転生したので、とりあえず実家のパン屋をどうにかする
日付が変わる頃、私はまだ明かりの灯る庁舎を後にした。
国会が始まってからという毎日こうだ。
そしてその日の帰りの電車の中私は過労で死んだらしい。
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「はーい、というわけで過労死担当の女神でーす」
「いや状況が飲み込めないんですが……」
「察しが悪いですねー。忖度は官僚の得意分野と聞いていましたが、あなたは違うんですか?」
「忖度と今の状況が飲み込めるかどうかは関係ないでしょう」
「なんとも玉虫色な答え、ありがとうございます。簡単に言うとですね、過労死してかわいそうなので転生させてあげよう、ってことです」
「転生なんて実在したんですね。でもどうして私にそれを伝える必要が? どうせ記憶はなくなって赤ん坊に生まれ変わるのでしょう?」
「それでもいいですが、なんと今なら! 特別に! 異世界で良ければ記憶の継承と何でも一つ願い事を叶えてから転生できます。どうです、異世界転生しませんか?」
「なんでそんな異世界推しなんですか……」
「そうですか〜? 不幸な人に異世界での幸せを、とか言って、ちょっとやばい異世界にチート能力者を送り込んでどうにかしよう、とか、そんなこと考えてるわけないじゃないですか」
「はあ、そういうわけなんですね。まあいいですよ異世界。どうせこの世界に未練なんてありませんし。では私の願いは―――」
このあと、言葉尻を捉えて論破した女神から好きなだけ願いを叶えさせ、私は転生した。
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「リツー。起きなさーい」
私は階下からの目を覚ます。
―――なるほど、ここでは私はリツという名前なのですか。
「はーい」
とりあえず状況から子供だろうと判断し、それっぽい返しをしたリツは、その声に違和感を感じる。
「サヤ、いますよね? 私の状況を教えて下さい」
「はい、マスター。端的に表現するならば、白い髪に緑の目をした幼女になっています」
リツの呼びかけに答えたのは、近くにいた真っ白いうさぎだ。
「……なるほど」
―――嫌がらせ、でしょうか?
論破され、最後には半泣きだった女神のささやかな抵抗か、もともと40すぎのおっさんだった私は、幼女に転生せられていた。
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見た目こそただの白いうさぎになってしまったものの、次世代ヒューマノイドロボットであったサヤの分析能力は健在だった。
どうやら時代は中世。そしてリツが暮らすのは封建制の王国の王都にあるしがない街のパン屋らしい。
現代経済学の全てを使い、実家の経営状況を解決した結果、実家のパン屋は王国一のパン屋となり、この世界で初めてのチェーン店になったのだった。