事実は残酷なもの
「ん……」
ふと目が覚めたメリアスは体を起こして辺りを見渡す。そこはハーリアの実家の一室で、世莉架が寝ているはずのベッドを見るが、そこに世莉架はいなかった。
「あれ、世莉架?」
段々と覚醒してきたメリアスはベッドから降り、ランプを持って部屋を出る。廊下を見ても誰かがいるような気配はしない。
「世莉架〜どこ〜?」
大きな欠伸をしながら世莉架を探していると、廊下の突き当たり直前で左側の壁が壊れていることに気づいた。
「……世莉架?」
その時点で何か嫌な予感がしたメリアスは一旦立ち止まる。
だが、間違いなく世莉架が絡んでいるのだろうと判断し、多少緊張しながらも怪しい階段を降りていく。
やがて薄暗い廊下に出る。そこで気づいた。強烈な血の匂いに。
「何が……」
しかしここまで来て行かないわけにもいかない。廊下の奥にある扉にゆっくり近づく。
そして扉を恐る恐る開けた。そこには薄暗い部屋があった。メリアスは部屋の中央に世莉架の姿を確認する。しかし、部屋に入って来たメリアスと同じ方向を向いているため、どんな表情をしているのかは分からない。
「世莉……」
声を掛けようとしたメリアス。だが、足の先に何かが当たった感触がして下を見る。
「!」
そこには死体があった。真っ二つにされた死体が。この部屋に入る前に多少は凄惨な光景を覚悟していたため、それに驚きつつも、なんとか冷静さを保って周辺を見渡す。
もう一つ死体があった。更にもう一つ。どこを見ても血の海だったが、それでも冷静さを失わないメリアス。しかし、あるものを見つけたメリアスは途端にそれから目が離せなくなり、持っていたランプを落とす程震え出した。そのあるものとは、世莉架の前に横たわる二つの死体である。
「う、嘘……」
世莉架の前にはズマーとナテスがいた。しかし、ズマーには首が無い。ナテスは喉から血を垂れ流し続けている。
地球の日本などの平和な国に生きる人が見たら卒倒しても全くおかしくない光景だ。
メリアスが部屋に入って来たことを当然気づいているはずの世莉架は、相変わらず反応がなく立ち尽くしている。
「世莉架」
まずは事情を知らなければならない。何故ズマーとナテスが死んでいるのか。何故全く見覚えのない男が三人死んでいるのか。それらを知るために、メリアスは今度こそ世莉架にしっかり声をかける。
「……」
だがやはり反応はない。勿論立ったまま死んでいる訳ではない。呼吸をしているために肩が少し動いているし、そもそも世莉架がこんな所で死ぬ訳がない。
それなのに何故反応がないのか。そんな奇妙で凄惨な空間にいるメリアスは少し強めに世莉架を呼ぶ。
「世莉架!」
その呼びかけでようやく世莉架の体が少し動いた。でもそれだけで、何かを言ってくる訳でもない。その事に困惑と怒りを覚えたメリアスはずんずんと世莉架に向かって歩き、肩を掴んで思い切り振り向かせた。
「世莉架! ここで何があったの!? どうしてこんなことになっているの! ちゃんと説明しなさい!」
こちらを向いた世莉架の表情は普段と全く変わらなかった。いや、普段と変わらないはずなのだが、メリアスには悲しい顔をしているように見えた。
結局黙って立ち尽くしていたのは何故か、という疑問がメリアスの頭に浮かぶが、まずは状況整理を優先して世莉架に尋ねる。
尋ねられた世莉架は黙って部屋の隅に置いてある古ぼけた棚に向かう。
その棚の中を漁り、十数枚くらいの紙を取って来た。
「これは……」
その紙束を世莉架は無言でメリアスに渡す。そこにこの状況の答えがあると思い、渋々読み始める。
そしてメリアスは驚愕した。内容は攫う人間のリストだった。既に丸がついている人物は攫い終わっているということだろう。リストに乗っている人間は例えば身分の低い者、周りから鬱陶しがられている者、中にはまだ学生なのに成績が悪いからなんてふざけた理由でリストアップされてしまっている者もいる。しかもそれは実の親が出来の悪い自分の子供を売って金にするために依頼していたりもする。そしてそれを依頼されているのがハーリアの両親、社会の裏で暗躍する商人などだった。依頼する側の人間の名前などの個人情報は一部を除いて詳しくは載っておらず、そこから人物を特定するのは難しそうだった。
そのように、人の醜い部分を凝縮したような見るに耐えない書類だった。
「嘘でしょ……ズマーさんとナテスさんが……」
これにはメリアスも絶句していた。怪しい地下を見つけた時点で、この家には何かあるのかもしれないと思っていたメリアスだったが、想像以上に酷かった。
書類の中に世莉架とメリアスの名前はなかったが、初心者の冒険者など格好のカモだとでも思われて急遽攫うことにでもしたのだろうかとメリアスは考える。更に二人は絶世の美女なため、容姿面で判断された部分も少なからずあるだろう。かつ、二人はこの街に初めて訪れてから一日も経っていない。すると必然的に二人を詳しく知る者は少ないし、攫いやすいと言えば攫いやすい。
「……世莉架は気付いていたの?」
「えぇ。冒険者ギルドの前で私達を家に誘ってきた時点で気付いていたわ。でも断ろうとしたら貴方がダメって言うし、実際宿に泊まれると言っても金銭的にはかなり厳しかったからね」
世莉架はようやくメリアスに説明をした。さっきまでの無言はなんだったのか、その理由をメリアスに言う気配は無い。
「そうだったんだね……ごめん、私……」
「貴方が謝る必要は全く無いわ。家に誘われた時の貴方の対応は本来正しいと思うし、あの時点で悪意を見抜くのは普通は無理よ。私みたいな人間が異常なだけ」
「……」
メリアスは言葉が出なかった。それはあまりに複雑な精神状態にあるためだ。確かに、家に誘われた時に断ってその辺の宿に泊まっていればこんな事にはならなかった。しかし、それだとズマーとナテスは悪事を続けていただろう。犠牲は増える一方になっていた。だが、今回家まで来たことで結果的に悪事を終わらせることができた。その代わり五人の死者が出た。何より両親を殺されたハーリアは、ただえさえ今まで頼れる人が両親くらいしかいなかったのに、一人になってしまった。果たしてどちらが良かったのか、それを簡単に決めることは出来ないし、決める意味も無いだろうが。
メリアスはまたも動かなくなったズマーとナテスを見る。ナテスの作る料理は本当に美味しかった。ズマーのハーリアを想って語る姿は立派な父親と言っていいものだった。そんな二人がこんなことをしていたなど、信じ難い。だが証拠となる書類が実際に存在する。つまり、どこかで納得しなければならない。
メリアスはズマーとナテスに礼をする。彼らは悪人だが、ハーリアにとっては世界で唯一の家族。そんな彼らにも、せめて何か救いがあればとメリアスは祈るのだった。
**
「でも、これからどうするの? このままじゃ大問題に発展して世莉架が捕まっちゃうかもしれないし、ハーリアも一人になっちゃったし……」
二人は地下の廊下で話をしていた。メリアスは当然の不安を抱えている。この事件が公になれば世莉架も危うい立場になるかもしれない。それにハーリアの事もあり、かなり難しい状況だ。
「まずはこの事件を私がやったとバレない様に裏の人間に流すわ。そうすれば間違いなく裏の人間が揉み消すでしょう。ズマー曰く、この街の上層部、引いてはこの国の上層部までもがこのような悪事に手を出している。そんな人間達からしたら絶対にバレたく無いでしょうからね」
「そ、そんな偉い人達も関わってたんだ。やっぱりどこの世界でもどんな社会でも権力者は一定数そういう事をする人がいるね……」
メリアスもそういう事実がある事を分かっているようで、悲しそうな顔をした。それは神としての視点だろう。
「それとハーリアは私が面倒を見るわ」
「世莉架が?」
「えぇ、一方的にだけど約束したもの。ハーリアは私がなんとかする」
「約束……?」
世莉架はそれ以上語らなかった。世莉架はズマーとの最後の会話を一生忘れることは無いだろう。
「とにかくこれからハーリアを起こしに行くわ。もうここにはいられない。場所を変えましょう」
「……ハーリアにはどう伝えるの?」
「何も包み隠さず真実を告げるわ。それしか無い」
実際、世莉架がもっと魔法を使えるようになれば記憶の操作などもできるかもしれない。しかし、仮にそれが出来たとしても世莉架にそれをする気は全く無かった。そんな事をしても事実は消えない。ハーリアが尚更哀れになるだけだ。
「そっか……」
「行くわよ」
二人は地下から一階に上がる。壁はそのままで、ハーリアの元へ向かう。
ハーリアの部屋に辿り着き、一応ノックをする。しかし時間が遅い事もあり、起きてはいないようで反応は無い。
世莉架はゆっくり鍵のかかっていない扉を開ける。
「例え家だとしても不用心ね」
そう呟いて世莉架は部屋に入っていき、メリアスもそれに続く。
ハーリアは気持ちよさそうにベッドで眠っている。眠るハーリアにとって今日は世莉架とメリアスと出会えたという良い一日で終わっているのだろう。
「ハーリア」
世莉架はハーリアを体を揺すって声をかける。
「ん……何?」
やがて目をゆっくり開けて起きる。
「ハーリア、貴方には知ってもらわなければならない事があるの」
「……?」
まだ寝ぼけているのか、状況をよく分かっていないようだ。
しかし、世莉架はともかく、メリアスが緊張と不安が入り混じったような顔をしているのを確認して、ハーリアは急に怖くなった。
「わ、私が知らないといけない事ってなんですか?」
ハーリアは恐る恐る尋ねる。世莉架はあの地下室で手に入れた悪事の証拠となる書類を無言で手渡す。
それを受け取り、読み始めてすぐに表情が変わった。
「な、何ですかこれ……」
しかしまだハーリアは肝心な所を読んでいない。
「攫うリスト……まさか、この街ではこんな事が行われていたのですか?」
「えぇ。既に何十人も犠牲になっている。いや、もっとかしらね」
「そうですか……でも、どうしてこれを私に?」
「もっと先を見てみなさい」
言われるがままに読み進めて行く。するとある所でハーリアの手が止まった。
ハーリアの目線の先には二人の名前が記してある。そう、ズマーとナテスだ。
「……」
ハーリアは下を向いて動かない。その名前から目を逸らせずにいた。
「この街だけじゃない。この国全体でこういう事が行われている。そしてそれに関わっていたのが貴方の両親。あの一見善良に見える二人は裏で沢山の人の人生を壊してきた」
世莉架は遠慮なく事実を告げる。
ハーリアの手は震えていた。声を出そうとしているが、何かが喉につっかえたように声を出せない。
「これ以外にも貴方に見て欲しいものがある。来てくれる?」
あの地下室に連れて行くため、ハーリアに一応聞く世莉架。
「こんなの……嘘だよ。だって父さんも母さんも凄く優しくて、人のために動ける人だもん。こんな事が……誰かが陥れようとして作った偽の資料だよ」
ハーリアはほんの少しの望みを賭けてその書類が偽のものであると主張した。
「いいえ。残念だけど事実よ。何故なら私が直接その事について彼から聞いたんだから」
「そんな……」
ハーリアは書類を落とし、顔を手で覆う。急に呼吸が荒くなり、完全に混乱していた。
「この家は大きい。部屋は沢山あるし、大きな風呂も綺麗なトイレもある。外から見た感じ、他の一般的な家はもっと小さい。この家が裕福なのは貴方の両親の悪事のおかげ。悪事を働き、沢山の人を絶望させてきた貴方の両親は、何食わぬ顔で貴方を育てた。貴方が今まで見てきた両親も本物よ。その愛情もね。けど、悪事を働いた貴方の両親もまた本物。受け入れなさい」
世莉架は容赦ない。淡々と辛い事実を述べる。ハーリアは過呼吸気味になっていた。
「世莉架! もっと言い方があるでしょう!」
「オブラートに包んで意味があるの? ここで優しくしてしまってはハーリアは成長できない。何でも優しく接すれば良いわけではない」
流石に言い方が酷いと思ったメリアスが抗議するが、世莉架は受け入れない。
「ほら、来なさい。貴方にはちゃんと真実を知る義務がある。あの人達の娘ならね」
世莉架はハーリアを無理矢理立たせて引っ張る。
「ま、待って……」
ハーリアは何とか世莉架に着いて行く。その後ろを歩くメリアスは終始不安そうだった。
そして地下へ行くための階段の前まで来た。
「何これ……こんなの知らないよ」
これ以上ハーリアに衝撃的な事実を突きつけると心が持たないかもしれない。最悪廃人になる可能性だってある。
しかし、世莉架は止まってくれない。引き続きその手を引いて地下へ行く。階段を降り、廊下まで辿り着くと血の匂いがした。
この時点でハーリアは奥の扉の先に広がっている光景を嫌でも想像できてしまっただろう。世莉架が引っ張っても足の震えが大きすぎてハーリアはその場に崩れ落ちてしまう。冷や汗や動悸は止まらず、またも過呼吸のような状態になっている。
流石の世莉架もそこで足を止めた。
「も、もう良いです。何も見たくない。私から声を掛けておいてすみませんが、もう私に関わらないでください。出て行ってください。私は一人で大丈夫ですから……」
ハーリアは苦しそうに言う。
「いいえ、悪いけど貴方の面倒は私が見るわ」
「な、なんでセリカさんが私の面倒を見るんですか。セリカさん、多分だけど出来るだけ人と接したくないと思っているでしょう? そんなセリカさんがわざわざ私の面倒を見るだなんて……」
「……そうね。私自身、おかしいと思っているわ。でも、分からないけどこうする方が良いと感じている。ほら、そろそろ立ちなさい」
世莉架はまたすぐにハーリアを無理矢理立ち上がらせる。
「ハーリア……」
メリアスは苦しそうなハーリアに何も言えず、ただ悲痛な顔を浮かべていた。
そして扉に世莉架が手をかける。ゆっくりと開かれたその先にあるのはこの世の絶望を凝縮したような光景。更にその真ん中にいるのがハーリアの親の無残な姿。
その光景を見たハーリアは一瞬表情をなくす。その部屋に入る前からハーリアの感情の許容量はオーバーしかけている。そこにあまりに酷い追い打ち。表情がなくなってすぐにハーリアは全身の力が抜け、地面にへたり込んだ。
「貴方の両親は私が殺した。他の死体は私とメリアスを攫うように貴方の命令されたであろう者達のもの。私が手を下さずとも、貴方の両親の悪事を世間に公にすれば彼らが処刑される可能性はかなり高かった。でも、貴方はそれに耐えられる? この国の処刑システムはよく知らないけれど、恐らく民衆の前で行われるんでしょう? どちらも悲惨な結末だけど……いや、これは言い訳か」
世莉架の顔は心無しか沈んでいる。それは後悔なのか、罪悪感なのか。もしくはそれすらも演技なのか。世莉架の胸中を正確に言い当てることのできる人間はいないだろう。
「あ、あり得ない、あり得ない、あり得ない! こ、こんな事が、どうして。だっておかしい。セリカさんがそんなことするはず……犯罪者だったから殺した? そもそも父さんと母さんは本当に犯罪なんてやっていたの? いや、それこそあり得ない。だって、だって私の優しい両親だもの。首のない人と喉が切られている人はきっと私の両親じゃない。それにこんな遅い時間に……、あぁ、つまりこれは夢なのね。今日は本当に良いことがあったから、その反動かしら。あはは、だったら一度目覚めないと……」
完全に混乱し、精神を正常に保てなくなっているハーリアはおもむろに近くにあった剣を拾い上げる。
「これを胸に刺せばきっと夢から現実に戻れる……」
その剣を自身の胸に向け、自殺を図ろうとするハーリア。
「ダメ!」
それに気づいたメリアスは咄嗟に手を伸ばすが明らかに間に合わない。
そして、鮮血が舞った。
「……」
「え……?」
ハーリアが自身の胸に刺そうとしていた剣は胸ではなく、右肩に刺さっていた。
肩に激痛が走る。それまで正気を失っていたハーリアは、その激痛によって現実へと引き戻された。
「いっ……!」
剣を抜き、必死で肩を抑えるハーリア。正気に戻ってしまった故に、目の前の光景を直視できてしまう。
「はぁ、はぁ……」
荒い息を吐いているハーリアを呆然とメリアスが見つめている。
「世莉架……」
そこで世莉架を見る。至って普段と変わらない表情をしている。
ハーリアの持っていた剣は確かにそのまま進めば胸に突き刺さっていた。しかし、軌道がずれたために肩に刺さった。そう、それをずらしたのは世莉架だ。というよりそれしか考えられない、というのが普通だろう。しかしここで疑問が生まれるはずだ。どうして肩に当たってしまったのかと。世莉架ですら間に合わずに肩に当たってしまった、なんて事はまずあり得ない。そして事実、世莉架にはハーリアの動きなど止まって見えていた。だが、敢えて軌道を大きくはずらさなかった。
確かに痛みは冷静さや判断力を奪う。しかし、同時に正気を保つことができたり、痛みが一時的にでも精神安定剤となる場合というのは十分にあり得るし、実際にある話だ。つまり、世莉架はハーリアに正気を取り戻させるために敢えて大きく軌道をずらすことなく、肩に当てて痛みを与えた。
世莉架からすればハーリアが錯乱し、自殺のようなことをしてしまう可能性は考えており、そうなった場合は死なない程度に痛みを与えて強制的に正気に戻す、という惨い事をするつもりはあったのだろう。
「ハーリア、貴方の親を殺したのは私。貴方の両親が悪事を働いていたのも事実。悲しいでしょう、虚しいでしょう、苦しいでしょう。そして、私が憎いでしょう。でもそれで良いわ。私を一生憎みなさい。これからは貴方の一番の支えになっていた両親がいない状態で人生が続く。その状態にしたのは私。だから……これからは新たな心の支えを探しなさい。人生を諦めずに、色んなことに挑戦しなさい。私をいつでも殺せるように、精進なさい。そんな貴方の面倒を私が見る。奇妙な関係だけどね。異論は認めない」
世莉架は肩を抑えてうずくまるハーリアの前に立って言った。自分の命を狙うかもしれない人と共に行動し、面倒を見る。地球にいた頃の世莉架では絶対にあり得ないことだ。いくら今の世莉架が強いとはいえ、リスクは少なからず上がる。そんな選択は愚かとしか思えない。だが、世莉架はそれを選んだ。地球にいた頃の世莉架を知っているメリアスからすれば、その事実は驚くべきことだった。しかし、本当に世莉架の気持ちは分からない。
「……憎んでなんていません」
ハーリアは息も絶え絶えに、そう呟いた。
「私は昔から悪い事はするなと、人のためになる事を率先してやりなさいと教えられてきました。なのに……そんな教えを説いていた両親が多くの人の人生を滅茶苦茶にしていたなんて、辛いし、悲しいです。そしてその二人を殺したのセリカさんが悪だとは、あまり思えません。殺されても仕方のない事を両親はしていたのですから。でも……憎しみはないけれど、このまま貴方に着いて行くのは……それにもう生きようだなんて、思いません……」
ハーリアは肩を抑えていた手をどかし、世莉架を見る。
その目からは静かに涙が溢れていた。そしてその目の奥には絶望が覆い尽くしている。
「……そうよね。でも何がなんでも貴方を連れて行くわ」
「どうして……」
「さぁね。さて、もうここを出ましょう。やらなきゃいけない事が沢山あるわ。まずはこの家から出ないと。ハーリア、荷物を纏めなさい。もうこの家に戻る事はないでしょうから」
「……」
そう言われても動かないハーリア。世莉架はため息をついてからハーリアをお姫様抱っこし、地下室を出て階段を上がって行く。
ハーリアは世莉架に触れられても抵抗はしない。その希望が絶望に覆われた目は、どこか遠くを見ていた。




