闘技場
いつもお読み頂きありがとうございます。軽めの戦闘シーンが入りますので、ご理解をお願いします。相変わらずの亀展開です。
数百人は収容可能な公城の一画に立てられた闘技場は天井がない円形型だ。中央に作られた広場で騎士達が戦い、その様子をどの席からも見られるような造りになっている。その中でも広場に近い位置には皇族専用の席が設けられていて、今正に皇族たち面々が騎士達の試合を観戦していた。その隣には特別な来賓席があり、ノルドハイム国の枢機卿と聖女が座っている。
既に試合は副大将戦まで進んでいる。親父の修練生だった少女アーリアは女性騎士団の副大将戦に抜擢され、繰り下がりで出場していたアドルフォに苦戦を強いられていた。軽い身のこなしは悪くないが、まだ剣裁きが甘く隙がある。それにアドルフォは本人の言う通り、手加減が出来ない。鍛えられた剛腕と大柄な身丈から繰り出される力強い剣撃は、一度でも受け止めたらアーリアの腕はタダじゃすまない。それを分かっているアーリアはアドルフォの剣を避けるしかなく、それが余計に体力を消耗させていた。力技が目立つが、アドルフォの剣は決して遅くない。紙一重で避けられているが、長くは持たないだろう。
「そろそろ行った方がいいんじゃな~い、チェーザレ」
「そうだな。後は頼む」
帰国したヴィットーレに後を任せ、俺は騎士の控え席から立ち上がった。実際に戦う広場には左右に2つの出入り口がある。東軍と西軍、それぞれから騎士達が入場し、中央で剣を掲げて礼をした後、開始の合図がかけられる。どちらがどうでるかは、それぞれの判断に委ねられる。剣の速さに自信がある者は先制をかけ、遅くとも体力に自信がある者は相手の消耗を図り長期戦に持ち込む。今回の相手であるフロリアーナ殿下は、早さも体力もそこそこ。バランスタイプだ。実践経験はないが、幼いことから前騎士団長マッカオからの指南もあり女性騎士隊の長を任せられるだけの実力はあるのだろう。
かといって、俺に敵うかどうかはまた別問題だが。
『勝負あり!双方止め!』
副大将戦が終わりを告げる。アドルフォの勝利だ。負けたアーリアは息を切らして悔しそうだったが、笑みを浮かべてアドルフォと握手を交わしていた。彼女にとって良い経験になったのだろう。歓声を浴びる2人に拍手を送り、俺は東軍の出入り口に控えた。退場してくるアドルフォはすれ違いざまに白い歯を見せながら笑う。
「あの娘、良いな」
どうやら、アーリアを気に入ったらしい。
「手、出すなよ」
「馬鹿言え。子どもに興味はねぇよ」
そう言うアドルフォだが、まだ広場で声援に応えているアーリアの姿を眺め、楽しそうに微笑んでいた。落ち着いたら、交換留学をしてもいいかもしれないな。女性騎士隊という新しい組織が生まれたんだ。長い歴史を重んじるこの帝国に多くの変化を生み出してもおかしくない。
激励をくれるアドルフォに手を上げるだけで応え、未だ止まない歓声の中へと俺は飛び込んだ。
じゃりと砂を踏む音がして視界が明るくなる。広場は砂地と芝生がまだらに広がっている。足場をどこに置くかも考えながら動かなくてはいけないこの造りは、マッカオが騎士団長になってからより実地戦向けにと作り変えられた。反対側西軍の出入り口から姿を現したのは、赤い隊服と銀色の鎧をまとったフロリアーナ第一皇女だ。特徴的な赤く長い髪を頭の高い位置で止め、歩く度に左右へと揺れる。新緑色の瞳を見開き、真っ直ぐと前を向いている。身に着けている鎧も動きやすいように所々つなぎ目があり、女性ならではの体型に合っている。良い装備だ。
『お待たせしましたぁ!!さぁ、いよいよ大将戦!強く美しい淑女達が集った女性騎士隊。その中でも一際美しく輝き、強い剣撃と巧みな技で華麗に相手を蹴散らす、戦場を舞う深紅の大輪とはこの方のことを言うー!』
解説の声が闘技場全体に響く。随分と飾った言葉を並べるものだ。
『西軍、フロリアーナ第一皇女殿下の御登場だーー!!』
一際大きな声援と共に、フロリアーナ殿下は広場の中央で足を止め、声援に応える。片手を挙げ観衆に手を振ると、どこからともなく黄色い声が響いた。
「きゃーー、フロリアーナ様ーー!!」
「あぁ、今日もなんて凛々しいんでしょう!」
「フロリアーナ殿下、愛しておりますわー!」
主に、一般観戦の女性からだ。フロリアーナ殿下は、所謂”働く女性”として庶民の女性からの人気が絶大だ。愛の言葉を並べる女性たちにフロリアーナ殿下は微笑んでから、人差し指の唇に当て静粛を乞う。それに女性たちは卒倒することで応えた。
『流石、我がダヴォリア帝国が誇る第一皇女殿下!凄い人気です、素晴らしい声援です!!なんて羨ましいんだ!しかーし、こちらも負けていない。東軍から登場したのは、屈強な騎士を統べる歴代最年少で騎士団長に登りつめた大空に光る青い流星!』
青い流星って、なんだ。初めて聞いたぞ。確認せずとも、控え椅子でヴィットーレが笑う姿が浮かんで少し肩をすくめた。
『甘い瞳と風に舞う光り輝く濃い青髪。彼が笑いかければ恋に落ちぬ女性はいない。あぁ~、私も一度でいいからあの逞しい腕に抱かれてみたい!数多の民を魅了する我がダヴォリア帝国騎士団団長チェーザレ・ヴァリ・リタ・ザッカルドとは、この男のことだー!!』
今度は図太いものが交じった歓声が俺を広場へとを招き入れる。解説の言葉には色々と物申したいことはあるが、まぁ、いいだろう。
先に待つフロリアーナ殿下と対峙する位置で足を止め、俺はゆっくりと観衆を見回した。上段から中段にかけては一般観戦者。下段には招待された貴族ら。そして最下段には皇族の方々と今回の国賓、ノルドハイム国の枢機卿と聖女が座りこちらに視線を向けている。
『さぁ、この大将戦。ただの大将戦ではない。言わずとも皆知っているはずだ。このお二方が、何故この場に立っているのかっ。この戦いが持つ意味は!?あぁ、現実は時に厳しい。愛ゆえか、それとも』
解説の声が闘技場に響き渡るのを聞きながら、俺は例の”聖女”を見上げる。広場に近い席といっても高い塀の上に席があり、どうしても見上げる形になる。それでもまだ、その黒いフードの中身は影になっていて全て見えなかった。
『あぁ、これ以上は私の口からは言えません!この先の答えは2人の騎士が出してくれるはず。さぁ、紳士淑女の皆さん!!帝国の歴史が大きく変わるかもしれないこの戦いを、一秒たりとも見逃すなー!!』
「両者、構え!」
審判の声に視線をフロリアーナ殿下へと戻そうとした瞬間、視界の端で赤い唇が上がるのが見えた。あの”聖女”の笑みだ。
「よそ見とは随分と余裕ね、ザッカルド」
フロリアーナ殿下の揺れる赤い髪に、”聖女”の笑みが重なってちらつく。嫌な気分だ。
止めよう。今は殿下のお相手をすることが優先だ。
「失礼致しました、フロリアーナ殿下」
「分かっているとは思うけど、手加減は無用よ」
「承知致しました」
使い慣れた剣を腰から抜き取り、剣先を空に向け顔の前で構える。同じようにフロリアーナ殿下も細身の剣を空に掲げる。双方視線を合わせ、どちらからともなく腰を折る。この時点で、既に戦いは始まっていた。
「始め!」
審判の合図と共に、軽く地を蹴る音がした。その行先を予測して姿勢を戻しながら一歩斜め後ろに飛ぶと、目の前の地面に細い剣が突き刺さった。やはり、フロリアーナ殿下は早々に仕掛けてきたか。
「まだよ」
自信に満ちた声と共に、地面に突き刺さった細い剣が振り上げられる。狙いは首元か。
「残念」
背を逸らして第二の一撃を避けた瞬間、目の前を通り過ぎようとしていた刃が前へと突き出てくる。目が本命か。
後ろに傾けた体勢のまま首を傾けると、俺の目を刺そうとしていた剣は垂れた前髪を掠めた。
「これも避けるのね。流石だわ」
一歩下がったフロリアーナ殿下は、剣を斜めに構えながら体勢を整える。俺は右手に握った剣を前に構えながら、フロリアーナ殿下の剣が掠めほつれた髪をゆっくりと手で頭に撫で付けた。悪くない剣筋だ。
「お噂通り。速い剣です」
「お世辞は結構よっ」
今度は大きく跳躍して上から剣が振り下ろされる。それを自分の剣で受け止めては押し返し、またフロリアーナ殿下が斬りかかってくる。剣同士が重なる度に金属音が闘技場の空に響き、最初は静かだった観衆の声も次第に盛り上がっていく。
俺は強く押し過ぎないよう、ただし余り弱くなり過ぎないよう力を調整しながら、次々と襲い掛かってくる剣をいなしていた。時々こちらから仕掛けると、長身とはいえ小回りが利く女性の体を活かし、くるくるとフロリアーナ殿下は剣を避けている。身のこなしも無駄がなく実戦経験がないとはいえ、お飾りなんて域は優に超えている。マッカオ元団長の指南も含め、殿下の剣の才は紛れもなく天性のものだ。
「っ、本気をっ、出しなさいっ」
「これでも、やっとの思いで殿下の剣を避けています」
「嘘をつけ!」
がきんっと、強い一撃を片手で受け止め、その場で拮抗する。ぎりぎりと剣の刃が苦しそうに音を立てる。同じように目の前で耐えるフロリアーナ殿下も、歯を食いしばって耐えている。髪や隊服は乱れていないが額に汗が滲んできている。体力面では、まだまだ課題がありそうだ。
「お前に、どうしても聞かなくてはいけないことがあるのよっ」
「ここでなくては、いけませんか」
「無論!」
剣を押し出すとフロリアーナ殿下の体勢を崩すが、直ぐに立て直してくる。今度はくるりと体を回転させその勢いで横から剣を払う。腕力だけでは敵わないが、遠心力も加われば威力が上がる。きちんと自分の戦い方を習得している。理屈は分かっても、敵の目の前で一度でも背を向ける体の回転は技術だけではない。恐怖も克服しなくてはいけない技だ。先程からの連撃も急所を確実に狙っている。
相当、訓練をしたな。
「今のは危なかった」
横からくる剣の軌道を弾く様に払うと、キンッと音を立ててフロリアーナ殿下の剣が一瞬宙に浮く。その隙をわざと見逃し、俺はまた最初と同じように右手を突き出して剣を構えた。そんな俺の態度が気に食わないのか、フロリアーナ殿下は浮いたままの剣を両手で握り直し、真上から叩きつけてくる。
剣を横にして受け止めると、また近くなったフロリアーナ殿下から言葉が発せられる。
「ふざけた真似をっ」
「いたって真剣ですが」
殿下を傷つけないように、の配慮へだがな。
「お前はっ、、、何故、お前がっ」
更に苦しそうに言葉を絞り出すフロリアーナ殿下に、何事かと首を捻る。
「何をしたの?」
「なんのことでしょうか」
「クラウディアのことに決まっているわ!」
まるで泣き叫ぶように吐き出したフロリアーナ殿下の言葉に、俺は一瞬焦った。あまり考えないようにしていた今回の大将戦、フロリアーナ殿下がわざわざ俺を指名した理由。
当たりか。まさか本当に姉殿下直々に裁きに来るとは。妹君を溺愛する姉だ。殺したいほど俺を憎い、というのは、まぁ分かる。
今度はフロリアーナ殿下から一歩下がると、上下に動き始めた肩を制するように一度深呼吸をしてから、連続で剣を振り上げては落とし俺はそれをまた一つ一つ受け止める。
「お前がっ、あの子にっ、何かしたのは、確かよっ!」
ん?
「殿下、何を」
「ずっとあの子を見ているのだから分かる。あの日っ、お前が団長になったあの日から、あの子は少しずつ変わっていったわ」
就任の日から、、、フロリアーナ殿下は先日の魔物襲撃の件は知らないのか。ということは、まだクラウディア殿下はあの日のことを誰にも伝えてないということだ。
なぜだ。
きん、きんと何度も剣が交わる音と観衆の声にかき消され、フロリアーナ殿下の叫びは観戦者には届いていないだろう。
「はぁーっ!!」
大きな声と共に強い一撃を受け止め、堪えた俺の足が地面を擦った。その拍子に砂埃が舞う。
『おーっとー、これは凄まじい気合だ!連続攻撃からの強い一撃!チェーザレは、大丈夫かー?!』
また、ぎりぎりと苦しい音を出して剣が重なる。さっきよりもフロリアーナ殿下の額に流れる汗は増え、息もかなり上がっているようだ。これは、そろそろ、か。
「一体っ、あの子に何をっ」
「殿下、剣筋が乱れています」
「黙れ!お前なんかにっ、、あの子をっ」
怒りで震えているはずのフロリアーナ殿下の唇が、違う意味を出し始めた。
舞い上がった砂埃で、観戦者たちにはよく見えていないだろう。皺を寄せた歪んだ顔も、激しい戦いの故と見える。
「お前はっ、、クラウディアの、何なのっ?!」
「っ」
一筋、ずっと強い意志を宿していた新緑色の瞳から涙が零れた。細い頬を伝い、一粒だけ地面に落ちるのを目で追う。
「ザッカルドっ、、お前は、何者なの?」
綴られたフロリアーナ殿下の言葉に、俺は答える代わりに剣を押す。体勢を崩したフロリアーナ殿下は唇を噛み締めて耐え、立て直して斬りかかってくる。その瞳にはもう涙の跡はなく、ただ矛先が見つからない怒りが映っていた。
何者なの、か。ふと考えに耽った瞬間、頭の中に直接聞き覚えのある声が響いた。
”女を泣かせるなんて、悪い男ね”
脳裏に浮かんだのは嫌に映えて見えた歪む赤い唇。音が届くはずもないのに、俺は声の正体を見上げた。観覧席の一番下段。来賓が座るその席に、黒いフードで覆った影の中から紅い瞳が俺を見下ろしている。
”聖女”と視線が重なった一瞬だけ、俺は周囲の音も臭いも触れている剣の感触も感じられなくなった。そう、まるで2人だけが別の世界に行ってしまったような感覚。
おかしな感覚だ。生まれて初めて、前世の記憶を覚ったときだって、こんなことはなかった。
「私は、絶対に認めないわっ!!」
フロリアーナ殿下の先の言葉が浮かぶ。何者なのか、だって?
そんなの、
「ちっ」
俺だって、知りたいさ。
「きゃあ!?」
襲ってきた剣を無意識に薙ぎ払った。感じた反動は少なかったが、闘技場に広がった衝撃は大きかった。何かが砕ける音がするのと同時に大きかった喧騒が静まり返る。音のした方を見ると、闘技場の高い壁に大きなひびが入り、その中心には赤い隊服と銀の鎧を纏った一人の騎士が叩きつけられていた。
「うっ、、」
がたりと崩れた壁の瓦礫が落ちると共に、騎士の体が崩れる。その場に座り込む形になった騎士の頭が前に垂れると、高く纏められていた赤く長い髪も一緒に地に乱れ落ちた。
『、、、殿、下、、、』
「フロリアーナっ!!」
解説の声とフロリアーナ殿下を叫ぶ声が同時に闘技場に響いた。耳に届いたのはそれだけで、あとは妙に静かだった。
しまった。加減を間違えた。
「フロリアーナ殿下、申し訳っ」
もう試合なんて関係ない。今はフロリアーナ殿下の状態が優先だ。急ぎ治療をと一歩踏み出した瞬間、静まり返っていたその場が少しずつ喧騒を取り戻していく。それと合わせるように、俺とフロリアーナ殿下の間にゆっくりと黒い何かが降りてきた。
重力を無視し、纏ったローブの裾を緩やかにはためかせながらそれは、音もなくゆっくりと地に足を着けた。
どこからともなく吹いた風が、それまで晒されていなかった中身を露わにする。太陽の光で虹色に反射する黒い艶髪と熟れた果実のような深く紅い瞳。細く白い頬と嫌に映える赤い唇が、ゆるりと上がった。噂通りの容姿、ノルドハイム国の”聖女”だ。
いや違う、いや違くはないが、だがこいつは。
「お前、、、か、ぃん、、、か、、」
急に乾いた喉が勝手に音を出した。”聖女”はまるで内緒話を隠すように、首を傾けながら人差し指を自身の唇に当てて笑みを深くした。
がつんと頭を殴られたような衝撃だった。次いで思わず上がりそうな口元に力を入れる。声を上げて笑い出してしまいそうだった。
まさか、お前が”聖女”とは。いや、ここもテッパンか。
公白城の大広間で見た指輪を思い出す。あれは確か常日頃、薬指にはまっていたものだ。髪色は同じだが真っすぐで長い、瞳の色はさすがに違う、記憶よりも少し幼くなっているようが面影が間違いないと主張する。
そう。俺はこの”聖女”を以前から知っている。否、正確には”以前の世界”で、だ。
「御手を、麗しの騎士様」
「っく」
俺の反応を嘲るように笑みを保ったまま、”聖女”は自身の後ろで倒れこむフロリアーナ殿下に右手を差し出す。朦朧した意識のままフロリアーナ殿下は、痛みに耐えながらも差し出された小さな手に自らのを伸ばす。
2人の手が重なった途端、フロリアーナ殿下は驚いたように目を見開いて”聖女”を見上げてた。それに笑みだけで応えた”聖女”は、掴んだフロリアーナ殿下の手を引き彼女を立ち上がらせる。殿下は、なんの問題もなくその場に立ち上がった。
「一体、何が」
「折角の美しい赤髪が勿体ないです。どうぞ、その森の瞳と共に大切にしてくださいませ」
”聖女”が左手を宙で動かすと、またどこからともなく風が吹き乱れたフロリアーナ殿下の髪を整える。目を見開くフロリアーナ殿下にまた微笑みかけてから、”聖女は”西軍の出入り口から慌てて駆け付けた医療班の方へフロリアーナ殿下の背を押した。
状況が掴み切れていない表情をしながらも、勢いよく具合を確認する医療班たちにフロリアーナ殿下は問題ないと答えた。信じられないと医療班たちに両脇をほぼ無理やり抱えられたフロリアーナ殿下が広場を後にすると、戸惑いの声が会場に広がった。
観戦席から多くの視線が俺と聖女に集まり、所々フロリアーナ殿下の心配と俺への責任問題についての声が聞こえる。来賓席から枢機卿が聖女に何かを叫んでいる。それに聖女が一言、二言、応えてから、彼女は改めて俺を見据えた。
黒い髪と俺のほつれた髪一房が、風に揺れる。
”聖女”に向けて、俺はゆっくりと声を出した。
「この後、よろしいですか、ノルドハイム国の”聖女”殿」
「、、、もちろんです、ダヴォリア帝国騎士団団長殿」
たっぷりと溜めた後、黒いフードを戻してから彼女は答えた。その余裕な様子に思わず舌打ちをしてから、俺は剣を収める。聖女はフロリアーナ殿下と同じ出入り口から闘技場を後にし、俺は逆側の東軍の出入り口へと踵を返した。もちろん、演練なんてものは御開きだ。
広場を辞した途端、待ち構えていたロレンツォに強く責められるがそれを無視した。流石にヴィットーレも心配そうな表情をしていたが、それも無視し、俺は慣れない真剣な顔をしたアドルフォに声をかけた。
「部屋の準備は出来ているか」
「何ほざいてる。聖女に構っている場合じゃねぇぞ」
「フロリアーナ殿下は、、、問題ない」
何が問題ないんだとアドルフォの怒号も無視して、俺は足を進めた。
そう、恐らく”聖女”が手を取った時点でフロリアーナ殿下の治療は完了している。言伝では信じられなかったが、彼女の治癒の力は想像を超えたものだった。手を重ねただけのあの一瞬で、殿下の傷を完治させたんだ。
「予定に変更はない。各自今晩の晩餐会まで、持ち場に着け!」
俺を囲み始めた騎士達に強く指示をし、足早にアドルフォに用意させた部屋へと向かった。恐らく、部屋の中には”聖女”が待っているのだろう。足は苛立って音を立てているのに、不思議と頭の中はすっきりしていた。
どこから、話そうか。そう考えると、彼女がどう答えるのか期待が膨らみ、更に足が早まった。
新しい女性がチェーザレの前に現れましたが、ヒロインはクラウディアです。出番少ないですが、ヒロインはクラウディアです(二回言いました 笑)




