゃん(妹歴数か月)も私に対して申し訳なさそうにしてきます……が、この場の勘違いをそのままにしては誰も幸せになれません。
このまま姫として生きていくのに都合がいいのは、わたくしが人にも言えず傷ついていた乙女という方向にも持って行くことですが……そんなことは望んでませんので、ここはびしっと言うべきでしょう。
「そうですか。確かに時期的に、わたくしの気落ちと妹が王城で過ごすようになった時期は一致しますわね。ですが、妹と私の気落ちは無関係というか、彼女や王子が原因ではありませんわよ?」
「……何?」
「つまるところ、警告行動はコランダム様の暴走ということになりますわ。 ごめんなさい、オーラ姫。それと……えぇと……ジョルジュ王子も、守護聖獣を制御できなかったわたくしの落ち度でご迷惑をおかけいたしました」
ギリ。まじでギリで王子の名前思い出せた。あぶなかった。
めっちゃ突っかかってたじゃねえか!ギリじゃねえよ!!――というツッコミも入らないような、きょとん、という擬音がめっちゃ似合う空気感が会場に満ちていますわね?
わかる。わたくしも本人じゃなければ「どゆこと?」ってなると思いますわ。そのためにも、きちんと説明をせねばなりませんわね。
「わたくしの気落ちの原因は、コランダム様にありますの。まず、オーラ姫がわたくしの妹となった時期と、秘境の聖獣たちの間ではやり病が出ているという情報が届いた時期が丁度一致していましたの。悪い病がコランダム様にもかかってしまったらという不安を、妹ができて不安になったと思わせてしまったのでしょうね」
「し、しかし、それならばこやつらの仲が深まるごとに姫の心が沈んでいたのは一体……?」
これで気づいてくれないの、ちょっとさみしいのですけれど?もうちょっとわたくしに好かれてる自覚を持ってくださっても良いのですけれど???
……それがわからないからやらかしたのでしょうし、恥ずかしいけれど言語化いたしましょう。
「そもそも、わたくしはジョルジュ王子に興味が全くありません。ジョルジュ王子もそれはご存知ですわね?」
「そうですね、貴女は基本的にこちらには無関心でした。僕がこの国に慣れるためとこちらに来ても、陛下と妃殿下に用意していただいた茶会以外では交流がありませんでしたから。……どういう方かわからぬままオーラ姫への嫌がらせに及んだ、と状況から判断してしまった事、申し訳ありませんでした」
「いえ、聞いた限りでは仕方ないかと……ともかく、完全に興味が無いので、ジョルジュ王子と妹が恋仲になろうとさして影響がないと言いますか……むしろジョルジュ王子と私で望まぬ結婚をするよりは、婚約対象の入れ替えになってくれた方がありがたいまでありますの。つまり、お二人の事を知っても喜びこそすれ悲しみはしませんのよ」
あまりに無体な言葉だけど、事実だから仕方ないですわ。
令和の日本人の感覚だとぶっちゃけどうよですが、令和日本人感覚がハッキリINする前のわたくしは本気で彼らに一切の興味ナッシンでしたわ。
なんせ今朝までのわたくしはゲームと同様に思い込みとか思い入れとか、そういうのがやたらめったらつよいクォーツ姫で……その矛先はゲームの時とは別の所に向いていたのですから。
「コランダム様。あなたがわたくしを思って、妹になったオーラ姫の事を注視していたのはわかりますわ。でも……そうやって時間を他の事に当てられたのが、わたくしの気落ちの原因ですわ。ただでさえ、神威にあふれたお姿をあらわすことは少ないのに、お声でのやりとりも減ってしまえばわたくしが気落ちするのは当然ではありませんか」
「姫……それほどまでに、想ってくださっていたとは……」
「コランダム様、あなた様がわたくしのためにと動いてくれた事自体は嬉しく思います。ですが、ここは責任を取るべきでしょう……ジョルジュ王子とわたくしの婚約は破棄し、オーラ姫とジョルジュ王子の婚約を認め、わたくしたちは処罰として魔界調査に従事する……あたりが妥当になるかと思われますが、父上、母上、いかがでしょうか?」
折角なので空気に徹してた両親に話をブン投げますわ!
ここまでしっかり聞いてくださってたなら、幼少期からのわたくしの願いもコミコミでこれで通してくださるはずですわ。
「そうだな……クォーツの言う処罰が恐らく最も適切であろう。そも、ジョルジュ王子とクォーツの婚約は、引退済みとはいえ神獣を連れ出すために我が国と隣国のつながりを強化する必要があったためだ。そして、縁を結ぶのであれば王家関連ならだれが相手でも構わないというのは当時から示されていた……オーラとの婚約に切り替えるのであれば、特段問題はないだろう」
「ですねぇ。オーラちゃんとジョルジュ王子は仲が良いですし、そもそも当初からクォーツがあまりにジョルジュ王子をかえりみなくて母のわたくしが胃を痛めていたぐらいですから……婚約の内容を変えた方が皆に優しいですわね」
コランダム様が勝手にこちらの国に来れば"元とはいえ、神獣に見捨てられた国"として隣国がつつかれる可能性がありましたものね。そのような事態を避けるための『縁のある国だから元神獣も来てくれたんだよ~』というポーズをとるための婚約がわたくしと王子の婚約でしたの。
ですから、縁があるってのを維持できるなら別にわたくしじゃなくてもよかったのですわ、マジで。
この組み合わせになったのは一番無体じゃない組み合わせだったからってだけで、ぶっちゃけ昨日までのわたくし的にはラブ対象とおうちに帰ったらなんか知らん奴と結婚することになってたぐらいの空気感でしたわ。
「その上で騒ぎの原因となった出来事に対する罰は必要である。守護聖獣と共にある事を活かしての魔界調査で、此度の騒ぎで人心を乱した償いをするが良い」
「はい。人々の安寧につながる活動に最大限従事し、償う事を誓います」
「うむ」
かくして、なんやかんやでパーティーもおひらきになり、わたくしはコランダム様と共に翌朝一番で魔界に発つことになりました。
あ、パーティーを盛り下げる事にはならなかったのかという点に関しては、むしろコランダム様を使ってオーラちゃんのパンツを国民に見せびらかすようなことをしたわたくしの処分がどうなるかちゃんと聞かないとスッキリしねぇよ!!!な人が大半でしたのでむしろスッキリおわりましたわ。
悪人が平気な顔してパーティー楽しんでたら気になりますものね。わかるわ。
朝の光が上る前。
今までお世話になったベッドから出て、使用人たちにも手伝ってもらいながら荷物をまとめた私のもとに、コランダム様が姿をあらわしてくださいました。
やっぱり、毛並みも鱗も美しいですわね……美のかたまり……ちゅよい。大変気落ちした様子で、もうしわけなさそうにしていても、もう憂いが美に重なるからアドしかない。
「……姫よ、すまなかった。貴女の心を読み違えたばかりに、辛い環境へと向かわせてしまう事になる」
「気にしないでくださいませ。あなた様の罪は、わたくしの罪。ふつう、契約を交わした守護獣や守護霊の暴走を止めるのは主の役目で、わたくしはそれができなかったのですもの。それに、あなたが謝るべきなのは被害者のオーラちゃんに対してですわ」
「う、うむ……怖がらせてしまう故、一筆したためた」
「ならば良いですわ。わたくしとは、共に償いを頑張ってまいりましょう。コランダム様と一緒でしたら魔界も怖くはありませんもの。魔界の地図をつくったり、生態の研究をしたり……ふふ、やることは沢山ありますわね!楽しみですわ♪」
その言葉に、コランダム様は首をかしげます。鬣サラァってなるの麗しすぎますわ。しゅき……っと、いけませんわ!
コランダム様が姿をあらわして会話してくださっているのですもの!ガチめに語彙が限界民になりそうですが抑えますわよ!
「わたくし、ずっと昔から両親や兄にも言っていましたの。コランダム様さえいれば、わたくしはなにもいらない――って。ドレスも、宝石も、珍しい品々も、何もいらないからコランダム様との時間だけが欲しいって」
「……そう、なのか?よもや、我と繋がって以降は兄君のような派手な宴を開かなかったのも……?」
「ええ。お披露目の時間を全力で削ってもらって、コランダム様との時間を確保してもらっていましたの……もしかして、それも勘違いしていました?」
「ああ。我と会うと喜んでくれるが、宴の時は僅かに寂しいという感情が流れて来ていた。てっきり、小規模なことを気に病んでいたのかと」
そのように勘違いしていたのもあってか、常にコランダム様はわたくしに対して甘々でしたわ。
令和の人間の感覚があってもわかる。これはもうオチてもしょうがない。滅茶苦茶好みで綺麗で何よりも美しいと思う存在が甘々してくれたらそりゃもう人間の男とか目に入らないぐらいぞっこんに決まっていますわ。
「あなた様と触れ合う時間がくだらない事で減っているのが寂しかったのですわ……あなた様ってば、わたくしと一目あって共に在ろうと決めて下さったのに、わたくしがあなた様の事を何より好きなのは気づいてくださらなかったんですのね?」
「す、すまない……」
しゅんとする彼の顔を支えるようにして見つめ合い、本心を伝えるために口を開く。
繋がってわかるのは感情の欠片まで。それでただ甘えてしまっては、また彼に勘違いをさせてしまうから。
「わたくしは、あなた様と二人でいられることが何よりうれしいんですの。やるべきことはあれど、これからの生活はわたくしが欲しくても手に入らないと思っていた、愛するあなたとだけの生活なんですのよ」
「あ、愛……とは、その……」
「これまでは、諦めていましたわ。曲がりなりにも王族ですし、姫として結ぶべき縁もあるでしょうし、実際に婚約者もいた。でも、もう気にしなくても良いでしょう?」
心臓が強く脈打つ。繋がっているから、きっとこの感情の欠片も届いていますわね。
好意がそのまま伝わっている事を自覚しながら、わたくしはコランダム様の鼻先に口づけを落としました。
「……ねえ、愛しい方。改めて……わたくしの事をもっといろんな意味で好きになって、受け入れてくださいましね?」
固まってしまった彼の感情の欠片が『好き』にあふれているのを感じながら触り心地を堪能していると、彼の鬣越しに見える窓から外が白んでいくのにきづいた。
「さぁ、もう朝ですわよ。行きましょう」
「……ああ。そう、だな……先ほどの事も、その、向かってから考えよう」
わたくしと愛しい方の新しい日々が、今から始まる。