表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(旧) 天才は異世界の救世主[厄災]となる  作者: ポルゼ
第一章 天才は異世界に連行される
26/59

世界は常に非情である

「ここね」


 アリーチェとハーリアは攫われた人達がいるという場所に繋がる階段の前まで来ていた。


「行こう」

「うん……」


 アリーチェはとても冷静に見える。先程も激情を出来る限り表に出さず、それでも内なる怒りを発散するように男二人を痛めつけて殺した。怒りのあまり逆に冷静になっているのだ。

 ハーリアの言葉により、アリーチェは攫われた人達の救出を最優先とし、闇ギルドの人間の殺害、捕縛は二の次にしようと決めた。

 長い階段を降りていくと、固そうな扉が現れた。


「これは……鍵なんて無いし、壊していくしか無いかな」


 ハーリアは一歩その扉に近付いて言う。

 当然その扉の鍵は持っていない。また、アリーチェが手に入れた変な形をした鍵で開くか試したが、ここではもう使えないようだ。


「えぇ。音はあまり立てないようにね」


 ハーリアは頷き、扉に手をかざす。

 その時、突然扉の鍵が開き、扉が開き始めた。


「!」


 偶然にも、そのタイミングでアリーチェ達の反対側から扉を開けてきた者がいたのだ。

 そこには三人の男がいた。アリーチェとハーリアは瞬時に近寄る。


「な、こいつら……!?」


 男達は二人に気付いたが、もう遅い。アリーチェは一応殺さないように二人の男の頭上へ飛び、思い切り足で頭を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた二人の男は壁に衝突し、気絶した。

 ハーリアは土魔法を使い、残った一人の男を横から大きな土で吹き飛ばし、気絶させた。


「よし」


 二人はハイタッチし、扉の先に進んだ。

 そこには、とても広い空間があった。そして、世莉架の言っていた通り嫌な光景が広がっていた。


「これは……」


 間違いなくそこは攫った人達を収監している所である。二人がその空間に入って真上を見ると吹き抜けになっており、三階まであることが分かる。そして、見渡す限りの沢山の檻があったのだ。

 中に誰もいない檻もあるが、やはり入っている人達がいる。

 そしてその誰もが生気が無く、ただただ絶望を顔に貼り付けてそこにいた。

 アリーチェは奥歯を噛み締める。見たくも無い、知らなくてよかった光景だ。しかしここで目を逸らすわけにはいかない。今からここにいる人達全員を解放するのだから。


「ハーリア、一人一人解放する前に、まずはここにいる敵を全員倒してしまいましょう」

「そうだね」


 二人は覚悟を既に決めている。だからこそすぐに行動することができた。

 音を立てないように進んでいると、話し声が聞こえてきた。それは檻の中に入っている人では無く、外で話している闇ギルドの人間の声だ。

 二人はすぐにそこへ向かう。すると二人の男が椅子に座って話していた。


「ふっ」


 その男達も即座にアリーチェが気絶させた。


「あ、あんた達は……!?」


 アリーチェが気絶させた所をたまたま見ていた近くの檻に入っていた男が声をかけてきた。自分達を助けにきた可能性があるという希望を抱いからか、急に目に生気が宿った。


「静かに。私達は貴方達を救いにきた。けれど、まだ待って。まずはここにいる闇ギルドの人間を全員倒して制圧してからよ」

「あ、あぁ。そうか、分かった。本当にありがとう」

「礼を言われることでは無いわ。当然のことよ」

「それでもだ。あ、だが恐らく上の階にいるであろうある男と女には気をつけてくれ」

「それはどういう奴なの?」

「男は屈強な戦士のような格好をしている。女も同様だ。噂では奴らはこの闇ギルドの中でもかなり強力な力を持つ幹部レベルの人間らしい。実際、この収監部屋を支配しているのは奴らだ」

「なるほど。流石に手強い人間くらいいて当然よね。ありがとう、情報感謝するわ」


 どうやら強い敵がいるという話を聞き、アリーチェとハーリアはすぐに二階へ上がる階段へ向かった。


「今日は見張りが少ないのかしら。一階には二人しかいなかったし」

「そうかもね。でも、多分上に行くほど見張りは増えるよ」

「?」


 ハーリアの言葉にアリーチェは首を傾げるが、気にせず階段を上がる。

 階段を上がるとそこには一階と同じような光景が広がっていた。

 しかし、明らかに見張りの数が多い。


「本当に増えたわね」


 二人は一先ず身を隠す。


「檻の中を見てみて。一階の檻にはほとんど人間しか入ってなかった。でも、奴らは様々な種族を攫っているはず。更に、人間よりも獣人や亜人、それこそエルフなんかの種族の方がきっと価値が高い。つまり、一階から上に行く毎に価値が高い種族が入れられてるんだよ。だから自然と見張りも多くなる」

「なるほどね」


 アリーチェはハーリアの考察に納得する。二階の檻には人間では無い種族が多く入っていた。しかし、ざっと見渡してもエルフの姿は見えない。やはりエルフの価値は相当に高いらしい。


「でも、見張りは大したことなさそうね」

「うん。ここで隠れてても仕方ないし、一気にやっちゃおう」


 二人は隠れていた所から飛び出て一気に見張りを制圧しに行く。

 やはり二階の見張りの実力は大したことがなく、すぐに制圧が完了した。


「これで後は三階だけだね」

「えぇ。きっと上にはエルフだけじゃなく、希少な種族が多く捕らわれているはず。まず間違いなく一階の彼が言っていた実力者がいるわよね」

「ここからは出し惜しみはせず行こう」


 二人はすぐに三階へと向かう。周りにいる檻に入った様々な種族からの激励を受けつつ進む。

 捕まった者達は誰も彼も、悪いことなどしていない。闇ギルドの人間によって、その後ろ盾となっている権力者によって人生を無慈悲に壊されたのだ。家族や友人といった大切な人と引き裂かれた者もいれば、裏の人間に買われて家畜同然の扱いを受ける者、既に殺されてしまった者もいるだろう。そんな者達を嫌という程見てきて、いつ自分もそういう目に合うかをずっと怯えていた彼らからしたら、見張りを一瞬で倒してしまうようなアリーチェとハーリアはあまりに眩しい希望なのだ。

 二人は激励を受けたことにより、自然と体に力が湧いていた。この惨状を、裏社会によって苦しみ絶望した者達のために全力をもって叩き潰そうと覚悟を更に固くした。

 急いで三階に上がる。そこは一階と二階ほどの広さは無いが、明らかに厳重に収監されている様子だった。


「……貴様ら、何者だ?」


 二人に声がかかる。三階の真ん中に、男と女が一人ずついた。聞いてきたのは男の方だ。

 男は聞いていた通りの屈強な戦士のような風貌をしている。女の方も、しっかりと鍛えていることが分かり、戦士の格好をしている。

 その者達は椅子に座り、テーブルの上でお酒を飲んでいたようだ。

 突如現れた侵入者を見つけた瞬間、目つきは鋭くなり、強烈な殺意を向けてきた。今まで出会ってきた敵とは一線を画していることは間違いない。


「ここにいる全ての捕らわれている人達を解放する」


 アリーチェは敵の質問には答えず、意思表示をした。


「なるほど。こんな展開は久しぶりだ。数年前にもこんな風に侵入してきて奴がいた。まぁ、最後には俺達に負けてみっともなく命乞いをしてきたから遠慮なく殺してやったがな」

「……外道が」

「はっはっは! なんとでも言え。結局こういう仕事はいつの世も必要とされている」


 アリーチェとハーリアは怒気を抑えつつ、敵をしっかり見据える。


「どうやらやる気満々なようだ。よし、やるぞ」

「めんどくせぇな。さっさと消して酒が飲みたい」


 男が女に戦闘を促すと、女は面倒臭そうに立ち上がる。

 男は大きなハンマー、女は剣を持っている。


「悪いな嬢ちゃん達。ここまで来れた時点でそこらの一般人よりは実力があるんだろう。しかし……幾度も死線を乗り越えてきた俺達には勝てない。諦めてここで死ぬか奴隷にでもなって生き長らえるんだな」

「……あ?」


 アリーチェは敵の殺意を遥かに超える殺意を放つ。


「おー、怖い怖い。誰か大事な人でもここにいるのかねぇ」


 女は呑気に喋っている。そして喋り終わった瞬間、アリーチェの姿が消えた。


「!」


 突然消えたアリーチェに男と女は身構え、周囲をよく観察する。


「私は気にしなくていいんですか?」


 そしてハーリアはアリーチェが消えた瞬間から魔法を練り始めていた。

 風と水を組み合わせた魔法を一気に撃ち放つハーリア。ただそれは避けられてしまった。


「……おいおい、なんだこの威力は」


 その魔法は壁に当たったが、壁は大きく削り取られて壊れていた。

 男が魔法に気を取られている時、その背後にアリーチェは迫っていた。


(まずは一人)


 アリーチェはその速さを活かして男の首を切り裂こうとした。しかし、男はニヤリと笑い、しゃがんでアリーチェの攻撃を回避した。


「なっ……」


 そして男は持っていたハンマーを背後に向けて思い切り振る。

 辛うじてその攻撃を避け、アリーチェは距離を取る。


「随分早いな。しかし、気配が分かれば避けられる」

「なら反応できない速度で動くまで」

「ほう、やってみろ」


 アリーチェはすぐさま動き、凄まじい速さで敵の目から逃れようとする。

 だが、戦闘経験値故か、男は気配でアリーチェの場所を概ね把握していた。


(これなら……!)


 アリーチェはまたも男の背後に飛び、今度こそ首を切ろうとする。


「まだまだ若いな」


 しかし男は横にジャンプして避け、素早くハンマーを振り下ろす。


「くっ……」


 なんとか身を捩ってハンマーの攻撃を回避する。だがアリーチェの被っていたフードにかすってしまい、顔が露わになった。


「お前、エルフか!」


 男は流石にアリーチェがエルフであることには驚いたようだ。そしてすぐに何かに納得したように頷く。


「そうか、そういうことか。最近ある女のエルフを捕まえてここに収監しているんだ。そのエルフの友人、家族、もしくは全く面識はないがエルフの国からの命令によってここまで来たのか……とにかく同胞を救いにきたんだな」

「……そのエルフの女の子はどこだ? 無事なんだろうな?」

「さぁ、無事かどうかは分からん。実際に自分の目で見てみたらどうだ? そこの檻に入っている」

「チッ……」


 アリーチェは男の動きに注意しながらも、指差された檻にゆっくり近づいて行く。

 そしてチラッと檻の中を見た。


「……」


 絶句した。アリーチェは、その檻の中を見て言葉を失った。

 そこには確かにアリーチェの幼馴染であるシーナが横たわっていた。アリーチェと同じ白い髪、ボロボロだが一応服は着ている。しかし、その体は悲惨極まりなかった。

 シーナは血だらけだった。顔は何度も殴られたようで、酷く腫れている。体の至る所に刃物による傷があった。そして何より、シーナの右足の膝から下が存在せず、血が大量に滲んだ包帯でグルグルにされていた。

 家族とも呼べるほど仲の良い友人のあまりに悲惨な姿。アリーチェは自分の目を何度も疑った。


「シー……ナ?」

「……アリー……チェ?」


 未だ現実を受け入れられないアリーチェはシーナに声をかける。

 シーナはピクッと反応し、アリーチェの名を呼んだ。

 間違いなく、シーナだ。だが、元気で明るいアリーチェの幼馴染の姿はそこには無かった。


「可哀想になぁ。エルフは商品価値が高いから、本来傷つけてはならないんだが……エルフはどいつもこいつも容姿が良いだろう? だからみんな我慢ができずに散々オモチャにしてたよ。そもそもエルフなんて滅多に入ってこないからな。珍しくてついついやっちまったんだろう。そのせいで多分なかなかそいつは売れない。困ったものだ」

「……」

「しかしまぁ、やっぱり誰かが絶望する顔は最高だな。お前、さっきまでここにいる奴らを助ける気満々だったのに

、今じゃ感情が消えるほどショックを受けているじゃないか」

「……す」

「でも安心しろ。お前もこの後ボコボコにしたらそこのエルフと一緒に仲良くオモチャにしてやるよ。そうだ、お前達はセットで売ろう。そうすりゃ結構早い段階で売れ……」

「殺す」


 アリーチェは男の言葉を遮り、振り向く。


「……!」


 そこには、最早世莉架達の知っているアリーチェはいなかった。ただただ目の前にいる害虫を殺すこと、存在を消し去ることだけを考えている憎悪と殺意に支配されたアリーチェがいた。

 流石に男はアリーチェに怯んだ。明らかに雰囲気が変わり、男は自身に死の気配を感じ始めていたからだ。


「ケッ……前言撤回だ。今すぐにでもお前は殺す!」


 男はすぐさまアリーチェに突っ込む。アリーチェはその場から動かない。男は遠慮無しに全力でハンマーを振りかざす。

 大きな音を立ててハンマーは地面に当たる。だがそこにアリーチェはいない。


「こ、これはなんだ?」


 男が顔を上げると、そこには知っている空間とは違う空間が広がっていた。

 三階はそこまで大きい空間ではないはずなのに、どこまでも先があるほど大きな空間になっていたのだ。

 更に先は暗く、何があるのかは視認できない。

 男がすっと続く空間の先を見ていると、突然刃物が飛んで来た。


「ふん!」


 それをすかさず叩き落とす。

 更に、反対側、頭上、右斜め下、左斜め上など、あらゆる方向から鋭い刃物が飛んでくる。


「くそ、なんなんだよこれは!」


 流石に対応ができなくなり、男にいくつかの刃物が突き刺さる。

 自分に迫り来る刃物になんとか対応していると、突然目に見えている範囲の刃物の位置が視界の中心を対称にして入れ替わった。

 あまりに異常な動きをする刃物に男は狼狽し、多くの刃物が突き刺さる。


「ぐあぁぁ!」


 叫ぶ男。だが遠慮は要らず、手加減もいらない。腐りまくっている外道に慈悲など存在しない。


「薄汚い叫び声を出すな」


 いつの間にか男の頭上に現れたアリーチェは、業物の刃物で男の左腕を切り落とす。


「ぎゃぁぁぁ!」

「どう? 腕を切られる痛みは」


 アリーチェは男の前に降り立って冷たい声色で問う。


「お、お前まさか特殊属性持ちか!?」

「そんなこと、これから死にゆくお前に教える必要はない」


 そう言ってアリーチェは一歩近づく。


「ま、待て。分かった、ここにいる全ての攫ってきた奴らを解放しよう! 更にお前の友人のエルフは最大限治療しよう」

「今更許されるとでも?」

「……」


 男はアリーチェに何を言っても駄目なことを悟った。

 チラリと女の方を見るが、まだハーリアと戦闘中で手助けは期待できない。


「……クッ、クックック」


 男は諦めたような顔をした後、俯いて笑い出した。

 そう、男は諦めたのだ。もう自分が殺されるのは確実、必然。逃れられない。

 しかし、このままただ殺されるのではつまらない。どうせなら、道連れがいないといけない。そう考えた。

 男はある檻に寄り掛かって座り込んでいた。そこで男はあることを思いつく。


「な、なぁ。俺を殺すことはもう確定だろう? だが、他の連中はどうするんだ? ここに来るまでに出会った奴らは殺したのか?」

「大体は気絶させたけど、この後全員殺す。原型を留めないほどに残酷に殺してやる」

「……そうかい。ここだけ見るとどっちが悪だが分からんな」

「ふざけるな。汚く最悪最低な害虫が」

「酷い嫌われようだ。だが……このままただ殺されるなんてつまらないと思わないか?」

「は?」

「つまり、こういうことだ」


 ガチャっと音がすると、男が寄りかかっていた背後の檻の扉が開いた。

 男はアリーチェとの会話中、右手で背後にある檻の鍵を密かに開けていたのだ。


「!」


 アリーチェはすぐに動く。何故なら、その檻はアリーチェの幼馴染であるシーナが入っている檻なのだから。


「最後に、こいつを道連れにしてやるよ!」


 男はハンマーを持って思い切りシーナに向けて投げる。

 アリーチェは瞬時に刃物を投げるが、相当重たいハンマーはビクともしない。

 軌道が変わらないことが分かったアリーチェは自分を盾にしようと走る。

 シーナはすぐそこだ。後ほんの少しでシーナを助けられる。

 だが、現実は非情なのだ。アリーチェは男の予想外の行動に動き出しが少し遅れた。それが全てだった。

 ドン、と音が響く。それはアリーチェが盾になったから出た音ではない。

 シーナの、アリーチェの大切な幼馴染の頭が潰れた音だ。


「あ……あぁ……」


 男の持っていたハンマーは人の頭など簡単に潰せる程の重さだ。それを力いっぱい投げ飛ばして頭に当たったら、当然潰れる。

 アリーチェの視界が揺れた。あまりに酷すぎる光景に。わざわざ人間の国まで来て、国の王子までも味方にして決行した作戦だった。しかし、アリーチェが一番助けたかったエルフのシーナは、頭を潰され、その生涯を終えた。


「……は、はっはっはっは! これは傑作だ、うまく当たって良かったぜ! 自分と同じエルフの死ぬ瞬間が見れて良かったじゃないか!」

「……あぁ……」


 アリーチェはうわ言のように声を出す。自然と涙が溢れ、体に力が入らない。


「はっはっ……は?」


 男は気づいたら右腕も失っていた。更に腹に刃物が刺さっている。


「……道連れにできただけ良かったとするか」


 そう言った男の首がゴトンと地面に落ち、体は力なく倒れた。 

 アリーチェは膝から崩れ落ち、目の前にいるさっきまで生きていたシーナをぼんやりとした視界で見る。


「……シーナ。あぁ、シーナ。ごめんなさい、ごめんなさい……」


 アリーチェは謝ることしかできなかった。悲しく、苦しく、あまりの絶望に頭がちゃんと回らない。

 もう死んでいるシーナの右手を両手で握り締め、頭を地面につける。


「……私も、そっちへ行くわ」


 アリーチェはやがてシーナの手を離し、自分の持っていた刃物を自身の首に向ける。


「さようなら、ごめんなさい」

 

 そして力を入れようとした。


「ダメー!」


 大きな声が聞こえた。それにより、アリーチェの手が止まった。そしてアリーチェは自分の背中に重さを感じた。

 そこには涙ぐむハーリアがいた。


「ダメだよ、アリーチェ。貴方まで死んではいけない」

「……もうどうでもいい。生きていたって、苦しいだけ」

「……私がいるよ」

「!」


 アリーチェはハーリアの言葉に驚く。


「言ったでしょ。私が側にいるよ。セリカもメリアスも、一緒にいる。アリーチェはこれからずっと今日のことを忘れられずに苦しみ続けてしまうと思う。けど……生きることだけは諦めないで」


 ハーリアは、ただただアリーチェのことを案じている。生きて欲しいと心から願っている。それを理解したアリーチェは最早手に力など入らなかった。

 刃物はカランと音を立てて地面に落ちる。

 なんとかアリーチェが自害することは避けられた。しかし、アリーチェの目は暗く、絶望にまみれていた。

 攫われた人達がいる場所は完全に制圧した。だが、失われたものはあまりに大きく、アリーチェの心を死ぬのではないかと思ってしまうほど痛めつけたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 冷静で居られなかった故のミスですね。しかし確かに冷静にできない事態です、仕方ないです。 でも非情の結果ですね、あまり多くを観たくないかも。。。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ