精神と覚悟
「世莉架! どこ行ってたの!」
宿に戻った世莉架が部屋の扉を開けた瞬間、メリアスが怒った様子で問い詰めてきた。
メリアスの背後をチラッと見ると、ハーリアがベッドに腰掛けていた。だがやはり様子は変わっておらず、どこを見ているのかも分からない濁った目をしている。
「ちょっと野暮用があったのよ。それと今日受ける依頼も持ってきたわ。早速行くから準備して」
「そうやって一人で何でもやっちゃわないで。私達にも頼ってよ」
「この程度のこと、貴方達に頼るまでもないわ。むしろ私一人でやった方が早く終わるだろうし効率的よ」
「……」
メリアスは世莉架を睨む。しかし世莉架は全く気にしている様子はない。
「ほら、いいから準備して」
「……分かってるよ。でもハーリアはどうするの?」
今のハーリアは心が壊れかけてしまい、まともに日常生活すら送れない状況だ。そんなハーリアをゴブリン討伐の依頼に連れて行ってしまっては、どう考えても足手纏いになるだろう。
「連れて行くわ」
しかし世莉架は即答する。まるで連れて行くことこそが大事だとでも言うように。
「本当に? 貴方がいるとは言え、こんな状態で連れて行くのは危険だよ」
「分かってるわよ。でもハーリアは連れて行く。安心しなさい、ちゃんと守るから」
渋々納得したメリアスは軽く出かける準備をし、ハーリアと腕を組んで世莉架と共に依頼達成のため、街の外に向かう。
「今日はどんな依頼をこなすの?」
「ゴブリン討伐よ。数はおよそ五体。初心者向きだけど、油断すると死者が出てもおかしくないらしいわ」
「そうだね、油断はしないでいこう」
やがて三人は街の外に出て、ゴブリンがいると思われる森の中に入って行く。
しばらく歩くと、突然先頭を歩いていた世莉架が立ち止まった。
「どうしたの?」
「すぐ近くにいるわ。少し離れてついてきて」
そう指示し、世莉架は足音を立てずに歩く。そして出会った、五体のゴブリンと。
世莉架は走り出し、短剣を抜いてまず一体のゴブリンの首を刎ねる。そこでようやく他の四体のゴブリンが世莉架の存在に気づいた。
「こっちよ」
世莉架はそこで突如踵を返し、メリアスとハーリアの元へ走る。
「ちょ、ちょっと世莉架!?」
当然メリアスは驚く。そのまま世莉架が他の四体のゴブリンを殺せばそれで依頼は達成だ。なのに何故自分達の方へ走ってくるのか。
「きゃあ!」
世莉架はメリアスだけを抱き上げ、颯爽とその場を離れる。
そうするとその場に一人で残される者が出てくる。
「ハーリア!」
メリアスが叫ぶ。今のハーリアに戦闘する余裕などこれっぽっちもない。そもそも今自分がどこにいるのかも分かっていないかもしれない。
ゴブリン達は世莉架を追っていたが、目の前にボーッと突っ立っているハーリアに狙いを定める。
「世莉架、何してるの!? 貴方ならゴブリンなんか簡単に倒せるでしょう!? ハーリアが……ハーリアが危ないよ!」
メリアスは世莉架に抱き上げられながら必死に訴える。しかし世莉架の顔色は変わらない。そしてある程度な離れた所で立ち止まり、振り返る。
数十メートルか離れた先にハーリアの姿が確認できる。そのハーリアは今まさに襲われそうになっていた。
「世莉架! ……んもう!」
メリアスは呼びかけても反応しない世莉架に痺れを切らし、世莉架の手を振り解いてハーリアの元へ走ろうとする。
だが世莉架はそれをさせない。メリアスの腕を掴んで動きを止めた。
「やめてよ! 貴方、ハーリアのことは何とかするんじゃなかったの!?」
そこでようやく世莉架が言葉を返した。
「ちょっとは落ち着きなさい。ハーリアを殺させるつもりなんてこれっぽっちもないわ。これはハーリアにとって必要なことなの」
「どういうこと? 今のハーリアじゃあ……」
「いいから見てなさい。いざとなったらちゃんと私が助けるから」
それを聞いてまだ不安はあるが大分落ち着いたメリアスはハーリアを見る。
ゴブリン達は一斉にハーリアに襲いかかろうとしている。だがハーリアはまだ動いていなかった。
「……」
ハーリアの目にはゴブリンが写っているのだろうか。何が一体見えているのだろうか。自身の危機にも反応できないのだろうか。
棍棒を持っていたゴブリンがハーリアに振りかざす。そしてその棍棒をハーリアは避けない。
「……!」
鈍い音がした。ゴブリンの棍棒はハーリアの左腕に当たった。折れてはないだろうが、骨にヒビくらいは入っているかもしれない。
その攻撃によってハーリアの体が、目が揺らぐ。いくら心が壊れかけているとしても痛覚が消える訳じゃない。
ハーリアは相変わらず濁った目だが、痛みに反応して唇を噛む。
それでもゴブリン達が攻撃をやめる訳ではない。続けて追撃を仕掛けてくる。
「人には、生物には絶対に揺るがない本能がある。それは生きたいと思う事。死にたくないと思う事。それ故にどんなに這いつくばっても生きようとするのが普通よ。しかし、そうなると自殺を考えられて実際に自ら死んでしまうことのある人間はあらゆる生物の中でもかなり異端と言えるけどね」
世莉架は静かに語る。
現在、ハーリアの心は壊れかけている。それでも本能が叫んでいるのだ。生きろと、死ぬなと。そうなれば例えまともに生活できない状態でも目を覚ます。否、目を覚まさせられる。
「うあ……!」
よろめいたハーリアは別に死にたい訳じゃない。自殺志願者ではない。ただ今は心の状態が相当に悪いだけだ。
「ハーリアはもがいているのよ。これからどうするのか、どうしていくべきか。だからこんな所で死ぬのはあまりに不本意、不毛。あの子はこんな所で終わる人間じゃない。強く、周りの人間を凌駕し、こんな世界でも生き抜ける力が、才能がある。今の状態は深刻だけど、あの子は必ず復活する。こんな荒治療も案外効くものよ。まぁ、あの子の実の両親を殺した私が何を偉そうに言っているんだって話だけどね」
世莉架は信じていた。ハーリアはいつか復活すると。絶対にここで終わらないと。
「……そうかもしれないけど、流石に心配。もっとトラウマになったりしない?」
「可能性はあるわね。私が精神をいじる魔法を極めることができれば、地球で言う鬱病みたいな精神病も治せるかもしれないけど、少なくとも今は無理。そうなったらどんな手段を使ってでも正常な精神を引き戻すしかない」
「……恨まれるよ?」
「だから? 恨むどころか憎んでいいとあの子には言った。私を殺そうとしても構わない。私はあの子の面倒を見る。約束には破るべきものと、絶対に破るべきではないものがあるの」
「?」
約束が何かは分からないメリアスは怪訝な顔をするが、すぐにハーリアの方を見る。
ゴブリン達はハーリアに対して追撃を繰り返している。ハーリアはそれをなんとか回避しているが、やはり魔法を使える状態ではないようで、ただ避けているだけだ。
「あの子が魔法を使ってゴブリン達を倒せれば大成功。魔法が使えなくても頭を使って抗えれば成功。それ以外は失敗ね」
「本当に手を貸さないの?」
「だから、本当に危険な状態になれば助けるわよ。ここで私が手を出したら何も改善しないでしょう」
やはりメリアスは心配なようで、どうしても世莉架が助けることを望んでいるが、それでは意味がないことくらいは分かっている。
一方、ハーリアは攻撃を避けながら色々な疑問が頭を埋め尽くしていた。
どうして今自分はこんなことになっているのか、もう両親とは会えないのか、希望はどう持ったらいいのか。どんなに精神状態が悪くても、ハーリアはそういった事を考えられていた。
一見ハーリアの精神は脆そうに見える。自信が無く、お淑やかで静か。家でも外でも本ばっかり読んでいる内気な少女。実際それは間違っていない。だが決して精神が脆いわけではないのだ。ハーリアは折れずに立ち上がれる、立ち上がろうと努力できるというある種の才能を持っている事を世莉架は理解していた。
「こんな……所で……」
ハーリアはボソッと呟く。目の前に群がるゴブリン達は自分を蹂躙しようと躍起になっている。そんな時、ゴブリン達の背後にズマーとナテスの姿を見た。
「……!」
ハーリアがもう二度と見れないと思っていた姿。それが幻想であると、自分の妄想であるという事は分かっていた。だがそれでも、その幻想は自分に力をくれるような気がした。
ここで死ぬことは嫌だが、最悪死ぬことも仕方なし、どこかでそう考えてしまう自分がいる。ハーリアはまだもがいている途中。少しでも気を抜けば今にも生命活動を止めたしまいそうだ。いくら悪事を働いていたとしても、親は親。自分を産み、育ててくれた事実は不変である。両親が突然殺されて冷静でいられる人間など、ほとんどいない。
このまま両親の元へ行くのも一つの選択肢、そう考えることはできなくはない。ただ、ハーリアの両親は果たして、ハーリアが若くして死亡することを望んでいるのだろうか。実の娘が苦しみ、もがき、その果てに惨たらしく死体になるのを求めているのだろうか。これから世界を見たり、色々な人と出会ったりして広がっていくハーリアの未来を閉ざしてしまうのはあまりに勿体無い。
考えても考えても、答えなど出ない。否、答えとしては生き延びることが正解だ。それは生物の本能であり、その本能に引っ張られるのは人間でも当然のこと。
苦しみながら生きるか、苦しみながら死ぬか、悩みもがき頭を抱えながら生きるか、もがいて死ぬか、少しでも良い未来を得るために奔走しながら生きるか、未来に捨てて死ぬか。まだ人生経験の浅いハーリアが答えを出すのは難しい。ただでさえゴブリンに殺されそうになっている状況だ。
助けてと、誰かに縋ってしまう。誰かが明確な答えを目の前に提示してくれればどんなに楽だろうか。自分で考えず、他人に選択肢を選ばせ、それに乗っていく人生も楽で良い。人は自分で選んだつもりの道でも、案外他人の考えやアドバイスなどに左右された結果だったということは多い。本当に自分が選んだ道などほどんどない。
現に、この状況を生み出し、何とか答えを出させようとしているのは世莉架だ。ハーリアが選んだ状況ではない。
せめて、せめて目の前に提示された生きるか死ぬかの二択程度、選んでみせなければ本当に不甲斐なく悲しい結末を迎えることになる。それは、今だけの話ではなく、ここで死ぬ可能性に抗わずにいて世莉架が助けてくれても、結局近いうちに死ぬことになるだろう。生きる気力のない人間は、誰かが救っても最終的には大抵助からない。
ハーリアの頭の中はぐるぐると渦を巻き、答えを見つけらない。メリアスはどんどん心配そうな表情になっていき、頻繁に世莉架の方を向いている。
本当に酷いことをする。世莉架という人間がどれだけの悪か、人間として持っているべきものを持っていないのか、それはまだ確信を持つことはできない。しかし、間違いなく良い人などではないことは確かだ。
そんな世莉架をハーリアは恨んでいる? 憎んでいる? 殺したいと思う? それはハーリアもあまり分からない。ただ、本当に不思議なことに、世莉架の旅に魅力を感じ、世莉架という一人の人間に興味を抱いている自分がいることは確かなのだ。いつか、世莉架への憎しみが急激に膨れ上がり、本気で殺しにかかってしまうことがあるかもしれない。そんな可能性があっても、ハーリアは一緒に旅をしたいと思えるのだろうか。
それも分からない。とにかく分からない。分からないことが多すぎて思考停止したくなる。現実逃避をして楽になりたい。
そんな時、ハーリアは妄想か幻覚か分からない両親の顔を見た。
微笑む幻想の二人は優しい顔をしている。裏の顔ではない、表の顔。しかし、本心からハーリアを愛している顔。
その二人の姿は段々と消えていく。最後に、ズマーの口が動いた。
ただ一言、頑張れ、と。
「あ……」
頑張れという言葉は無責任だ。勝手に人に期待を寄せ、勝手にその者が苦労する事を許容し、その結果どうなっても責任は取らない。人は簡単に頑張れと言うが、言うだけタダの便利で無責任な言葉。
しかし、それは言霊のように人の力になる。何故か力が発揮される。その無責任な期待や言葉に答えたくなる。応援というのがどれだけ応援してもらう側の力になる事か。
「……私、頑張ってみるよ」
そうハーリアが呟いた途端、目の前にいた鬱陶しいゴブリン達が一瞬で細切れにされた。
ハーリアが風の魔法を操り、切り裂いたのだ。魔力を練り上げる速度は異常で、一秒にも満たないほどの時間で魔法が発動された。にも関わらずその威力はそこらの魔術師とは比にならない。初級の風の魔法だが、使い手によってその威力は天と地ほどに変わる。ハーリアは親を失い、家も失い、今は何も無い状態。だからこそ、今のハーリアは思い切り力を使える。周囲の期待や羨望、嫉妬などもう気にはならないだろう。
「はぁ、はぁ……」
ハーリアはゴブリンを殺してすぐにその場に座り込み、荒く呼吸をしている。だがハーリアは完全に復活した、という訳では無いのだ。むしろ未だギリギリの状態である。ハーリアは親の幻覚によってなんとか精神を繋ぎ止め、魔法をほんの一瞬、無理矢理に発動しただけだ。
つまり、今もハーリアの精神状態は危うい。多少は正気を取り戻したが、正気を保っているだけでも呼吸を荒くし、思考がグチャグチャになってしまう。
「ハーリア!」
メリアスは座り込んだハーリアに急いで駆けつける。世莉架は表情は変えずにハーリアの方へ歩いていく。
ハーリアの背中をさすって落ち着けようとするメリアス。一応は正気に戻ったためか、人肌を感じて安心したようで呼吸は落ち着いてきている。
「気分はどう?」
そんなハーリアの背後から、世莉架が声をかける。
「……最悪です。けど、負けません」
荒く息をして、汗をかいて、今にも倒れそうだ。頭痛は酷く、少しでも気を緩めたら吐いてしまいそうなほどに。だが、もうそこに意志の弱い、自信の無いハーリアはいない。メリアスの手を借りながらゆっくり立ち上がり、世莉架の方を向く。
「私は、今も辛いです。苦しいです。ちょっとでも気を抜いたら倒れそうです。でも、貴方に伝えたいことがあるんです」
ハーリアの目はしっかりと世莉架を見据えていた。それに答えるように、世莉架もきちんとハーリアの目を見る。
「私は貴方を許すとか許さないとかはもうどうでもいいんです。貴方の行為が正義か悪かも、今となっては考えたって仕方の無い事。普通だったら私は貴方を憎み、嫌って殺しにいくでしょう。でも私は何故か貴方が気になるんです。貴方の思考が、行動理念が知りたい。貴方の心を知りたい。ただ貴方という人間に関心が湧いています。だから……これからも貴方について行きます。そして自分なりの答えを見つけたい。その答えを出してから、またこれからどうするのか考えます。考え続けます」
それはしっかりとした決意には聞こえないかもしれない。だが人は結局考え続け、悩み続ける生き物だ。しかし、それは時に人を蝕み、苦しめる。ハーリアはそれを覚悟したのだ。これからずっと苦しみ続けるの事を選んだ。
世莉架について行って殺意を持っても、むしろ好意を持ってもいい。とにかくこれからの事を考えるために、無限に存在する答えを見つけ出すためにハーリアは行動することにした。そしてその為なら親の仇である世莉架と一緒にいてもいいと決めたのだ。その途轍もない覚悟をできる人間がこの世にどれだけいるのだろうか。
「そう。分かったわ」
世莉架はそれでも表情を変えずに淡々と了承した。だがメリアスには世莉架がほんの少し嬉しそうにしているように見えた。
「あっ……」
世莉架の返答を聞いた瞬間、体から力が抜けて眠ってしまったハーリア。そんなハーリアを抱き留めた世莉架は少しの間そのままでいると、ゆっくりと髪を撫でた。
「さて、帰りましょうか」
「うん。ねぇ世莉架」
ハーリアをおんぶし、帰ろうとする世莉架。その世莉架に並んで歩き出すメリアスが呼びかけた。
「何?」
「これから私達は色々な体験をすると思う。良いことも悪いこともね。けど……頑張ろうね」
頑張ろうという至って普通の無責任な言葉。世莉架はそれを聞いて一瞬口元を緩め、頷いた。
**
街に戻り、報酬を受け取って一旦宿に戻った一行。眠っているハーリアをベッドに寝かせる。
「これからどうする?」
「まだ暗くなるまで時間はある。私一人で軽く依頼を受けてくるわ」
「え、私は?」
「貴方はハーリアを見ていて。大丈夫、絶対に遅くはならないように帰ってくるから」
「そういう事なら……気をつけてね」
「えぇ」
世莉架はそう言ってすぐにまた冒険者ギルドに向かった。
依頼書が貼られているボードの近くには沢山の冒険者がいた。時刻は午後の二時で、昼食を食べ終えた人達が少しゆっくりした後にクエストに行く、というパターンが多いのだ。
その中から今度はゴブリン退治よりも難しいホワイトウルフという肉食のウルフ三体から五体を退治するというものだ。場所は東の森ではなく、西の山がある方だ。
その依頼書に決定した世莉架は依頼書を取ろうとする。だがそれを取る直前で他の冒険者に取られてしまった。
「悪いけどこれは俺たちのもんだ」
そこには四人組の男達で構成されたパーティがいた。世莉架はその四人がまだまだ初心者である事を見抜いた。そもそもホワイトウルフはゴブリンより強いとはいえ、基本的に初心者が狩る相手だ。
「そう。困ったわね。貴方達は四人組のパーティでしょう? ならもっと難しい依頼を受けては?」
「いいんだよこれくらいで。たまには楽したい時だってある」
実際はホワイトウルフくらいしか狩れない実力だからなのだが、強がっているようだ。
「そう。でも私もそろそろ薬草採取系の依頼から卒業したくてね。ここで戦闘が必須の依頼を受けて自分の実力を図ろうとしたのだけど……どうしましょう」
「ははは! あんた見た目が良いだけだろ? 女が何を勘違いしたのか知らねぇけど、さっさと冒険者なんかやめな。あんたじゃホワイトウルフにグチャグチャに殺されるぞ?」
男達は笑う。なんでこういう奴ばっかりなんだと世莉架はうんざりした。見た目で人を判断する人は無能であるというのは世莉架の持論だ。女だから、見た目が良いからなんて理由で弱いと決めつけるのは世莉架にとってはただの侮辱に値する。
「ふざけないで」
とはいえ荒事にはしたくない世莉架は大人しく他の依頼を受けようとした。するとそこに一人の女性の声が響いた。
世莉架はその女性を見る。その女性の後ろには三人の女性がいた。つまり全員女性のパーティのようだ。
「女だからって何? 私達、貴方達よりランク上だと思うけど、それはどうなんの?」
その言葉はどうやら事実のようで、世莉架はその女性達の方が明らかに男達よりも実力は上であるようだ。
女性にそう言われた男達は言葉に詰まった。事実を突きつけられて何も返せない。
「それこそエルファ様なんて女性よ? 勇者にも女性はいるし、女は弱いっていう認識は改めた方がいいと思うわよ」
世莉架は女性のエルファ様という言葉が気になった。今朝、閑散としたギルドで出会ったエルファとアルファ。世莉架はその二人が格段に強いことは見抜いていたが、やはり有名人なようだ。何より様付けされている時点で崇拝すらされているかもしれない。
「ぐっ……これはやる」
男はホワイトウルフ討伐の依頼を世莉架に渡した。
「どうも」
「……」
男達は悔しそうに去っていった。様子を見ていた他の冒険者も興味をなくしたようで好きに散らばっていった。
「ありがとうございます」
世莉架は助けてくれた女性に礼を述べる。
「いいよ。同じ女として許せなかっただけだから」
その女性は剣士のようであり、ショートカットの黒髪で、可愛いというよりはカッコいいという感じだった。
「そうだよ。あんな事言うような男なんてたかが知れてるんだから」
他の女性達はそれぞれ魔術師、ヒーラー、弓兵といった服装、装備をしている。
「本当、情けない男達だよね〜」
女性達にはそう言えるほどの実力があるのだ。その辺の男の冒険者よりは確実に強いだろう。
「あの、エルファ様というのは……」
世莉架は気になっていたエルファについて聞いてみた。
「エルファ様を知らないの?」
剣士の女性は驚いた様子で言った。
「私、つい最近この街に初めて来たばかりで。しかもそれまでは辺境の地で暮らしていたのでお恥ずかしいのですが世間知らずなんです」
「そうなんだね。エルファ様はこの国でも有数のSランク冒険者よ。女性のSランク冒険者は本当に少なくてね。しかもあの若さでSランクになったものだから、世界中の女性冒険者の憧れなの。それに絶世の美女だしね」
「Sランク……」
Sランク冒険者というのは冒険者の中での最高位だ。世莉架はとんでもない人と普通に話していたのだ。
「そう。あの人は本当に凄いの。戦闘スタイルは魔導騎士で剣も魔法も超一級。実際にあの人の戦闘を見れば凄さが分かると思うわよ」
「そんな凄いのね」
「ちなみにアルファ様も同じくらい凄いわ。エルファ様とアルファ様のパーティは二人だけだけど、Aランクの冒険者数十人でようやく達成できる依頼を二人でクリアできてしまう」
そんな話を聞いて、アルファとエルファに出会えたことは幸運だったかもしれないと世莉架は思っていた。
「勇者にも推薦されたみたいなんだけど、どうやら断ったみたいね。理由は知らないけど」
「!」
勇者。その言葉に世莉架はハッとした。メリアスが言っていた、この世界の勇者はどいつもこいつも問題児ばかりという事。世界を救うならその勇者には嫌でも接触しなければならないだろう。そこで一度は勇者に推薦されたことのあるエルファ達に勇者の話を聞くのは大変有意義で効率的なのではと考えた。
それから少し話をし、世莉架は依頼を達成するためにその女性達と別れ、依頼達成のために西の山の方へ向かった。
「エルファとアルファ……次はいつ会えるかしら」
世莉架は考え事をしながら街を出るのだった。
 




