重要な情報
マリコムと作戦会議をするために冒険者ギルドへ向かった世莉架達はアルファとエルファに出会い、現状を説明して協力を求める事にした。
冒険者ギルドに入る一行。中にいる冒険者の姿はまばらで少ない。中を見渡しているとギルドの端の方に椅子に座っているアリーチェと同じようにフードを被った人物を見つけた。
世莉架は黙ってその人物に近づき、通りすがりにテーブルをトントンと叩いた。
そのまま世莉架は通り過ぎてギルドの入り口近くに戻る。するとフードを被った人物は立ち上がり、近くにあった扉を開けてその中に入っていった。世莉架達はそれから少し時間を置いてからその扉の中に入っていく。
中に入ると階段があり、それを降りていくと左右に二つの扉が見えた。右にある扉はほんの少し開いており、そこに世莉架達が入る。
「皆さん、こんばんわ。まさかこんな強力な助っ人を用意してくださるとは」
そこにはフードを取った非常に顔の整った青年、マリコム王子が立っていた。
「マリコム王子!?」
流石に驚いた様子のアルファとエルファ。国の王子が絡んでいるとは想像していなかっただろう。
「お二人はルインに迫る魔族の軍勢を見事打ち滅ぼし、勇敢な戦士の中で最も英雄と呼ぶに相応しい活躍を見せたアルファ様とエルファ様ですね。ルインを死守してくれた事、この国の王子としてお礼を申し上げます。本当に有難う御座いました。貴方達に最大の敬意と感謝を」
マリコムは王族らしい綺麗な礼をしてみせる。英雄であるアルファ達はタジタジだ。
「い、いや、もう散々お礼は色々な人から聞いたし、良いですよ別に」
「そうですよ。私達はただ慣れ親しんだルインを守りたかっただけですから」
実際二人は勲章や名誉が欲しくて戦った訳では断じて無い。ただルインの平和の為に戦ったのだ。元から勇者候補になるほどの実力から有名だった二人は、ルイン攻防戦を終えてアークツルスに来てからずっと英雄の扱いを受け続け、うんざりしていた。
「そのように本心から思ってくれる人達がいることが私は嬉しいです」
マリコムはそう言って微笑み、部屋の真ん中にあるテーブルの周りの椅子に座るよう促す。
全員が席に着いた。いよいよ作戦会議が始める。
「それで、これはどういうことなんだ?」
結局何故マリコムがいるのか分からないアルファとエルファは世莉架に説明を求める。
「まずは彼女の説明をしなくてはならないわね」
世莉架は隣に座っているアリーチェを見てから言う。
「アリーチェ、彼らは信頼できるわ。色々と説明してあげてくれない?」
「……分かった」
世莉架がアリーチェに小さい声でそう呟くと、アリーチェは頷いた。
「エルフ……!?」
アリーチェが深く被っていたフードを取ると、またもやアルファ達は驚愕した。
当然アルファ達はフェンシェント国とエルフの国との関係を知っている。本来ならばいる筈の無いエルフの存在に驚くのは当然だろう。そしてアルファ達に驚愕以外の拒否的な感情などがなかった事を密かに安堵していた世莉架だった。
「実は……」
そうしてアリーチェはこれまでの顚末を話し始めた。時々世莉架とマリコムが話に入り、これまでの説明が全部終わった時のアルファとエルファの表情は複雑なものだった。
「なるほどな。話は分かったが、こりゃ簡単じゃねぇぞ」
「十分承知の上よ」
これから世莉架達がやろうとしているのは、何百年も前からずっと続いている裏社会の闇を潰す事だ。
いくら非人道的でも、長く続いているという事はそれだけ需要があるという事で、権力者もずっと関わっている事業なのだ。それを世間に公表し、全てを曝け出す。確実に町は混乱や憎悪など、様々な感情によって少なからず荒れるだろう。裏社会に関わっていない多くの権力者も今まで黙っていたという罪に問われ、多くの権力者などの有名人が捕まり、国内情勢は大きく変わる。大袈裟に言えば国を変えるようなものだ。
「王子はそれで良いんですか?」
「はい。もう決めた事なので、覚悟の上です」
マリコムは覚悟の決まった顔で頷く。その顔を見てアルファは黙った。
「……なら、私も協力するわ」
するとエルファが自ら協力を申し出てきた。
「それは本当にありがたいけど、この作戦のリスクは高い。英雄である貴方達であっても大変な事になるかもしれないわよ」
「そうかもね。でも、そういう社会の闇の部分をどうにかしたい気持ちはずっとあった。今でも裏で奴隷売買などの商売は当然のように行われているから。そしてこのメンバーならやれると思える。勘だけどね」
「本当に助かるわ。じゃあエルファは決まりね。アルファは?」
世莉架が尋ねると、アルファは頭を掻いて言った。
「しょうがねぇな。確かにこのまま奴隷売買なんかを放っておくといずれ大きな後悔をする事になりそうだし、協力してやるよ」
「ふふ、ありがとう」
これでアルファとエルファ、知名度と実力共に世界トップクラスの二人に協力してもらう事になった。これで成功率は更に高くなる。ただ、これだけ有名人が集まると失敗したときにのしかかる責任は大きくなり、逆に罪に問われる可能性は決して無視できないほど高いと言える。
「強力な助っ人ができたところで、作戦会議を始めましょうか」
世莉架、メリアス、ハーリア、アリーチェ、マリコム、アルファ、エルファの七人でフェンシェント国という大国の裏に潜む禍々しい闇を排除すべく、マリコムが仕切って作戦会議を始める。
「まず、いつどのような手段で闇ギルドに入るか。どこまで制圧するのを目的とするのか……最初に明確に定めなければならない事が沢山あります」
「そうね。ちなみに、マリコムは闇ギルドの場所は分かる?」
「確実ではないですが、心当たりはあります」
「なるほど。それはアークツルスの南側に存在する商業施設の内の一つである、ミュールという大商会の中にあるものかしら?」
「な、何故それを……?」
マリコムはミュール、という言葉を聞いて驚愕する。
「私とアリーチェはあの情報を知っていたのだから、それくらいは分かっているわよ。まぁ、闇ギルドの本拠点に関してはアリーチェも知らなかっただろうけど」
貴族や商会のオーナーの住宅へ侵入し、様々な裏社会と繋がっている証拠を見つけた二人だったが、闇ギルドの本拠点に関してだけは徹底して書かれていなかったのだ。世莉架はアークツルス高等学校近くの闇ギルドの仮拠点となっている工場で怪しい男達の会話から本拠点の場所を特定していた。
「ミュールって言ったらフェンシェント国有数の大規模商会だぞ。まさかそんな所が関わっていたなんてな」
ミュールと聞いて驚いていたアルファが深刻そうな顔をして言う。
「裏社会の仕事は金になるからね。商会の人間は金に目が無いからいくらでも関わろうとする奴はいるわよ」
「まぁ、そうだろうけどよ……というか、お前がそれを知っている事には最早驚かないけど、あの情報ってなんだよ?」
アルファが疑問に思っていたことを世莉架に尋ねる。
「いつかは言わなくちゃだったし、良い機会ね。実はアリーチェの幼馴染を攫った闇ギルドには人間以外の種族も関わっているようなの」
「そりゃあ、多少は関わっていたっておかしくないだろ。そもそもこの国は他種族に寛容なんだし」
「寛容になれる種族だったら良かったんだけどね」
「……となると現在入国禁止されているエルフが関わっているのか?」
「いいえ、もっと最悪な相手よ」
「まさか……」
そこでアルファは察したらしい。続いて他の者も察したようで明らかに困惑と不安の感情が大きく出ている。
「魔族が関わっている可能性があるということよ」
「マジかよ……」
流石に想像していなかったようで、アルファは口を押さえている。
「じゃあ、この国にはずっと魔族が潜んでいたって言うの?」
動揺を隠せないエルファは、魔族が自分達の足元にずっと潜んでいる状態で普通にアークツルスで過ごしていた事に恐怖を覚えていた。
「……しかし、確定では無いんですよね?」
そこでマリコムが急激に広がった不安を少しでも和らげるために世莉架に確認を取る。
「えぇ。絶対に関わっている、と言える訳じゃ無いわ。その可能性が浮かび上がってきた、という話よ」
世莉架はそう言っているが、実際に証拠を見た世莉架とアリーチェは魔族が関わっている事はほぼ確定だと思っている。
「では、一旦魔族の関わりは置いときましょう。まずはいつどのようにミュールに潜入するかですね」
「その事なんだけど、近いうちに何か大きなイベントとかって無い?」
「イベントですか? 三日後にアルファさんとエルファさんを筆頭としたルインの冒険者並びに兵士を称えるパレードが行われます」
「それは良いわね。その時に潜入しましょう」
三日後にルインで魔族達に打ち勝った英雄達を称えるパレードが行われる。民衆に迎えられながら町中を大きな馬車で移動していき、出店なども多くされる祭りである。
「おいおい、それじゃあ俺とエルファが協力できねぇじゃねぇかよ」
「いいえ、そのイベント自体が私達に協力してくれているじゃない。貴方達がいなければこのようなイベントは行われなかったんだし、間接的に協力しているようなものよ」
「待て待て、ここまで話を聞いたのにマジで言ってんのか?」
「ふふ、冗談よ。けど、実際にアルファとエルファはあまり直接的に協力することはできないと思う」
「どういう事だ?」
アルファは首を傾げながら理由を問う。
「まず、今回のイベントは国の一大イベントよ。ほぼ全ての住民がパレードを見に行く事でしょう。なんたって魔王軍幹部を打ち倒し、多くの魔族を屠った英雄達を称えるイベントなんだから」
「イベントに集中している住民が多いから侵入しやすいってことか? というかお前イベントに参加しない気か?」
「当たり前でしょう。私は何もしてないもの」
「……はぁ、お前がそう言うなら良いか。んで、理由は?」
「概ねアルファの言った通りよ。パレードがアークツルスの北側を周っている時なら、南側は少なくとも普段よりかは人通りが少なくなるでしょう。そしてそのような大きなイベントの開催中、闇ギルドの人間はどうしていると思う?」
「まぁ、普通にイベントを楽しむ……訳ねーな。イベントにより一時的に人が少なくなることを狙って昼間であっても闇ギルドとしての活動をする。もしくはイベントに行き、そこで獲物を探したり、何か良からぬことを画策する……って感じか?」
「その通りよ」
国を挙げての大きなイベントならば必然的に人は集まり、それと同時に普段は人通りが多かったとしても人が減って静かになる場所が多くなる。そのような状況ならば、闇ギルドが昼間に動いてもおかしくは無い。
「イベントの日に侵入するのは分かったが、俺達はどうすればいい?」
「貴方達はパレードをしながらも怪しい動きをする者を探して欲しい。もしいなかったらそれで良いし、もしいたらパレード中であっても捕まえて欲しい。そして捕まえる時はその怪しい者に敢えて攻撃をさせるように動いて欲しいわ。最終的に捕まえることができたら堂々と民衆の前で闇ギルドのことを話して、逃げ道を消して」
「その場で闇ギルドの事を?」
「えぇ。世間に裏社会の事実を伝えることがこの国の長く続いた裏社会を消すのに大事なの」
「確かに、多くの民衆の前でアルファさん達のような有名人が明言すればすぐには信じなくても不信感は大きく増す」
それまで黙っていたハーリアが納得するように言った。
「それもそうだけど、民衆が多くいる中で敢えて攻撃をさせる事で裏社会、という言葉に信憑性が増すし、そこにいる誰もが恐怖を抱き、アルファやエルファという英雄に縋ろうとする」
「洗脳みたい」
「人聞きが悪いわね。必要な事なんだから良いでしょ」
メリアスの突っ込みに世莉架はため息をついて返す。
「やりたいことは分かったけどよ。もし怪しい奴がいなかったらどうするんだ? 確かに秘密裏に闇ギルドを潰してそれを公表したって信じる者は少ないだろう。実際にその脅威を目で見ないと人間ってのは案外恐怖を抱かないもんだからな。でも、そもそも怪しい奴がパレードの近くにいなければいけないことが条件じゃねーか」
「そうね、でも大丈夫。私がなんとかするわ」
「なんとかって?」
「無理矢理にでも、パレードで問題を起こさせるってことよ」
「そんなことできんのか?」
「多分ね」
「……」
世莉架の言うことには何故か説得力があった。世莉架の雰囲気や態度から、不思議と世莉架なら大丈夫と思わされる。だから頷く他無い。
「じゃあそこは世莉架に任せるわ。私達の役目はそれで終わり?」
エルファが世莉架に他に仕事はないか尋ねる。
「いいえ、捕まえて裏社会を公表した後、間違いなく裏社会に関わっている貴族や商会の人間が何か言ってくるわ。貴族や有力な商会のオーナー用の特等席がどうせ設けられているんでしょ?」
世莉架はそう言いながらマリコムを見る。
「はい。私含め、王家は勿論の事、貴族や商会の人間の席はきちんと用意されています」
「そうよね。だからそこでアルファとエルファはマリコムと協力して民衆の前で貴族や商会の人間を言い負かして欲しいのよ」
「なるほど。民衆の前で証拠を見せつけながら言葉で責め立て、認めさせる訳ですね」
「そう言う事。だから三人の役目は決して重くない。それどころか三人次第で裏社会を潰せるかどうかが決まるわ。商会に侵入する私達が例え闇ギルドを倒せたとしても、貴方達が失敗していれば大きな意味は生まれない。それではこれからも同じように闇ギルドが設立されていくだけだわ」
そう、今回の作戦は二手に分かれ、どちらか一方ではなく、必ずどちらも成功しなくてはならない。
「私とアルファ、マリコム王子の役目は分かったわ。でも、そっちは貴方達だけで大丈夫?」
エルファが世莉架達を見渡しつつ言う。闇ギルドのあるミュール商会に潜入するのは世莉架、ハーリア、メリアス、アリーチェの四人だ。
「えぇ、大丈夫よ」
「本当に? みんな戦えるの?」
「今回は潜入よ。馬鹿衝撃に真正面から突っ込む訳ないでしょう。裏から進み、裏から刺し、裏から揺さぶる。そういうのは得意だから安心して」
「……分かった」
エルファは分かったと言いつつも未だに心配そうにしていた。
「本当に大丈夫だから安心して。もし怪我したらエルファに膝枕でもしてもらえば回復するわ」
世莉架はエルファの心配と不安を少しでも和らげるために冗談っぽく言う。
「……もう、そんなんじゃ治らないわよ」
エルファはきょとんとしてから優しく笑った。
時々空気が重くなりすぎないように冗談を入れつつ、話は進んで行く。
それから二時間ほど経過し、ようやく作戦が固まった。
「それでは、次に会うのは三日後ですね。少し早いかもしれませんが、互いの幸運を祈ります」
「えぇ」
マリコムはそう言い、頭を下げて冒険者ギルドを去った。
アルファやエルファも自分達の宿に戻って行き、世莉架達も宿に戻った。
皆どこか不安にしながらも、強く確かな覚悟を心に宿していた。
**
それから三日後。とうとうルインの英雄達を称えるパレード開催の日になった。
朝から町は慌ただしく動いており、出店が沢山出ている。
「さて、準備はいい?」
宿を出る前に、世莉架は後ろを向いて三人に尋ねる。
「大丈夫」
「オッケー」
「うん」
ハーリア、アリーチェ、メリアスは頷く。
同じように頷き、世莉架は歩き出す。
四人にはミュール商会に侵入し、魔族の潜む可能性のある闇ギルドと対峙して勝利するという大事な役目がある。
「アリーチェ、深呼吸よ」
「え、えぇ」
やはりアリーチェは緊張や不安がなかなか拭えないようだ。
「とにかく貴方は幼馴染を救うことを考えなさい。大丈夫、貴方の実力なら負けはしないわ」
世莉架の言っていることは励ましではない。ただの事実である。アリーチェは特殊属性を持っているが、それだけで多くの人がアリーチェには敵わない。特殊属性というのはそれほど強く貴重なものだからだ。
やがて四人はミュール商会の近くに辿り着く。
まだ侵入する時間ではないため、近くにあったレストランで時間を潰すことにした四人。
これからアリーチェの攫われてしまった幼馴染を救い、闇ギルドを物理的に、そして社会的に潰し、悪しき人間らを裁く事を目的として動く。
魔族が関わっている可能性もあり、とても一筋縄ではいかない。しかし、彼女らの強い意志と覚悟はそんな事で折れはしない。
ついに、フェンシェント国という大国の裏に蔓延る闇ギルドの壊滅を目指し、世莉架達の進行が始まる。




