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未定  作者: 権左衛門
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家と祖父


私が育った家は、田舎の古い二階建ての木造家だ。

本当に田舎で、家も本当に古い。築100年いってるかもしれない。


二階建てといっても、変わった二階建てで二階は扉などなく一階の広さで一間だ。

物で溢れており、明治○年とかかれた木箱や、木造タンスや、昭和味溢れる雑誌やらで埋まっている。足の踏み場もなんとかあるくらいで二階を歩き回ろうとすればそれは大変なことだった。


私は滅多に上がらなかったが、祖母がまだ今より歳をとってないときは、二階にある窓を開けに上がっていた。

猫たちは気に入ってよく上がっていたが(陽当たりが良い様子)。


私はこの家が怖かった。

何が怖いか、と問われると、はっきりこれが起こるから怖いとは言えないのだが、怖いのだ。


祖母と祖父の部屋、私と母の部屋その隣の物置と化している部屋、座敷、祖母の個人部屋に、廊下が長いトイレ。



一番怖かったのはトイレと、私と母の部屋の隣の物置部屋だ。


トイレは田舎では珍しくない和式のぼっとんトイレ。あの暗い穴の中からいつでも誰かの顔がでてきそうで、手がぐんっと伸びてきそうで怖かった。長い廊下の途中に鏡があるのだが、それがまた何か写ってそうで見たくなかったが、つい気になってしまい見てしまっていた。

ちなみに何か写っていたことはない。

恥ずかしながら小学校高学年になるまでトイレはいつも母に付き添ってもらってた。それくらい怖い。


私と母の部屋の隣には物置部屋があり、元は普通の部屋だったのだが私と母が居候としてやってきてから荷物が増え、物置部屋と化した。

そこにクローゼットがあるのだが、幼い私はそれが異様に怖かった。

何故かそこに死体がある、又はこの世のものではないものが入っていると思っていたからだ。

そこから覗いてきているのでは?と思っていた程だ。

私は怖くてそこのクローゼットを開けたことがない。


だからそこのクローゼットに何が入っているか、15年以上もその家で暮らしたのに知らないし、知ろうともしなかった。

物置部屋に入っても、そのクローゼットの方はできるだけ見ないようにした。

威圧感があるというのか、なんというか…


でも猫たちは気に入ってその物置部屋にもいた。



私が中学生の頃だ。

祖父が亡くなった。一緒に住んでて、すごく可愛がってもらったとかそういう記憶はない。

まぁ程々に、という程度だ。そんな祖父が亡くなった。私は泣けなかった。

むしろお葬式という非日常的なことで、気持ちが高揚していたかもしれない。

姉に「亡くなったんだからもっと声を落としなさい」と窘められた記憶がある。

母は泣いていた。 喧嘩が多かったのに泣いていた。

何か思い出すものがあったのだろう。

お通夜、お葬式と滞りなく終え、どれくらいだったろうか?

そんなに日にちは経っていないはず。


夜中に、ドンドンドンドンッ!!!と勝手口が強く叩かれる音がした。そこは勝手口と言えど、祖父母は玄関代わりとして利用していたし、近所の人も家に来たらそっちに声をかけていた。

「なんやろ?」とまず母が目覚め、私も目が覚めた。

母が祖母に声をかけたのを覚えている。


「あんたはここにいなさい」母にそう言われた。

叩く音はすぐに止んだと思う。

そして、祖母が勝手口に向かい引き戸を開けたのだろう。ガラッと開ける音がした。

外に出る音。少し周辺を歩く音。戻ってきて引き戸を閉める音。

母も戻ってきた。

「誰やったん?」と問う私に母は

「誰もおらんかったよ」と答えた。


それは翌日も続いた。翌日もいなかった。

その次の日の日中に母に実験と称して、私は勝手口と引き戸を叩けと命じられた。

力いっぱい叩いてみる。

ドンドンドンドンッ!!

部屋に戻り「どう?」と問う。

「うーん、なんか違う」

「でも誰もおらんかったんやろ?」

「婆ちゃんがそう言うんよ」

「ふーん」と応じた私に

「じいちゃんが帰って来たんかもしれん。家に入れろって叩いてるんかもしれん」

と母は言った。

ここは祖父の生まれ育った家だったのだろうか。この家が自慢だったのだろうか。母からきいた話だと、「この辺りでは一番最初に瓦屋根にしたのが自慢だった」と言っていた。

祖父は亡くなる前はもうベッドでほぼ寝たきりだった。祖母が甲斐甲斐しく面倒を見ていた。

よく祖母を大きな声で呼んでいた。

今はもう出ない声の代わりに、大きな音をたてて引き戸を叩き祖母を呼んだのだろうか?


ドンドンドンドンッと叩く音がしても誰もいないので、その音がしても誰も確認しないようになった。

でも私は怖くて怖くて、その音がする度に母にひっついて、耳を塞いで寝ていた。


いつの間にかその音はしないようになった。母にひっついて、耳を塞いで眠る夜はなくなった。


誰が叩いていたのか誰も知らない。

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