お題「ハッピィエンド」
うさぎのみみちゃんは、毎日あまくてふわふわのケーキをつくります。
おひさまが元気な日も、そうでない日も、毎日つくります。
ある日みみちゃんはケーキの材料を探しに山へ出かけます。
「ママ、お山にいちごを採りに行ってくるわ」
「お山には、こわいおおかみがいるのよ。けして見つからないように気をつけてね」
「わかったわ、行ってきます」
みみちゃんは長いお耳をぴんとたてて、ママの言うことをよく聞きます。
そして元気いっぱいの返事をし、山へ向かって行きました。
山はとても見晴らしのいい場所です。
「わあ。お家まで見えるわ」
真っ赤で水々しいいちごが実っているのを見つけました。
みみちゃんはそちらへかけていきます。おいしそうないちごがたくさん実っているので、よろこんでいます。
「オイうさぎ」
後ろから声をかけられておどろいたみみちゃんは、ぴょんと飛び跳ねます。
「だぁれ?」
足が地についてからたずねます。
すると後ろにいた男の子はしっぽをピンと立て答えます。
「こわーいおおかみだぞ」
みみちゃんはママの言っていたことを思い出します。
『けして見つからないようによく気をつけてね』
「そうだ!見つからないように気をつけるんだった」
みみちゃんはちいさな手でおおかみくんの目をおおいます。
「お前、何をしているんだ?オレはこわいおおかみなんだぞ。こわいおおかみに見つかったら逃げなきゃいけないんだぞ」
おおかみくんのキバがきらりと光りました。たくさん生えていて、がぶっとかまれてしまえば大きな声で泣いてしまうほど痛いでしょう。
「逃げなきゃいけないの?だけどわたしはあのいちごがほしいの」
「いちごが?」
「そう。今日のケーキにはいちごを使うの。だからわたしは逃げないわ」
おおかみくんはみみちゃんのちいさな手をにぎると、自分の目から遠ざけます。
「ケーキって、なんだ?」
おおかみくんにそうたずねられたみみちゃんは、とてもびっくりしてしまいました。
ケーキを食べたことのないこどもがいることを知らなかったのです。
「ケーキは、うぅん、あまくて、ふわふわで、とーってもおいしいの」
「あまくて、ふわふわ」
おおかみくんは食べたことのないケーキの味を想像して目をかがやかせます。
「あなたはどうして山にいるの?一人でくらしているの?」
「オレはこわいおおかみだから、みんな逃げていったんだ」
みみちゃんはそれはふしぎなことだと思いました。
「わたしはあなたのこと、ぜーんぜんこわくなんかないわ」
「どうしてオレのことがこわくないんだ?」
おおかみくんはどきどきしながらたずねます。こんなふうにだれかとお話をするのは初めてのことです。
「だって今であったばかりじゃない。あなたのことなんにも知らないもの。なにをこわがったら良いか、わからないわ」
みみちゃんはぴょんぴょんと飛び跳ねながらいちごをつみ、おおかみくんはその様子をしずかに見ています。
「そのいちご、オレがそだてているんだ」
とてもちいさな声でおおかみくんがつぶやきます。とてもとてもちいさな声でしたが、みみちゃんの耳は大きいのでよく聞こえます。
「まあ。すごい。あなたがこんなにおいしいいちごをそだてているのね。すてきなことだわ」
おおかみくんは初めてほめられたのがうれしかったのか、しっぽがぱたぱたと動いています。
そしてみみちゃんは、とても良いことを思いついた!というふうに耳をピンと立てます。
「そうだわ、いちごのおれいにケーキをあげる」
「オレにくれるのか?」
「ええ、きっと今まででいちばんおいしいケーキができあがるわ。さあ、いきましょう」
みみちゃんはおおかみくんの手を取り、またかけだします。
みみちゃんのママはどれだけびっくりするでしょう?
おおかみくんはみみちゃんの作ったあまくてふわふわのケーキを食べて、とてもしあわせそうです。
おいしいケーキを、初めてできたおともだちと食べることができてとてもしあわせです。
みみちゃんも、おともだちがケーキをおいしそうに食べるのでとてもしあわせです。
二人はそれから毎日いっしょにケーキを食べ、やがておおかみくんはみみちゃんのおうちのお隣に住むようになりました。
「ねえしってる?こういうのをハッピィエンドっていうのよ」
「どういういみだ?」
「だいすきっていみ!ね。ママ」
みみちゃんのおうちは今日も甘いかおりにつつまれ、いつまでも楽しそうな笑いごえが聞こえてきます。
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