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上諭・前文

・上諭

 朕は、日本国民の総意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法第七十三条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる。


・前文

 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法はかかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。


プロローグ 夏休み


夏休み。それは、誰にとってもうれしいもの。

だが、中学生の彼にとっては、それは苦悩の始まりにすぎなかった。

彼、伊野上守いのがみまもるは、夏休みの自由研究をどうしようか悩んでいた。

中学校2年生、友人少数、頼れるべき存在は近くに一人しかいなかった。

「しょうがない、あいつに聞いてみよう」

彼は、そう言って立ち上がると、家から出た。


「こんちはー。桃子いる?」

彼が行ったのは、幼馴染の大岩桃子の家だった。

彼女は、学校の中でもかなり頭がいいほうで、いろいろと知っている子でもあった。

「守、きたんだ」

そう言って、彼女が簡単な服装で現れた。

「そ。自由研究どうしようか悩んでてね。何かいい案ってある?」

「私が考えてるのは、1学期に習った憲法について何だけど…」

「憲法…ああ、なんか習ったな。でも、あれの研究って、それこそ大学レベルだろ?俺らでそれをするっていうのは、かなり無理があるんじゃないか?」

彼女は、守を家に上げながら言った。

「で、その手に持っているのは…」

「これが、日本国憲法全文なんだけど…」

「よくわからないんだ」

彼がそう言うと、彼女はうなづいた。

「で、先生に聞こうと思ってるんだけど、いつ行こうかなって思って…」

「じゃあ、明日行ってみないか?先生も平日だったらいるだろうし」

「そうね。じゃあ、それまでどうするの?」

彼女が尋ねると、彼が言った。

「そりゃ当然、桃子に宿題を移してもらおうと思っているんだよ」

そして、彼が持ってきた袋の中にあるプリントを見せた。

彼女はため息をついた。

「小学校の頃から、そうやって持ってき続けていたわね…まあいいわ。でも、ほんとに自分でできるようにしないといけないよ」

「わかってるって」

そう言うと、二人は一緒に宿題をし始めた。


第1章 上諭


翌日、中学校へ向かった二人は、職員室に入った。

「先生、いますかー?」

そこには、先生と、ほかにもう一人、外国人がいた。

「あら、二人ともどうしたの?」

先生と呼ばれた女性は、二人の姿を見つけると、手招きして聞いた。

「夏休みに自由研究で、日本国憲法についてやろうと思っているんです。でも、二人だけじゃよくわからないから、先生に聞こうかと思って…」

彼女は、さらさらといった。

「日本国憲法、かの有名なものですネ?」

少し訛りが残る外国人が言った。

「えっと、この人は?」

彼がきくと、先生は笑って云った。

「私の家に、今ちょうどホームステイしている、ジョージさんよ。彼は、憲法学の一環で、日本に研究しにきたの。だから、外国の法律にはとても詳しいわよ」

「ジョージ・マクマインでス。よろしく、お願いしまス」

ジョージは、二人に向かって握手をしようと手を差し出した。

「伊野上守です」

「大岩桃子です。こちらこそ、よろしくお願いします」

二人ともあいさつが終わると、先生が言った。

「さて、日本国憲法を自由研究にするんだったら、最初から説明がいるわね」

そう言うと、机の上に置いてあったパソコンを開き、そのページを開けた。

「日本国憲法の一番冒頭には、『上諭』といわれる文章が書かれているの」

「それって、授業中に出てきませんでしたよ?」

彼がきいた。

「この上諭というのは、こうして決まりましたっていうことを知らせる文章なのよ。だから、ふつうは法律や憲法の中に含めいないことになってるの」

そう言って、先生は、その文章を見せた。

「…なんて書いてあるかわからない…」

彼は言った。

「どういうことなんですか?」

「あまり学校で、そんなこと教えても意味がないでしょ。世間ですら使われていないんだから」

先生は、それだけ言って、さらにつづけた。

「憲法の上諭は、私(天皇自身)は、日本国民の全員の意思によって、新しい日本を作り出す準備としての憲法が国会によって定まったことをとてもうれしく思っていて、枢密顧問との話し合いと大日本帝国憲法第七十三条に定められている帝国議会の議決を受けた帝国憲法の改正をよく考えて、ここにこれを公布することを決めた」

「すごくわかりやすいんだか、どうなんだか…」

伊野上が、少し悩んでいる。

大岩が、すぐ横から先生に言う。

「つまり、天皇陛下が、国民全員の意思と、枢密顧問、憲法の規定によってもともとあった憲法を改正したと国民に報告したということですね」

「簡単にまとめると、そういうことね」

「ほかの国にも、そんなものが付いてるんですか?」

大岩がきいた。

「オー、王様や皇族の方々がいらっしゃる所ならば、あっても不思議じゃないですが、私の知る限りそれがあるのは、日本国だけですネ。そもそも、上諭というもの自体が、天皇陛下ご自身が国民にタイして知らせるという、報告という意味合いが強いですからネ。だから、なくても当然なのかもしれませン」

「なるほど…」


第2章 憲法の概要


「さて、憲法本体と全く関係がないところの説明が終わったら、次は本文の説明ね」

先生が、さらにページを進めた。

「最初に、憲法の大まかなものから。伊野上君、答えて」

「え?何でですか」

「ちゃんと授業で教えたでしょ。テストの点数も悪かったし…」

先生が、やれやれとした顔をした。

「じゃあ、最初から復習も兼ねて、おおざっぱに話をするわね」

先生は、それから一拍おいて、再び話し始めた。

「日本国憲法は、十一章百三条で構成されているの。第一章から天皇陛下について、戦争放棄について、国民の権利や義務について、国会について、内閣について、司法について、財政について、地方自治について、改正について、最高法規について、最後に捕捉で結び」

先生は、ページを読み進めていくにつれて動かしていった。

「この憲法は、1947年に当時の帝国議会によって制定されて以来、改正されたことがないの。その改正のための国民投票法が成立したのが、2007年。第166回通常国会で、その前々回の国会から継続して審議されてきた法案が、可決されたの。そして、2009年、18歳以上のすべての国民が投票権を有する国民投票を行うことが可能になるの」

そして、二人のほうに向って、言った。

「じゃあ、これから本文に取り掛かるよ。いいね」

「はい!」


第3章 前文


「前文は、4つの段落に分かれていて、それぞれこの憲法の大雑把な解説みたいなものになっているの」

ページを最初に戻して、説明を始めた。

「まず、第1段落から。第1段落の内容は、日本国民はちゃんとした方法や妨害など無しに国民によって選ばれた国民の代表者を通じて行動し、これまでの、そしてこれからの国民の子孫のために、すべての国の人たちとの協和による成果と、日本国全土に広がっている自由のもたらす恵みを確保し、政府が起こしたことを原因とする戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、主権が国民にあることを宣言し、この憲法を制定する。そもそも国政とは、国民が政府に対してちゃんとするように託した上に成り立つものであって、その権威は国民を基本とし、その権力は国民の代表者が行使し、その福利は国民がこれを受け入れる。これは人類ならば常に持ち合わしている原理であり、この憲法はその原理を基礎として成り立っている。日本国民は、この原理に反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」

2人は、わからない単語を先生に聞いた。

「詔勅って?」

「天皇陛下が出す命令文みたいなもの。今はほぼないわね」

「なるほど」

伊野上が言った。

先生は、続ける。

「2段落目は、日本国民は永久の平和を願い続けて、人間と人間の関係を支配するとても価値のある理想を深く自覚するのであって、平和を愛するすべての人類の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。日本国民は、平和を維持し、一人がすべての人を支配することや奴隷のような待遇をすること、誰かをいじめたり偏った友好関係を地上から永遠に除去しようとがんばっている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは、全世界の国民がどんな人でも恐怖と欠乏から逃げられて、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」

2段落目をさらさらといった先生に対して、質問をする気がない2人がいた。

「じゃあ、3段落目に移るわね。われらは、どの国家も、自国のことだけをずっと考えて他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、どこでも成り立つものであって、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信じている」

「4段落目は?」

伊野上が先に進めようとしている。

「わかった。4段落目にかかれているのは、日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの前3項の崇高な理想と目的を達成することを誓う」

「…たったそれだけ?」

伊野上が少し怖々として聞いた。

「そうよ」

先生はあっさりといった。

「これで、前文は終わり。これからは、第1章から順々に、説明をするわね。あ、でもその前に、もうお昼だから、また今度。ね」

先生は、続けていってから、すぐに立ち上がり、2人に向かって言った。

「じゃあ、ね」

そして、先生はどこかへ歩いて行った。

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