アルヴァンメンシュ再興への第一歩
エルフの村にリツが暮らし始めて1月が経とうとしていた。その間に、分かったことがある。どうやら、エルフ達はかつて、この大陸にアルヴァンメンシュという大国を築き上げていたらしい。ということで、その再興をやってみることになった。
「サヤ、最初にやるべきことはなんだと思う?」
「そうですね、食料生産性向上とインフラの整備でしょうか」
うさぎの姿のサヤを膝に載せ、その真っ白い毛並みをもふもふしながら話す内容としては硬すぎるが、もはや誰もそのことに突っ込みを入れるものはいない。その程度にはリツとサヤはこの村に馴染んでいた。
「うーん、悪くないけど、それだとかなり時間がかからない?」
「確かにそうですね。それに話に聞く限り、エルフは繁殖力が弱いらしいですし」
「繁殖力とは、またひどい言いぐさだ、まるで私達が動物だとでも言われている気分だぞ?」
政策会議のような内容を話す幼女とうさぎのもとに、金髪のエルフがやってくる。
「ノエリアさん、すみません。別にそんなつもりは……」
「ははは、悪い悪い冗談だ。君たちはそんな人間じゃないことくらい、流石にもうわかっているさ」
「なんだ、冗談ですか……」
「ノエリアお姉ちゃん、サヤはあまり冗談がわからないんだから、やめてあげてって言ってるでしょ」
「すまないな、リツ。これからは気をつけるよ。それで、何の話をしてたんだ?」
「アルヴァンメンシュ再興計画」
「またその話か。何度も聞くが本気なのか?」
「本気も何もお姉ちゃんが言い出したんでしょ?」
ちなみにどうでもいいことだが、リツはこの村の村長の養子、という形に落ち着いている。そしてノエリアはこの村の村長の娘だ。その結果、ノエリアはリツの義理の姉、ということになり、このような呼び方になっている。
「それはそうだが、まさか本気でやろうとするなんて思わないじゃないか」
「そういうもの?」
「そういうものだ。何度も言ったが、アルヴァンメンシュ再興というのは、エルフの口癖みたいなもので、誰も本気で再興しようなんて思ってもいないし、できるとも思ってない」
「でも、私とサヤならできるかもしれないし」
「それはそうかもしれないが……」
「それに、話してるだけならタダだしね?」
「タダ? たまにリツはよくわからないことを言うな」
―――そうでした、この村には通貨が無いんでした。
「うーんと、タダっていうのは、何も損しない、ってことだよ」
「なるほど、確かに話しているだけなら損はしないな。そうだ、昼から畑仕事がある、手伝ってくれるか?」
「もちろん」
とりあえず、リツはエルフ達に自信つけさせるべく、食糧生産制の向上から取り掛かることにした。
決して畑仕事が地味に面倒だったわけではない。決して。