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相瀬

年始連日更新、本日3日目最終日です。

ついに、ようやく。甘い雰囲気が出てきます。

ぱたりとドアが閉まると、部屋に残されたのは俺とクラウディア殿下の2人。

カーリンめ、余計なことを。


「あ、あの」


「申し訳ございません、クラウディア殿下。異国の者の勝手を許してしまい」


「いえ、御気になさらないでください」


髪に編み込まれた生花一つ一つにそっと触れながら、クラウディア殿下はカーリンが消えたドアを見つめる。


「とても不思議な方ですね、ノルドハイム国の聖女様は」


「、、、おっしゃる通りで」


ドアを見つめるクラウディア殿下がゆっくりと微笑む。カーリンに対して同じ一国の”聖女”として、何か思うことがあるのだろうか。ある意味一瞬でクラウディア殿下の心を奪っていったカーリンに対して、煮え切らない気持ちはあるが久しぶりに2人きりになれたのは嬉しい。

カーリンを殴るのはもう少し後にしてやろう。


「殿下、今日は朝からカーリン殿たちのお出迎えでお疲れでしょう。お粗末ですが紅茶を淹れますので」


カーリンのカップを片付け、新しく紅茶を淹れる準備をする。茶葉の袋を開けて香ばしい香りを堪能していると、ふと近くに人の気配がする。誰と確認せずともクラウディア殿下が俺の傍まで来て俺を見上げていた。


「いかがされましたか」


どうしたのだろうと首を傾げると、クラウディア殿下は両手を前に組みながら何かを言いたげにしている。口を少し開いて顔を上げては閉じ、顔を俯ける。何度か繰り返している様子が年相応で可愛らしい。先ほどまでの皇女としての落ち着きある雰囲気はどこかにいってしまった彼女の頭を思わず撫でたくなる。


「どう、されました」


茶葉の袋を置いてから俺は跪き、俯いてしまったクラウディア殿下の顔を覗き込む。大きな蜂蜜色の瞳と視線が重なると、驚くのを隠しもせず一瞬見開いてから、横に外されてしまった。


「遠慮なさらないでください。誰もいません」


「っ、、、あ、あのっ」


少し勢いをつけて顔を上げたクラウディア殿下の髪からいくつか花が落ちる。彼女の言葉を待っていると、小さな口から消えそうなほど小さな声が発せられた。


「こ、今晩、、、というのは?」


「今晩?」


はて、なんのことか。首を傾げていると、クラウディア殿下の声が続く。


「先ほど、聖女様がおっしゃってました」


”また今晩にでも”


カーリンの最後の言葉が頭によぎる。やっぱり、近いうちに殴っておこう。本当に余計なことを。


「晩餐会のことです。異国の方では慣れないだろうとエスコートを申し出ました。恐らくそのことかと」


「そう、、ですか。ザッカルド様がお傍にいらしたら聖女様も、安心ですね」


正直に答えると、クラウディア殿下は笑みを浮かべたと思ったら、一瞬だけ瞳を揺るがしてからまた顔を伏せてしまう。組んでいる小さな両手がふるふると小さく震えていた。もしかして、何か嫌な内容だっただろうか。

転生についての秘密もあるが、重いドレスを着てどう振る舞うのか、想像しうるカーリンの滑稽な姿を傍で見たいという下心があることは否めない。もしかして何か致命的な失態をして転生の秘密がばれても困るし、監視も含めてのエスコートだった。


それだけだが、クラウディア殿下の浮かない表情が妙に気になる。もしかして、さっきの誤魔化しがうまく言ってないんだろうか。それなら、全面的に否定して謝罪しないと。


「クラウディア殿下」


驚かせないように、俺自身も興奮しないようにゆっくりと声を発した。俺の呼びかけに顔を伏せたまま大きな瞳だけが上を向く。不安と戸惑いと、あと後悔だろうか。何も悪くないのに申し訳なさそうに視線だけで俺を見上げるクラウディア殿下は、怒られるのを待つ幼子のようだ。


「私に落ち度があるのなら仰ってください。謝罪致します」


「落ち度なんてっ、、、ただ、、その」


また言い留まり、顔を伏せてしまった殿下。そっと様子を見ながらいまだ震える小さな両手を取り、ゆっくりと持ち上げる。それに合わせて、伏せてしまった小さな顔が上がっていく。揺れる濡れた蜂蜜色に瞳がようやく俺の顔を映した。


「カーリン殿の付き添いは、まだ彼女が本当に安全な人物かどうか図りかねているからです」


「、、、はい」


「もし殿下始め皇族方に危害を加えようとした時、すぐ傍にいれば私が真っ先に盾になれます。フロリアーナ殿下に仰って頂いた通り、私にはその力があります」


「そんな、、盾、だなんて」


俺の手に乗せているだけだった小さな手に力が入った。


「殿下をお守りするのが私たち騎士の誇りです。殿下が微笑んでいるだけで救われるのです」


震えて力が入る小さな手を解し、右の甲の唇を落とす。

きめ細やかな肌の感触を唇でじっくりと味わってから、ゆっくりと顔を上げた。さっきよりも辛い、というよりは今にも泣きそうに顔がくしゃりと歪んでいる。やばい、逆に泣かせてしまう。


「クラウディア殿下、どうか悲しい顔は」


「申し訳ございませんっ、ザッカルド様、、私っ、、、」


離れた小さな左手が右手に添えていた俺の手に重なる。涙は零れていないが触れた手と同じく震える声に、俺は空いている手でそっとクラウディア殿下の頭に手を乗せた。勝手に髪に触れて怒られやしないかとひやひやしたが、拒絶する様子もないため心配はなさそうだ。訓練所の幼子を慰める時と同じくゆっくりと撫でると、それを制止するようにクラウディア殿下の手が触れる。

やはり、調子に乗ったか。


「失礼、しました」


「どうか謝らないでください。こちらこそ勝手に触れてしまい」


「いえ、それは、、、」


クラウディア殿下の頭から外された手は、まだ小さな手を握っていたもう一方の手の上に重なる。落ち着いたのだろうか。そんな心配をしながらクラウディア殿下の顔を覗くと、まだ瞳は濡れていたがふんわりと笑みを浮かべていた。


「お恥ずかしい。こんな醜態を」


「いえ」


「あの、、先程のお尋ねですが」


「はい、お伺いします」


ぎゅっと、また小さな両手に力が入る。それに応える為に俺は壊さないよう自分の手にも力を入れた。クラウディア殿下は俺の反応に少し息を飲んだが、ゆっくりと吐いてから言葉を続けた。


「ザッカルド様は、、、その、ノルドハイム国の聖女様と、親しい仲なのでしょうか」


「いえ、全く」


即NOだ。思わず手に力が入りそうになったが、するりと滑らかな肌の触り心地がそれを制止させる。危ない、思いきり握ってしまうところだった。


「そ、、ぅですか。その、、とてもお似合いに見えたので」


「いえ全く」


全否定だ。勘弁してほしい。よりによって、カーリンと”お似合い”だなんて。


「申し話ございません。勝手なことを、、、あの、もう、結構ですので」


徐にクラウディア殿下が手を引く。俺は手を離そうと力を緩めるが、外れた蜂蜜色の瞳にまだ戸惑いが見えた。引き留めるように少しだけ手に力を込めた。


「ザッカルド、様?」


「まだ、ありますね」


少しだけ手を引いて、まだ逸れたままの顔に自分のを寄せる。こちらを向いて近くなった蜂蜜色の瞳いっぱいに、俺の赤茶色の瞳が映った。


「私しかいません。誰も聞いていない。どうぞ、どんなことでも仰ってください」


教えてほしい。なんでも。どんなに些細なことでも。言葉通り、クラウディア殿下にはずっと笑っていてほしい。その為であれば、何だってする。

そう意思を乗せて少し強めに視線を送ると、クラウディア殿下の大きな瞳が一際大きく揺らいでから、小さな唇がまた言葉を綴る。


「あ、、その、、、先程、聖女様が、、」


「カーリン殿が、なにか?」


もしかして、髪を飾るときに何かしていったのか。もしそうなら、あいつ、後で覚悟しておけよ。


「お身体に変わりはありませんか。先ほどの力で、どこか具合が」


「いえ、違いますっ、、、そうではなくて、、、その、、お名前、を」


「名前?」


「は、はい。お名前を、呼び合っていらっしゃったので、、」


クラウディア殿下はまた顔を伏せる。同じように瞳を濡らしているが、今度は不安や戸惑いではなく、恥じらいのようだ。透き通るような頬と耳が、赤く染まっている。


「それで、お親しいのかと」


風船がしぼむように、小さな声が消えていく。俺はクラウディア殿下の言葉に、少し呆けた。

名前を呼び合っていた?俺とカーリンのことか。今更改まった口調は気持ちが悪いと現世での呼び名を採用しただけだ。何故、殿下がそれを気にするんだ?ん?もしかして、


「あ、あの、ザッカルド様」


「はい」


「失礼かと思いますが、、その、お顔が、、、」


緩んでいます、と、殿下が唇を少し尖らせた。

思わず手で顔半分を覆い声が漏れないように必死にこらえたが、間に合わなかった。


「っくく」


「わ、笑わないで、くださいっ」


初めて荒げた声を聞いた。クラウディア殿下には申し訳ないが、頬が緩むのが抑えられない。遠慮がちだが懸命に訴える姿がかわいくてたまらなくて笑いが止まらない。

やばい、嬉しい。素直に嬉しい。まさかクラウディア殿下が、妬いてるとは。しかもカーリンに。


「申し訳っ、、ござい、ませっ、、」


「謝られていませんっ」


嬉しさの余り謝罪も碌にできなくなった。握っていた手から逃れようとクラウディア殿下は抵抗するが、俺は逃すまいとさっきより少しだけ強く力を入れる。俺の力に驚いたのか、殿下は少ししてから抵抗を諦め、申し訳ございませんと謝ってから項垂れた。俺はまた下から赤くなった小さな顔を覗き込んだ。


「クラウディア殿下」


「は、はいっ」


「嬉しいです、とても」


「っ」


顔だけでなく首まで真っ赤に染めたクラウディア殿下は、はくはくと口を数回動かしてからまた顔を伏せてしまった。その仕草も可愛くて、さらに頬が緩む。

あぁ、本当に愛らしい俺の聖女だ。

綺麗に飾られた花をつぶさないように、クラウディア殿下の頭をまた何度か撫でてから俺は手を握ったまま立ち上がった。合せて上がった殿下の顔がまだ赤く染まっているのを見て、やはり頬が緩んでしまった。


「紅茶、飲まれますか」


「、、、はい」


俺の申し出に素直に頷いたクラウディア殿下は、名残惜しそうに手を離してから淑女の礼をする。俺も騎士の礼をしてソファに向かう小さな背中を見届けてから、紅茶の準備にかかった。

今回は特別な葉を使おう。御茶菓子もとっておきの砂糖菓子と焼き菓子を出そう。きっと甘い味にクラウディア殿下も気に入ってくれるはず。そんなことを思いながら俺は、手際よく紅茶を淹れ殿下が待つソファへと足を向けた。


大きく派手なソファの真ん中に、小さな聖女が俺を待つ。部屋には2人しかいない。カーリンのことや魔王のこと、他にもやることが沢山あるが、今はこの一時を大切にしたかった。


「お待たせ致しました」


ローテーブルに紅茶とお茶菓子を並べると、クラウディア殿下の口から小さな声が漏れた。選び出したお茶菓子は色とりどりのもので、味の保証はもちろん見た目も可愛らしい。殿下もその見た目に感嘆の息を漏らしたようだった。

小さなもてなしを喜んでもらえたようだ。殿下の前に淹れたての紅茶を置き、向かい側のソファに座ろうと立ち上がると視線を感じる。その元を見下ろすと、大きな瞳が何か言いたげに俺を見上げていた。


「いかがされましたか」


「、、あ、あのっ」


一言だけ発して、殿下は腰を上げてソファの真ん中から少しずれた位置に座り直した。何だろうと首を傾げていると顔を俺から視線を逸らしたまま、視線だけ出来たスペースと俺を何度か行き来する。

言いたいことが分かって、思わず笑い声が漏れた。これもまた拗ねられる前にご要望に応えることにしよう。


「失礼します」


クラウディア殿下がずれたことで空いたソファのスペース、殿下の横に腰を降ろした。


「あっ」


ぎしりと音を鳴らしたソファは、俺の体重の勢いで大きくしなった。その拍子に、隣に座っていたクラウディア殿下の体が傾き、俺の腕にその小さな体が寄りかかる。直ぐに退くかと思ったがそのままの状態でいるクラウディア殿下に少し驚いた。上から様子を窺うと、体が傾いたまま両手を膝の上で重ねて行儀良く俺に寄りかかっている。髪の間から見える首筋は、赤く色付いていた。


腕に感じる殿下の軽さと熱から俺も緊張してきた。薄い空色の髪が隊服の隙間から地肌に触れ、くすぐったいようで心地良い。胸の奥が擽られるような、不思議な感覚だ。

預けられた腰に腕を回してもっと引き寄せてみたい。このまま抱き寄せて、またあの夜のようにこの腕の中に閉じ込めたらどうなるんだろうとも思うが、腕の温もりをそのままにしておきたいとも思う。

何をするわけでもなく、何を発するわけでもなく。ほんの少しの時間だったと思うけど、とても長く感じられた。甘えられている。そう思うと嬉しさと幸せで胸が熱くなった。


「あの、、」


「はい」


ようやく開いた小さな唇から、遠慮がちに音が出る。俺はそのままの体勢で応えた。


「とても厚かましいとは分かっています。恥じらいがないとも」


「構いません」


クラウディア殿下も体勢を崩さず、2人して上る紅茶の湯気を見つめる。紅茶の香ばしい香りと共に、甘い香りが鼻をくすぐった。


「、、、お願いを、聞いていただけますか?」


たっぷりと溜めてから、クラウディア殿下は頭を腕に一度だけ擦りつけ、請う。それに俺は緊張と興奮隠すように、短く肯と答えた。


「名前を、呼んで頂けますか」


小さな声の些細な願いに、胸の鼓動が大きくなる。クラウディア殿下に聞こえてしまわないかと図りながらも俺はその願いに応えた。


「、、、クラウディア殿下」


「あの、、殿下は、、、」


ゆっくりと預けられていた体が離れていく。ソファの上で2人、向かい合うように体を動かすと、すぐそばに大きな蜂蜜色の瞳が見える。何かの感情で揺れ、膝の上で重なっていた小さな手はいつの間にか俺の手に触れていた。

ついさっきまでクラウディア殿下が寄りかかっていた腕も、今小さな手触れている手も、妙に熱い。俺を見つめる瞳に、小さな顔に遠慮がちに浮かぶ薄い唇に、深く吸い込まれそうで、俺は喉を鳴らした。

待っている、俺が名前を呼ぶのを。


「クラウ、ディア様」


「っ、、、それは、皇女としての名前です。そうではなく、、その」


ここまでくれれば分かる。クラウディア殿下は、皇族としての名ではなく、一人の人間、または淑女としての名を呼ばれたいのだと。困った。嬉しい限りだが身分が違い過ぎるし、それこそおこがましい。いくら殿下からのご要望でも、


「今だけでも、、、駄目でしょうか」


震える声がさらに懇願する。蜂蜜色の瞳が大きく揺れ、俺の手に触れていた小さな手が一つ、俺の腿に乗る。緊張で息を吸うたびに、御茶菓子とは違う甘い香りが鼻をくすぐる。うなじに一筋だけ汗が伝った。

これは、反則だ。


俺が戸惑っていると、更にもう一方の手が俺の腕に触れ、隊服の袖を軽く握ってくる。寄った袖の皺が嫌に艶めかしい想像をさせる。


ちょっと待ってくれ。近すぎるし、急すぎる。甘えられるのも我儘を言われるのも嬉しいしが、俺の想いは殿下のように綺麗なものだけじゃない。このまま強く抱きしめて、ソファに小さな体を縫い止めて、薄い唇に自分のを重ねて、甘い香りを堪能したい。あわよくば、、、。


「あ、あの」


「、、、申し訳ございません、我儘が過ぎました」


「違っ」


蜂蜜色の瞳が悲しみと後悔の色に変わり、小さな手が離れていく。俺は思わず、それを握り締めた。

あぁ、もう!何をやっているんだ俺は。せっかく殿下が意を決して願いを、俺に我儘を言ってくれたんだ。チャンスだろう。応えないでどうする、男チェーザレ。

自分の邪な下心なんて押し止めて、理性的に行動するのが殿下が求める騎士であり紳士だ。耐えろ、俺。まだその時じゃない。


「ザッカルド、様、、」


「申し訳ございません、少し驚いてしまって」


「いえ、、私がご無理を言ったので。どうぞお忘れください」


「それは嫌です」


更に逃げようとする小さな手を引いて俺の胸へ飛び込んできた小さな体を受け止めた。これで不敬だと言われたらもうそれでいい。


「あああ、あのっ」


「呼ばせてください。お名前を」


「でで、でもっ」


「私が呼びたいのです」


「、、、本当、ですか、、私の我儘を、聞いてくださると」


「私の我儘でもあります。だから」


一度だけ腕に力を入れてから抜くと、抱えていたクラウディア殿下の体が離れ、小さな顔の大きな瞳が俺を見上げる。濡れた蜂蜜色に情欲をそそられる前に、俺はそっと額を重ねた。


「なんとお呼びすればいいか、教えてください」


近くなった瞳と視線が合わさらないように、今度は俺が懇願するように瞳を閉じた。重なる額からまた熱が伝わる。微かに甘い香りが鼻を擽った。


「、、、ディ、と」


クラウディア殿下の答えに、俺はゆっくりと目を開けた。額を離すとゆるりと瞳を緩ませ微笑む殿下。細やかな薄い唇が、もう一度ゆっくりと動く。


「ディ、と呼んでください」


「、、、ディ」


復唱すると、クラウディア殿下は更に瞳を緩ませて眦に涙を浮かべた。その涙が決して悪い意味ではないと分かった俺は、また彼女の名前を呼ぶ。


「ディ」


「はい、、、ザッカルド様」


答えた震える小さな声が俺の名字の方を呼ぶ。俺だって、名前で呼んでほしい。


「チェーザレと」


耳元で呟き、大きな瞳の端に浮かんだ涙に口付けた。甘い。涙は塩っ辛いはずなのに、先程から鼻を掠める香りのせいなのか口の中に甘さが広まった。一瞬、体を硬直させた後、クラウディア殿下はゆっくりと声に出す。


「チェーザレ、様」


落ち着いた透き通るような声が耳に届き、頭の奥に響いて、体全体に染み渡った。歓喜で体が震えるのを誤魔化すように応答し、またゆっくりと腕の中に閉じ込めた。応えるように、彼女は再び俺の名を呼んだ。俺もまた彼女の名を呼び返した。


何度か繰り返すと、くすくすと彼女が腕の中で小さく笑う。何がおかしいのかと諫めるようにすぐ横に合った小さな頭に自分のを軽く擦りつけると、お返しにと数回彼女の頭が動く。ふわふわと波打つ空色の髪が鼻を掠めてくすぐったい。


「貴女は涙も甘いな」


我ながらくさい台詞だと思った。でも笑わずに俺の腕の中にいてくれる彼女の名をもう一度ゆっくりと呼び、合わせるように閉じられた蜂蜜色の瞳が開くと、その中は俺の顔でいっぱいだった。鼻を擽る甘い香りと蜂蜜色に酔いながら、その小さな額に唇を落とした。

定番ですが、キスの位置の意味。所説あると思いますが、個人的に採用したい意味です。

おでこ→祝福、瞼→憧れ、手の甲→忠誠、足の甲→服従、足先→崇拝

次回の更新から元の通り、日曜10時となる予定です。

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