魔族の侵略
アルファとエルファの二人に現勇者について話を聞いた日から一週間が経った。
この一週間はとにかく依頼をこなすことを最優先にしてお金を稼いだ。依頼には世莉架一人で行くこともあれば、メリアスとハーリアがついてくることもあった。世莉架が前衛、ハーリアは後衛として動き、メリアスはハーリアの後ろで守られている。世莉架とハーリアの間で交わされる言葉数はまだまだ少なく、お互いの連携がうまくいかないことも多々あった。しかし、それでもパーティの雰囲気は悪くなかった。
結果、一週間で当分の宿代は稼ぐことができたため、一旦落ち着いてこれからどうしていくのか考えることにした。
「じゃあこれからどうしよっか」
現在三人は宿でくつろいでいる。時間的にはお昼前で、既に宿のシェフにご飯を頼んである。
「依頼はこれからも受け続けるわ。こればっかりは仕方ないわね。ただ、ここ一週間のように毎日三個も四個も依頼を受ける、なんてことはもうしなくても良さそうね」
今はまだ初心者向けの依頼ばかり受けていたが、依頼は難易度が高くなればなるほど報酬が大きくなり、何度も依頼を受けなくても一回でかなり稼げる。
ちなみにハーリアの家はまだ売ることになっていない。町の上層部の人間が何やらやっているようだが、音沙汰はなく、家は放置状態になっている。
「じゃあ依頼は受けるにしてもいつまでこの町にいる?」
「え?」
メリアスは世莉架に問いかけたのだが、ハーリアが反応した。
「どこか他の場所に行くの?」
ハーリアは当然世莉架とメリアスの目的を知らない。ずっと一つの町にいても二人の目的には全く近づかない。絶対に他の町、国に行かなければならない。
「そうね。私的にはこの国の首都に行ってみたいわ」
「首都……」
「フェンシェント国の首都って確かここから見て西にある山々を超えた先にあるんだっけ?」
「そうよ」
現在世莉架たちが暮らしているこのルインという町はそれなりに規模が大きい。しかし、比較的平和な国であるフェンシェント国の首都は当然だが都会である。そうなると様々な情報が手に入るだろうし、色々な出会いもあるだろう。とにかく首都に行くのはとても有益であることは間違いないだろう。
「……私達はどこまで行くの? 首都に行った後は他国?」
ハーリアは不安そうに尋ねた。ハーリアの故郷はこのルインという町なのだ。冒険者になったハーリアとはいえ、行動範囲はルイン周辺止まりである。ずっとこの町で生きてきたハーリアは故郷を離れることが不安なのだろう。フェンシェント国の首都ならまだしも、他国に行くとなると尚更だ。
「そうね。首都に行った後は他国に行くわ。そこである程度過ごしたらまた他の国に。そしてその後も他の国に。私達はどこか一箇所でずっと暮らし続けることはしないわ」
「!……そうなのね」
「嫌?」
「嫌じゃないけど……少し不安」
「そうでしょうね。でも貴方はもっと世界を見た方がいい。きっとそれはハーリア、貴方のためになるから」
「……うん」
まだ不安げだったハーリアだが、その目にはしっかりと覚悟があった。
「ただすぐにでも行く、という訳ではないわ。ここでも情報収集はできるしね」
「そっか。じゃあそういうことで、今日はどうする?」
「勿論冒険者ギルドに行くわ。依頼を受けるかは分からないけど、アルファとエルファに会えるかもしれないしね」
「あ、その凄い人達とは私も会ってみたいな」
アルファ達に勇者達の事を教えてもらった翌日、その情報を世莉架はメリアスとハーリアに話している。当然だがハーリアはアルファ達のことを知っていた。メリアスも名前だけは知っていた。世莉架がそんな有名人と関わりがあることに驚きつつも、これは有益な人脈であることに喜んだ。
しかし、あれから世莉架はアルファ達と会えていない。地球のようにスマートフォンがある訳ではないし、簡単に遠く離れた人と連絡を取り合う技術はこの世界にはまだない。
毎日色々な時間に行っても会えないため、もしかしたら長期にわたる依頼を受けているのかもしれない。
「じゃあご飯を食べてから冒険者ギルドに行こう!」
昼食を食べてからメリアスが先導し、三人は冒険者ギルドに向かった。
**
冒険者ギルドについた一行。時間帯は正午なため、ご飯を摂っていたり依頼を見ていたりしている人が多い。
ギルド内にアルファ達の姿はなかった。そのため、依頼を探すことにした。しばらくどの依頼が良いのか相談しながら探していると、バタンと大きな音を立てて誰かがギルドに入ってきた。
「!」
そこにはアルファとエルファがいた。しかし、その顔つきはとても依頼を達成して帰ってきた時のようなものには見えない。むしろ緊迫した様子だった。
二人は皆の視線を集める中、受付嬢の元へ真っ直ぐ進む。そして言った。
「今すぐ町に避難警告を出すんだ。いや、国全体にもだな」
その言葉はあまりに衝撃的だった。町の、国の英雄である二人が真剣にそんなことを言っているのだ。何か大きな脅威が迫っているということは誰もが簡単に理解できる。
「ど、どういうことですか?」
受付嬢は困惑しながらも理由を尋ねる。
「まだ少し遠いが、異常な量の魔族の軍団がこの国に迫っている。そして一番最初にその軍団と当たるのは恐らくこの町だ」
「!?」
更に大きな衝撃が走る。とうとう平和と言われていたフェンシェント国に魔族達の進撃が開始される。
ギルド内は騒然となる。皆がこれからどうするべきか真剣に話し始めた。そんな中世莉架は至って冷静でいた。
「大変なことになりそうだよ」
「ついに……ついにこの国にも魔族が……」
メリアスとハーリアはとても不安げだ。
「まぁ、落ち着きなさい。すぐにでも戦闘が始まる、ということではなさそうだし、対抗手段や作戦を考える時間はある。まずは冷静になって頭を使って考えることが大事よ」
世莉架は滅びかけている世界を救うため、という理由でメリアスに連行されたのだ。いくら平和な国と言ってもいつどんな敵が現れて、どんな絶望的状況に立たされても全くおかしくないという心構えでいた。そのため、大量の魔族達が攻めてきていてもそんなものは想定内であり、冷静でいられたのだ。
世莉架が受付嬢に話しているアルファ達に近づく。
「二人とも、ちょっといいかしら?」
「セリカ!」
「どうしたんだ?」
また会えたことを喜んでいる状況ではないため、すぐに本題へ入る。
「少し遠いとアルファは言ったけれど、アルファ的には後どれくらいでこの町に魔族の軍団が到達すると考えているの?」
「……そうだな、あのペースで進んでいるなら後三日って所かな」
「三日ね。この国の首都から援軍を呼ぶことはできるの?」
「首都からここまでは歩きなら大体五日かかる。馬車を使えば三日といった所か。だから俺の予想通りに魔族が進んだとしたら国の支援が間に合わない。そもそもこの情報を国に伝えるのに時間がかかるからな」
つまり国からの援軍は無しで、この町にある戦力だけで対応しなければならないということだ。
「け、けどよ、この町にはアルファ達がいるじゃねーか」
そこで一人の冒険者がそんなことを言い出した。
「そうだ、俺達にはアルファ達がついてるんだ。魔族共なんて蹴散らせる!」
それを皮切りに不安と恐怖が入り混じった雰囲気だったギルド内には活気が溢れ始めた。
周りの冒険者が同調し始め、急に自信が湧いてきているようだった。
「調子に乗んな!」
大きな声がギルド内に響く。アルファの声だった。
「お前ら、甘く見過ぎだ。さっきも言ったが魔族の軍団は異常な数だったんだよ。恐らく四、五万はいた。更に中には一際強い気配も少ないが感じたんだ。魔族の幹部クラスがいるかもしれない。そうなったら俺達でも対処しきれるか分からないし、お前らを助けている余裕なんてない可能性の方が高い。もっと冷静になって考えろ」
敵の数や幹部クラスという言葉を聞いて冒険者達は静まり返ってしまった。
士気を上げることは大切だ。しかし、それは今ではない。三日の猶予をどれだけ有効に使えるか、それを考える事が一番大切だ。
アルファの喝のおかげで冒険者達は冷静さを取り戻したようだ。
「アルファ、作戦会議は開くわよね?」
「あぁ、当然だ。これからすぐにでも実力者を集めて作戦会議をする」
世莉架が尋ねるとアルファはすぐに肯定する。そして首都に行ってこの事を伝える使いを出し、作戦会議を開くことになった。
「セリカ」
アルファは実力者を集めてと言った。つまり、実力を隠している世莉架は会議に参加できない。
しかし、そんな世莉架にエルファが声をかけた。
「何?」
「貴方も参加して」
「良いの? 私冒険者になったばかりの初心者よ?」
「大丈夫。貴方は多分だけど、聡明でしょう? なんとなくで上手く言えないけど、セリカは必要だと思うの。だから参加して欲しい」
「分かったわ。私なんかが役に立つかは分からないけどね」
「ありがとう」
そうして世莉架の会議への参加が決まり、数時間経ってから実力のある冒険者だけでなく、町の上層部の人間なども交えての会議が役所にて行われようとしていた。
メリアスとハーリアにはギルドで待機してもらっている。
「全員集まったか?」
この場を取り仕切っているのはアルファだ。アルファ程の人物が緊急会議を開始したという事実は、嫌でも緊迫した雰囲気を作り出す。会議室の中はピリピリしていた。
「では魔族の進行に対抗するため、緊急会議を始める」
いよいよ会議が始まった。
「まず現在の状況について説明する。ここフェンシェント国内のルインはすぐそこまで来ている魔族共によって大きな危機に晒されようとしている」
アルファがそこまで言った時点で、世莉架がおもむろに手を挙げた。
周りの人間はなんだこいつは、と言ったような視線を向ける。
「どうした?」
「魔族の進行はどの方向から来ているの?」
「北だ」
「北ね。フェンシェント国の周りの国々の位置関係や魔族が住んでいる場所を知りたいのだけど、世界地図みたいのはある?」
何故今そんなことを、と周りの人間達はざわつく。
「そうか。セリカは辺境の地の出なんだもんな。地図はあるぞ。だが決して正確ではない」
そう言いながらもアルファはどこからか地図を取り出し、世莉架の近くに持って行って見せた。
「これだ」
そこには主に一つの大きな大陸が描かれていた。地球で言う南米のような形をしている大陸だ。その周辺にもいくつか小さめの大陸があるが、この異世界にはそれだけしか大陸がないとすると少々味気ない。
「……世界には今私達がいるこの大陸と周辺の小さな大陸しかないの?」
「いいや、この大陸以外にも色々な大陸があるのは確認できている。しかしまだまだ未知の領域でな。詳しいことは全く分かっていない。恐らく俺達のような人間やそれ以外の多種族が普通に暮らしていると思うんだが……まぁ、いつかもっと深いところまでいければなと思っている」
「そうなのね。それでフェンシェント国は……なるほど、大陸のほぼ真ん中にあるのね」
「あぁ。そしてフェンシェント国より北は全て魔族の領地なんだ」
「!」
それは衝撃の事実だった。つまり大陸のおよそ半分は敵だと言うことだ。
「待って。フェンシェント国は魔族の領地のすぐ隣にあるということよね? なのにどうしてこの国は平和だと言われているの?」
「この国は昔からこの大陸内では規模のかなり大きい国で、魔法の技術も他国より高い。簡単に言えば強い国なのさ。そして魔族達は基本的に馬鹿だが、そんな有象無象の魔族達を管理している魔族は少ないが魔王を筆頭に、まさに少数精鋭と言った感じで途轍もなく強く、そして頭が良いんだ。だからこの発展したフェンシェント国に馬鹿みたいに攻撃を仕掛けたりはしない。更にフェンシェント国は色々な国と同盟を結んでいて、有事の際には共に協力し合う国も多いからな。そんな簡単に攻めに来ることはできないんだ。だからこそ今回の魔族の進行には驚いている。そして何より……」
「何より?」
「今の魔王は、力を蓄えている途中だと言われているんだ」
「完全体ではない……ということかしら?」
「あぁ。あくまで人間領土側の予想だが、魔王はまだまだ力が弱体化していて、その力を取り戻しているんだと思う」
力を取り戻している、というと、かつて何らかの事情で魔王は弱体化された、ということになる。それは魔王に対抗する手段があったということである。
「何があって弱体化を?」
「これは情報が少ないんだが、かつて勇者でもない誰かが魔王に対抗する手段を持って挑み、相当な弱体化に成功したらしいんだ」
「勇者でもない誰かね」
「そうだ。事実、その話が聞こえてくるようになってから魔族の進軍はほとんどなくなり、明らかに戦闘が減った。だから、恐らく今の魔王は弱体化していて、力を取り戻す方に熱を注いでいるのだろうと考えられている」
「なるほど……」
なんとか耐えている、といったような状況で自分はメリアスに連れてこられたんだな、と世莉架は実感していた。いくら魔王が弱体化しているとはいえ、綱渡りの状態であるのは疑いようがない。
「それで今回はその少数精鋭の中の一人である幹部クラスの魔族がいるかもしれないのよね」
「あぁ、そうだ」
「分かったわ。わざわざ時間を割いてしまってごめんなさい。話を戻して?」
アルファは元に位置に戻り、現状の説明を再開した。その間、世莉架は一人考え込んでいた。勿論アルファの説明も頭に入れている。
(この大陸と周辺の大陸以外は未だ未知……もしそっちでも魔族が占領していたり、魔族による危機が迫っているのなら、この大陸にいる魔王を倒した後にそこにも行かないといけなくなるのかしら。もしくは全く魔族などいない平和な大陸である可能性もあるけど。この事をメリアスは知っているのかしら)
そんな事を考えながらも会議は進んでいく。
「既に市民には避難命令が出されている。この町はなかなかに大きいから全ての市民が首都まで逃げるのにはどうしても時間がかる。本当はこの町の死守に冒険者や兵士を全投入したいが、この町の住人が死んでしまってはなんの意味の無い。だから首都までの道中の安全を確保するために冒険者の実力者と一般兵士をそこそこ割かなければならない」
アルファがそう説明した時、町の上層部の人間の一人が手を挙げた。
「私達はこの会議が終わったら市民達と一緒に首都へ向かう。それで冒険者と兵士はなるべく私達に多く付けてくれ。この町の死守は任せたぞ」
「……」
それを聞いたアルファの顔はいきなり厳しくなった。自分達はこの町を守る役割を放棄し、早々に首都へ逃げる。そして逃げる際には護衛を沢山付けてくれ。後のことはお前らに任せ、何があってもお前らの責任だ。つまりこう言っているのだ。
冒険者達は皆それを理解し、その上層部の人間を睨む。
「そんな怖い顔をしないでくれ。私達がこの町に残ったとしても戦力にはならないし、私達が死んでしまってはこの町は成り立たないだろう? 何故なら私達がこの町の運営をしているのだから。ルインがこんなにも活気に溢れているのは私達のおかげだ。そうだろう?」
そんな意見に他の町の上層部の人間も頷いている。
結局自分が可愛くて仕方ないのだ。自分達が優秀であると信じて疑っていない。どうしようもない奴らだ。
しかし、世莉架と裏社会について話したことのあるウェールだけはなんとも言えない顔をしていた。
「……それは困るな。あんた達にはこの町を守る義務がある。例え戦う力がなくてもこの町の行く末を見届けなくてはならない。それこそがあんた達の一番大切な役目だ。だから戦いが終わるまでは絶対にこの町にいてもらう」
アルファは言い返す。だがそんな事を聞くような人間では無い。
「はっ。若造が何を言っている。才能があって有名だからって調子に乗るなよ。私達とお前達では命の価値が違うんだ。お前達は命を賭けて全力で町を守れ。私達は絶対に死んではならないから首都にいち早く離脱し、これからの事を考えなければならない」
「その通りだ。そんな危険を私達が犯す意味はない」
「どうしてこれまでこの町に全力で尽くしてきた私達がここで命を捨てるような真似をしなくてはならないんだ。冗談じゃない」
もう何を言っても無駄だ。冒険者達は皆そう思った。どいつもこいつも、お偉いさん方は屑ばかりで、どうしようも無かった。
それまで黙っていたエルファが思い切り言い返してやろうとして立ち上がった時だった。
「ちょっと、いいかしら」
世莉架だ。世莉架が静かに手を挙げて言った。
人は感情的になるとどうしても早口になり、声が高くなるという特徴がある。そういう人間達を静める簡単な方法として、逆にゆっくり落ち着いた声で話すと相手もつられて冷静になる、という心理学があるのだ。
世莉架はそれを上手く使い、場を静めようとしている。
「皆落ち着いて。今の私達は喧嘩をしている場合では無いでしょう? こうしている間にも魔族達は着実に近づいてきている。もっと冷静になりましょう」
その言葉で皆のヒートアップした感情は一気に落ち着いた。立ち上がっていたエルファもそれを聞いて一度目を瞑り、大人しく席に座った。
「貴方達はこの町を管理しています。だからこそ貴方達は死んではならない。それは確かでしょう。でも、だからこそここに残って戦況を見て指揮をして欲しいのです。何故なら貴方達は優秀だから。優秀な人がいてくれた方が私達の生存率は大きく上昇するでしょう」
世莉架は持ち上げる。持ち上げられたら気分が良くなるのは当然だ。特に人の上に立っていることの多い、かつ自分が優秀だと思っている人物ほど効果はある。
「無論、貴方達を守る冒険者、兵士は多く配置することになります。先程アルファが言いましたが、首都へ向かう道中に護衛として割くことのできる人員はあくまでそこそこです。どうやら今回の魔族の進行はかなり大規模のようですし、アルファ達が見た魔族の軍隊以外にも魔族の進行が他の場所から行われている可能性は間違いなくあります。ですので今から急いで首都へ行くよりも、ここで多くの冒険者と兵士に守られる方が安全であると思われます」
「……ふむ」
世莉架の言葉に思わず考えてしまう上層部の人間達。
「それに自身の財産や家も心配では無いですか? 全ての財を首都に持って行くのは難しいでしょうし、町には冒険者と兵士しか残らないのですよ。こういう緊急事態だからこそ、すぐ自分の手が届く場所にあった方が安心できると思います」
上層部の人間達はどんどん揺らいでいる。
「更に、ここに残って生き延びることができれば国から勲章と莫大な財が贈られますよ。戦う力が無くても町を守る事に貢献し、町を管理する者として責務を果たしたと。そうすれば市民からの好感度も確実に上がるでしょうし、地位も上がることでしょう。すぐに首都へ逃げてしまうと、自分達の管理している町を早々に見放した、という風に見られるかもしれません」
「……確かに」
「あらゆる面から考えてここに残る方が得策だと思いますよ。まだ他にもここに残るメリットはあると思いますし。どうですか? ここに残って、私達と共に町を……いや、国を守った英雄になりたくはありませんか?」
英雄、その言葉がトドメになったようだ。
「うむ、そうだな。私達はここに残って町を守ることに貢献しよう」
そうしてあっさりと町の上層部の人間達は町に残ることになった。
冒険者達はその事に驚き、困惑していた。あの頭が固くて自分の事しか考えていない上層部の人間達が町に残るというのだ。
その事実に驚いている者が多い中、アルファやエルファはそういう風に誘導した世莉架に驚いていた。
ただの冒険者初心者、世莉架はそう言っていた。明らかに異質、そうアルファとエルファは感じる事になったが、それは悪い意味では無い。むしろこの出来事によって二人の世莉架に対する好感度はかなり上がっていた。
良かったと、エルファは笑みを浮かべている世莉架を見る。
「!」
確かに笑みを浮かべている。しかし、その目の奥には異常なまでの怒りの炎。異常なまでの殺意。それに気づく事が出来たのはエルファだけだった。




