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甘美な治療

ようやく戦闘と恋愛が出てきます。少しですが流血等の残虐が表現があります。また、少し性的な表現も含まれますので、ご注意ください。

少し庭園に近づくと腐敗臭が増した。間違いなく魔物が出現している。

一、二躍で辿りついた花の庭園は、魔物出現の衝撃で倒れている侍女と近衛騎士、垣根には吹っ飛ばされただろう近衛騎士が1人倒れていた。


「殿下っ」


庭園の外に倒れる侍女長が呼ぶ先に、クラウディア皇女がいた。

地面に倒れこみ、振り返るように魔物と対峙している彼女の顔には、笑みが浮かんでいた。口を大きく開ける魔物に怯むことないその神々しい姿に一瞬違和感を感じたが、その後に起こるであろう光景が浮かんで、目の前が真っ赤になった。


喰われる。あのクラウディア皇女が、魔物に喰われる。

美しい空色の髪が不揃いに乱れ、細く白い手足が噛み千切られて、血の海に散乱する。

涙が溢れだす大きな蜂蜜色の瞳は空虚で何も映し出さない。

小さな唇からはおびただしい血が吐かれ、二度と俺に微笑むことはない。

無残な、ただの屍。


あぁ、それは許さない。それは、俺の


-我のモノだ-


「クラウディアっ!」


頭の中で誰かが叫んだと同時に、俺も叫びながら剣を抜いた。

クラウディア皇女と魔物の口の間に剣を滑り込ませ、魔物の歯が剣に届く前に横に振るう。

魔物が雄たけびを上げ、裂けた口元を黒い腕が押さえながら、黒い体が後ろに退いていく。それに追い打ちを掛けるように右に左にと剣を振り降ろし、魔物の両腕を削ぎ落とす。四肢が切り落とされる度に、魔物は甲高い声で叫び、斬られた箇所からびちゃびちゃと血を吹き出しながら逃げようとするが、それを俺は許さなかった。


切り口から噴き出す黒い穢れた血が、庭園を腐食していく。

魔物の血は穢れの塊。触れたものを溶かし、腐らせ、朽ちらせてしまう。俺の顔やむき出しの腕にも返り血が飛び、皮膚が焼ける音がするが、そんなこと気にならなかった。


ただただ、彼女を捕食しようとした目の前の黒い塊が、憎くて許せなくて、跡形もなく消し去ってしまいたかった。


「何をしでかしたか、」


-我のモノに手をつけたとは-


また誰かの声が響く。それは俺の感情と重なった。


「-身の程を知れ-」


思った以上に、自分の声が低いものだった。

片手で剣を天に翳し、俺が四肢を切り落としたせいで小さくなった体で地面を這いつくばる魔物を見下ろす。魔物に感情はない。しかし、俺を見上げる大きな目は恐怖に満ちていた。


俺はそれを無視して剣を振り下ろした。

魔物は断末魔を上げて絶命した。魔物の体は地に帰ることなく、塵となって風に飛ばされていく。


空に消えていく魔物の残骸を見つめて、俺はこれまでにない危機感を感じた。

まさか、こんな帝都のど真ん中、しかも城内に現れるなんて。事務処理に手をこまねいている暇はない。

ったく。結局、チートで転生されたらこういうルートは逃れられないのか。


剣を振って血を払い鞘に納めてから振り向くと、先程と同じようにクラウディア皇女は地面に倒れたまま、俺を振り向くように見上げていた。


白い頬は土埃で茶色く汚れ、ふわふわと揺らぐ灰色の髪は乱れ、靴が脱げた白い足先が露わになっている。最悪の事態にならずに済んだとはいえ、皇女殿下のお姿としてはひどい状態だった。

俺は彼女の前に跪き、クラウディア皇女を抱き上げるため手を伸ばすと、彼女の眉間に深い皺が寄る。


「あっ」


足を引きずりながら震える小さな体を見て、俺はさっきまでの自分を思い返した。

いくら助けるためとはいえ、目の前で魔物をバラバラにした男は恐ろしいのだろう。項垂れてクラウディア皇女から距離を取ろうと視線を下に向けると、露わになっている足から血が流れていた。


「殿下、足がっ」


「っつ」


思わず触れた足がふるふると震えていて、小さく苦痛の声が漏れる。

非礼を承知で裾を持ち上げると、足首から足の甲にかけて皮膚が赤く焼け爛れていた。慎重に持ち上げると、親指からぽたぽたと血が垂れ、地面にしみを作っていく。

迂闊だった。最初の一撃で散った魔物の血が、彼女の足にかかっていたのか。


今すぐ処置しないとこのままでは確実に跡が残る。現世の医療技術や貢献者による治癒の力では、このような深い火傷の跡を綺麗に治すことはまだできない。未婚の皇女が傷物だなんて、今まで彼女が懸命に繋いできたものが崩れ去ってしまう。

様子を伺うと、涙を滲ませているが流すまいと下唇を噛み締め、嗚咽を必死に抑えていた。


あぁ、だめだ。我が帝国の聖女は常に微笑んでいないと。


「殿下。どのような罰でも甘んじて受け入れます」


「な、なにをっ」


「失礼、致します」


彼女の同意なしに、俺は死罪覚悟で震えるクラウディア皇女の足に唇を寄せ、血が滲む傷口に舌を滑らせる。

血の鉄臭い香りと一緒に、甘い匂いが口の中に広がる。ごくりとそれを喉に通すと、頭の中が溶けるような感覚がした。


「ザッカルド様っ」


制止する小さな声を無視して、俺は震える足に舌を滑らせ続けた。

俺は怪我の治りが異常なほど早い。これがチートのおかげで俺になんらかの治癒力があるとするなら、他人の怪我も治すことができると考え、騎士学校時代のときに色々と試していた。

程度にもよるが、俺の体液には傷を癒す力がある。それを面倒ごとを裂けるために隠してきたが、今はそれどころじゃない。


「汚い、、ですっ」


やめてくださいと小さく震える声を無視し、細い足首を大きく広げた口で包み込み、溜めた唾液を傷に刷り込むように口内の舌を動かした。

舌の感触で傷口が塞がっていくのを感じ、ゆっくりを下へと舌をずらしていく。垂れる血を掬うように親指を口に含み、血筋を辿りながら足の甲まで辿りつくと、薄い皮に滑らかさが戻ってくるのが分かった。


「んっ」


小さな唇から痛みとは違う反応の甘い声が漏れる。その声に、体中が震えた。


彼女はどこもかしこも甘い。

小さな足の指一つ一つに舌を這わせたい。口に含み中で転がしたら、彼女はどんな反応をするのだろう。

いつか、確認してみたい。


-喰らえば、共に居られるだろうか-


頭の奥にまた誰かの声が響く。


喰らえば、共に。

そうしたらどんなに幸せだろうか。一時も離れることはない。永遠の時を。。。


「やだっ」


「!」


か弱い拒否の言葉に、俺ははっと遠のいていた意識を戻した。

俺は一体、なにを考えていたんだ。


何かの衝動を懸命に抑えながら、最後に彼女の足の甲をじゅっと吸い付いてからゆっくりと口を離した。口の端から垂れる彼女の血が混ざった唾液を、ぺろりと舌で掬い上げる。

クラウディア皇女の足は、火傷などなかったかのように、陶器のような透き通った肌を取り戻していた。


彼女の足元から見上げると、俺を見下ろす大きな瞳は濡れて揺れ動き、声が漏れぬようにと口元を手の甲で覆う姿は、とても13歳とは思えぬほど情欲的だった。

彼女の全身に舌を這わせ、あらゆる箇所に俺の跡を付け、甘い蜂蜜の鏡が俺だけしか映せないようにしたい。そうしたら、


って、これはやばい。

さっきとは違う衝動が体の中で駆け巡った。


理性を総動員して俺は、自分の唾液で光る細い足をドレスで隠し、蜂蜜色の瞳に浮かぶ涙を指で拭った。指の動きに合わせるように、彼女は瞼を閉じた。一緒に頑なに閉じていた小さな唇が薄く開く。


キス、できるな。


あぁ、やばいやばい。落ち着け、俺。今はそれどころじゃない。それどころじゃないだろう。魔物の後処理もあるし、クラウディア皇女を安全な場所に避難させる必要もある。それにこの先だって問題は山積みで。


本当に、彼女の前では俺の理性は仕事をしないな。


「大変、失礼致しました。もう、よろしいかと」


「え、、あっ、、はい」


頰から手を離し、衝動の元から距離を作るために立ち上がった。

スカートの裾を細い指で押えて、足を抱え込むように丸くなるクラウディア皇女は、不思議そうに自分の足を見つめていた。指先を動かせているようだから、痛みはもうないだろう。

幸い、骨まで達してなかったようだから、舐めるだけで傷は塞がった。他に目立った傷もないし、乱れた装いを覗けばいつもの高潔な皇女殿下だ。


「あ、あの」


「はい、殿下」


「ありがとうございます」


クラウディア皇女は俯いたまま小さくお礼の言葉を発してから、ゆっくりと顔を上げて俺に笑いかけてきた。


ついさっきまで邪な衝動に駆られ、あろうことか彼女のことを。

俺が、怖くないのか。


「怖く、ないのか」


「え?」


声に出ていた。口元を手で覆い彼女の視線から目を背けると、彼女は首を傾げて俺の視線を追ってくる。また外すと、それに彼女も着いてくる。

大きな蜂蜜色の瞳を輝かせ、微笑みながら見上げてくる姿は、聖女というか天使のようで。

勘弁して欲しい。罪悪感でいっぱいだよ。


「怖くはありません。どうされたのか、、その、、、分かりませんが、足を治して下さいました。それに、、」


また俯いたクラウディア皇女の続きの言葉を待っていると、遠くから近づいてくる騎士たちの足音が聞こえる。ようやく討伐部隊が到着したようた。

俺は半分生きていた植木の中からオレンジ色の小さい花を幾つか摘み、クラウディア皇女の乱れた髪へと振りかけた。


「これは?」


「殿下の綺麗な髪が、乱れておりましたので」


安心させるように微笑むと、彼女も笑い返してくれた。これが罪悪感の償いとも知らずに。


今は無残な姿になってしまったこの庭園は、秋口に咲く花で造られていた。垣根やアーチ部分にはオレンジ色の小さな甘い香りの花、前世では金木犀と呼ばれていた木花が使われている。

花の甘い香りは、彼女の血の匂いと少し似ていた。





「クラウディア殿下、ご無事ですかっ」


崩れたアーチを跨ぎながら、ロレンツォと共に複数の騎士が庭園へと入ってきた。彼らは魔物が既に討伐されていることに一瞬驚いたものの、直ぐに後始末へ取りかかった。

ロレンツォに状況を報告すると、リッカルドの計らいで討伐より魔物の汚染駆除を中心に準備してきたという。我が副官殿は、本当に優秀で頭が下がる。


クラウディア皇女の様子を伺いながら、手を差し出し彼女を立ち上がらせると、静止の声を押し退けて赤い近衛隊の制服を纏ったフロリアーナ皇女が走り寄ってきた。


「ディディっ!」


「おい、お前が先に行ってはっ」


続けて、テレンツィオ皇太子も庭園へと入ってくる。


「フロリアーナお姉様、どうしてこちらに」


「貴女がいる庭園に魔物が現れたと聞いて、居ても立っても居られずっ」


目線を合わせるようにフロリアーナ皇女は膝をつきながら、クラウディア皇女の様子を尋ねている。怪我はないか、どこか痛むところはないか、魔物は怖かっただろう、と。俺は邪魔にならないようにゆっくりと手を離し、一歩下がった。心配の言葉が尽きないフロリアーナ皇女の後ろで呆れた息を吐くテレンツィオ皇太子も、顔には安寧の色が見える。

後ろから彼らの近衛騎士も到着し、負傷していたクラウディア皇女の近衛騎士と侍女たちの介抱も始まり俺は一息を吐いた。


「ご心配には及びません、フロリアーナお姉様」


「でもっ」


「だって、」


俺の隣に歩み寄ってきたクラウディア皇女が、俺を見上げてくる。先程まで握っていた小さな手が、俺の腕に触れた。


「ザッカルド様が、助けてくださいましたから」


蜂蜜色の瞳を輝かせる彼女の笑みは、髪に散らした小さな花のようで、俺の知っている年相応の少女の笑顔だった。


先程の非礼を叱責することもなく、俺を怖がることもしないなんて。

本当にこのお方は。


喧騒の中、俺はクラウディア皇女に跪き、俺の腕に触れていた小さな手を改めて、その甲に口づけを落とした。




思えばいつから彼女のことで頭がいっぱいになってたのだろう。

継承式に視線が重なったときからか。夜の噴水で小さな体を受け止めたときからか。その後、子猫を託されたときからか。

それとも、もっと前からなのか。


そしてあの低い声は一体なんだったんだろう。


思い浮かぶのは大きな蜂蜜色の瞳。あの色で見つめられると、いつも何かが掻き乱される。

いつまでも見つめていたかったし、いつまでも俺を見つめててほしかった。

ずっとお傍にいたい。俺の手で、この力で守り続けたい。


そうか。

彼女こそ、俺の"守るべき人"なんだ。


次話からは魔物だったり、魔王だったり、隣の意味深な聖女だったりと話が展開します。せっかくヒロインとお近づきになった矢先に。。。

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