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(旧) 天才は異世界の救世主[厄災]となる  作者: ポルゼ
第一章 天才は異世界に連行される
22/59

一国の王子

 アークツルスに着いてから一日。世莉架とアリーチェはアークツルスの西側へ、ハーリアとメリアスは東側へ情報収集をしに向かった。

 既に世莉架は夜に見つけた怪しい人物を追いかけて様々な情報を得ている。しかし、闇のギルドを壊滅させるには権力者や知名度のある有名人を協力させないといけない。そのため、世莉架にとっては情報収集兼協力者探しとなる。

 アークツルスの西側に向かって歩く世莉架達。するとどこからか揃った声が聞こえてきた。

 それはアークツルス高等学校の校庭から聞こえてきていた。体育の授業をしているであろう学生と学校を見る二人。


「エルフの国の学校とは全然違うわね」

「どう違うの?」

「こんな大きく立派な建物なんてそうそうないし、エルフの国の大体の学校が青空教室みたいなものよ」

「なんか想像できるわ」


 アークツルス高等学校はかなりお金をかけたようで立派に大きく、この世界での建築技術をふんだんに使ったことが分かるような建物だった。

 世莉架は学校を見ながらもチラッと例の工場を見た。そこでは普通に作業着を来た人が何やら荷物を持って出てきたりして通常の業務をこなしていた。

 きっとその工場で働く者の中に、昨日世莉架が盗み聞きしていた会話をしていた三人の男の内の一人はいる事だろう。更に工場長のような工場内で位の高い人物が闇のギルドに関わっていると考えられる。


(いずれ尋問でもしに行くことになりそうね)


 そんなことを思いつつ進んで行くと、周りに高級住宅が増えてきた。一つの家が持つ土地がとても大きく、明らかに高価そうな見た目をしている。ここに裏社会に関わっている貴族や大商会の人間がいると思われる。


「どうやって探すの?」

「そうね……アリーチェは隠密行動は得意?」

「まぁ、苦手ではないかな。霧も使えばバレないと思う」

「そう。じゃあ入れそうな家に侵入して証拠を探しましょう」

「それは良いけど、世莉架は隠密得意なの?」

「私も苦手ではない、ってレベルよ」

「なるほど」


 苦手どころか誰も見つけられないような超高レベルな隠密スキルを持っている世莉架だが、当然そんな正直に自分の力を話すことはない。

 高級住宅には普通の住宅にはない護衛の人間がいる。家主がいない時でも家を守る護衛がいるだけでなく、執事やメイドもいると思われる。家に侵入できたからといって油断してはならない。常に誰かに見つかる可能性があるのだ。

 二人はまず一つの高級住宅に目をつけた。現在は昼前のお腹が空く時間帯であり、太陽は天高く昇っている。本日は特に祝日などではなく、普段通りに多くの人が仕事や学校に行っている。更に高級住宅街ということで人通りは少なく静かだ。

 ただし、ダージスは科学技術は地球と比べて遥かに劣る世界だが、それでも魔法がある。危険な可能性としては、監視カメラのように映像、もしくは写真のように鮮明にその瞬間を記録できる特殊属性魔法を持つ者がいた場合だ。

 それは魔法であるため魔力を感知できれば実質監視カメラであるその魔法の範囲に入らないように行動できるが、どうしても動ける範囲は狭くなり、見つかるリスクが上がる。

 世莉架はその可能性を考慮しつつ動くことにした。

 二人は声を出さずに動く。まだ会って数日のアリーチェに世莉架が合わせているのだ。アイコンタクトで相手の意図を察することができる程の関係なら容易いのだが、まだそんな芸当はできない。また、世莉架はある程度アリーチェの思惑を読むことができるが、アリーチェはそんなことはできない。となるとサポートは世莉架がすることになる。

 狙いをつけた家には外に護衛がいなかった。しかし中からは複数人の気配を感じ取れた。

 広い中庭に周囲を確認しながら侵入する。家の扉は当然鍵が閉まっている。だが裏口や窓など、侵入できる場所は多い。

 二人が家の真正面から裏側へ移動している途中、上の方から音が聞こえた。

 そこには窓から顔を出しているメイドがおり、窓を開けて空気でも入れ替えようとしているようだ。これは間違いなくチャンスである。メイドは顔を引っ込めたが、窓は開けたままになっている。まだメイドはその部屋にいるかもしれないが、なんとか入れないかと二人はその部屋がある三階へ壁を使って登っていく。

 開け放たれた窓付近で二人は一旦止まる。アリーチェがゆっくりと窓の中を覗き込む。そこにメイドの姿はなかった。

 アリーチェは世莉架の方を向いて大きく頷いた。中に人はいないという合図だということを世莉架はすぐに察し、アリーチェがまず中に入り、続けて世莉架が中に入った。

 その部屋は特に何か目を引く物がある訳でもない至って普通の部屋だった。机にベッド、それに棚があるだけの部屋である。


「!」


 コツコツと現在二人がいる部屋に近づいてくる足音が聞こえた。

 アリーチェと世莉架はベッドの下へ潜った。案外広いベッドのおかげで二人が隠れられるスペースがあったのだ。

 メイドは開けておいた窓を閉め、部屋を出て行った。


「……どうする?」


 アリーチェが小さい声ですぐ隣にいる世莉架に声をかける。


「多分この部屋には特に欲しい情報はないとは思うけど、一応調べましょう。探し終わったら他の部屋に移るわよ」


 とりあえずその部屋を調べ始める二人。だがやはり欲しい情報は無かった。

 そうして二人は人がいないことを確認しながら他の部屋も調べていった。それでも結局裏社会と繋がっていることが分かるような証拠は何も見つからず、二人は外に出た。


「ここは白と見て良いよね」

「そうね。他にも沢山高級住宅はあるし、さっさと調べちゃいましょう」


 あまり時間をかけたい状況ではないため、二人は次なる高級住宅に向かう。

 それから時間は経ち、世莉架とアリーチェは調べられると判断した高級住宅を全て調べ終わった。


「一応見つかったね」

「えぇ。後はこれをどう有効活用するか」


 二人はある貴族の家と商会のオーナーの家で裏社会と繋がっている証拠を見つけた。それらは文書であり、持ち出してしまうといずれ侵入がバレてしまうため、とりあえず持ち出さずに内容を世莉架が即座に丸暗記した。ちなみにアリーチェは世莉架の記憶力に心底驚いていた。

 

「映像記憶ってやつよ」

「何それ」

「目に映ったあらゆる対象を映像のように記憶できる能力のことよ。私はこれを幼い頃からずっと持っている」

「ほへー……凄いね」

「別に凄くないわよ。誰でも訓練すればそれなりの精度で手に入れられる能力だもの」


 そんな会話をしつつ、とりあえず宿付近に戻ってハーリアとメリアスを待つために歩き出す二人。

 やがてアークツルス高等学校の近くまで来た。声は既に聞こえなくなっており、校舎内で授業をしているようだ。

 しかし校門前に何故か一人の学校の制服を着た男子生徒が馬車に乗ろうとしている。その男子生徒以外に校舎の外に出ている生徒はいない。貴族や商会というお金持ちの親を持つ子供が多く通う学校なため、家の用事などで早退するのかもしれない。もしくは純粋に体調が悪くなって早退するのか。

 その男子生徒には特に気にせず二人が歩いていると、突然背後から大きな声が聞こえた。


「誰かー! その人を捕まえてください!」


 高級住宅の内の一つの家からメイドのような人が出て来て叫んでいる。メイドの向いている方には黒めの服を着た男がバッグを背負って走っていた。その男は世莉架達に迫ってきている。


「おい! どきやがれ!」


 男は世莉架達に向かって言う。当然そんなものに耳を貸す必要はない。

 道を開ける様子のない世莉架達に男はナイフを取り出して襲ってくる。それはまず世莉架に向かっていた。


「んな!」


 世莉架は必要最低限の動きで素人同然の動きから繰り出されるナイフを躱し、手を掴んで背負い投げした。


「ぐえ!」


 激しく地面に叩きつけられた男は呻く。

 そんな男に向かって世莉架は言う。


「窃盗犯ね。でも、窃盗は馬鹿じゃできないし、それでは追っ手からは逃げられない。結局、犯罪するのにも頭が良くなきゃ成功しないのよ。よく覚えておきなさい」


 そして頭を蹴って気絶させた。


「容赦ないね……」

「当たり前でしょ」


 アリーチェは世莉架の見事な身のこなしに感心していた。


「セリカってもしかしてとんでもなく身体能力高い? 最初に侵入しようとした高級住宅も軽々と三階まで駆け登ってたし」

「まぁ、良い方ではあるけど、褒められるほどじゃないわ」

「ふーん……」


 なんとなく、世莉架が嘘をついている、もしくは謙遜しているなとアリーチェは感じていた。そしてそう勘付かれていることに気付いた世莉架は何故ハーリアもアリーチェもこんなに察しが良いんだとため息をついていた。


「それで、こいつどうする?」


 足元で伸びている男を見てアリーチェが世莉架に尋ねる。


「面倒だけど役所にでも連れて行きましょうか」


 そうして世莉架が面倒臭そうに男を掴もうとした時だった。


「貴方達! 大丈夫ですか?」


 何故か校舎の外に出て馬車に乗り込もうとしていた男子生徒が駆け寄ってきた。


「……えぇ、大丈夫よ」

「そうですか……その者はこちらで引き取ります」

「え?」


 何故その男子生徒が引き取るのか、という極自然な疑問が二人を襲う。


「先ほど助けを求めていたメイドに話を簡単にですが聞きました。一先ず私が引き取り、王城に連れて行きます」

「ちょ、ちょっと待って。何故貴方が連れて行くの? しかも王城に」


 世莉架は当然の疑問を口にした。


「……もしや貴方達は国外から来たのですか?」

「いえ、ここに来るのは初めてだけどフェンシェント国内にはいたわよ」

「なるほど、それでは知らないかもしれませんね」

「?」

「私はマリコム・フェンシェント。この国の第一王子です」

「……は?」


 王子はその端正な顔から綺麗に笑みを浮かべて名乗った。

 思わず世莉架とアリーチェの声が被った。





 **





「もしよろしければ王城に来られますか? 貴方達にはあの男を捕まえたということで多少なりとも話を聞く必要がありますし」

「良いの……良いんですか?」

「はい、大丈夫ですよ。それと、確かに私は王子ですが、今は学校に通う一生徒ですし、敬語など使わずとも大丈夫です。実は堅苦しいのもあまり好きではないですしね」

「そ、そう」


 金髪で金の目を持つ非常に端正な顔付きの王子と共に馬車へ乗り込み、王城へ向かうことになった世莉架とアリーチェ。

 現在二人には大きな問題がある。それは、アリーチェがエルフということが露見する可能性だ。フードを深く被っているため今はなんとか露見せずにいるが、王城に入ってからはフードを被ったままという訳にはいかないだろう。

 勿論世莉架はその可能性に気付きながらも馬車に乗せてもらった。逆にそこで無理だなんだと共に王城に行くことを拒否するとフードを深く被っていることも相まって怪しまれたことだろう。

 それに、世莉架はこのマリコム王子に期待している部分があった。それは闇のギルドを潰すための後ろ盾、つまり協力者となってくれる可能性があるからである。

 世莉架は人の善悪を見抜くことができるが、マリコムを一目見て理解した。マリコムは根っからの善人であり、お人好しである。その美しい容姿からも、いずれは間違いなく良き王となることだろう。

 そんなマリコムならばアリーチェの現状を説明すれば協力してくれるかもしれない。マリコムが自分の立場をよく考え、法や責任を重視するならばアリーチェは捕まえられるだろう。だが、もしそうでなければ、法や責任、立場を考えた上でアリーチェの心境を優先してくれるのならば世莉架達にとってあまりに大きい収穫だ。一国の王子を協力者に置けば、闇のギルドを世間に公開し、潰すことができるだろう。関わっていた貴族や商会のオーナーも一緒に裁くことができる。


「さぁ、着きますよ」


 世莉架がこれからのことを考え、アリーチェが一人焦っていると王城に着いた。


 二人は馬車を降り、巨大な王城を眼前に見据える。


「……アリーチェ、落ち着いて。なんとかするし、なんとかなると思うわよ」

「何よそれ……でも確かに、これはチャンスかもしれないしね。ここまで来たんだし、覚悟を決めなきゃ」


 世莉架が小さな声でアリーチェに言う。馬車の中でもずっと黙って世莉架とマリコムの話を聞きながら焦っていたアリーチェは覚悟を決めたようだ。

 世莉架によって気絶させられた男が運ばれていき、それに続いて歩くマリコムの後ろを歩く二人。


「王子、その者達は?」


 王城の入り口には沢山の兵士がいた。マリコムを見つけた兵士達は一斉に敬礼をする。そしてそのうちの一人の兵士がマリコムに話しかけてきた。


「彼女らは高級住宅街付近で起きた窃盗の犯人を捕まえてくれたのです。そのお礼と、詳しい事情を聞くためにここまで連れて来ました」

「そうでしたか。王子はこれから予定が入っていますし、我らが彼女らに話を聞きましょう」

「いいえ、私が彼女らの話を聞きます。私は彼女らが窃盗犯を捕まえる一部始終を見ていますし、予定はまだ少し先です。何より、彼女らからしたら屈強な兵士達に囲まれて話を聞かれると言うのは少々思うところがあると思うのです。だからここは私が」

「王子がそう言うのでしたら」


 その兵士はフードを深く被ったアリーチェを見てほんの少しだけ眉が動いていた。フードを被って顔を見せずにいるため怪しいと思ったのだろう。しかし王子であるマリコムの言うことにはなかなか逆らえない。そのため依然として気にしている様子はあったが兵士はすぐに引き下がった。


「さぁ、こちらへ。客室へ案内します」


 マリコムは世莉架とアリーチェを客室へ案内する。その客室にメイドがお茶を入れに来たが、お茶を入れたメイドをマリコムがすぐに下がらせた。


「さて……」


 三人は席に着く。すると長らくにこやかな表情をしていたマリコムの表情が真面目なものになっていた。世莉架はその時やはり、と思っていた。


「アリーチェさん」

「は、はい?」

「単刀直入に言います。何故エルフである貴方がこの国に?」

「!?」

 

 アリーチェは目を見開いて驚愕する。まさかバレていたのかと、自分がエルフであることを分かっていて王城に連れて来たのかと。それはつまり、とアリーチェは身構える。


「……ぐっ、セリカ! 脱出するわよ!」


 急いで立ち上がり、全速力で外に出ようとするアリーチェ。そのアリーチェの首根っこを掴んで止めたのは世莉架だった。


「きゃ!」

「落ち着きなさい」

「だ、だって……」

「マリコム王子に貴方を捕まえようとする意思は無いわ」

「え?」


 アリーチェはまたもや驚いた顔を見せる。


「もしも捕まえたいのならば、先程貴方に疑心を向けていた兵士にその事を話して事情聴取を任せるでしょうが」

「そ、そうだけど……」

「大丈夫だから、とにかく今は落ち着いて」

「……」


 ようやく落ち着いてきたアリーチェは大人しく席に座り直す。


「マリコム王子、何故貴方はアリーチェがエルフだと?」


 世莉架は落ち着いたアリーチェを見てからマリコムに尋ねる。


「最初は分かりませんでしたよ。ですが、その狩人のような服装は人間の冒険者の着ているものにも似ていますが、エルフの着る狩人の服装と微妙に異なる点があります。エルフは純粋な筋力や膂力はないですが、俊敏さは全種族の中でも随一です。なので狩人の格好でも軽めに守っている部位と重めに守っている部位が人間やその他の種族と異なっているんですよ。それにそれほどフードを深く被り、私が王子だと分かっても顔を見せないとなれば、それはどうしても顔を知られてはいけない、知られたくない事情があるということ。つまりはエルフの特徴的な耳を見せたくなかったということです。更に、この様々な種族に寛容な国で現在仲が悪く、互いに入国が禁じられている種族と言えばエルフのみ。となれば自ずと答えは出る訳です」

「なるほど」


 マリコムの推測を聞き、世莉架の中でマリコムを引き込みたい欲が増えた。


「マリコム王子、貴方は現在互いに入国を禁止されているエルフの国に大事な人がいるわね?」

「!」


 世莉架が尋ねたことは、マリコムにとってあまりに驚くべきことだった。会って間もない世莉架にそんなことが分かるはずがないと。


「……何故、そう思うのですか?」

「先程アリーチェがエルフだと見抜いた理由を語ってくれた時、エルフに対しての親愛の感情と、エルフの国という遠いところにいて現在会うことのできない大事な人に想いを馳せる瞬間があった。多分、無意識でしょうが」

「……」


 思わず黙ってしまうマリコム。しかし、やがて口角を上げ、微笑む。


「えぇ、その通りです。まさか出会ったばかりの貴方に見抜かれるとは……驚きました」

「人の心を読むのは得意なの」

「それは素晴らしいですね。是非ともその技術を私も習得したいところです」


 アリーチェはあれだけのやり取りでマリコムの心を見抜いた世莉架を見て驚いていた。元々どこか普通ではない、と世莉架に対して感じていたアリーチェだが、やはり世莉架は何か途轍もない力を隠している、とアリーチェは密かに確信していた。


「それで、何故アリーチェさんと人間の貴方が一緒に?」


 マリコムの質問に世莉架は微笑む。マリコムは明らかに世莉架とアリーチェに興味を抱いている。また、エルフに大事な人がいることが分かり、現在のエルフの国との確執をなんとかしたいという気持ちも見えた。つまり、エルフに好意的なのだ。これは大きな大きなチャンスだ。ここでマリコムの協力を得るためにどれだけ情に訴え、闇のギルドを潰すことが大事かを説明する必要がある。

 アリーチェはそんな世莉架の思惑には気づいていないだろうが、幼馴染が闇のギルドの人間によって攫われた事を話すだけでも情に訴える面では効果が大きいだろう。

 とはいえマリコムは王子。更に確執があり、現在仲が最悪なエルフの国に大事な人がいると世間に露見すればマリコムの立場は少なからず危うくなるだろう。絶対に簡単に決断できる事ではない。

 マリコムを協力させるための話し合いが始まった。


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