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(旧) 天才は異世界の救世主[厄災]となる  作者: ポルゼ
第一章 天才は異世界に連行される
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藍色の髪の少女

 その少女はメリアスと同じくらいの身長に、藍色の美しい髪、同じく藍色の目、そしてどこかの学生である事を証明しているような上下共に白い制服を着ていた。


「それで、貴方は学生か何か?」


 街を出てまたも東の森へ向かう最中、世莉架がハーリアに尋ねた。


「あ、そうです。今はルイン高等学校の一年生です」

「なるほど、ルインにも高校があるのね。という事は中等部とかもあるという事ね」

「はい、ルインにいる子供はみんなそこに入るから学生数はかなり多いですよ」

「そうなのね。それで、そこの学生が制服を着て堂々と冒険者なんてやっていいの?」


 学生が冒険者になっていいのかと、学業はどうするんだという世莉架の純粋な疑問だった。


「学業の成績が良い者はアルバイトを許されます。学業だけじゃなく、魔法や剣技共に成績のいい者は冒険者になることが許されます。勿論ある程度制限はありますが」

「なるほどね。じゃあ貴方は優秀ってことね」

「い、いえいえ! 自分なんてまだまだです。世の中には私より優秀な人はいっぱいいますから」


 ハーリアはそう言うが、それはただの謙遜で実際優秀なのだろうと世莉架は思っていた。


「ていうかハーリア、敬語でいいって言ったじゃん」


 メリアスが突然それまでの話と関係ない事を言い始めた。


「あ……そ、その自分は基本誰にでも敬語なので、ちょっと恥ずかしくて」

「クラスメイトと話すときも?」

「はい……友達いなくって……」


 ハーリアは少し寂しそうに言った。

 同じく友達などいない世莉架は友達なんていても邪魔なだけと考えているため、ハーリアの寂しさが理解できていなかった。否、理解しようとしなかった。


「親しい人なんてどうせ……」


 世莉架の小さな呟きは他の二人には聞こえなかったようだ。


「そうなの? ハーリアみたいな美人さんにはいくらでも友達できそうだけど」

「……馬鹿ね貴方」


 誰もが見惚れるような美女である世莉架には、メリアスの発言が全く人という生き物を理解していないように思えた。

 美形な人間は多くの人に羨まれるが、それと同じかそれ以上に妬まれ嫌われる。その上成績も良いとなれば周りから、特に同性から嫌われるのは仕方のない事である。世莉架ほどの人間になると攻撃をするのも怖がられるために直接嫌な事をされた事はないが、皆遠目から世莉架を見るだけで、積極的に関わろうとする人間はかなり稀だった。


「友達がいないから同じくらいの年齢の人と遊んだことがほとんど無くて、だから勉強ばっかりやってたんです。そしたら成績だけはそれなりのものになりました。そこでずっと気になっていた冒険者になってみたんです。冒険者になれば色んな所に行けるし、学校で学ばないようなことも学べます。ですので冒険者となり、見識を広げ、この広い世界の色んな文化を知っていけばこんな自分でも何か変われると思ったんです」


 そう語るハーリアは不安と期待が半々といったような目をしている。新しい世界、新しい業界に踏み出すのは誰だって怖い。期待の分、不安も大きい。上手くやれるのか、本当に自分がやれるのか、失敗して後戻りができなくなったりしないか、そんな風に考えてしまうのは誰しも同じであろう。

 だがそれでも踏み出せた者は強き者だ。例えそこで失敗しても、その度胸と胆力があればどうとでもなる。


「なるほど。貴方、その辺の一般人とは違うのね」

「どういうことですか?」

「貴方は大物になれる資質があるってことよ」


 ハーリアは世莉架の言葉に首を傾げていたが、自分を褒めてくれていると受け止めて笑みを浮かべた。


「それで学生が冒険者になるには学業だけでなく、魔法や剣技の腕も良くないといけないんでしょう? 貴方は戦闘に関しては何が得意なの?」


 そこは大事なところだった。正直世莉架は身体能力だけで見ても近距離、遠距離共に大得意だ。今はそこに魔法も加わっているため、前衛や後衛などというような普通のパーティならあって当然の役職を作る必要はない。

 しかし、世莉架は自分の実力が露見するのを良しとしない。できる限り平凡に見せなければならないと考えているため、ハーリアの得意分野次第でパーティでの自分の役職を決めようと考えていた。


「私は剣の腕は中の上くらいなんですけど、魔法は一応……得意と言えるくらいのものではあります」


 ハーリアは自身無さげに答える。剣の腕が中の上あるのにも関わらず、更にそれより得意な魔法の腕があるという事は、学校の中でもトップクラスの成績なんだろうと世莉架は感心していた。

 そしてハーリアの言っていることから、基本は後衛なのだと考える。


「そう。じゃあ貴方はパーティの中では後衛なのね」

「はい、そうなります。セリカさんは?」

「私は近距離の方が得意だから前衛よ」

「そうなんですか。それなら前衛、後衛共にいてバランスいいですね! ただ後はヒーラーが欲しいところですが……」


 実際は世莉架自身がヒーラーになれるし、そもそも世莉架がいる限りよっぽど怪我をする事はないので明確にヒーラーの役を作る必要はない。

 ハーリアはそこでメリアスを見た。


「メリアスさんはどういう役割なんですか?」

「え、私? うーん……」


 メリアスは神だから言うなれば役割は神として私達を見守ることね、なんて言えるわけもないので世莉架は黙っておく。


「ま、まぁ、一緒について行って見守る役割……かな?」

「は、はぁ」


 アホか、と世莉架は心の中でツッコんでしまった。まさか本当に冗談で思い浮かべていたようなことを言うとは、と。ハーリアも微妙な表情をして返答に困ってしまっている。


「その馬鹿は私達に色々な加護を与えることができるの。そういう能力を持ってる。だから戦闘に直接関わる事はないけど、役には立つわ」


 世莉架は仕方なく助け舟を出す。加護とはギフトのことだが、一先ずそういう事にしておいた。


「加護……バフ要員ということですね」

「そういうことよ」


 ハーリアがいい感じに理解してくれたようで、世莉架はホッと胸を撫で下ろした。


「ご、ごめん」

「はぁ、気をつけてよ」


 メリアスが世莉架に近づいて小さい声で謝った。

 それから森に入り、魔法の練習をして荒れ果てた場所を避けるように進んでいった。そして目的の薬草がある場所に着く。三人はその薬草を順調に集めて行く。


「そういえば、今日のお昼頃この森でとても強大な魔法が使われていたようですが、何かあったんですかね?」


 ふと、ハーリアが二人に尋ねる。それは完全に世莉架が放った魔法のことなのだが、世莉架は至って冷静に答える。


「えぇ。私も見たわ。何だったのかしらね」

「あんな魔法が使えるなんて、きっと凄い人なんですよ!」


 ハーリアは魔法が得意だからなのか、世莉架の力加減が分からないで放った魔法を思い出して目を輝かせていた。


「そうね」


 世莉架は何となく後ろめたい気持ちになっていた。

 そうして薬草を取り終わり、一行は街に帰ろうとする。


「……何か唸ってるわね」


 いち早く異変に気付いたのは世莉架だった。他の二人には聞こえていないようだが、世莉架の超人的な聴覚はきちんとその声を捉えていた。


「どうしたの? 何かいるの?」


 メリアスが尋ねる。


「えぇ。まだ少し遠いけど、明らかに人間ではない何かが数匹唸ってるわ」

「私には全然聞こえませんけど……」


 メリアスとハーリアは目を閉じて耳を澄ましていたが、やがてその声が聞こえるようになった。


「あ、本当だ! でも私達にも声が聞こえてるって事は……」

「すぐそこまで来てるわよ」


 世莉架が声のする方向を向く。既に声だけでなく、足音も聞こえていた。


「ハーリア、貴方は私の数メートル後ろから援護して。メリアスはハーリアの近くにいて」

「了解です!」

「うんっ」


 世莉架を先頭に、三人は戦闘態勢に入る。

 世莉架からすればこの世界で初めての人外との戦闘。人外がどれだけ強いのかを知るためにも、ここで戦闘になるのは良い経験になると世莉架は考えていた。

 そして敵はその姿を現す。


「オークです!」


 ハーリアがその敵の名を叫ぶ。

 オーク。それは地球でも創作物でよく登場する怪物だ。世莉架の想像通り、そのオークは創作物に出てくるものとほとんど同じ容姿だった。

 体躯は人間の二、三倍あり、大きな棍棒を抱え、筋肉質であるように見える。顔は醜く、言語を理解するとは思えない風貌をしている。


「この森にオークが出るなんて……まさかこの街、いやこの国にすらも魔物が押し寄せているというのですか……」


 ハーリアは怯えている様子だった。ハーリアの言っている内容から、この森にはオークのような怪物は普通出てこないという事が分かる。

 比較的平和と聞いていたフェンシェント国。人の悪意はひしひしと感じていた世莉架だったが、人外の危機も迫っていた。やはり滅びかけているとメリアスが言うように、この世界は改めて油断ならない危険な場所なんだと世莉架は再認識した。


「それを考えるのは後。とにかく今はこいつらを倒さないと」


 オークは全部で四体いる。世莉架が腰に差してある短剣を抜く。それと同時にオーク達が一斉に襲って来た。

 動きは世莉架からしたら止まっているのと同じくらい遅い。そのため、いつでも攻撃はできるが、まずはオークの力がどれほどなのか知るために、敢えて攻撃はせずに回避に徹底することにした。


「グオォォォ!」


 一番先頭にいたオークが棍棒を思い切り世莉架に向かって振り抜く。世莉架はそれを回避し、自分のいた所を見る。オークの攻撃は地面に当たることとなったが、そこは大きく抉れていた。


「あれは生身の人間に当たったら即死ね」


 やはり地球にはいない怪物だ。

 オーク共は立て続けに世莉架に攻撃を仕掛け、それを世莉架は回避し続ける。


「ハーリア、魔法の準備はどう?」

「できてます! 火の魔法なので注意してください!」


 世莉架はオークの攻撃を避けながら背後にいるハーリアの様子を見ていた。そしてハーリアが魔力を練り終わったのを確認して声をかけた。

 火の魔法を撃つと言うことで、世莉架はオーク達から距離を取る。


「フゥオーコ!」


 ハーリアは手をオーク達に向けてそう叫んだ。すると四つの炎の塊がオーク達に飛んでいき、オーク四体全てにその攻撃が当たる。

 当たると途端に炎の塊は激しく燃え盛り、オーク共は火だるまになって暴れていた。


「ハーリア凄いね!」

「そ、そうでしょうか……」


 メリアスは興奮した様子でハーリアに話しかけている。対するハーリアは照れていた。

 戦闘は終わりと思われたが、燃えているオークの一体が暴れて木にぶつかった。そして火がその木に燃え移り、一気に周辺が燃え始める。


「ハーリア、水魔法をお願い」

「は、はい!」


 世莉架はすぐに命令を出す。更に世莉架は燃えながら森の奥に逃げて行こうとする一体のオークを追う。

 そのオークは他のと比べて強靭で強いらしく、体が燃え盛っていてもなんとか逃げようとしている。

 ハーリアは火を消化するための水魔法を準備している。そして現在逃げるオークとそれを追う世莉架はハーリア達から少し離れた場所におり、木と炎に隠れて世莉架の姿がハーリアから見えることはない。

 ならば世莉架の出番だ。


「さっさと諦めなさい」

「!?」


 それまで逃げるオークの後ろにいたはずの世莉架が、気づいたらオークの進む道を塞いでいた。

 オークはそこで最後の力を振り絞り、燃えながら世莉架に向かって棍棒を振り下ろしてきた。


「これって報酬金が弾んだりするのかしら」


 大きい音を立てて棍棒は地面にぶつかる。そう、オークの振るった棍棒は何も捉えていなかった。すると後ろから呑気な世莉架の声が聞こえ、後ろを向こうとしたオーク。


「?」


 だが、突然オークの視界がグラっと傾いた。そしてそのまま視界が下がっていき、地面にぶつかる。

 オークは首を切られたのだ。全く目に見えない速度で。

 世莉架は振り下ろされる棍棒が脳天に当たる寸前まで微動だにしていなかった。それをしっかり見ていたオークは、絶対に当たると確信していた。だが、その当たる寸前に世莉架は動き、鮮やかに首を切った。事実、首を斬られてからほんの少しの間、オークは自身の首が切られていることに気づいていなかった。

 そのオークは何をされたのかも分からずに絶命した。


「アクア!」


 その頃ハーリアは水の魔法で燃え盛る森の消化活動を行っていた。


「ふう。これで全部消化できました」

「お疲れ様〜」

「ありがとうございます。それでセリカさんは……」


 メリアスの労いに感謝しつつ、ハーリアは世莉架を見つけるために辺りを見渡す。すると少し離れた場所から世莉架が歩いてくるのが見えた。

 やがて三人は合流する。


「みんな大丈夫?」

「大丈夫です」

「同じく!」


 全員の無事を確認し、街に戻ることにする一行。


「そういえばハーリア。貴方魔法を放つときにそのブレスレットとネックレスが光らなかった?」


 ハーリアが魔法を放つ時、ハーリアの右腕についている白いブレスレットと青いネックレスが光り輝いたのだ。


「あ、これは魔道具です。魔法を使うときの捕助をしてくれます」

「魔道具ね。それがあれば魔法が撃ちやすくなるの?」

「はい。魔力を練る速度が上がったり、威力が上がったり、繊細なコントールが可能になったり……効果は魔道具によって違います」

「そんな便利なものがあるのね」


 そう言って世莉架は自身のコートを見る。これには様々な機能がついているとメリアスが言っていたが、魔道具の役割も担っているのか気になったからだ。

 するとメリアスが世莉架のコートを指差し、ぐっと親指を立てた。それはつまり、世莉架の着ているコートにも魔道具としての機能があるということなのだと世莉架は解釈した。


「ハーリアは火と水の魔法を使ってたみたいだけど、他にはどんな魔法が使えるの?」

「一応全属性使えます。その中でも得意なのは水と風と闇属性ですね」

「全属性……って何があったかしら?」


 全属性なんて言われてもつい数時間前に初めて魔法を使った世莉架には分からなかった。


「火、水、風、土、光、闇です」


 それは日本のゲームや漫画でよく聞く属性だった。


「六属性あるのね」

「はい。ですが極少人数しか扱えませんが、六属性以外にも特殊な属性があります。それは一個人しか使えなかったりするので、かなり希少性が高く、有名な魔術師の方々にも少ないですがそれを持ってる人はいます。例え基本の六属性が使えなくても一つの特殊属性を持ってる人はそれだけで宮廷魔術師になれたりしますね」


 つまりその特殊属性は基本の六属性を持っていなくともそれらを凌駕することもあるということだ。希少性というのはどこの世界でも思わぬ力を発揮するものなんだなぁと世莉架は考えていた。

 ちなみに世莉架は当たり前のように全属性が使える。日常的に便利な魔法の取得のための練習時、最初にどんな種類の魔法が使えるのか試したところ、ハーリアの言う全属性を使えることができた。しかし、世莉架が特殊属性を使えるのかどうかは未だ不明だ。


「そうなのね。ハーリアは六属性以外使えないんでしょ?」

「はい。でも六属性を扱えることができる人は完全魔術師(ペルフェットメイジ)と呼ばれ、特殊属性が使えなくても特殊属性持ちということになります」


 それを聞いた世莉架とメリアスは心底驚いた。ハーリアが優秀なことは彼女の語っていた冒険者になるための条件や実際に魔法を行使したあたりで分かってはいたが、そんな称号が貰えるほど凄いとは思っていなかったのだ。

 ハーリアは自身の実力に反して自信が異常なほど無いため、世莉架にもハーリアの凄さを正確に測ることはできなかったのだ。


「貴方その若さでその称号を持ってるってかなり凄いことなんじゃない?」

「……分かりません。昔から神童なんて呼ばれてたんですが、そんな風に持て囃されても学校生活が楽しいと感じたことは数えるくらいしか無いです。家で家族と一緒にいる時だけは心が安らぎましたが……」


 これはなかなか根が深そうだ、と世莉架とメリアスは感じていた。


(まぁ、これから少しずつ自信をつけていけば大丈夫ね。この子は芯が強い)


 基本他人に興味を持たない世莉架だが、魔法が使え、魔物が蔓延る危険な状態の異世界で出会った少女に興味を持ち始めていた。

 そしてそのことに少し驚く。異世界というあまりに現実離れした状況に少し変になっているのかなと思いつつ、街に戻るのだった。





 **





 街に戻ってきた一行。依頼達成を伝えるため、冒険者ギルドに寄る。

 そして依頼達成を認められ、報酬金を受け取る。それは最初の依頼よりも多く、少なくとも今夜の宿代は確保できそうだった。

 続けてオーク討伐の話をすると、受付嬢は焦った様子でギルドの管理者らしき人に伝えていた。そして報酬金は実際にそのオーク達の死体を確認してから決まるということになった。


「セリカさん達はこれからどうしますか?」


 冒険者ギルドを出たところでハーリアが世莉架達に尋ねた。


「とりあえず今日の分の宿代は稼げたと思うから適当に安い宿を探してそこに泊まるわ」

「そうですか。明日も依頼を受けますか?」

「えぇ。しばらくは依頼を沢山受けてそれなりの収入を確保したいからね」

「で、では明日も同行していいですか?」

「別に良いわよ」


 ハーリアは俯きがちに世莉架に聞く。ハーリアが優秀な人材であることは分かっているし、難しい依頼を受けるつもりもないので承諾する。


「ありがとうございます! では、また明日冒険者ギルドで!」

「えぇ、またね」

「まったねー!」


 ハーリアは満面の笑みで礼をし、三人が別れようとした時だった。


「ハーリア?」


 ハーリアに声がかかる。そこには中年くらいの夫婦が買い物袋を持って立っていた。


「父さん! 母さん!」


 それはどうやらハーリアが唯一安心できるという両親、つまり家族のようだ。


「偉いぞ、今日も依頼を受けに行ったんだな。ん? 今日はいつものパーティじゃ無いのか?」


 ハーリアの父親が世莉架とメリアスを見てそう問いかける。

 

「うん。今日は違う人達とパーティを組んでみたの。同じ新人同士、仲良くやれるかなと思って」

「そうか。それは良いことだ。それで、ここで何をしてたんだ?」

「あ、もう今から別れるところだったよ。彼女達は今日は宿で泊まるらしいんだけど……」

「そうなのかい? あぁ、ならば彼女達に家に来てもらったらどうだ? 我が家はそれなりに広いから余裕があるし、歓迎するよ」

「ほ、本当? セリカさん、メリアスさん、どうですか?」


 いつの間にか世莉架達がハーリアの家に行くか行かないかの話になっていた。


「……いや」

「はい! 是非ともお邪魔したいです!」


 世莉架は断ろうとしたが、メリアスが遮った。

 世莉架はそんなメリアスを睨む。


「人の好意を無駄にするなんてダメだよ。ここはお言葉に甘えよう」

「……」


 世莉架はメリアスを見てから、ハーリア、その両親と見る。

 そして仕方ないといった風にため息を吐き、渋々頷いた。


「それでは今から行きましょう。丁度買い物の帰りでしたしね。お前も良いだろう?」

「はい。ハーリアの冒険者仲間なら歓迎します」


 ハーリアの父親は妻である女性に確認をし、承諾を得る。


「では、こちらです」


 ハーリアの家に行く道中、メリアスは楽しそうにハーリア達と話していた。

 世莉架はそこから一歩引いたところを歩いていた。


(……最悪の展開かもね)


 世莉架はため息をつく。メリアスは分かっていないのだ。ハーリアの両親のことを。

 あの目を、体の些細な動きを、言葉の節々を聞いて世莉架は分かってしまった。


(この世界に来てこんな早くに手を汚すのか)


 世莉架はこれから起きるであろうことを想像し、更にその時のハーリア、メリアスの表情をも想像し、憂鬱な気分になるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ハーリアさん、謙遜しているけどよく考えたらめっちゃ強い優等生じゃん! 女神様、もしかしたらセリカさんが居ないと直に騙される性格っぽい。 更にそこで家族に不穏なフラグ…
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