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(旧) 天才は異世界の救世主[厄災]となる  作者: ポルゼ
第一章 天才は異世界に連行される
6/59

悪意はすぐ側に

「ここです」


 現在、世莉架達はハーリアの家の正面にいた。ここまで案内していたハーリアの父親であるズマーと母親のナテスはメリアスとすっかり仲良くなっていた。


「ささ、入ってください」


 世莉架達は家に足を踏み入れる。ハーリアの家は一般の家と比べればかなり大きく、裕福であることが分かる。


「これから夕食の準備をしますので、どこか空いている部屋で休んでいてください。貴方、案内してあげて」

「分かった」


 ナテスはズマーにそう言い、キッチンに向かった。


「それでは、我が家を案内します」


 世莉架達はズマーについて行く。トイレ、お風呂場などを案内され、二人に用意されたのはベッドが二つある普通の部屋。


「毎日では無いですが、定期的に掃除をしているので綺麗だと思います。何か必要なものがあれば遠慮なく仰ってください」


 そう言ってズマーは部屋を出て行った。


「凄いね、ハーリアの家は。実はお嬢様だったんだね」


 メリアスはフカフカのベッドにダイブして言った。


「い、いえ、お嬢様なんかじゃありません。確かにこの街の中では比較的お金に余裕がある方だとは思いますが、決してお嬢様みたいな教育を受けて来たわけではありませんよ」


 ハーリアはそう言うが、ハーリアの様々な所作を見ていれば育ちの良さがすぐ分かる。


「まーた謙遜して。ハーリア、謙遜もいいけど、もう少し自信持とうよ」

「す、すいません。頑張ります」


 ハーリアは頬を掻いて笑った。そんなやりとりを二人がしている間、世莉架はずっと黙っていた。それを不思議に思ったのか、メリアスが声をかける。


「世莉架、どうしたの? 夕食も用意してくれてるみたいだし、お風呂にも入れて、更にはこんなちゃんとした部屋まで用意してくれたのに嬉しくないの?」

「嬉しいわね」

「……それだけ?」

「だけって言われてもそれ以外ないでしょ」


 なんだかいつもより更に淡白になっているように感じたメリアスは首を傾げたが、すぐにハーリアとの会話に戻った。

 世莉架はベッドに寝転がり、天井を見つめていた。


 そうして部屋でダラダラしていると、ナテスがノックをして入ってきた。


「食事の準備が出来ましたので、リビングに来てください」


 ということで、世莉架達はリビングに向かう。そこには豪華な食事が用意されていた。


「わー! 凄いです!」


 メリアスは目を輝かせている。そして待ちきれないといった様子で椅子に座る。


「沢山あるのでどんどん食べてくださいね」


 ナテスは笑みを浮かべている。

 全員が席につき、早速食事を始めようとした時だった。


「……え、何?」


 真っ先にメリアスが食べようとしたが、世莉架が左隣にいるメリアスの太ももに無言で手を置いた。それは対面にいるズマーとナテスからはテーブルが邪魔で見えていない。メリアスは当然太ももに置かれた手を不思議に思って食べようとする手を止める。

 世莉架は右手でスプーンを持ち、調理されたメインディッシュであろう肉料理を取り、匂いを嗅ぎ、食べる。


「……」


 数秒間黙っていた世莉架だったが、太ももに置いていた手をこれまた無言でどかす。そして何事も無かったかのように食べ始めた。


「?」


 その意味が分からないでいたメリアスだったが、すぐにそんなことを忘れてご飯を食べ始めた。


「どうですか?」


 ナテスが世莉架とメリアスに聞く。


「すっごく美味しいです!」

「とても美味です」

「それは良かったです」


 いい返事をもらったナテスは微笑む。ハーリアも二人の賞賛に嬉しく思い、笑みを浮かべていた。


「お二人とも、ハーリアは冒険者としてはどうですか? きちんと役に立っていますか?」


 ズマーが突然そんなことを聞いてきた。


「はい。ハーリアはとても優秀なので、むしろ私達が足を引っ張ってしまいそうです」


 食事のためのスプーンを置いて世莉架が答える。


「そ、そんなことないです! 私は自分のできることをやっただけで……」


 相変わらずハーリアは謙遜する。実際、ハーリアはきちんとパーティ内で役目を果たしていた。


「はっはっは。それは良かったです。この子は小さい頃から勉学、魔法共に才能に溢れていて、色んな人の期待を背負っていました。だからこそ、この子には苦労させて辛い思いを沢山させてしまいました。ですからもう好きに生きて貰おうと思い、学生の身でありながら冒険者になることを許したんです。周りからは宮廷魔術師などの役職に就かせるべきだという意見がほとんどですし、親としても冒険者という不安定で危険な仕事をやらせるのは不安なのですが、この子の意思が何より大事だと思いましてね」

「父さん……」


 娘を想って語るズマーは立派な父親に見えた。語る様子を黙って見ていた世莉架は、その言葉が決して嘘ではないことを分かっていた。


「そうなのですね。ハーリアの意思を尊重するのはとても良いことだと思います。彼女が冒険者として経験を積めば、世界に名を轟かせる魔術師になれるでしょう。まぁ、今日冒険者になったばかりの私が偉そうに言えることではないのですが」


 世莉架はハーリアの方をチラッと見てから言った。その言葉にハーリアだけでなく、ズマーとナテスも嬉しそうにしていた。

 食事はそのまま楽しく進んでいったのだった。


 食後、大きなお風呂に世莉架、メリアス、ハーリアの三人で楽しくお喋りしながら入り、今は世莉架達に用意された部屋で休んでいる。

 世莉架達と一緒にいる時、ハーリアは常に楽しそうにしていた。ずっと友達のいなかったハーリアは恐らく自分の家に親しい者を招き入れたことが無かったのだろう。 


「本当に今日は楽しかったです」


 会話がひと段落し、部屋が静かになったタイミングで突然ハーリアがそう言った。


「良かったわね」

「はい。これからもお二人と冒険できたらきっととても幸せなんでしょう」


 ハーリアは上を向いて少し寂しそうに呟く。


「何言ってるの。明日また一緒に依頼を受けに行くんでしょ? しばらくは一緒のパーティよ」

「……嬉しいです」


 世莉架の何気ない言葉でハーリアは心底嬉しそうな顔をしている。


「ふふふー」

「きゃっ」


 そんなハーリアにニヤニヤしながらメリアスが抱きつく。今まで家族以外の人と体の触れ合うスキンシップを全くしたことの無かったハーリアは戸惑いながらも嬉しそうにしている。

 

「さて、もう疲れたし今日はここらで寝ることにしましょう」


 じゃれついている二人をしばらく眺めていた世莉架が声をかける。


「確かにそうですね。明日に備えて早めに寝ましょう。それではお休みなさい」

「お休み〜」

「お休みなさい」


 メリアスから名残惜しそうに離れたハーリアは頭を下げて部屋を出て行った。


「……ねぇ、世莉架のベッドで寝て良い?」


 ハーリアが出て行った後、メリアスがそんなことを言い出した。


「嫌よ。曲がりなりにも神でしょ貴方。どうして人間の私と一緒に寝たいだなんて思えるのかしら」

「もう、そういう風に言わなくても良いのに」

「自分のベッドで寝なさい。それじゃ、お休み」

「……ふん、お休み」


 メリアスは若干不貞腐れた様子で自分のベッドに入り込む。そうしてランプの灯りを消し、二人は静かに寝るのだった。





 **





 時刻は午前一時ほど。すっかり夜も更けて辺りは真っ暗。地球ほど科学技術が進んでいないこの世界では夜は家にいるのが当たり前なため、あまり外を出歩かないのが普通であり、家にいても夜更かしはなるべくしない。

 しかし、世莉架とメリアスの眠る部屋に忍び寄る影が三つ。


「今回の目標は今日冒険者になったばかりのド新人だ。そいつの連れもいるようだし、一応油断はするなよ」

「そりゃ分かってるけどよ、今回は流石に簡単な仕事だな」

「あぁ、だからさっさと終わらせよう」


 三人は世莉架とメリアスが眠る部屋に一直線に迷いなく進んで行く。その三人の足音は限りなく小さい。

 やがて世莉架達の部屋に辿り着き、先頭にいる男が静かに扉を開ける。

 男はジェスチャーを後ろの男達に送り、全員が部屋に入る。扉から近いのは世莉架の眠るベッドで、まずはそこに向かう。

 またもやジェスチャーを送り合い、世莉架の眠るベッドを囲む。それぞれが拘束するための道具を手に持ち、全員が一斉に世莉架を捕らえようと迫る。


「あ……?」


 静かな部屋に三人の間抜けな声が小さく響く。

 三人がそれぞれ持っていた拘束具が全て宙を舞っていた。何が起きたのか分からないといった顔をしている三人は、眠っているはずの世莉架を見る。そこには禍々しい雰囲気と凄まじい殺気を携え、短剣を握る世莉架がいた。

 その瞬間、世莉架を捕らえるのではなく、殺害、もしくは一旦諦めて撤退するかの二択を考えた三人は一瞬硬直する。

 しかし、その隙を逃す世莉架ではない。目にも止まらぬ速さで三人の頭部を短剣の柄で強打し、気絶させた。


「……」


 世莉架は静かに三人を水の魔法で浮かせ、部屋を出てどこかに向かう。そして世莉架は長い廊下の突き当たりの少し前で止まる。左右には何の変哲もない壁があるだけだが、左側の壁を土魔法で静かに破壊し、破片が地面に落ちる前に水魔法で包み、出来る限り音を抑えた。

 破壊した壁の向こうには明らかに怪しい地下へ続く階段が現れた。世莉架はそこへ気絶した三人を運んで行く。階段を降りるとそこには薄暗い廊下が続いていた。そのまま足音を全く立てずに進んでいき、一つの扉の前に立つ。そしてゆっくりとその扉を開ける。

 

「お、来たか……なっ!?」


 そこは廊下と同じく薄暗い部屋であった。真ん中にはテーブルと椅子があり、その椅子に座っている二つの影。

 そのどちらも世莉架が入って来た瞬間、目を丸くして立ち上がった。当然だろう、本当なら世莉架が気絶させた三人が、世莉架とメリアスを拘束して連れてくるはずだったのだから。

 

「あら、どうしたのそんな驚いて」


 世莉架は水の魔法で浮かせていた三人を魔法を解除して地面に落とす。世莉架は薄く笑みを浮かべているが、その笑みはそこで驚いている二人には悪魔の笑みに見えたことだろう。


「どうも、夜分遅くにすみませんね。ズマーさん、ナテスさん」


 そう、その薄暗い地下にいたのはハーリアの実の両親である、ズマーとナテスだったのだ。


「……どうやって」


 ズマーはナテスの肩を抱いて壁際に逃げながら世莉架に尋ねた。


「冒険者ギルドの所で貴方達と会った時から私達に何かしようとしていることは分かっていたわ。けどメリアスは行く気満々だったし、あそこで変に嫌がるのもおかしいでしょう? だから仕方なくここまで来て、私達に何か害を与えようとしてきたら返り討ちにしてあげようと思ってたの」

「会ったばかりで私達の思惑に気づいていたというのか? そんなまさか、気づけるはずが……」

「普通は無理でしょうね。でもごめんなさい。私、普通じゃないの」

「く……だ、だが君は今日冒険者になったのだろう? そこで気絶している者達は全員熟練の猛者だ。君一人で敵うわけが……」

「こいつらが熟練の猛者なの? 驚いたわ。随分と弱いのね」

「馬鹿な……」


 世莉架からすれば魔法なんてなくても簡単に倒せる相手だったが、少なくともこの街ではなかなか強い方らしかった。


「君は一体何者なんだ?」


 俯いていたズマーがそう世莉架に問い掛けた。


「私はこの世界の住人ではないの。でもこの世界を救って欲しいと頼まれてね。仕方なくここにいる」

「この世界の住人ではない……?」


 世莉架は素性を隠すことに専念していた。事実、ハーリアにも詳しい事情は全く話していないし、これからも話す気は無かった。しかし、世莉架はここで抽象的だが素性を話した。ということは、この後世莉架が二人をどうしようと思っているのかは自明の理だろう。


「えぇ。それで、貴方達はハーリアに黙って人攫いでもしているの?」


 ここまで来たら全てバレていると思ったズマーはそれに答えようとするが、まだ世莉架を倒したり、逆にこちら側に引き込めることができるかもしれないと考えたため、曖昧に濁すことにした。


「……それは人聞きが悪い。これらの行為はこの街から許可を得てやっているし、誰でも構わず連れてくるわけじゃない。きちんと吟味している」

「そ。どうせ街のお偉いさん方とも繋がっていると思ったわ。それに、さも自分達は悪くないみたいに言ってるけどね……」


 そこで世莉架は言葉を切り、短剣を振るう。


「クズはクズなの。どれだけ取り繕うとも、どれだけそれらしい理由を並べてもね」


 横たわっていた三人の男のうちの一人の頭がいつの間にか切断されており、コロコロと壁の方に転がっていった。

 鮮血が部屋を染めていく。


「……」


 その光景を見たズマーとナテスは驚愕とともに、あまりに深い絶望に襲われた。気づいたら男の首が切られていた。そしてその瞬間は世莉架の動きが速すぎて何も見えなかった。


「どうしたの? こんなことをやっている貴方達は人の死なんて見飽きているでしょう」


 そう言いながら世莉架はズマーとナテスの方にゆっくり歩いて行く。

 ズマーは気絶している二人に一縷の望みを賭けてチラッと見た。

 しかし、結果的に困惑し、絶望を深めることになった。頭を切断されなかった男二人は、いつの間にか体を真っ二つにされて大量の血を噴き出していたのだ。一人は横に、一人は縦に真っ二つ。全員が違う切断のされ方をしている。

 わざわざそんなことをする必要は全く無い。だが敢えて世莉架は異なる殺し方をした。まるで人の死を弄ぶかのように、人を殺すことを楽しんでいるかのように見せた。

 それを見たズマーとナテスは顔を真っ青にし、これ以上いったら精神が死んでしまう寸前まで絶望を深める。そう、世莉架は二人を絶望させるためにそんな殺し方をしたのだ。


「最後に言い残すことはある?」


 世莉架は短剣をズマーとナテスに向ける。


「……ま、待ってくれ。これから私達は自首しようと思う。これらの事に関わった人物も知っている限り全て吐こう。牢屋の中で一生反省し続ける。いや、処刑をも受け入れる。だから……」


 ズマーは震えながらも命乞いをした。例え無期懲役、もしくは処刑になったとしても、このまま悪魔のような雰囲気を漂わせている世莉架に殺されるよりは幾分かマシだと判断したのだ。


「へぇ。じゃあ貴方達の悪事に関わりのある人物、組織を教えてもらおうかしら」

「……分かった。まず、さっきも言ったがこの街の上層部の人間、更には王都の上層部の人間のような身分の高い者も関わっている。しかし、具体的に誰が指示を出しているかなどは分からない。所詮私達もいいように使われているだけだからな」


 その言葉が嘘偽りない事を世莉架は見抜き、黙って先を促す。


「ただ、上層部の詳しいことは分からないが、社会の裏で働く商人なら一人知っている。君が殺した三人もその商人が雇っていたんだ」

「そいつの名は?」

「イミウだ。だが、彼の顔を詳しく見た事はない。勿論会った事はあるが、いつも顔を隠していたのでな。体格は普通の一般男性と同じくらいだ」

「なるほど」


 世莉架は頷く。


「それで、貴方達の悪事が分かるような文書はある?」

「……そこの棚の中に」


 ズマーが命乞いしてからズマーは一度も嘘をつかなかった。悪事の証明ができる文書は棚の中にあるという事も嘘をついていないと判断した世莉架は、いよいよ最後の仕事に入る。


「そう。分かったわ」


 それだけ言って世莉架は下げていた短剣を再びズマーとナテスに向ける。


「それじゃあ、最後に言い残す事は?」

「!?」


 それを聞いたズマーは驚愕し、唖然とする。


「何故だ! 情報は吐いただろう!」

「えぇ。でも情報を吐いたら見逃す、なんて私は言ったかしら?」

「そ、そんな……」


 世莉架は初めから見逃すつもりなどなかったのだ。それを知った二人はもう覚悟をするしかない。しかし、人間追い詰められると逆に気が強くなったりするもので、すんなり覚悟を決められる者など稀だ。


「ひ、酷い……」


 それまでずっと黙っていたナテスがそう呟いた。


「酷い……?」

「ひっ……!?」


 その瞬間、世莉架の目つきは変わり、目つきだけで人を殺せるのではないかと思ってしまう程殺意に満ちる。


「貴方達がやった事は酷くないとでも言うの? 私がここで貴方達を絶望させ、殺す事は酷いのに? 貴方達のせいでどれだけ多くの人が犠牲になったのか知らないけれど、随分と慣れているようだし、人攫いは長い事やってるんでしょう? そして攫われた人達は奴隷になったりして絶望しながら死んでいくんでしょうね。いや、中には殺されるためだけに攫われた者もいるかもしれないわね。貴方達は自分のせいで犠牲となった人達に対して何とも思わないの?」


 そう話す世莉架は短剣をユラユラと左右に振っている。その動きは否応にも二人の恐怖を煽った。


「ま、待て。本当に反省しているし、犠牲となった人達には心から申し訳ないと思っているんだ。絶対にこれから罪を償い続ける。そしてきちんと裁判を行ってその結果を受け入れよう。だから頼む……」


 ナテスを庇いながらズマーが言う。世莉架はそんなズマーを少しの間だけ見定めるように見つめる。 


「……分かったわ」

「ほ、本当か……!」


 世莉架はゆっくりと短剣を下ろした。


「かっ……」


 しかしズマーが安心したその時、隣にいたナテスが変な声を出し、手で喉を抑えていた。


「ナテス……?」


 喉を抑えている手からは溢れ返るように赤黒い血が噴き出していた。

 ナテスはそんな状態ながらもズマーの方を見る。そしてそのまま倒れ、息絶えた。


「さて、後は貴方だけね」


 世莉架は冷静にそう言った。


「……君はハーリアの冒険者仲間なんだろう? ハーリアの実の親である私達を殺していいのか? あの子はまだ十七だし、未だに両親にしか甘えられず、人に何かを頼る事も出来ないくらい精神的にも未熟だ。だから親が色々と支えてやらなければならない。心の支えにならなければいけないんだ。君に一人の、十七歳の子供の人生を大きく変える責任を取れるのかい?」


 ズマーは倒れたナテスを抱きしめ、静かに泣きながら世莉架に尋ねた。


「約束するわ。私が責任を持ってハーリアの面倒を見る。けどね、貴方は一つだけ勘違いをしている」


 世莉架は短剣をズマーに向けながら言う。


「ハーリアが冒険者仲間? ふふ、面白い冗談ね。私に仲間なんて……いやしないわ」


 そして世莉架の短剣はズマーの首に振り下ろされた。


 世莉架が異世界に来てからまだ一日も経っていない。そんな短い間に、世莉架は五人の人間を殺害した。その人間達が悪であろうがそうでなかろうが、人を殺した事実は消えない。

 世莉架はついさっきまで生きていた人達に囲まれながら、その場でしばらく立ち尽くしていたのだった。


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