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晩餐会②

皇族方への挨拶を済ませ、俺とカーリンは軽い食事を取ることにした。他の重役や貴族たちは、主賓であるカーリンにあちら側から挨拶がじきに来るだろう。ヴィットーレに食事を取りに行くよう頼んでから、俺は給仕者からグラスを2つ受け取り、1つをカーリンへと渡した。


「帝国自慢のシャンパンです」


「まぁ、是非」


満点の笑みを浮かべてグラスを受け取るカーリンに、ふと思い出す。カーリンは、かなり飲む達だ。


「飲み過ぎるなよ」


小声で注意をするとおなじみの大丈夫強いからと台詞が返ってくる。分かっているが、そういうことじゃないっての。


「暴れたら容赦なく取り押さえるからな」


「麗しい淑女に乱暴ね」


「大酒飲みのどこが淑女だよ」


ふふふと笑みを浮かべて、グラスの中の金色の液体を傾けるカーリン。一回で半分ぐらい減っている。淑女なら、少しずつ飲むもんだろうが。

俺も合せるようにグラスを傾ける。不思議そうにカーリンが首を傾げると、俺はしてやったりと口元を上げた。前世では俺はあまり酒に強くなかったが、今は違う。チートだぞ。


「お待たせ致しました、聖女様」


「ありがとうございます、ヴィスコンティ様」


「ヴィットーレとお呼び下さい、聖女様。ザッカルド団長と親しい仲であれば、私にもお気遣いなく」


「そうですか。では私のこともカーリンと」


「はい!」


丁寧な言葉使いと満点の笑みでヴィットーレは軽食が乗った皿をカーリンへと差し出す。それを受け取り、カーリンはヴィットーレに勧められるまま前菜を口に運んでいく。自分の食事とグラスを持ってきたロレンツォは、開始してまだ間もないのに既に終盤のように疲れ果てた顔をしていた。


「なんだ、もう疲れたのか」


「お前が聖女を連れ立ってるから、色々と聞かれるんだよ。老若男女全てに」


「それはご苦労なこった」


「面倒な役ばかりさせて」


「皆ローリーの方が話しやすいんだよ」


自分のグラスを掲げて笑うと、笑みを浮かべているが眉間に皺を寄せたままロレンツォも自身のグラスを持ち上げる。俺を睨み付けながら一気にシャンパンを飲み干した。つい先日ロレンツォにマナーについて指摘されたかと記憶しているが、まぁ、いいだろう。


ロレンツォが2杯目のグラスを受け取りながら、ふと目配せをする。視線の先には見慣れた嫌味な奴、因縁のウーゴがいる。最近爵位を継承することが正式に決まったウーゴは我こそはイッツオ侯爵なりと自慢げに話し周っている。本当はカーリンのエスコートも自分の方が相応しいとかなんとか言いっているが、、、あいつ、そのうちカーリンにズタボロにされるんじゃないか。当のカーリンはお気に召したのか、追加のグラスを受け取っている。


好きにさせておけと鼻で笑うと、ロレンツォも呆れた息を吐く。俺も2杯目のグラスを取り、互いに乾杯をした。


俺とロレンツォは挨拶にくる来賓の相手をしながらも、カーリンとさほど距離が取られないようしていた。途中、ロレンツォが宰相に呼ばれて別れることになったが、ヴィットーレは一歩離れている俺と違って、常にカーリンの傍にいて、世話を焼いている。時々カーリンに挨拶に来る来賓たちをあの笑顔で失礼にならない程度にいなしながら、彼らとカーリンとの距離も一定に保っていた。

表立った行動をするヴィットーレを見るのは久しぶりだが、流石だな。あの悪目立ちしない容姿と愛くるしい仕草で、気難しそうな年配の貴婦人ですらも軽くかわしている。友人としてでもあるが、貴重な人材として手放したくない男だな。


「よっ、チェーザレ」


「アドルフォ」


濃いめの青い燕尾服に同色のスカーフを身に付けたアドルフォがグラス片手に近付いてくる。


「大人気だな、聖女様は」


ロレンツォが残していった肉料理を勿体ないと遠慮なく口に頬張り、アドルフォは挨拶を繰り返しているカーリンを見る。彼女への挨拶を我先にと集っている貴族たちと御令嬢の波に、アドルフォが笑いながらやだやだと肩をすくめる。


「聖女様のおかげでお咎めなしなんだろ、お前」


「あぁ、まぁ」


「色男は違ぇなぁ。フロリアーナ殿下といい、聖女様といい」


「やめろ。お2人とも、別に何もない」


「ふ~ん。まぁそういうことにしといてやるか」


何が、しといてやるか、だ。本当に何もないんだっての。

従者から赤ワインを受け取ったアドルフォは意味ありげに目配せをする。その先を見ると、赤ワイン色のストレートラインのドレスを着たフロリアーナ殿下が貴族らの挨拶を受けている。二の腕まで長い手袋越しにその甲に口付けをしていく紳士たちに、フロリアーナ殿下は相変わらず凛と背を伸ばして微笑んでいた。


「お身体はもうよさそうだな」


「あぁ、そうだな」


残ったグラス半分のシャンパンを飲み干し、俺は空になったグラスの代わりにアドルフォと同じものを手に取った。アドルフォはにやにやと口元を緩めているが、無視して一口だけ赤ワインを喉に通す。濃いワイン色はフロリアーナ殿下のドレスを想像させたが、俺は別の物を思い出していた。昼に初めて見たカーリンの紅い瞳だ。


あいつは俺の瞳も赤く光ったと言っていたな。俺の赤色も、こんなような色なんだろうか。

思案しながら、フロリアーナ殿下の横で椅子に座ったまま微笑むクラウディア殿下を見る。昼とは違い濃い空色のふわりとしたプリンセスラインのドレスに、髪はハーフアップにしてカーリンが編み込んだ花がそのままになっている。まるで”聖女の祝福”を受けているかのように、生花なのに萎れることなく空色の髪を彩る。


傍にいなくても分かる、きっと彼女の傍は甘い香りに満ちているはずだ。2人きりの彼女も愛らしくて良いが、今のように皇女としてのお役目をされているクラウディア殿下は儚く神々しい。彼女の手を取り、騎士が跪いて忠誠を誓うその絵がよく似合う。あわよくば、その騎士が俺であればいいのに。


「チェーザレ様」


クラウディア殿下の姿に見惚れていると、カーリンが呼ぶ声がする。内心舌打ちをしながらも振り返ると、そこには酒で頬を赤く染めたカーリンが俺を見上げていた。

やっぱり、かなり飲んでるじゃないか。


「少々飲み過ぎではないですか、カーリン殿」


「こちらのお酒が美味しくてつい」


なにが、つい、だ。

水を手配しようと給仕者に声をかけたと同時に、ホールに楽器の音が響く。ダンスの時間だ。こんな状態で大丈夫なのかと呆れていると、カーリンは右手を自身の腹に乗せる。

まさか、


「踊って、くださるんでしょう。チェーザレ様」


にっこりと笑みを浮かべた白い頬にあった赤みはなくなり、白い肌が照明に反射し淡く輝く。

おいこら、ヒールをそんな使い方するなよ。これだから、のんべぇは。


「もちろんです。聖女カーリン」


嫌味たっぷりの笑みを向けて、俺は右手をカーリンに差し出した。それに小さな手が乗った瞬間、俺は勢いよく引っ張りホールの中央へと誘う。今回の晩餐会は、主催の皇帝夫妻はダンスを辞退している。そのため、一番に踊るのは主賓ノルドハイム国の聖女。つまりカーリンだ。


「ちょっ」


俺よりもチート力の使い方に慣れてやがる。腹立つなぁ。そっちがその気なら、こっちだって。


強めに率いるカーリンは異議の声を出すが、否応なしにホールの中央まで引っ張り出した。

観客の中に枢機卿の顔が見えたが止める気がないのか、笑みを浮かべたままその場で動こうとしない。その手にはデザートが乗った皿が収まっている。やはり、相変わらずだ。


「どうぞ、ご遠慮なく」


ホールの中央で、多くの目がある中逃げられやしない。納得いかない表情をしながらも外向けの笑みを向けながら、カーリンは空いている手を俺の肩に乗せてくる。肩に触れるカーリンの手の感触をしっかりと確かめた瞬間、俺は細い腰に手を回してぐいとカーリンの体を引き寄せた。細身の体が腕の中に収まったのを見計らって、俺は耳元で囁いた。


「覚悟しろ、カーリン」


俺の挑戦状にカーリンが呆気に取られたと同時に、曲が始まる。彼女の準備を待つことなく、俺は足を運び始めた。


「待って、チェーザレっ」


「騒ぐと色々とバレるぞ」


聖女として上手く振る舞ってはいるが、元よりカーリンは所謂お転婆な性格だ。口を開けて笑うし、常に動いて落ち着かないし、大酒飲みだし。要は慎ましやかな淑女とは程遠いがさつなタイプだ。いっそ正体をこの場で暴いてやってもいいが、それでは少し可愛そうだし今後の展開に支障が出そうだ。

なら、少しぐらい意地悪をしてもいいだろう。


腰に当てた手に力を入れて、ぐるりと体を回転させる。勢いがついた動きにかつりとカーリンのヒールが響き、ドレスが翻る。それが落ち着く前に、もう一度回転をする。優雅に、でも大きく。ステップの速さも歩幅も違う俺とカーリンだ。ついてくるのは大変だろう。

にやりと口元を上げると、カーリンは負けじと笑い返してくる。辛うじて俺についてきている。やるな。


「甘くみないで。別にチートだけで生きてきたわけじゃないのよっ」


軽口を吐きながらも、若干息が乱れてきている。いくら魔術のチートだからって体力を消費しながらヒールをかけるのは難しいのだろう。俺だって、チートに胡坐をかいてきたわけじゃない。きちんと貴族紳士としての教育は受けてきたんだ。

ここは、意地のぶつかり合いだな。


「それは楽しみだ」


耳元で低めの声を発し、俺は一段と大きく足を踏み出した。





















笑みを浮かべながらも火花を飛ばす、傍から見たら情熱的に踊る2人の姿を、観衆たちはそれぞれの思いで見つめていた。ただただ見惚れる騎士、ダヴォリア帝国騎士団長を異国の聖女に取られるのではないかと焦る貴族と淑女、このままノルドハイム国の聖女を帝国の物にできると企む重役。そして、皇族たち。


皇帝は片頬を肘掛けにつき表情は変わらず、皇妃も扇でその表情は読めない。皇太子と第一皇女は笑みを浮かべながらも複雑な想いを胸に秘める。座ったままホールを見下ろす第二皇女クラウディアは純粋に騎士と聖女のダンスに見惚れていた。帝国が誇る騎士団長と強い癒しの力を持つ異国の聖女。本人たちは否定するがとてもお似合いだった。



そっと、小さな手が髪を飾る生花の一つを取る。手の平に収まったのは橙色の甘い香りが特徴的な木花の一つ。先日、魔物の襲撃で半壊した庭園で辛うじて生き残った一枝を、皇妃が救い上げたうちの一かけらだ。昼間、髪を飾った部屋の花に追加でこの花を飾っている。侍女たちにも他の皇族たちにも好評だ。

ある意味、思い出が詰まったこの小さな花が、クラウディアの心を癒し、支えていた。目の前の美男美女が仲睦まじく踊っていたとしても、周囲の人が2人について何を噂していても、ただただ美しいと思う。第一皇女の時とは違っていた。


クラウディアは、愛しい騎士と踊る聖女を見つめた。回るたびに揺らぐ黒髪が宝石のように美しく、でもこの世の物とは思えないほど神秘的で吸い込まれそうなほど深い黒だ。彼女には不思議な力がある。その力があればきっとこの世界は。

橙色の花を手の中に閉じ込め、クラウディア皇女はゆっくりと息を吐いた。あと少しで一曲目が終わる。もう少しだけ見ていたいと、そう思いながらゆっくりと笑みを深めた。

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