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脅したつもりはないんだけどなあ……

 次々と意識を失った幹部貴族達を見ても、皇帝は動じなかった。内心どう思っているかはさておき、動揺を表に出さない精神力は流石だ。


「皆さん、意識を奪う手際は見事ですが、その拍子に倒れさせて怪我などさせてはいけませんよ」

「わかってますって、隊長。俺達はあくまで平和的に交渉しに来ただけ、ですもんね」

「そうそう、平和的にね? こっちのおえらいさんに怪我なんてさせちゃあ交渉も不利になるってね」

「隊長は心配性っすねー。俺がそんなヘマするわけ無いでしょう?」


 意識を失った幹部貴族達のそばから次々の姿を現した「白うさぎ」の面々は、意識を失った帝国の幹部貴族達を、ゆっくりと横たえる。


「さて、皇帝陛下、お初にお目にかかります、わたくし―――」

「リツと言ったか、王国の救世主のふりをして、王国の王を襲撃したと言う大罪人、だろう?」

「お見知りおきいただき恐悦至極でございます」

「嘘くさい。普段どおりに話せ」

「えーっこれでも頑張ってそれっぽく話したのにー」

「マスター、それっぽく話したって……流石に一国の主に対して失礼なんじゃ……」

「ちょっとサヤ、酷くない?」

「サヤの言うとおりだ。大物なんだか礼儀知らずなんだか……」

「えーっ、ノエリアお姉ちゃんまでそういうこと言うの?」

「はははははっ、よもや我の前でそんな茶番をする余裕があるとは!」

「あれ、ウケた?」

「マスター、そこ喜ぶところじゃないですよ?」

「その余興に免じて、先程の無礼は許そう。それで、お前らの用は何だ」

「余興じゃないんだどなあ……。まあいいや。私達は帝国と貿易がしたいんだけど、どうかな?」

「拒否すると言えば?」

「それなら、それでもいいけど?」

「…………」

「どうしたの?」

「いいだろう」

「え? いいの? まだ何を取引するかも言ってないけど……」

「断れば、そこの我が腹心たちを殺す、そういうことだろう?」

―――何か盛大に勘違いされているようですね。ちょうどいいので利用させてもらいますか

「そうだね、そういうこともあるかもね」

「ふんっ、とぼけおって。そこの我が腹心達は貴族ではあるが、同時にこの国の最強クラスの戦士だ。それを一瞬で無力化する連中が、平和的に交渉しに来た、などといった日には、こちらも対処に困っておったわ。脅されたほうが幾分ましだ」

「じゃあ、交渉成立ってことでいいかな?」

「くどい。こちらに拒否権などないのだろう?」

「まあそうかな? それじゃあ近いうちにこっちから野菜送るから、そっちも売りたいものがあったら送ってね。それじゃねー」


 リツがひらひらと手を振って謁見室を後にすると、サヤ達もその後に続く。こうして、なぜか軍事的圧力のようなもので強制した感じになってしまったエルフ・帝国間初の貿易交渉は幕を閉じた。

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