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とある春の1日

作者: 七瀬優愛

「来年の春にはまた戻って来るから」と言われてもうすぐ1年になる4月1日。

 海外に1年間留学してしまった恋人の宇宙とは夏に1回文通をしたきりでほとんど話してない。

 メールを送っても全然返事がこないし、嫌われちゃったのかなと私は最近よく思う。それは大学での講義中も、バイト中も、寝るときも起きる時も。1日中ずっと宇宙のことが頭にある。

 正直、宇宙は可愛い女の子や芸能人にすぐ反応するところも多い。

 例えば、2人でケーキバイキングに行った時なんて近くの席に座っていた女の子にべた惚れしてたし、大学でも可愛い先輩や後輩を見つけては一緒に写真を撮ったりしてる。でも、途中で折れて最後には私のところに戻ってきてくれる。そんな彼のことが私は大好きだった。


 バイトが終わって家に帰るとポストの中に『日下波瑠様』と汚い字で書かれた手紙が入っていた。その字を見て私はすぐに差出人が宇宙からだと気づき、封筒の封を開けた。

 中には白い便箋が1枚入っていた。


『波瑠へ

 元気ですか?俺は元気です。

 なんとなく海外に関わる仕事がやりたくて思い切って留学してみたけど、正直俺にはあまりあってなかった気がします。

 確かに、海外の生活は日本と違うところもあって楽しかったし異国の文化を学べるのは良いことだと思う。だけど、何1つしっくりくるものがなかった。そんな気がしました。

 なので、残り2年の内に自分の本当の夢を本気で探してみようと思います。

 だから、夢に集中するためにも波瑠と別れようと思います。

 今までこんな俺と付き合ってくれてありがとう。さよなら。

 棚田宇宙』


 手紙を読み終わってまず初めて出たものは涙だった。音信不通な日々が続いてる中、やっと手紙が来たと思えば別れ話で。

 今までの日々はなんだったんだ、と思う。

 ふざけんな、と思う。

「ふざけんな!」

 声に出して言う。

「ふざけんな!棚田宇宙!」

 もう一度声に出して言う。

 本当に悔しかった。

 宇宙を思って毎日、苦手な講義にも頑張って1日も休まずに出たし、バイトだってシフトにたくさん入って頑張った。宇宙が帰ってきたらどこか遠くに遊びに行きたかったから。そう思ってここまでやってきたのに。

「ふざけんな!宇宙!」

 近所迷惑だと分かっていても大きな声を出してそう言った。

 すると、「近所迷惑」と言う懐かしい声が上から降ってきた。

 思わず、上を見上げるとキャリーバックを引いた宇宙がいた。

「え?宇宙?なんで?留学は?」

 なんで海外にいるはずの宇宙がここにいるの?と思いながら私は聞く。

「朝、今日までだって言わなかったけ?」

「え?」

 そう言われてリュックからスマートフォンを取り出して確認してみる。

 すると、宇宙から『日本に着いたらそのまま波瑠の家に行く』というメールが届いていた。

「あ、ごめん。私、今日午前中からずっとバイトでスマホ見てなかった」

「いいよ、別に」

「本当なんかごめん。こんなんじゃ、振られても当然だよね」

 悪いのはミーハーな宇宙だけじゃない。目の前のことしか見えない私にも悪いところはある。そんな私を宇宙は今みで一度も怒らずにいてくれた。だけどもう、我慢の限界に達したのだろう。

 そう思ってスマホから顔を上げると宇宙は凄く不思議そうな顔で私を見ていた。

「え?」

 私がそう呟くと宇宙は慌てた口調で早口で言った。

「あの手紙、嘘だよ。留学はして良かったし海外に関する仕事がしたいのも本当」

「別れ話は?」

「あれも嘘。そんなことないに決まってるじゃん」

 宇宙はそう言うと私の方を向いてニカッと笑った。

「え、じゃあなんで?」

「波瑠、まだ気づかない訳?」

「気づかない?」

「今日、エイプリルフール。もう午後だけど」

「あ、そういえば」

 言われてみれば、そうだった。今まで、エイプリルフールに誰かに嘘ついたりしたことはなかったこともあってか、そんなこと気に留めてもなかった。

「なんか、ごめん」

「こっちこそ、泣かせてごめん」

「別にいいよ。あと、遅くなったけどおかえり。ずっと待ってたよ」

「ただいま。俺も波瑠に会える日をずっと待ってた」

 彼はそう言うと、優しく私の頭を撫でてた。

 優しい風が吹く。私に春がやってきた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章がとても読みやすかったです。 恋する女の子の心情、相手の男の子のキャラクターが上手く表現されていると思いました。 ストーリーも全く予想もしない展開があり、面白かったです。 [気になる…
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