差別虐殺は人の性
サヤの言うとおり、今のリツは何をされても死にはしないだろう、という程度には強い。なので、数歩進んだ先で降り注いだ矢にも、慌てることなく防御魔法で対処することができた。
「歓迎されてないみたいだけど」
「そのようですね」
「まあいいや、どうにかなるでしょ」
「今のマスターならそうでしょうね」
「だよね。じゃあ正面から入って行こう」
先程の矢が警告のために放たれたことを知らない二人は、村に入ってからしばらく、矢の雨にさらされることになったのだった。
*
矢の雨が止まって暫らくすると、一人の女性が現れた。見たところ人間のようだが、不自然に耳が長く尖っている。
「何者ですか、あなた達」
「やっと出てきてそれはどうなのさ」
「全くです、攻撃に対する謝罪を要求します」
「いや、勝手に入って来ておいて、そっちこそそれはどうなんですか」
確かに。この世界にそんな法があるはずもないだろうが、場所が場所なら立派な不法侵入だ。
「それもそうか、ごめんなさい」
「ごめなさい」
「……やけに素直ですね、あなた達はわたし達を殺しに来たのではないのですか?」
素直に謝るリツとサヤに、エルフの女性は困惑しているようだ。ところで彼女、やたらと多くの飾りを身に着けているが、もしかして地位のある人物なのだろうか?
「え? なんで?」
「なんでって……人間は私達エルフを殺すものでしょう?」
「えーっと、そうなの、サヤ?」
「…………そのようですね。この世界の人間の記録を解析する限り、人間は徹底的にエルフを殺し続けてきたようです」
王国にいる間に解析可能な範囲の書物は全て解析してもらってある。そのデータの中からサヤが導いた答えは、エルフの彼女の言っていることを裏付けるものだった。
「どこの世界も、人間ってのは救えない生き物だね」
「そうですね。人間同士でさえ肌の色が違えば殺していた時代もありましたし、他種族となればなおさらなのでしょう」
「……結局あなた達は何をしに来たんですか?」
「ああ、ごめんごめん、とりあえず、君たちを殺しに来たんじゃないから安心して。というか、ここがエルフの村だなんて知らなかったしね」
―――何なら、エルフという存在すら知りませんでしたし。
「ではなぜこんな辺境にいたのですか」
「色々あって王国を追放されてね」
王国追放までの経緯を話すと、その女性、ノエリアはリツ達に同情し、ここで暮らすよう勧めてくれた。
こうして、リツ達は、一旦エルフの村に身を寄せることになったのだった。