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2人の聖女

今回は短め、カーリン視点です。

特に拒む理由はなかった。喧嘩して気まずくなってたし、折り入ってなんてお願いされたら断れない。それでも、数週間以上も彼の顔をまともに見ていないと、なんだか調子がおかしくなっている気がした。前世では喧嘩なんてしたことなかった。だから仲直りの仕方なんて分からない。でもこのままではいけないと分かっている。

魔物は駆除しないといけないし、魔王も倒しに行かなきゃいけない。その後も、叶うなら。


そう思い、服の上から指輪を握ると決意が改められる。明日こそは、チェーザレと話そう。そう思うのに、うまくいかない日々が続いて。休みの日も皇族方に誘われるまま視察という名の買い物に行ったり、情報収集という名のお茶会に参加したりした。まさか本当に皇太子と出かけることになるとは思わなかった、彼は監視のつもりだろう。フロリアーナ殿下とのお茶会では着慣れないドレスが必須だったけど、皇女殿下の手前着ないわけにはいかない。しかも、チェーザレとのいざこざを出され普段着やドレスを新調してもらうことになったとなっちゃあ、、、まぁ、まんざらでもない。


だから、久しぶりの本当のオフの今日はゆっくりしすぎて寝坊し、日が落ちても寝れなくなってしまった。今日こそは完全に一人になりたくて、いつもどこから現れるのか分からないトーレも撒いてきた。一人城内を散歩していたら、まさかのチェーザレに遭遇した。しかも、クラウディア殿下の膝の上で。


「クラウディア殿下」


他の庭園に比べて緑が多いその場所は星明りだけが頼りで、男女が相瀬を営むにはもってこい。そんな場所にチェーザレとクラウディア殿下。まさか私との喧嘩中にけしからんことをしているのかと思いきや、困った様子のクラウディア殿下を見て思わず声をかけてしまった。


「あっ、、、カーリン様、、あの、これはっその」


慌てたように大きな瞳を左右に泳がすも、彼女の細腕はチェーザレを放そうとしない。むしろ震えるほど力を入れて抱き締めている。というより、落ちないように支えている。よく見ると、巨体の彼は意識を失っている。何かあったのかと覗き込むと、規則正しい呼吸音が聞こえてきた。


「まさかと思いますが」


「最近、お忙しそうでしたので」


寝てるのか。私が近づいてきても気づかないほど、ぐっすりと。しかも、殿下のか弱い膝で膝枕だと。騎士が姫一人残して、何のんきに寝てるんだ。それでも帝国一の騎士か。

目を見開いて驚く私をよそに、困ったように笑うもチェーザレの髪を撫でる彼女の姿は眩しかった。

というか、こっちが恥ずかしいわ。


「失礼」


この雰囲気をぶち壊すことにはなるが、立ち去るには気まずい。意を決して、クラウディア殿下に一言断りを入れ、ゆっくりと右手を動かした。風でチェーザレの体を浮かせると、解放された細い腕は少し震えながらも小さな膝の上に行儀よく収まった。


「突然失礼致しました」


「いえ、助かりました。私の腕では、限界がありましたから」


「"ヒー"」


「あ、お待ちください」


巨体を支えるのに痺れただろう細い腕を治療しようとしたところで、思ったより強めの声で止められた。


「申し訳ございません。ですが、、、」


まだ震えている腕をもう一方の自身の手で撫でながら、クラウディア殿下はその大きな蜂蜜色の瞳を緩ませた。


「彼の温もりまで、消えてしまいそうで」


そうきたか。なんという殺し文句だ。ちょっと、なんで寝てるのよ、チェーザレ。ばかっ、この台詞は聞いておくべきでしょ。


「それは、、、気遣いが、足らず。邪魔だてをしてしまいました」


「とんでもございません。私こそ、我儘を言いました」


そう言って一度私を見てから、クラウディア殿下は宙に浮いているチェーザレに視線を移した。風でふわふわと青みがかった髪を愛おしそうに見上げている。彼女の様子から見るに、相思相愛。何よりだわ。私はお腹いっぱいよ。


「騎士団長殿をお送りします。クラウディア殿下はいかがしますか」


流石にこんな夜更けに皇女殿下一人で放ってはおけない。肝心な帝国一の騎士は寝ているし。


「実は、ザッカルド様の御迎えをお願いしているところなのです」


なるほど。だから侍女も近衛騎士もそばにいないと。それでも用心に越したことはないと思うんだけど。

そうこうしている間に、こちらに駆け寄ってくる足音が聞こえた。振り向くとクラウディア殿下の侍女と思わしき女性が毛布を持ち、その後ろに近衛騎士が大柄な騎士を連れ立っている。確か彼は副騎士団長のアドルフォ。見た目は似ていないけど、ロレンツォのお兄さん。確かにチェーザレほどの巨体を運ぶのに、弟の方では些か頼りない。


3人とも、私がいるのに驚いたのか庭園に入る前に一瞬殺気立っていた。正体が分かると、今度は宙に浮いているチェーザレを不思議そうに見上げている。

クラウディア殿下が侍女から毛布を受け取り、薄い装いが隠された後で近衛騎士と副騎士団長は庭園の端で跪いた。


「クラウディア殿下、うちのザッカルドが大変失礼致しました」


「とんでもございません。騎士団長の執務は大変なのでしょう。ザッカルド様とあろうお方でも、お疲れになります」


「ですが、こんな、、、」


夜更けに皇女殿下の前で寝るなんて。と言いたいところだろうけど、副騎士団長の下げた頭が微かに震えている。もしかして、怒りのあまりに言葉が詰まっているのかしら。

確かに、皇族を守るはずの騎士が居眠りしている上に御迎えに来させるなんてとんだ恥さらしだ。


「どうぞお気になさらないでください。私も、、、」


今度はクラウディア殿下が言いとどまっていると、ばっと副騎士団長の顔が上がった。彼の表情は私の想像を越して、笑みが浮かんでいた。


「承知しました。このことは誰にも。殿下も今宵はこちらにいらっしゃいませんでした」


「え、、、ですが」


「どうぞどうぞ、お気になさらないでください。起きたら我が帝国の青い流星には私から言っておきますので」


「っ」


"青い流星"に思わず吹き出すところだった。

突然陽気に話し出した副団長に難色の意を示す近衛騎士だが、彼はそれ以上の勢いだ。この状況を面白がっているとしか思えない。


「さ、カーリン殿も。引き取ります」


迷子の子供を迎えに来た親のように、副団長は両手を差し出してくる。確かにここでチェーザレを渡してしまえば、また私は一人の休日を楽しむことができる。だけど、


「このまま運びます」


「まぁ、私として助かりますが」


「どうぞ、お気にせず」


もしかしたら、仲直りの良い機会なのかもしれない。そう思ったら、手放すのが少し惜しくなった。

また面白い展開になってきたと言わんばかりに笑みを深めた副団長を無視して、私は騎士団長室へ向かうためにチェーザレの体を動かす。ぷかぷかと風で浮く巨体は、まだ目を覚ましそうにない。


「カーリン様」


「はい、クラウディア殿下」


「我が帝国の騎士を、宜しくお願いします」


肩にかかった毛布を片手で抑えながらも、ゆっくりと腰を折ったクラウディア殿下の所作は美しかった。チェーザレに送る視線に熱が籠っているのに、どこか理性的なところに不思議と違和感がなかった。年齢の割には大人びていると聞いているけど、頷ける。まさに帝国の"聖女"だ。


「畏まりました」


彼女の礼を返すように私も腰を折ると、安心したのか侍女と近衛騎士を伴ってクラウディア殿下は踵を返した。去り際に近衛騎士から冷たい視線を送られたが、矛先はチェーザレ。これは仕方がない。横でまた跪いていた副団長も同じ気持ちのようだった。


「副団長殿」


「他人行儀は苦手で。アドルフォと。弟たちとの仲良くしてくれているようですし」


「、、、そうですか。ではアドルフォ殿。案内をお願いします」


「了解っ、しました~」


にやにやと笑う”アドルフォ”は、私の一歩前を歩き始める。その後ろを私と浮いたチェーザレ。嫌でも目立つ光景は、あらぬ噂を誘うはず。それを分かっているのか、アドルフォは人気のない道を選び、巡回や夜警の騎士たちを欺き、なんと目撃者なしで騎士団長室まで導いてくれた。


「では、ごゆっくり」


意味深な台詞と見慣れてしまった彼の笑みが、ドアの隙間から消えていく。ほんと、チェーザレの周りには”悪い男”が多い。

大きめのソファの上にチェーザレの体をゆっくりと降ろし、壁に掛かっていた上着をその上に乗せる。それでも規則的な寝息は変わらない。カーテンを閉め、向かい側のソファに座り、両肘をついて横たわるチェーザレを見た。

薄暗くなった部屋の中でも、時々銀色に反射する髪。恵まれた体格と能力、人望、そして血。誰もが羨む彼を取り乱させたのが私だと思うと少し優越感を抱くが、そんな雲の上の彼をここまで安心させたのはクラウディア皇女。

となると、可能性が高いのは彼女の方か。それにしても幼すぎると思いつつも、運命なんてそんなものかとすぐに思い直した。

はて、どこから話したらいいのか。その前にどうやって仲直りをしたらいいのか。時折小さくいびきを立てるチェーザレにびっくりしながらも頭を悩ませ、睡魔に負けそうになった頃にドアのノック音がした。



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