水の確保はどうしようか、と考えたけど……
とりあえず腐るほど食料を生産する能力を手に入れたリツたちは、次なる問題として、水源の確保に取り組むことにした。ちなみに今は、かなり離れた泉のところに定期的に汲みに行く必要がある。
「どうすればいいと思う?」
「マスター、非常に言い出しづらいのですが……」
「? どうしたの? くすぐったい?」
リツは村の中心の広場のベンチに座り、うさぎの姿のサヤを撫で回している。その様子は、半ばこの村の日常の一コマになりつつあった。
「いえ、くすぐったくはないです。そうじゃなくてですね、水の問題は解決している気がするんですが……」
「え? なんでさ? 今だって汲みに行ってるし何も解決してないんじゃ……」
リツは現在進行系で水くみに行っているため見当たらない男たち数人を思い浮かべる。ちなみにエルフ達の人間なんぞよりよっぽど男女平等だ。今日は水くみ当番が男なので男が行ってる。
「そもそもそれが不思議なんです。どうしてエルフの皆さんは、戦闘時しか魔法を使わないんですか?」
「そう言われれば確かに」
「それも魔法を戦闘にしか使わない、という文化だとかルールがあるとか、そういった感じではなく、そもそもそんな発想がなかった、という感じでした」
「そういえば、落ち葉を集めるのに魔法を使っただけで、随分驚いてたなあ」
「はい、きっと彼らは魔法を生活に使う、という発想が無いのです。どうしてかは知りませんが。ですから、その」
「うん」
「その、水魔法を使う、という発想もないんじゃないでしょうか? いえそもそも、水魔法という存在をらないんじゃ……」
「あっ、なるほどね」
農作物を育てるときは、光や、水などあらゆる魔法を複合した上で植物の体内時計をいじって、急速に成長させる魔法直接教えたため、気が付かなかった。そういえば、リツが以前畑仕事を手伝っていた時は、わざわざ汲んできた水を惜しみ、水やりなどしていなかった。もし水魔法が使えるなら、そんなことはしないはずだ。
「じゃあ、水問題は解決?」
「はい、おそらく」
「そっかー」
もふもふもふもふもふっ。何だか拍子抜けしてしまったリツは、サヤを高速でもふもふする。
「ちょ、マスター、ははは、はは、はあははは、流石にくすぐった……あはははは」
うん、サヤはあっちにいた時の人型より、うさぎの方がいいかもしれない。もふもふで気持ちいいし。
その後、リツが水魔法をエルフ達に教えたことで、エルフの村には水道が完備された。
エルフの持つ大量の魔力があればこそできる芸当なため、この村はおそらくこの世界で初めて水道の完備された村となった。