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小さい連れ

パチパチと音を立てる焚き火に枯れ枝を投げ入れると、大きく唸った後に火はまた自由気ままに揺れ始めた。日が陰り、月がない暗い空は数多の星が広がり、足下の焚き火が揺れるのに合わせて微かな光が暗い空に映えた。


ずしゃ、ぐちゃ。


それだけを思えば、とても情緒溢れる夜だというのに。


「おっ、こりゃあ上物だよ、騎士さまぁ」


高い声色に、浮ついた話し方。


「、、、正気か」


「なんだよ~まだ信じてくれないのかぁ。魔物だって食える奴もいるんだって~。オレは何度もこのっ、お腹に収めてきたんだっ」


さほど膨れていない小さいお腹を自慢げにぽん、と叩く小さな手。ぼろ切れで茶かげた服に、黒い手形が着いた。


「あーさては、怖いんだなぁ。そうだろう~」


ニヤニヤと口元を上げながら、今度は小さな手が小さな顎を支える。分かったように、うんうん、と頷きわざとらしく空いている腕を組んだ。その腕の先には、これまた黒く染まった小さな刃が焚き火に照らされている。頷きに合わせて、刃先からぽたぽたと黒い液体が地面に垂れた。


「でも安心してくれ。みんな何事も最初は怖い。オレだって最初はうえーって思ったけど、生きていかなきゃいけないんだ」


ポンポンと、遠慮なしに小さな手が俺の肩を叩く。俺の肩が汚れるのも気にせず。大袈裟に不愉快を顔に出すが、目の前の子どもは気付きもせずまた”作業”へと戻っていく。

暗影に蹲り再び不気味な音を出し始めたこのこどもは、昼間狼型の魔物から助けた子だった。なぜ西の森に居るのか、聞き出そうとしてもあーだこーだと誤魔化し続け、今に至る。


「あ、そういえばこれに夢中になって忘れてた!」


こどもは黒い液体に染まった手で焚き火の近くに、さっきまで”大猿だったもの”を枝に刺し、焼き始める。


「オレはチャル。騎士さまは?」


一串、また一串と地面に肉が並んでいく。少し鼻歌交じりなのが不気味さを増していた。本気で、魔物を食べる気のようだ。


「名乗れないか?それなら偽名でもいいよ。オレは気にしないから」


最初に焼き始めた肉が香ばしい匂いを出し始めた。油が多いのか、時折肉汁が伝って地面にシミを作った。


「どうせ名乗るなら格好いいのがいいよな~オレも、あ、この名前良い!っていうの一杯あるけど、なんだかんだで、チャルが一番しっくりきてさ」


くるくると並ぶ肉の焼き面を調整しながら、”チャル”は一串を持ち上げ加減を確認する。


「そうそう。この森はこれみたいな魔物は少なくて、大体は煙になって消えちゃうんだ。だから騎士さまは大手柄!さっきも言ったけどさ、最初は怖いかもそれないけど結構イケるから、大丈夫だって」


ほら、と良い焼き加減になった一串を俺に差し出す。受け取るか悩んでいると、否と捉えたのか小さい口を大きく開けて、一噛み。何度か咀嚼した後に、


「そういえば、騎士さまはなんでこんなとこにいるんだ?」


それは俺の台詞だ。

ぺらぺらと話し続ける”チャル”に応答せずとも、疲れてしまった。そしてすぐ目の前に、胃袋を誘惑する焼き肉の香り。


「ふひ、これひふぇる(次、これいける)」


懲りずにチャルは焼き上がった肉を俺に差し出してくる。自分は2本目を口に運んで。

どうしたものかとやはり悩むが、ぽたぽたと肉汁が串から垂れて地面に落ちる。大きなシミからそれが脂の乗った良いエネルギー源だということは分かる。出立してから手持ちの食糧と周辺の果実類を食べて凌いできた。魚も捕っていたが”肉”は久しく口にしていない。


「んっ。やっぱり、いらないか」


今度は3本目に手を出さず、チャルが首を傾げる。帝国でも珍しい紫の瞳に、珍しくない薄い色の髪。雑多に切っているのか、毛先がバラバラでその先端に焚き火の灯りが反射した。


「騎士さま?」


肉の匂いと光る薄い色の髪と俺をじっと見つめる紫水晶。

ごくりと喉の奥が鳴った。こんな子供に。俺もやきがまわったのか。いや、このいろのせいだろう。


「、、、頂く」


「!うん!それがいい!!」


肯の応えにチャルは嬉しそうに肉の串を俺の手にしっかりと握らせた。まだ肉が残っていたのか、新しい串が焚き火の周りに並んでいく。その後ろ姿はとても楽しそうで、逞しい。


「、、、ふぅ」


俺も覚悟を決めるか。

ゆっくりと息を吐いて、”肉”に歯を立てる。一筋噛み切って、少し咀嚼して飲み込んだ。


「どうだ?イケるだろ!」


満点の笑み、で振り返ったチャルに、俺は向ける顔がなくて俯いた。そんな俺気にもとめず、チャルは肉を焼き続けた。


悔しいが、うまい。かなりうまい。空腹は極上のうんたらはあるだろうが、イケてしまった。あっという間に1本目を腹に収めると、示し合わせたように次の串が目の前に現れる。今度は遠慮無く手を伸ばした。


パチパチと音を立てる焚き火の音と、肉に齧り付く水音に時折高めの鼻歌。月のない夜は、意外にも穏やかに過ぎていった。


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