連邦は思ってたよりもっと酷かった
「サヤ!」
「わかってますマスター、「白うさぎ」!」
「ほいっ、と。怪我してないか嬢ちゃん?」
「寝てろよおっさん……ちっ胸くそわりーな」
1人が少女を空へ逃し、もう1人が兵士の男性の意識を奪う。見事な手際だった。そんなことの驚いているうちに、近くの家からもう1人が出てきた。いや、どこまで優秀なんだ「白うさぎ」……。
「隊長」
「ええわかっています。マスター」
「ん? どしたの?」
「あの家に瀕死の吸血鬼の女性が倒れているようです」
「え? じゃあ助けに行かないとじゃん」
「ええそうなんですが、その―――」
サヤいわく、家の中の女性はどうも兵士達の犯されて挙げ句リンチされた状態らしい。逸れを少しでも元通りにするためには、時間遡行魔法を使う必要があり、唯一それが使えるリツに行って欲しいらしい。
「……なるほどね。わかった行ってくるよ」
リツは過去最高かもしれない速度でその家へと向かった。
*
―――これは酷いですね……
家へと入ったリツは、今までの見たことのない惨状を目にした。アルコールと煙草の匂いが充満する室内は、酒瓶らしき瓶と吸い殻が散乱している。そのゴミの中に、1人の女性が倒れていた。
「大丈夫、なわけないよね……。待ってて、今治してあげる」
リツは時間遡行魔法を使い、その女性と、ついでに家の中も元通りに戻した。戻したのだが……。
「…………」
「駄目、か」
その女性は起き上がったものの、目には光が無かった。息はあるし、心臓も動いている。しかし、彼女が動くことはなかった。
―――精神を癒やす魔法がどこかにあるはずです。それを使えるようになれば……、いえその前にやることがありますね
「待っててね、リリィのお母さん。私が連邦なんてやっつけてあげる」
リツはそう声をかけて家を後にした。
*
「どうでしたかマスター」
「うん、どうにかなったと言えばどうにかなったけど……」
こちらに来てからというもの、明るい表情の多かった主のなんとも言えない苦笑に、サヤは嫌な予感がした。
「それはどういう……」
「魔法で、体は元通りにしたよ。ただ心は……」
「そうですか……」
「ねえサヤ」
「!?」
サヤは基本的にAIだ。だから本来恐怖などは感じない。感じないはずなのだが……。リツの声は、そのサヤさえ恐怖させるほど冷たかった。
「連邦、滅ぼそっか」
「……本気ですか?」
「うん、こんな国は、いらない、と思う」
一言一言区切って話すリツは、どうにか怒りを抑えているようだった。おそらくここでサヤが止めたって止まらない。むしろ、今すぐ暴れだすかもしれない。
「わかりました。その代わり、吸血鬼部隊の皆さんの家族を救助してからですからね」
「わかってる、急ごう?」
「はい」
その後、人質の救助は急ピッチで行われた。その間、リツが言葉を発することはなかった。




