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13【103万の壁】

「うい〜す」


「おっす」


一姫が作ってくれたお弁当をしっかり持って学校に登校した。そして、席に座った途端、一人の男が話しかけてくる。

この男は俺の学校での唯一の友達である神谷誠司だ。イケメンでスポーツ万能。成績優秀の主人公タイプ。しかし、こいつは俺以上にやばいメイドオタクなので今まで彼女ができたことの無い残念なやつだ。


「なぁ、聞いたか?」


「何をだ?」


どーせ、一姫のことだろうな。

学校に着いてからというものその話しか聞こえてこん。

だが、いつも他人に無頓着な俺が「ああ、知ってる。一条さんのことだろ?」とか言った日には何かあったと疑われかねない。


「一条さんのことだよ」


ほらね?


「ああ、そういえば一週間ぐらい前にこの学校の女神である一条一姫が学校に来なくなったって凄い騒いでたな。

五月蝿すぎてキレそうになった記憶があるわ」


ちなみに俺は二年二組で一姫が二年一組なのでクラスは違う。

一姫の事が気になった多くの生徒が一組に行っているためこの二組の教室にはほとんど生徒がおらずとても居心地がいい。

もしクラスが同じだったら弁当が同じだとか何かの拍子に名前を呼んでしまって誰かにバレる可能性があったのでとても助かった。


「そそ、その子が久しぶり学校に来たらしくて凄い騒ぎになってるんだよ」


「また、俺の優雅な一時が邪魔されるのか」


「本当にお前、他人に関心がないのな。

気にならねーのかよ。

眉目秀麗、成績優秀、スポーツ万能。誰に対しても優しく笑顔を絶やさない完璧美少女の一条さんが何で約一週間も無断で学校を休んだのかを」


「興味無いな」


だって知ってるし。


「へいへい、そうですか。

お前にこんな話題振った俺が悪かったよ」


「おう、反省してくれ」


「こんにゃろー。

なぁ、隣町のメイド喫茶行こうぜ」


「ん?

珍しいな平日にバイトがないなんて」


こいつの生活は本当に変わっている。

月曜日から金曜日までの平日は学校が終わると九割近くアルバイトに行きお金を稼ぎ、土曜日と日曜日の休日で各地のメイド喫茶に通っている。

な?

言っただろ?

やばいメイドオタクだって。


「103万の壁がどうたらで親にバイト減らせって言われたんだわ」


「ああ、税金のやつか」


「そそ、だから金ねえのよ」


「交通費削減のために隣町のメイド喫茶か」


「せいか〜い」


「んー。

おっけ、行くか」


一姫をメイドとして雇ったはいいがまだメイド服も届いてないしこの先当分はメイド喫茶に行くことも無くなるだろうから最後に行っておくのもいいかもしれないと思い了承した。


「さすが友よ!

じゃあ、学校が終わったらそのまま行くぞ」


「了解」


あ、そうだ。

家の鍵まだ俺しか持ってないから一姫に渡さないと行けないな。

でもどうしたものか。

今の一姫には絶対に誰かが近くに引っ付いている。

この状態で変に動くと大惨事になる。


俺は携帯を取り出し昨日のうちに連絡先を交換しておいた一姫にメールで相談することにした。


「ん?

珍しいなお前がメールだなんて。

相手誰だ?」


俺にほとんど友達がいないことを知っているこいつは俺がメール画面を開いた事に驚いて携帯を覗いてくる。


「いやいや、なんでもないよ!?

ちょっと親に言い忘れてたことがあったのを思い出しただけだし?」


俺は慌てて携帯を引っ込めて適当な嘘をつく。


「何で慌ててるんだよ。

怪しい。

お前まさか!

ネットで女でも捕まえたか!?」


ネット限定で聞いてくるあたり俺の事をよく分かっていらっしゃる。


「ちげーよ!

あれだよ、親との会話とかって他人に聞かれたくないだろ?」


「まー分からんでもないがそこまで隠すことか〜?」


くっ!

こいつまだ怪しんでやがる!

この状態でメールを送るのは困難だと判断した俺は携帯をズボンのポケットに戻す。


キーンコーンカーンコーン!


ちょうどいいタイミングでホームルーム開始のチャイムが鳴る。


「おい、チャイムなったぞ。

席に戻れ〜」


「ちっ。

しゃーねーな」


誠司は舌打ちしながら自分の席に戻って行った。

ふぅ〜。

ギリギリ乗り切れたな。

正直、あいつになら本当の事を言ってもいいと思うんだけどな。

バレて騒がれるより打ち明けて黙ってもてもらうように頼んだほうがいい気がするし。

一姫にも相談してみるか。

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