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(旧) 天才は異世界の救世主[厄災]となる  作者: ポルゼ
第一章 天才は異世界に連行される
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魔法

 世莉架とメリアスは黙って街の外まで来ていた。

 冒険者としての初めての仕事はよくある採取クエスト。街の周りは草原だが、その草原を抜けると東に森があり、西側には山々がある。今回の仕事は東の森の方にある薬草を数本取りに行くというものだ。


「……」


 なんとなく気まずい空気が流れているため、二人は全く会話しない。

 世莉架は街を出たあたりで握っていたメリアスの手を離していた。


「世莉架、目的の薬草は東の森にあるんだよね?」


 メリアスが沈黙を破るかのように尋ねた。

 そもそも世莉架が黙っていたのはこれからどうするか、という事を考えていたからだったが、メリアスは先程の男達の絡みで世莉架が静かに怒っているのかと思っていたため、黙っていたのだ。


「そうよ。そこで魔法の練習もするわ」

「そっか。それと……さっきはありがとう」

「貴方を助けたというよりは、絡まれて話が全然前に進まなかったから追い払っただけのこと。感謝する必要はないわ」


 メリアスは世莉架に感謝の意を述べたが、世莉架の方は全く気にしていないようだった。


「……世莉架、こういう時は素直に受け取っていいんだよ」

「本心を述べただけよ」

「ま、今はそれでもいいわ」


 そんな会話をしながら二人は歩いて行くと、森に着く。

 樹海という程ではないが、それなりに緑が生い茂っている空気の美味しい場所だ。

 世莉架は目的の薬草のイラストが書いてある紙を見ながら森に入って行く。


「あった。これね」


 森に入って十分ほど経ってから目的の薬草はすぐに見つかった。


「本当に初心者中の初心者がやるような依頼だったんだね」

「最初なんだからそれでいいの。さっさと集めて魔法の練習しないと」


 それから二人はどんどん薬草を見つけ、あっという間に必要な数を集め終えた。


「さて、それじゃあ魔法の練習ね」


 世莉架はそう言って開けた場所を探し始める。顔には全く出てないが、実は魔法を使えることにワクワクしている世莉架だった。

 更に森の奥に入っていくと、少し開けた場所を見つけた。そこで魔法の練習をすることにした。


「さて……魔法ってどう使うの?」


 世莉架は一先ずメリアスに尋ねる。


「うーん、実は私も使ったことなんて無いし、ちゃんとは知らないんだけど……基本は体の中にある魔力を練って自分が使いたい魔法を具体的に想像する。そしたらそれを体外に出して具現化させる……って感じ?」

「……まぁ、そりゃそうでしょうけど」


 そんなことは魔法が創作物にしか出てこない地球で生きる者でもなんとなく分かる。

 とはいえ、この世界で魔法を使える者は息をするのと同じように簡単にできるのかもしれない。

 つまり、魔法の扱える冒険者に魔法を教わるのが最も効率的だろう。


「とりあえず魔法をイメージしてやってみるか……」


 他の冒険者に魔法を教わるのは街に帰ってからにするとして、とりあえず自分で扱う努力をすることにした。

 イメージするのは王道の炎系の魔法。一メートルくらいの大きさの炎の球を撃ち出すイメージをする。


「……」


 そこで世莉架は今までに感じたことのない違和感を自身の体に感じていた。これが魔力なのだとすると、後は魔力を外に出して想像していた炎の球を具現化させればいいだけだ。

 ゾワゾワと体の中で練り上げられている魔力が大きくなっていく。世莉架はそのまま手を自身の前にかざし、体内の魔力を炎の球にして外に出すイメージをする。

 すると世莉架の手から一メートルほどの大きさの炎の球が撃ち出された。


「よし」


 世莉架は人生初めての魔法を撃つことに成功した。魔力は未知の感覚だったが、これが現代の地球でも使えるようになったら色々と大変なことになりそうだという呑気な事を考えていた。

 炎の球は飛んでいって一つの木にぶつかった。世莉架の中では木にぶつかって爆発し、およそ半径十メートル以内が燃え盛るのを期待していた。

 しかし、実際は違った。世莉架はまたも自身に与えられた力を甘く見ていた。


「え……」


 炎の球は木に当たると凄まじい爆発を起こし、高さ数十メートルはあるであろう炎の柱が出来上がった。

 恐らく街からでも見ることができるであろう大きさの炎の柱。まさに漫画などでしか見ることのない光景が、今自分が放った魔法によって見えているという不思議な状況に、世莉架はほんの少し固まっていた。


「……ってこれやばいんじゃない!? 森消失するよ!」


 同じく呆然としていたメリアスがハッとして世莉架に呼びかける。それを聞いた世莉架はすぐに行動を開始する。

 炎の柱は段々と小さくなっていって消えたが、周りの木々に炎が移り、現在世莉架たちの周りは一面炎で真っ赤である。


「水の魔法をイメージして……」


 当然、炎を消すのは水である。世莉架は膨大な水の放出をイメージして魔力を練る。

 ちなみに魔力を練るというのはつまるところ、集中するということである。世莉架の集中力は常人のそれを遥かに凌駕しているため、簡単に魔力を練ることができる。


「よし、準備できた。メリアス、かなり広範囲の水魔法を使うから私の後ろにいて」

「う、うん!」


 世莉架は少し離れたところにいたメリアスに呼べかける。

 メリアスが世莉架の背後に来たのを確認し、水魔法を放つ。

 世莉架の手から大量の水が凄まじい速度で放たれた。それは周りの木々全てを覆っていく。燃え盛っていた木々はその水によって消化されていった。

 やがて水魔法が止まる。世莉架たちの眼前には消化された木々があった。しかし、世莉架に近かった木々はあまりの水の威力に根元から倒されていた。


「……なんか大変なことになってしまったけど、大丈夫でしょう」

「本当に大丈夫かなぁ……」


 大惨事になりかけたが、結果的に世莉架は魔法が使えるようになっているのをきちんと確認できた。しかし、これから攻撃系の魔法を練習するときは、もっと街から離れていて広大な草原などでやろうと世莉架は心に決めるのだった。


「後は日常的に使えて便利な魔法を練習しとこうかしらね。魔法の制御もしっかりしないと小さな魔法で大変なことになってしまうかもしれないしね」

「そうだね。私が世莉架に魔法を使えるようにしておいてなんだけど、正直ここまでとはね……貴方の能力を甘く見すぎたかも」


 メリアスは世莉架の秘められた潜在能力をも把握しているつもりだったが、ここに来て神であるメリアスの予想を上回るその能力を見て、改めて世莉架の異常性を理解した。

 それから世莉架はしばらくの間、日常的に使えるであろう魔法の練習をした。日常的に使えるような魔法は魔力の繊細なコントロールが必要になる。世莉架の魔力はあまりに膨大すぎるため、繊細なコントロールには多少時間がかかり、数時間かけて沢山の魔法の練習をした。


「世莉架ー、お腹空いたー」


 世莉架が魔法の練習をしている時、近くでブラブラしたりして暇を持て余していたメリアスが魔法の練習をひと段落させた世莉架に声をかけた。

 対する世莉架は数時間ずっと集中していたのにも関わらず、全く疲れた様子を見せていなかった。


「貴方女神でしょう? お腹が減るなんてことあるの?」

「下界に降りると私の体は下界に適応して普通の人間とほとんど変わらない体になるの。だから今の私は眠たくなるし、お腹も減る。ギフトを他者に与えられるという神の力や容姿なんかは変わらないけどね」

「そうなのね。じゃあ貴方、この世界にいる時は死ぬこともあるってこと?」

「寿命はないけど、例えば魔物に襲われて喰われたら死ぬわよ。さっきも言ったけど今は普通の人間の体だからね。そもそも神が下界に降りるなんて本当に稀なことなの。だから下界に降りるというのは神にとっては命を賭ける博打。下界に降りたら死ぬことを覚悟しなければいけないし、また唯一神が死にうる原因」

「……果たしてそこまでする価値がこの世界にあるのかしらね」

「私は神で、私の管轄している世界はここダージスと地球の二つ。神たる私が世界を救うのを諦めることなんてあり得ないし、命を賭けるには十分よ」

「そう」


 世莉架からすると世界のために命を賭けるなど、馬鹿馬鹿しくて愚かな行為だという認識だ。しかし、メリアスは神であるのだからそれくらいしてもらわなければ困るとも思っていた。


「貴方随分人間っぽいわよね。神って聞くともっと神々しい雰囲気を纏ったものを考えてしまうけど」

「何言ってんの。神々しいでしょうが」

「全く」

「酷いなぁ」


 メリアスは驚くほど美人ではあるが、特に神々しさを感じていない世莉架であった。


「今は午後二時ってところかしら。確かにお腹は空いたわ。街に戻って報酬をもらってご飯を食べましょうか」

「行こう行こう!」


 メリアスは早くしろと言わんばかりに世莉架の手をとって街に戻るのだった。


 来た道を辿って街に戻って来た二人。寄り道せずに真っ直ぐ冒険者ギルドに向かい、入って行く。

 依頼だった薬草を受付嬢に渡し、報酬を貰う。


「五千イアね……」


 初めての依頼達成で得られたお金は五千イアだった。


「不満?」

「まぁ、これだけじゃあ生きていけないからね。イアは日本の円と同じ感じなんでしょう? そうなると五千イアでは昼食と夕食の分くらいは賄えると思うけど、宿代がないわ」

「あ……確かにそうなるね。じゃあお昼ご飯食べたらまた依頼受ける?」

「そうね。今度はもう少し難易度の高い依頼を受けましょう」


 話はまとまり、初報酬を片手に二人はご飯を食べるために飯屋を探す。


「もうお昼時のピークは過ぎたからどこも結構空いてるわね」

「そうだね。あ、こことかどう?」


 二人は適当に見つけた飯屋に入る。

 テーブルに座り、メニューを見る。


「……流石は異世界。全く聞いたことのない食材ばかり。でも実際は名前が違うだけで地球にある食べ物と同じようなものなんでしょうけど」

「その通りだよ。でもここに書いてある食材が地球で言うどの食材に当たるのかは私にも分からない。おすすめって書いてあるこれでいいんじゃない?」

「そうね」


 メニューを見たとき一番最初に目に入るおすすめの料理を二人は注文する。


「それで、世莉架はどうやってこの世界を救っていくの?」


 料理が来るのを待っていたメリアスがそう尋ねた。


「……」


 そもそも救うなんて言っていない、と言いそうになるのを世莉架はこらえた。


「まず当面はこの世界で普通に暮らしていける環境を作ることが大事だと思うんだけど、それが終わったらどうしていくの?」

「……さぁ、まだそんな事考えていないわ。とりあえず依頼をこなして稼ぐのと同時に、この国の事だったり、魔物たちの事、他国他種族の事、色んな情報を集めないと何も始まらないわね」

「そっか。情報は大事だもんね」


 メリアスはコップに入っている水を飲む。


「一見平和に見えるこの街だけど、やっぱり良くないかもね」

「え、そう? かなり平和な方だと思うよ。この街だけじゃなくてフェンシェント国がね。他国なんかではしょっちゅう戦争してるみたいだし」

「確かに戦争はしてないんでしょうね。そういう雰囲気は感じられない。でもね、どんな平和に見える街にでも悪意はある。悪事を働く者はいるの。日本だってそうでしょう。世界一犯罪が少ない国だけど、犯罪がないわけじゃない。それどころか軽犯罪くらいだったら毎日起きてる。私みたいにバレてないだけで犯罪をし続けている者も腐る程いる。人間の社会なんてそんなものよ」

「……」 


 世莉架の社会を諦観しているような態度にメリアスは黙ってしまった。


「でも、やっぱり人間社会には良いところもあるよ。悪いところもあるけど、必ず良いところもある。それは絶対だよ」

「それはそうね。まぁ、話を戻すわ。私がこの街をざっと見た限り、間違いなく裏で悪事が行われている」

「ほ、本当に?」

「地球であんな生き方してた私はね、人の思考や心理を読み取るのが得意なの。言動、態度、目線……色々なところからその人の思惑が読み取れる」

「す、凄いね。それで悪意を持っている人がいたの?」

「えぇ、いたわ。普通にそこの大通りを歩いている。ここがまだ平和でマシな街ならこれからここで過ごすことになるわけだし、いずれ私達にとって目障りになる時が来るかもしれない。そしたら潰さないとかもね」


 潰す、その言葉を発した時世莉架の目が少し細められた。

 それは鋭く禍々しく、相手を射抜くような目。これを命の奪い合いの場で向けられたら相当な恐怖だろう。


「そっか。この世界の平穏のために歩む私達を阻む者はみんな蹴っ飛ばしていこう!」


 蹴っ飛ばす、などと言う神らしくない言葉に世莉架はフッと笑みを浮かべた。


「まぁ、臨機応変に対処していきましょう。まだこの世界に来て一日経っていないし、やらなきゃいけないことは盛り沢山。でも焦らず慎重にいきましょう」

「うんっ」


 二人は頷き合い、これからの方針を簡単にだが決めたのだった。





 **





 食事を終え、お金を稼ぐために冒険者ギルドへまたも赴く。

 依頼を見ていると、先程よりも遠い場所にあり、かつ少しレアな薬草を入手するという依頼があった。


「これ良さそうね。さっきよりも報酬は高いし、一先ず今夜はなんとかなりそう」

「そうだね。じゃあ早速行こう!」


 相変わらず元気なメリアスを先頭に、二人は冒険者ギルドを出ようとする。


「あ、あの……」


 そこで声をかけられた。世莉架は一瞬またかと思ったが、声が女性であったため不快な絡みではないと考えた。


「何かしら?」

「え、えと、これから依頼を達成しにいくんですよね? もし良かったら私も連れて行ってくれませんか?」


 そこに居たのは日本で言うところの高校生くらいに見える女の子。その子の顔を見て世莉架は気づいた。


(私の試験を見ていた人ね)


 世莉架は試験を受けていた時にその場にいた人達全員の顔を記憶していた。そのため、訓練場の端っこにいた女性冒険者達の一人だということが分かった。

 しかし、世莉架はすぐに首を縦に振ることはしない。まずは相手の表情や言動から思惑を読み取る必要がある。

 結果、その少女に何か裏があったり、こちらを陥れようとするような悪意はないことを見抜いた。

 だがそれでも世莉架は迷う。特段一緒に行動する必要がないからだ。世莉架の実力なら大抵の敵は魔法を使わずとも容易く倒せるし、情報取集が大事とはいえ、この少女から重要な情報が手に入る気がしなかったのだ。


「……ダメですか?」


 少女は世莉架が考え込んでいる様子を見て俯きながら言った。


「ううん、ダメじゃないよ。一緒に行こう!」


 そこで考えている世莉架の代わりにメリアスが答えた。


「ちょっと」


 当然世莉架は抗議する。


「なんで世莉架は迷ってるの? こんな可愛い子が付いて来たいって言ってるのに断るなんて普通考えないよ。別に難易度の高いクエストじゃないんだし」

「そういう問題では……はぁ、分かったわ。でも一つ聞かなきゃいけないことがある」


 メリアスに何を言っても無駄だと感じた世莉架は渋々その少女の同行を許可した。


「な、何ですか?」

「どうして私達なの? 私が試験をしている時貴方は訓練場にいたわよね? という事は私が今日冒険者になったばかりの新人だという事を知ってるでしょ。もっと実力、実績のある冒険者について行った方が絶対良いと思うんだけど」


 それに関しては同感なのか、メリアスは口を挟まずにその少女を見つめる。


「えっと、私もまだ冒険者になったばかりで……仮だけどあるパーティにも入ってたんだけど、なかなか馬が合わなくて……そこで貴方を見つけたんです。お互い新人同士、今度は仲良くやれるかなって思って」

「……私って結構話しかけづらいって言われるんだけどな」


 世莉架は何やらぼやくが、一応納得はしていた。


「決まりね! じゃあ行こっか。あ、その前に貴方の名前は?」


 メリアスがその少女に名前を尋ねた。


「あ、申し遅れました。私、ハーリア・メイスと言います。よろしくお願いします」


 その少女、ハーリアは名乗って礼儀正しく頭を下げる。


「世莉架よ」

「私はメリアス。よろしくね、ハーリア」

「セリカさんとメリアスさんね」

「さん付けも敬語もいらないよ。もっとフレンドリーにいこう!」

「は、はい! ありがとうございます」


 こうして二人はハーリアと共にクエストに向かうことになったのだった。


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