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雪へと消える  作者: 桜霧 風華
2/11

2.願望

死にたいと願った雪は、ある所へ向かいます

そこは崖だった・・・

2.願望


 私はある町の自殺者が絶えない崖へと行くため、バスに揺られていた。もはや死ぬことなんて怖くなかった。眺めはきれいで、有名だけれど私の目にはもうきれいなんて言葉も出なかった。バスを降りて道を歩いて崖へとたどり着いた。


「ここだ・・・」


誰にも迷惑をかけずに死ぬことのできる場所。そう考えるだけで私にとっては幸せだった。

(あぁ・・・これで楽になれる・・)

崖から足を踏み出そうとした時だった・・


「おい」


ビクッと体が揺れて振り返る。声の主は一人の高校生だった。


「ぁ・・」


人と話すのが久しぶりで、声がうまく出せなかった。誰か人に見つかってしまったという事実に肩が震えた。


「ここでなにしてるんだ」


その高校生は低い声で話しかけてきた。私にとってそれは恐怖そのものだった。


「え・・っと・・」


まったく言葉にならず、黙ってしまった。それを見ていた高校生ははぁと息を吐いて、私の手を掴んだ。


「まず家にこい。話はそこで聞く」


「え・・ぁ・・」


導かれるままその人についていった。マンションの2階。205号室だった。中へと入るとシンプルな部屋があった。黒や白の多い部屋だった。座ると高校生は話しかけてきた。


「もう一度聞く。あそこで何をしようとしていたんだ」


「私は・・・」


かすれた声で何とか声を出した。内容は話すしかなかった。


「自殺・・しようと・・・してました・・」


自殺という言葉を出した瞬間、私へ向ける目が変わった。さっきより冷たくまるで氷のようだった。


「自殺なんてやめておけ。生きてれば何かしら変わることだってある」


この言葉を聞いた途端、また目の前が暗くなった。

(生きていたって何一つ変わることなんてないのに・・)

また何も映らない暗く闇に染まった目を高校生へと向けた


「生きていたって必要とされない。生まれた意味すら分からないならどうしたらいいんですか・・?」


心まで黒く染まっていく。そんな私を高校生はずっと見ていた。やがて・・


「まずは自分の家に帰れ。家族には連絡してやるから」


「家族はいません・・」


(家族なんて呼べるのは誰もいないの・・もうひとりになりたい・・・)


「じゃあ学校に連絡してやるから」


学校に連絡すると聞いただけで青ざめて全身が震えた。スマホに手をかけたその手を掴んだ。


「ど・・どうしたんだ?」


「お願いです・・!学校だけは・・学校だけは連絡しないでください・・!!」


肩や腕の震えが止まらなかった。連絡されればまたあの日々に戻ってしまう。怯えた子犬のようになり、ぎゅっと目をつむった。


「わかった・・もう自殺しないなら何もしない・・」


「ありがとうございます・・」


目を開けるとそこにはさっきまでとは違う優しい顔の高校生がいた。たくさんの人の目を見てきたけれど・・

(この人の目は嘘をついていない・・)

初めてあった人だけれど、今まで見てきた人とは何かが違っていた。そう直感した。


「自己紹介がまだだったな。俺は、浅野 友輝<あさの ともき>だ。お前は?」


「小野寺・・雪・・・」


夕方の空の中、私の声がやっと人に届くのを感じた。


「雪か・・いい名前だな」


「ありがとう・・ございます」


「敬語はなしでいい」


(どうしてここまで優しくしてくれるのだろう・・ますますわからないや・・)


「友輝はどうしてそこまでやさしくしてくれるの?」


友輝は私の聞いたことに目を丸くしていた。だが、すぐに答えてくれた


「なんとなくだ」


(なんとなくって・・そんな率直な・・)

あまりに率直な答えにびっくりするよりも可笑しくて、笑みがこぼれた。


「ふふっ」


初めてだと思う。こんなに自然に笑えたのは・・


「お前も笑うんだな」


「いえ、笑ったのは初めて・・」


ここまで心を開ける人は今までいただろうか。笑えたこと、友輝に出会ったこと、そんなことを思っていると自然と死ぬことなって忘れていた。


「まぁいいが、雪はこれからどうするんだ?」


「え・・っと考えてない・・」


(どうしよう・・・いろいろ持ってきたけど)

すると友輝はやっぱりかというような顔をして、


「じゃあここでよければシェアするか?」


「え!でも迷惑じゃ・・」


「迷惑じゃないから言ってるんだ。どうだ?」


突然の誘いに頭が混乱した。一緒に住むとなると不自由させてしまうかもしれない・・そんな不安もあった。けどほかに行く当てもなかった。


「よろしくお願いします・・」


「よし、決まりだ」


こうして私はしばらく友輝の家で過ごすことになった。身支度をして料理を作った。


「はい、鮭のムニエルとほうれん草の味噌汁、あと大根のサラダね」


「おぉ!これだけ作るの大変じゃないか?」


「ううん」


「すごいな」


確かな達成感で目の前が明るくなって目に光が戻ってくる感覚があった。床に敷いてもらった毛布にくるまった。


「それしかないから、ごめんな」


「ううん、十分だよ」


暖かい感覚の中、私はあの夢を見ることなく眠りについた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーー


床で毛布にくるまってすやすやと眠る雪を見ていた。体を起こして天井を見た。


「俺は・・・何をやってるんだろう・・・・雪は」


初めて会った時の怯えた目、話した時の光すら移さない目や心。何もかもが黒く染まっていた。

(雪にいったい何が起きていたんだ・・?どうしてそこまで死にたい気持ちになったんだ?)

疑問に思いながらさっき見せた笑顔を思い出す。雪が初めて笑ったあの時・・


「俺こそ、こいつを支えてやりたいな」


小さくて今にも消えてしまいそうな雪を見て頬をつつく。


「う~ん・・・」


うなっていたので、起こしたかと思ったが全く起きなかった。

(こいつ、意外とかわいいな)

自分の過去を思い出して黙っていたが、明日の学校のために眠りへとついた・・・

友輝に出会ったことで変わったこともあった

これからの雪はどうなっていくのか?

3話に続く~

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