不用意に結核なんか治すもんじゃない……
パン屋を大きく成長させ、一躍有名人となったリツは、次に魔法の研究を始めた。
と言ったものの、一瞬で終わってしまったわけだが……。
なぜなら、サヤの分析が魔法にも及んでいたからだ。
女神からもらった魔力無限の能力もあり、リツは実際に魔法を使ってみるところまで含めても、1週間ほどで、ありとあらゆる魔法を使えるようになった。
*
(どうしてこうなったのでしょう?)
大量の行列を前にして、リツは心のなかで嘆く。
リツの前には咳をする人の列ができていた。
きっかけは、リツが父の結核を治したことだ、と思う。
リツの予想以上に注目されていたリツたち家族での出来事は、またたく間に広まり、リツに結核を治してもらおう、という人で長蛇の列ができていた。
結核の再流行だなんだと言われた頃からさらに時間が経った日本人の感覚で、大したことがない病気だと思っていた結核だが、どうもこの世界では死の病らしい。
不用意に治したことを、リツは後悔していたが、もう遅い。
結局、しばらくリツは結核の治療に追われたのだった。
*
ということで、救国の聖女だの、伝説の賢者だの言われだしたリツ。
その功績を称える、ということで、リツは国王もとに呼び出された。
(なんだか胡散臭いですね……)
政治家や官僚といった人間に汚なさを身を以て知っているリツは、身の危険を感じたが、行かない訳にもいかない。
そういう事情で、リツは王の間という王城に一室の扉の前にいた。
「入れ」
「はい」
ゆっくりと開いた扉に向こうには、広く、天井の高い部屋の中央に、豪華な椅子があり、そこに一人の男性が座っていた。
「お前がリツか」
「はい、王よ」
「お前の功績は、見事である」
「ありがとうございます」
そこで、王の雰囲気が変わった。
(やっぱり何かありましたか)
この部屋と王自身には、なぜかサヤの分析が及ばないことから、何かあるだろう、と思っていたリツに、焦りはない。
「すまんが、お前も我の操り人形になってもらう!」
王の体から、高濃度の魔力が人の形をとって吹き出した。
(あれは何でしょうね? あれが魔王、というものでしょうか?)
「流石、というべきか、単に無謀なだけか知らんが、我の姿を見ても逃げぬとはな」
「だいたい予想してたしね?」
「ふんっ、抜かせ。言い残すことはないな?」
「そっちこそだいじょーぶ?」
「よし、その体、貰い受ける」
「いやだけど」
城を壊さない程度に加減して放ったつもりだったリツの魔法は、王から吹き出した魔王を簡単に消し飛ばし、玉座の間の壁に大穴を開けたのだった。




