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(旧) 天才は異世界の救世主[厄災]となる  作者: ポルゼ
第二章 宗教と竜の瞋恚
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生者と死者

 炎が舞う。自然の中では不自然なほどの灼熱の炎が轟々と周囲を囲み、そこには大きな炎の柱が立っていた。随分派手だが、その威力は派手さに負けないものだった。


「……」


 ルーナの放った炎の槍の攻撃が直撃したリンクアはただでは済まないだろう。しかし、リンクアは魔王軍幹部。確実にその命が尽きたことを確認するまで一切の油断はできない。

 未だ燃え盛る炎の柱から少し距離を取り、ルーナはじっとそれを見つめた。

 いつでも追撃する準備はできている。この程度で死ぬ事はないと敵として信頼しているのだ。

 すると、炎の柱の中に影が現れた。それは間違いなく生きており、こちらへ向かってくるのが分かる。


「ふっ!」


 次の瞬間、ルーナは炎の槍を再度作り出し、炎の中の影に向かって放った。それは段々と消えかかっている炎の柱に当たって爆発し、新たな炎の柱を作り出した。

 ここまで派手に戦えば、誰かしらが気づいてしまったかもしれないが、そんなことを気にして勝てる相手ではない。また、周囲の木々に炎が移って火事にならないよう、火の粉が炎の柱の周りを舞うよう調整されている。炎のコントール技術は卓越したものを持っているのがルーナだ。

 だが、技術が高くても、魔王軍幹部を倒せるかは分からない。


「……ここまでしてやられるとは。正直、怒りを通り越して清々しい気持ちだ」

「やはり、これだけでやられるほど脆弱ではなかったな」


 炎の中からリンクアが姿を現わす。その姿は攻撃を受ける前とは異なり、明らかにダメージが入っていることが分かる。黒いローブはボロボロになっており、体は焼け爛れている箇所が多い。そこらの魔族だったら確実に死んでいるだろうが、流石は魔王軍幹部といったところか。その体は遥かに丈夫である。


「この破壊力、相当凝縮されて洗練された魔法だ。間違いなく強者であるお前に勝てば私は更に成長できそうだ」

「それはこっちも同じだ。魔王軍幹部に勝つほどの実力があると実感できるし、お前を喰らって更に成長するための糧としよう」


 二人は息を吐く。それは再び熾烈な戦いが始まる前の一呼吸だ。

 ルーナは瞬時に炎を槍を三度作り出す。それと同時に炎の波と形容できる大きな炎をリンクアに向けて放つ。

 圧倒的な範囲攻撃に対しでは、できる事が限られている。何もせずに受ける事はできないため、避けるか相殺するか軌道を逸らすのがまず考えられる対処方法だろう。

 圧倒的な身体能力を誇るリンクアは避けることを選択した。炎の波の範囲外に出るため、凄まじいスピードで移動する。

 勿論、ルーナがそれをみすみす逃す訳はない。炎を操り、回避しようとするリンクアを着実に追い詰めて行く。更に、炎の槍は常にリンクアを捉え、放つタイミングを伺っている。その上で、ルーナは新たな魔法を仕掛けていた。


「……!」


 リンクアが逃げる先に、地面から突然炎が吹き出した。その身体能力のおかげで直撃する事は避けられたが、リンクアとしては更に追い詰められた形だ。


(炎の波は以前迫ってきている。その上で地面から炎が吹き出してくる。これは奴がどこかのタイミングで仕掛けたものなのか、リアルタイムで操っているのかは不明だが、炎の槍のこともあって気にしなくてはならないことが多い。だったら……)


 地面から吹き出す炎はルーナがリアルタイムで操っているものである。炎の波の一部分を地表面付近に移動させ、リンクアが移動する先まで持っていっているのだ。

 しかし、そんなルーナの策にリンクアが為す術もなくやられる訳がないのは、凄まじい威力の炎の槍を二発喰らっても普通に生きているところを見れば分かることである。


「……お構いなしか!」


 リンクアは進む方向を変え、炎の波に向かって躊躇いなく突っ込んでいった。それは自分の体のことをよく分かっているからこそできることである。

 炎の波は炎の槍よりかは威力が低い。というより、リンクアに致命的なダメージを与えるためのものではなく、動ける範囲を制限することで炎の槍を確実に当てるための魔法なのだ。そのため、炎の槍二発に耐えられたリンクアであれば炎の波を突破することなどさして問題ではない。

 炎の波を超え、リンクアは一気にルーナへ近づく。この状況では炎の槍を当てるのは難しいし、地面からの妨害をしたところで止まらないだろう。

 

「クソ、改めて滅茶苦茶な奴だな!」

「お前も大概だぞ!」


 ルーナは後ろへ飛び、距離を取りながら炎の波を新たに準備する。これによって前後から挟み撃ちにすることができ、隙を突ける可能性が高まる。だが、流石に操る炎の魔法が増えてその規模も大きいため、これ以上炎を操りながら新たに魔法を生み出すのは難しいだろう。


(こいつは炎の槍レベルの魔法を再び直撃させないと止まらないだろう。しかし、ここにきて奴の集中力が高まっているように感じる。こうやって考えている時間もほとんどない。ここからは最善の選択を常にしていかなければならないな)


 新たに作り出した炎の波をリンクアに向かわせる。だが、リンクアは止まる気配がない。


(本当にまた突っ込んでくるつもりか? 確かに炎の槍よりは威力は低いが、それでも相当な痛みとダメージを伴うはず。分かっていたつもりだったが、やはりこいつはイかれてる)


 ルーナは炎の波を薙ぎ払うように動かし、そこにリンクアが突っ込んできた。

 この時、ルーナはリンクアの後ろにあった最初に作り出した炎の波を消した。それによって新たに作り出せる魔法が増える。


「……!」


 炎の波に飲まれている状態だと視界はほとんどないと言っていい。しかし、そんな状態でもリンクアは冷静に周囲の情報を整理していた。


(背後に迫っていた炎の波の気配が消えた。という事は新たに魔法を使う気でいるな)


 ここでリンクアは突如立ち止まり、炎の波に包まれながら思い切り地面を殴りつけた。


「な……!」


 地面は大きく抉れ、砂や土、石などが宙に舞う。それはルーナからするとリンクアの姿を隠すことになる。


「炎の波に飲まれながらよくそんなことができるな!」


 この状況でルーナはリンクアが炎の波から脱したと判断した。ルーナから見て反対方向に移動すれば姿を隠しながら炎の波から出ることができる。ただし、それだとせっかく詰めた距離がまた離れてしまうことになる。


「私が後ろの炎の波を消したことに気づいたのか。感覚の鋭い奴だ」


 ここでルーナが取れる選択肢はいくつかあるが、ルーナはいつでも魔法を作り出せる状況で少し静観することにした。追撃することができたかもしれないが、何か不穏な気配を感じたのだ。こういう時、迂闊に動いてしまうのは失策となることが多い。

 しかし、ルーナはハッとしてすぐにリンクアを飲み込んでいた炎の波も消す。そして抉れて障害物になっている焼けた地面のところまで行く。


「いない……!」


 ルーナは炎の波の後ろから出たのではないかと予測していたが、それは外れていたようだ。

 だが、ここでルーナは地面に注目する。


「……?」


 振動。振動しているのだ。何かと言えば、それは地面である。周囲にリンクアの姿はないが、先程リンクアが殴りつけた地面は大きく抉れていて、そこに目をつける。

 

「おいおい、そんな冗談みたいなこと……」


 そう言いつつ、ルーナはすぐさま火の槍をもう一つ作り出し、地面を見渡す。

 そして、地面の揺れが激しくなり、いよいよリンクアが地面の下から攻撃しに現れると思った時だった。


「っ……!」


 ルーナは思わず息を呑んだ。先ほどまで立っていた至って普通の地面は、奈落の底へ通じる深い深い穴になっていた。

 最初にルーナを襲った感情は、困惑であった。自分がその深い穴に飲み込まれる感覚と、突如として自分の見ている世界が変わってしまったような感覚に襲われた。

 このことにより、ルーナは一瞬思考停止してしまう。勿論、リンクアのあの魔法を忘れていた訳ではない。ただ、この広い空間で使うにしても、ルーナの体に触れた時や周囲の地面や木々くらいだと考えていたのだ。

 確かに、リンクアが地面を殴りつけてその後すぐに地面の下に潜っていったのであれば、大規模な魔法をかける時間はあると考えられるため、可能だろう。しかし、ルーナはリンクアのその身体能力や頑丈さの方に意識を割かれがちになっていた。それは炎の波に突っ込んできたり、炎の槍を二発喰らうところをしっかりと見ていたためだろう。

 ルーナの思考停止はほんの一瞬である。すぐにリンクアの認識阻害魔法によるものだと答えを出し、惑わされる必要はないと冷静になる。

 だが、地面が深い穴に見えているため、強烈な違和感を感じながらリンクアがどこから出てくるのかを瞬時に判断しなくてはならなくなった。


「く……!」


 今度はルーナは思わず目を瞑った。何故なら、穴に見えている部分の周囲から強烈な光が向けられたからだ。

 

(これは、教会の地下でやられた時と同じくらいの光だ。本当は何もない場所なはずなのに、本当に厄介極まりない魔法だ……!)


 ルーナが視界も潰された状況で、敵は現れる。

 リンクアはルーナから少しだけ離れた場所に現れた。この状況、誰が見てもリンクアが圧倒的有利に見える。しかし、実際は少し違った。


(認識阻害魔法を連続で、それもどちらも大規模のやつを行使した。そのせいだな、使う前とは比較にならないほど体力と魔力を消費している)


 大規模な魔法を行使すると疲労が大きいのは当然である。リンクアはただでさえルーナの炎によって体力を削られていたため、大規模な認識阻害魔法の行使によってかなり危険な水準に陥っていた。

 だが、それだけそれだけしなくてはルーナには勝てない、そう考えたのだ。


(奴の魔法も大規模なものが多い。流石にもうポンポンと炎の波や槍を作り出す事はできないだろう。まだ奴の周囲には二つの炎の槍があるが、この状況で正確に私に当てるのはほぼ不可能だ)


 リンクアはルーナが迂闊に動くことができず、かつリンクアからの攻撃を避けるのが非常に難しい状況なのを確認し、すぐに仕掛ける。

 

(この状況、必ずリンクアは私を仕留めに来るだろう。認識阻害魔法では殺せないから、必ず自分の高い身体能力を使うために近づいて確実に私の息の根を止めようとするはず。奴が地上に出て来る音がしたのは背後。という事は安直に背後から来ると考えていいのか?)


 ここの判断を誤ると、ほぼほぼ死ぬことになるだろう。リンクアに容赦などない。だから決して間違えてはいけない。

 リンクアは姿勢を低くし、ルーナの周囲を回り始めた。それは途轍もないスピードで、しっかり目を開けられていたとしても追う事は難しいだろう。


(どこから来るのか分からないようにするためか? シンプルだが、有効な手になり得るな。だが、こうなったのなら……)


 ルーナは炎の槍を二発出している状態だが、そこから魔力を振り絞り、自身の体の周りに灼熱の炎を纏った。


「これは……!」


 その炎は、先ほどまでの炎とは違う。先ほどまでの炎であればリンクアは耐えることができたが、この炎は無理である。


(明らかにレベルの違う熱だ……! これは私でも耐えるのは到底無理だ。奴の元へ行き、瞬殺できればまだなんとかなるかもしれないが、瞬殺できなければ私が炎でやられる。飛び込むのであれば、刺し違える覚悟が必要になる)


 リンクアが怯むレベルの凄まじい熱。ルーナの周囲だけ歪んで見えるほどの異常な火力である。だが、この魔法を行使しているルーナも余裕は全く無かった。


(体力、魔力の消費量が凄まじい。すぐにでも消えてしまいそうだ)


 そう、ルーナはルーナでこの状態を保持するのは非常に難しい。そしてそれをリンクアも分かっている。


「ははっ、流石にその状態を保ち続けるのは無理だろう!?」

「飛び込んで来てくれてもいいんだぞ!」

「馬鹿を言うな。確実に見ている勝利への道があるのだから、私はそちらを選ぶ」


 当然、リンクアが無謀な賭けに出るはずもない。しかし、そうなると今のルーナは絶望的だ。

 

「……そうか、なら仕方ないな」

「……?」

「諸共、吹き飛ばそう」


 リンクアはルーナの周囲を回っているが、その距離は実は近い。いつでもルーナの首元まで移動できるようにその程度の距離を保っているのだ。だからこそ、ルーナの近くで大きな爆発でも起きた場合、リンクアも巻き添えを食らう可能性があるのだ。


「何を……」


 リンクアが何をする気だと訝しんでいる時、ルーナは炎の槍を掲げた。それも、二本ともだ。更に、その二本の炎の槍は凄まじい魔力が込められており、リンクアが喰らった炎の槍より明らかに火力が跳ね上がっていることが分かる。


「美しい炎は猛っているぞ、リンクア!」


 そしてその炎の槍をルーナとリンクアの中間辺りの地面に向かって一切の遠慮なく、全力で撃ち込んだ。


「……!」


 炎の槍は凄まじい爆発を起こす。やはりその轟々と燃える炎は、これまで放ってきた炎の槍の威力を明らかに超えるものだった。しかも、それは二本である。そして、この炎の槍による爆発にはルーナ自身も巻き込まれている。

 魔法というのは、自分で生み出したものであれば自分自身へのダメージがない、という訳ではない。例えば、世莉架がよく使うウォーターカッターの原理を利用した水魔法は、生身の人間に当てたらいとも容易くその体を切断できてしまう。では、その水魔法を世莉架が自分自身に向けて放った場合、それは世莉架にも当然当たることになる。

 ルーナの場合、ドラゴンということもあって皮膚は非常に強く、炎の耐性にも強い。その中でも炎を得意とするルーナは生まれながらにその炎の耐性が他のドラゴンよりも高かった。

 しかし、だからといって全くダメージがないという訳ではない。特に、今のルーナは普段よりも相当無理をして出せる温度の炎を扱っている。少しずつではあるが、戦闘中にもジリジリとルーナの体を焼いていた。

 そんな状態で、この戦いの中で最高火力である炎の槍をすぐ近くに撃ち放った。その攻撃力は凄まじく、ルーナ自身にも致命的なダメージが入る可能性は十二分にあり得たが、そうでもしないとリンクアのその刃がルーナの首元に届いていただろう。

 

「ゴホッ、ゴホッ……」


 炎の柱は少しずつ収まってきている。その中から、ルーナの姿が確認できる。


「流石に、あの距離で爆発させていい魔法じゃないな。しかも、準備していた二本とも撃ち放ってしまった。だが、大規模な認識阻害魔法が消えている。しかし、私の体にかけられた魔法は依然として残っているな。ということは……」


 幸い、意識はしっかりしている。体の方は相当ボロボロで、今は人間の姿だが、そのドラゴンの皮膚は所々が焼け爛れている。ドラゴンの皮膚が焼け爛れるほどの火力というのは、異常と言っていいだろう。

 また、大規模な地面にかけられた認識阻害魔法は消えているが、ルーナの体にかけられた魔法は消えていない。認識阻害魔法の詳しい条件などは完全には分かっていないため、答えを出すのは難しいが、それでも大規模な魔法を維持できないほどのダメージを受けていると考えて良さそうだ。

 だが、こんな状況でもルーナは気を抜いていない。ルーナでさえ火力に耐えきれず、ボロボロになっているのだから、いくら魔王軍幹部と言えどリンクアはまともな状態ではないだろう。しかし、万が一ということがある。気を休めるのはリンクアの生死を確認してからだ。

 少しずつ炎の柱は勢いを失っていき、小さくなっていく。ルーナはその先を見据え、最後の力を振り絞ってなんとか動けるように構える。


(魔王軍幹部がイかれた強さなのはもう分かっている。まだ立って私と戦えるというのなら、とことんやってやろう)


 そうして炎は消え、煙も風で飛ばされていき、視界が良好になる。


「……」


 そこには、地面に突っ伏すリンクアがいた。完全に沈黙しているようで、ピクリとも動かない。


「……まだ、確認が必要だな」


 ルーナは慎重にリンクアの元へ近づく。突然起き上がって攻撃してくる可能性もゼロではない。

 倒れているリンクアのすぐ側に辿り着いたルーナは、少し体を屈めて倒れている体を観察する。その間も一切気は抜いていない。


(動く気配はない。ただ、死んでいるとも限らない。こいつらは間違いなく我々にとって脅威であり、害となる存在であったが、だからこそセリカは魔王軍の情報を欲していたな。だったら、生きて連れて帰ることができるのであればそれでいいのかもしれない。しかし、魔王軍幹部を消すことのできる機会などそうはないだろうし、息の根を止めることができるならそうした方がいいのかもしれない。クソ、頭が回らなくなってきた……)


 思考が怪しくなってきているルーナだが、絶対にやっておくべきこととしてリンクアの体に触れる。リンクアの体はルーナよりもボロボロだ。魔王軍幹部である時点で魔法やその他属性への耐性等は高いだろうが、それでもドラゴンであるルーナでさえ皮膚が焼け爛れるほどだ。少なくとも立ち上がれないのは当たり前だろう。


「……死んではいない、かな」


 魔王軍幹部の体の構造がどうなっているのかを知らないルーナは、探り探りでリンクアの体を触っていき、辛うじてまだ脈があることを確認する。とはいえ、このまま放っておいたらすぐにでも死んでしまうことだろう。

 

「こんな状態の私が今出せる全速力でバレコールの城まで戻って治療させたとして、助かる可能性はほぼゼロだろう。セリカには悪いが、魔王軍の情報なんかをリンクアから得るのは諦めてもらうしかないな」


 そう言い、ルーナはリンクアの体から手を離した。


「ぐ……」

「!」


 すると、本当に小さな声で倒れているリンクアが唸った。


「驚いた。こんな状態になっても意識があるとは。流石は魔王軍幹部の頑丈さだ」

「……お、お前、こ、殺して……やるから……な」

「自分の状態をよく理解していないのかいるのか分からないが、そんなことをまだ言えるってことはもしかして元気なのか? 全く呆れた奴だ」

「お、お前じゃ……私程度が……限界、だろ……?」

「何?」

「上には……上がいるって……話、だ……」

「……」


 上には上がいる。今回、世莉架達の敵になっているのは魔王軍の中で幹部という地位を得ている者達だ。しかし、実際にはその上に更に危険な怪物達がいる。

 魔王軍幹部のリンクア相手に相打ちを狙うかのような攻撃でなんとか勝利したルーナは、少なくとも現時点での実力では幹部以上の魔王軍には太刀打ちできないことになる。

 そしてそれは、他でもないルーナ自身が痛感していたことでもあった。


「お前に言われなくとも、理解したさ。自分の力不足と、魔王軍の脅威をな」

「く……はは。そうさ、絶望しろ……お前じゃ……お前達じゃ、何人いたって……ゴホッ、ゴホッ」


 リンクアは喋っていられることが奇跡のような状態でなんとか話していたが、咳き込んで苦しそうにする。そんなリンクアを、ルーナは静かに見ていた。


「何人いたって、勝てやしない……思い知らされるだけだ……」

「……お前も、そうだったのか?」


 勝てない、と断言するリンクアに、ルーナは尋ねた。


「……本当に……ムカつく奴だ……」


 段々とリンクアの瞼が閉じかけるようになっている。もう、最期が近いのだろう。

 そして、リンクアの答えはとても明確だった。


「そうか。お前みたいのでも、そうなってしまうほどなんだな」

「……」

「それじゃあ、私は行く。まだ仲間達がバレコール内で戦っているだろうからな」

「そう……しろ。最期は……一人で……」


 辺りが静かになる。サーっと吹いている風がとても心地よい。

 ルーナは指をパチンと弾いて指に火を灯す。それを静かになったリンクアの体に放った。その炎はパチパチと音を立ててリンクアの体を包んでいった。


「……ったく。勝ったていうのに、なんだか複雑な気分だ。いや、今はそんなことよりもやらなくてはいけないことがある。急がなくては」


 そう言うルーナの体は、リンクアによってかけられていた認識阻害魔法が全て綺麗に無くなっていた。その事実に安堵しつつ、ルーナはバレコール内に再び入り、世莉架達の助太刀をするために急いだ。


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