魔法を用いた農作物の生産量増加策について
まず前提として言って置くと、エルフ達の農業は極めてレベルが低い。言ってしまえば耕して種をまく。これだけだ。だから、改善も当然初歩的ところから始まる。
「サヤ、この畑の土の状態は?」
「お世辞にも良いとは言えないでしょう」
「だよねえ……」
畑の土などさっぱりなリツにも、状態が良くないことはわかる。だって生えてる野菜の茎細いし。
「どうすればいいと思う? 正直肥料とか言われても、腐葉土とか、家畜の糞とかくらいしか知らないんだけど」
「いえ、それで十分だと思います。幸い、腐敗を早める魔法もありますし、マスターなら近隣の森中の落ち葉を一度に集めることもできますしね」
「そうなの? じゃあよくわからないけど、やってみるよ」
ということで、数分後には山のような腐葉土が出来上がった。
*
「おおーっ」
リツが大量に腐葉土の混ぜ込んだ土で、試しに野菜を作って見たところ、それまでとは比べものにならないほど立派な野菜ができた。その様子に誰ともなく歓声が上がる。野菜の立派さと、成長を早める魔法とのどちらに驚いてのものかはわからないが……。
「成功ってことでいいのかな?」
「大丈夫だと思います。これなら栄養価も大きさも問題ないでしょう」
「よし、これで畑仕事から開放される」
「マスター?」
「あっ、いやいやいや、そういうんじゃないからね? 畑仕事がめんどくさかったとかそんなことが理由やったんじゃないよ? ほんとだよ?」
―――この体になってからと言うもの、少しボロが出やすくなってますね。気をつけないと。
「まあそういう事にしておきましょう」
「うん、そうして」
「それで、これからどうするんですか?」
「ん? そんなの決まってるじゃない」
「?」
リツは、当初の目的に近づくべく、動き出した。
*
―――予想通りでしたね。フィクションもたまには役に立つものです。
完全に推測というか、フィクションの世界ではそうだから、という理由でエルフ達に魔法を教えて見たところ、異常に飲み込みが早かった。いや、1月近く一緒にいたので、魔法が得意なのは知っていたのだが、新しい魔法を教えるのは初めてだったので、少し不安だったのだ。
「これでいいかい、リツちゃん」
「うん、そんな感じ」
「こっちも見てくれー」
「はーい」
リツが右へ左へ走り回っている間にも、ある一団は落ち葉を引き寄せて集め、ある一団はその集められた落ち葉を腐葉土にし、またある一団は森を切り開き、さらにある一団が出来上がった腐葉土を魔法で空気と一緒に土と混ぜていた。
こうして数日のうちに、異世界最大の大農場が森の中に姿を表したのだった。