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帝国騎士副団長の日常

途中でタイムスリップします。チェーザレがゴロツキをやっつけます。女性を人質にとったりします。

朝の湿った匂いがする。太陽が少しだけ顔を覗かせ、僅かな光に反応するのは都会特有の塵と夜に冷えた地面が温まっていく蒸気だ。早朝だというのに、自分たちを含め何人かが話しながら駅に向かって歩いている。

同じように、夜を過ごしたのだろう。眠そうだったり、まだ酔っていたりと様々だ。


瞬間、大きなクラクションが空に響いた。と思ったら、誰かが誰かを制止する声が聞こえ、立ち止まり振り返ると、そこには大型トラックが迫って来ていた。



幼い頃から見ている前世の夢は、次第に短く薄ぼけていくが、自分が轢かれるシーンだけが鮮明に映し出されていた。相変わらず衝撃はなく、現世での自分のベッドの上で目を覚ます。

そういえば、あの時一緒にいたあちらでの友人はどうなったのだろうか。突然俺が轢かれて、驚いただろう、とても悲しんだだろう。まぁ、もう、どうしようもできないが。


勢いをつけてベッドから飛び降りると、同室のロレンツォは既に起きていて、プラチナブロンドの長い髪を梳いて三つ編みを作っていた。途中まで編み込んでいるうちに、半端な長さになった一房に気づいたようで、朝から眉間に皺をよせている。

昨晩、女学生にもまれている間に誰かに切り取られたことにようやく気付いたんだろう。熱狂的なファンがいたものだ。


「どちらかというと狂気的だろ」


考えが顔に出ていたのだろうか。渋い顔をさらに渋くさせてロレンツォは髪を結い終えてから俺に向かって言い捨てた。

お手上げの仕草をした俺は、気にするなと声をかけながら、自分の身支度を整え始める。

朝食の後に朝礼があり、そこで帝国騎士学校の卒業証明書を受け取る。学校を出る時点で配属先の上長が出迎え、それぞれの地に向かうため、ゆっくり同窓と話せるのは同室の相方か朝食の時ぐらいだった。

朝礼で学校長の長い演説に耐えた俺たちは、私室に戻り荷物をまとめ、学校での最後の時間を過ごしていた。


「ローリーは、どこに配属されるんだ」


「監査会の方だ。最初は監査部門の雑用みたいなことをやるらしいが」


「お前が雑用とは、先輩方は戸惑うだろうな」


「どうかな。寧ろ嫌がらせしてくるんじゃないか、兄さんのこともあるし」


「あぁ、アドルフォ隊長のことか。確かに、格好のネタだな」


大きくため息をつくロレンツォに背を少し乱暴な激励を入れ、少ない自分の荷物を肩に担いだ。

昨日まで帰省していた実家に荷物を置いてきたこともあったがも、元々物は少ない方だった。その反面、ロレンツォはその几帳面な性格の割には私物の整理には疎く、大量の本が机とベッドに積みあがっていた。

どうするか聞くと、家の者が引き取りにくるらしい。そういうところが、だと思うが、敢えて口にしなかった。


部屋を出ると、廊下でヴィットーレが茶色いトランクと共に立っていた。ヴィットーレも荷物が少ない方だが、片手に大きな布袋が抱えられていて、お菓子がはみ出て見える。

最後の日まで、相変わらずのようだ。

ふて腐れたいつもの平凡な顔をして、大きなお菓子袋から2つ、小さい袋を取り出した。何事かと顔を覗くと、彼の目が少し赤く腫れている。


「餞別、次は帝国の外のお菓子をあげる」


思わず小さなお菓子袋を受け取った俺たちは、目を見合わせた後に噴き出して笑った。一瞬怒ったような顔をしたが、すぐにヴィットーレも声を出して笑った。


俺は、帝国騎士団第2騎士隊へ。ヴィットーレは帝国騎士団第1騎士隊へ。ロレンツォは帝国騎士団監査会へ。同じ帝国騎士団内とはいえ、隊も管轄もばらばらだ。

いつかの再会を願って、ひとしきり笑い合った後、3人で抱き合ってからそれぞれの行く道へと向かった。









4年後。


俺はまだ空が薄暗い中、城の裏門から少し離れた城壁の前にいた。動きやすいよう鎧はつけずにシャツにズボンとラフな格好にし、使い古したマントは頭から被った。門番に気付かれないよう一躍で壁の上まで跳び、辺りに人の気配がないことを確認してから音を立てないよう城外へと飛び降りた。繁みから様子を伺うと、城壁を背にして真っ直ぐ立っているところから気が付かれていないようだ。


草花や石で音を立てないように足が着く場所を選びながら、まだ目覚めていない街を目指して走った。

目的はないが南東に位置する港をなんとなく目指しながら城下街に寄り道していると、次第に朝市の準備を始めた住民たちで賑わい始めていく。

南東の港があるマルティーニ領に入ると、既に一仕事を終えた漁師達目当てで設けられている出店が並び、肉の串焼きの匂いが胃袋を誘う。早速1つ購入し、頬張りながら徐々に開いていく軒並みを眺めて歩いた。

朝方の静けさはすっかりなくなり、呼び込みの声や商人が引く馬車の音、子ども達が遊ぶ声にそれを追いかけ叱る親の声。どこも活気溢れる良い情景だった。


平和だ。


そう思った途端、背後の不穏な空気を感じた。人ごみのまたその先から、何かが人にぶつかってこっちに向かってくる。目を凝らしてみると、前を走るのは薄汚い恰好をした如何にもなゴロツキ。後ろを走るのは小太りのコック、の後ろに走るのはエプロン姿の若娘。親子のようだ。

折角の心地いい空気が台無しだ。胸中で舌打ちをし、串に残っていた最後の肉片を口に含んだ。


「どけどけっ!」


「だ、誰かっ、、、そいつをっ、、」


盗んだのであろう布袋を抱えてゴロツキがこちらに走ってくる。デジャヴだ、と思いながら、男の進路に立ちふさがるように立つ。そこは男を避けるように人が隅に寄って、道が開けていた。男は俺に気付きながらも速度を落とさず、走ってくる。


「邪魔だ、馬鹿野郎っ!!」


「馬鹿は、お前だ」


男の左肩を右手で掴み、前に押し出しながら左足を横から払いのける。走ってきた勢いもあって男は後ろにのめり、肩から地面に倒れこんだ。その拍子に抱えていた布袋が転がる。

男のうめき声と地面に落ちる音がしてから、野次馬が静かになった。自分の肩を抑えて呻く男を見下す。見たところ手配書にはない顔だから、組織的な犯行ではないのだろう。


「はっ、はっ、、、あれ?」


「お父さんっ、、待ってっ、、、あれ?」


ようやく布袋の持ち主であろうコックと若娘が追い付いた。俺と倒れる男を囲むように集まっていた野次馬を見回した後、安心した顔でコックは膝から崩れる。

途端、誰からともなく歓声が上がった。


「兄ちゃん、すげぇな!」


「何やったんだ、どうなったんだっ」


「一瞬でわかんなかったぞっ」


「なぁ、良かったなぁ、お前さん」


群衆の驚きの声とコックを励ます声と俺への称賛の声、それに負けないように父娘からの感謝の言葉が耳に響いた。気にするな、と返すも、コックは白い帽子を胸の前で握りしめ何度も何度も頭を上下げする。


「お父さん、良かったね」


「うんうん、ありがとうございます。ありがとうございます。あ、リフィ、袋を」


「は~い」


今月の売り上げ全部が入っていたとコックが感謝の言葉を重ねながら、外した帽子で額に溢れる汗を何度も拭く。若娘は転がった布袋を大事そうに拾ってから、笑顔で父親の方に駆け寄ってくる。

はずが、歓声と共に途中で若娘の足が止まった。


「動くな」


その声にコックが振り返ると、いつの間にか立ち上がっていたゴロツキが布袋ごと若娘を後ろから捕らえていた。どこから取り出したのか、右手にはナイフが握られている。

若娘は驚きと恐怖で涙を浮かべながらかたかたと体を震わせていて、野次馬から黄色い女性の悲鳴が聞こえた。


「リフィ!!」


「動くなっつてんだろっ、この女がどうなってもいいのかぁ!!」


仕留め損ねていたのか。


駆け寄ろうとするコックを制し、自分の詰めの甘さを反省しつつ、深いため息をついて男と若娘に近づいた。

一歩、一歩、ゆっくりと近づくと、男はナイフを振り回したり俺に向けたりしている。剣先はふるふると震え、瞳孔は大きく開き、冷や汗が大量に流れているところを見ると、あまり刃物に慣れていないのだろう。

それか、何かヤっているのか。若娘を傷つける前に、早めにケリをつけよう。


恐怖交じりの男の瞳を睨みながら、また一歩、一歩とゆっくり足を進める。剣先が俺の鼻に触れるかどうかの距離になったとき、男は奇声を上げてナイフを大きく振りかぶった。

娘の名前を叫ぶ父親、恐怖で甲高い悲鳴を上げる若娘、野次馬はこの先の惨劇を予想して目を瞑る者もいれば、声を荒げる者もいる。

その一つ一つが、俺にはゆっくりと、止まっているようにも見えて、胸中で嘲笑った。


「遅いな」


振り下ろされるナイフの刃先を指だけで受け止め、男が体を動かした勢みで僅かに解放された若娘の肩を抱くように自分に引き寄せた。しっかりと腕の中に若娘が収まる感覚を確認してから、俺は気迫を込めた瞳で男を睨み下ろした。


「ひっ、、指、3本でっ、、、」


捕まえた剣先を動かそうと男は足掻くが、ぴくりとも動かない。指に少し力を加えると、刀身は呆気なく砕け散り、男の手には半分ほどのなった頼りないナイフだけが残った。

引きついた口元から泡を吹いた男は、がたがたと体を大きく震わせながら、また地に落ちた。

今度は、きちんと気絶をしているようだ。


「大丈夫か、お嬢さん」


マントを外して腕の中の若娘に声をかけると、彼女は機械的に首を縦に振り、少ししてから頬を赤くさせて俯いた。

また、誰からともなく歓声が上がる。

今度こそ、ゴロツキを圧倒し、盗難品の奪還と若娘の救出に皆が歓喜した。まだぼーっとしている若娘を腕から解放してやると、コックは握りしめていた帽子をどこかに放り投げて、泣きながら彼女に抱きついた。娘も我にかえると父親を抱き返し、滲んでいた涙を溢れさせた。


抱き合う親子を見ながら、俺は胸が熱くなった。自分の存在意義を感じられる大事な瞬間だった。騎士であろうとなかろうと、誰かを助けらる自分がとても誇らしかった。


「なぁなぁ、兄ちゃんすごいな。どこのもんなんだい?」


「いや、ただの通りすがりの、」


「この御方は我らダヴォリア帝国の帝国騎士団ザッカルド副団長ですよ、ご主人」


野次馬の中でも髭をこしらえた男が話しかけてきたが、最後まで俺が応えることなく背後から別の声がかけられた。

聞き覚えのある、いつも以上に怒気が込められた声に、反射で両肩が跳ねる。髭の男も驚いたようで、声のした方を振り向いていた。


「帝国騎士様!?それはそれはっ」


「料理長殿もご息女も怪我がないようで何よりです。他に具合が悪い方はいっらっしゃいますか?」


「い、いえ。大丈夫かと。ありがとうございますっ」


コックが若娘と共に俺の背後に立つ者に何度も頭を下げているのを横目で見ながら、俺はゆっくりと足を動かす。

頭の中で何か良い言い訳はないかと一生懸命考えるも妙案が浮かばず、こめかみから冷や汗が一筋垂れてきた。できれば今のうちに、違う場所へと逃げ押せてしまい。


「何よりです。それもこれも、この自体を予測してか朝早くから、お忍びで、警邏に、赴かれたザッカルド副団長の御活躍のお陰ですね。そうでしょう、誇り高き帝国騎士団ザッカルド副団長?」


何度も俺も素性を連呼するなんて、本当に出来た性格してる。

腹を括って踵を返すと、声の主は俺の牽制に成功したからなのか、細い縁なしの眼鏡越しに俺に微笑んでいた。目は笑みを形作っているのに、全然笑っているように思えない。


「どうされましたか、ザッカルド副団長?」


「、、、いいや、良いタイミングで来てくれたな、アッビアーティ副官」


「とんでもございません。もう少し早くに到着できれば良かったのですが、遅くなってしまい大変申し訳ございませんでした」


話に乗ってやったものの心が籠っていない嫌に丁寧な謝罪の言葉に、もう一筋こめかみから汗が垂れてきた。我が副官殿は大変ご立腹なご様子だ。

前髪を後ろにきっちりと撫で付け、笑みの形を絶やさないこの男は、帝国騎士団副団長付副官のリッカルド・ヴァリ・リタ・アッビアーティ。見た目を裏切らない神経質几帳面超がつくど真面目な性分のリッカルドは、いつも通り隊服をきっちりと身に着け、真っ直ぐと背筋を伸ばした直立不動で俺を見上げている。

まだ半年しか付き合いがないのに、この副官は上長である俺に全く動じない。きっと心臓に毛でも生えているんだ、こいつ。



まだ恐縮しているコックに店の名前を聞いて今度食べに行く約束をしてから別れを告げた。

気絶しているゴロツキを本来の警邏で回っている騎士たちに預け、俺は今朝歩いてきた道を戻るべく足を動かした。何も言わなくとも一歩後ろについてくるリッカルドから、言葉の追撃が来る。


「まだ陽も登らない内にザッカルド副団長が警邏に出られたときは、どうしようか肝を冷やしましたが。いやはや、まさかこのような悪事を予測していられたとは、、、さすが異例の早さで帝国騎士団副団長に任命されただけはございます。犯罪までも未然に察知されるとは。私もそのような素晴らしい方の副官であることを大変誇りに思います。今朝なんて、感情の高ぶりのあまり身体が震えるほど熱くなり、ザッカルド副団長のことで頭が一杯になりました。女性だけでなく私のような無骨者の心も魅了するなんて、巷の噂以上です」


ぺらぺらと嫌味に忙しい口だな。どこにきっちり隊服を着こんだ無骨者がいるんだ。適当に返答しながら歩調を早めるも、一定の距離を保った状態でついてくる。騎士団の中でも大柄な俺の歩調に付いてきて嫌味も言う合わせ技を使ってくるこいつこそ素晴らしい副官だ。

朝はゆっくりと眺めたマルティーニ領の街並みを早々に通り過ぎ、城下町への街道に差し掛かったところで、騎士団の一般兵が馬を伴って待機していた。用意の良いことた。


詳しく聞かされていないであろう一般兵は、不機嫌な俺の登場に驚くもすぐに訓練された敬礼をした。

付き合わせてしまった一般兵になおるよう指示を出し、彼が連れてきた白い愛馬を受け取った。

大柄な俺に耐えられるよう、愛馬は他の馬と比べて二回りほど大きく、体つきも逞しい剛筋を纏っている。背から腹にかけて撫でてやると嬉しそうに灰色がかった尻尾を軽く振った。

既に違う馬に跨ったリッカルドが、少し上の位置から俺を見下ろしてきた。


「帰ったら、御予定を早めて頂きますようお願いします。くれぐれも、時間配分を御間違えないように」


「分かってるって。お前は本当にいつも真面目だな」


「御褒めに預かり恐縮です」


褒めてないっての。

わざと大きなため息をつくが、リッカルドは微動だにしない。先を急がせるよう目線だけで俺を促す。仕草に出ていないだけで、絶対顎で指示しているような雰囲気に苛ついたが、自分が悪いのは自覚しているので素直に従うことにした。

鎧なしで愛馬に跨ると、内腿に馬の高い体温を感じた。少し指示をするだけで、数年共にした愛馬は任せろと言わんばかりに嘶き、走り出す。

その後にリッカルドと一般兵が続く。数分走らせるとすぐに城下町の入口へと差し掛かった。すっかり陽が登ってしまい、胃袋が悲鳴をあげそうだったが、副官様の様子からすると寄り道は許されないだろう。

愛馬も気持ちが乗ってきたようだし、一気に帝都の帝城へと戻るために足で愛馬の腹を軽く蹴り、城下町を駆け抜けた。






ダヴォリア帝国の人々は、昨今みな同じ噂を耳にする。

現帝国騎士団副団長は光り輝く青みがかった髪を靡かせ、締まる形と赤茶色の甘い瞳で人々を魅了する。その鍛え上げられた肉体美と隔てなく捧げられる優しさ、正業に徹する高い騎士精神を持つチェーザレ・ヴァリ・リタ・ザッカルドは、その類い稀ない存在感から、かつて世界を魔王から救った初代皇帝の生まれ変わりのようではないか。次期皇帝は、彼が一番ふさわしいのではないか、と。



この噂が思いもよらぬ真実が明かされることになるとを、副官の顔色をうかがうチェーザレは知る由もなかった。

ダヴォリア帝国はかつて実力主義で皇帝を決めていましたがいつの間にか血統主義に。でもチートなチェーザレがいるとなるともしかしたら。。。長い台詞を噛まずに言い切る副官殿は本当にできた方です、尊敬します。

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