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第八十八話【オッサン、空中探索】

「……なるほど、貴方がたがあの渓谷に入って来たのはそういう理由だったのですね」


 ニーナとキューちゃんが楽しく遊んでいる最中、俺は母グリフォンに事の次第を説明していた。

 何故俺たちが渓谷に来る事になった理由、なぜ渓谷を攻略しないといけないのかを、彼女は理解した様子。

 話が理解できる相手で助かった、これでもう人間が襲われる事はないだろう。


「あの渓谷を消す手立ては見つかっているのですか?」

「いいや、残念ながらまだだな。俺やニーナは戦う事が出来ないから」

「なるほど……それなら力になれるかもしれません」


 そう言うと母グリフォンは、天を仰ぎ高い声で鳴いた。

 辺りに響き渡るグリフォンの声。もしかしたら渓谷の迷宮まで届いたかもしれない。

 すると、しばしの静寂を挟み、複数の鳴き声が返ってきたのである。

 ニーナとキューちゃんも不思議そうにキョロキョロと鳴き声の方向を見ている。


「……どうやら通じたようですね」

「今のは?」

「仲間のグリフォンに呼びかけました、これなら大勢の仲間が駆けつけてくれるでしょう」


 なるほど、仲間を呼んだのか……それってつまり?


「もし人間側から支援が受けられるのなら、グリフォンの仲間たちを連れてあの渓谷の攻略に乗り出します」

「グリフォン達が迷宮攻略を? ……ありがたい申し出だが、良いのか?」

「あの渓谷のハーピィには手を焼いていましたから、こちらとしても何とかしたいと思っていたところです。それに……あの街の住民たちにも、謝らなければなりませんから」


 なんとも予想外な所で心強い味方が出来たものだ、攻略に乗り出てくれるならアロット側も喜ぶだろう。

 そうこう話している内に、一匹のグリフォンがやって来た。

 巣に降り立った時、俺を見て少し戸惑いの様子を見せていたが、母グリフォンと鳴き声を交わし自体を理解した様子。

 頭をぺこりと下げて挨拶をしてくれた。


「夫です、彼も貴方に感謝を示しています」

「ああ、どうもご丁寧に」


 俺も彼女の夫に頭を下げる。言葉は通じずとも何となく態度で分かるものだ。

 ニーナは二匹目のグリフォンに驚き、キューちゃんは父親に再会した事を喜び。二人とも近づいてきゃっきゃとはしゃいでいた。


「ああそうそう、貴方は地図を書いているのでしたね? 人間たちと交渉する前にその手伝いをさせて貰えないでしょうか。上空から見渡せば地図も書きやすいでしょう」

「本当か? 何から何まですまないな」

「ふふ、息子を助けて下さったのです、これぐらいはさせてください」


 嬉しい申し出だ。正直ハーピィが飛び交う中で測量は大変だからな。

 グリフォンが居てくれれば奴らも迂闊に近寄っては来ないだろう。

 母グリフォンは彼女の夫と何度か鳴き声を交わし、こちらに背を向けて座った。


「子守は夫に任せました、さあ私の背に乗って行きましょう」


 優しい声でそう語る母グリフォン。お言葉に甘えさせてもらおう。

 グリフォンの背に乗るなんて貴重な体験だな。

 ……なんだか最近何かの背に乗る事が多いなしかし。


「分かった。ニーナ、少し行ってくるよ」

「はーいっ!」


 元気よく返事をするニーナ。先ほどの涙はどこへやら。

 お守も居るし安心して探索へと向かえる。ここはキューちゃんの父グリフォンに任せよう。

 俺は馬に乗る様にグリフォンの背に飛び乗ってまたがると、母グリフォンに合図を出す。

 巨大な翼をはためかせて、母グリフォンは渓谷の迷宮へと向かってゆっくりと飛び始めた。


                  ◇


 渓谷の迷宮上空。俺はゆっくりとしたスピードで進むグリフォンの背で地図を描いていた。

 普段歩きながら描くのと比べ、こちらの方が断然やりやすい。迷宮部分が外部に出ていて助かった。

 しかし、まさか空を飛びながら迷宮探索をするとは夢にも思わなかったな。


「順調ですか、人間よ」

「お陰様でな、この調子ならすぐに終わるだろうさ」


 母グリフォンも、俺のやっている事に興味を示している。

 迷宮測量士とは普段どんな事をやっているのかとか、どんな物を使うのかとか、様々な事を聞いてくるのだ。

 どうやら結構お喋りが好きみたいだな、キューちゃんの母親は。


 迷宮の方は今の所、洞窟が全くないという事を除いては特記する事はない。

 どうやら洞窟は入口付近のみに存在していたようだ、降りて確かめる手間が省けて良かった。

 とすると、あの洞窟は元々あった洞窟なんだろうな……後でアロットの人達に聞いてみるか。


「おや、あれは」


 ふと、母グリフォンが何かに気が付いた様子。

 彼女の視線の先を確かめると、そこには崖の上で三匹のハーピィが何かを漁っている様子。あれは……。


「……ああ、ニーナのカバンだ! こんな所まで持ってこられてたのか!」

「回収しますか? あの数なら何とかなるでしょう」

「頼めるか?」


 コクリと母グリフォンが頷くと、旋回して急速にカバンの方へ。

 俺はしっかりと彼女にしがみ付き、その実力を目の当たりにした。


 羽音に気付いたハーピィたちが逃げようとするが、着地と共に一匹が鷲の前足で握りつぶされる。

 母グリフォンは甲高く鳴き相手を威圧すると、前足で握ったハーピィを横に投げ捨てて突進。二匹目の首に食らいついた。

 三匹目のハーピィは上空へ逃げ出したが、すぐさま飛んだ母グリフォンから逃げる事は出来ず、鋭い前足の餌食になる。

 捕まれたハーピィは翼を折られ、渓谷の谷底へと投げ捨てられた。……母グリフォンの圧勝である。

 流石は食物連鎖の頂点に立つ生き物だ。俺はその一連の狩りに、思わず眼を奪われてしまった。


「さあ、急いで回収しましょう。断末魔を聞き付けて集団が来るかもしれません」


 はっ、と気が付くと既に地上に降り立とうとしていた。

 俺は彼女の言う通りに急いで背から降り、ボロボロになったカバンの元へと近寄る。

 荷物が辺りに散乱し、酷い状態だ。これはもう使えないだろうな……必要な物だけを持っていくとしよう。


「ちょっと待っててくれ、すぐに終わらせる」


 俺は辺りに散らばった幾つかの荷物をかき集めた。

 食料品類は全部食べられてるな……寝袋も駄目だ。ランタンは修理すればまだ使えそうだが。


 そうして、ある程度掻き集めた所でカバンの方を見る。

 あのカバンをニーナが背負って持ってきた日の事を思い出すな。

 折角貰った思い出のカバンなのに、ボロボロになってしまって残念だ……うん?


「どうしました?」

「……アクセサリーが無い。ニーナが大事にしているカルーンのお守りが無いんだ」


 ミアから貰った、鳥の形をしたガラス製のアクセサリー。カバンに結び付けてあったのだが、それがないのだ。

 まさか運ばれている時に落ちたか? いや、それとも谷底に落ちたハーピィが持っていたのか?

 なんにせよ、ニーナが非常に残念がるに違いない……まいったな。


「大切な物なのですか?」

「ああ、ニーナがよく手に取って眺めてたんだ。綺麗なアクセサリーだよ」

「なるほど……もしかしたら、ハーピィの巣にあるのかもしれません」

「ハーピィの巣?」


 母グリフォンは俺にハーピィの生態を教えてくれた。

 ハーピィの社会ではクイーンハーピィが中心となって動いている。何から何まで全てクイーンが中心なのだとか。

 故に、戦利品や食料品はまず始めに巣に運ばれ、クイーンの元へと運ばれるのだ。


「彼女が選んだ物はそのままクイーンの物になり、選ばれなかったものは手下のハーピィへ渡されるのです。恐らくその物品は全て選ばれなかったもので、アクセサリーは巣にある可能性が高いでしょう」

「巣は何処にあるんだ? 持って帰らないと」

「無理を言ってはいけません、人間よ。戦えない貴方が巣へ行っても、無惨に殺されるだけでしょう」


 ……確かに、母グリフォンの言う通りだ。

 しかしニーナの大事な物が奪われたのなら、何とか取り返してやりたい。


「……人間よ、貴方の気持ちは分かりますが、正直に言ってハーピィの集団から貴方を守れる自信がありません。クイーンの指揮の元で動く奴らは非常に手強いですから」

「だが──」

「ここは私に任せてくれませんか、その大事な物は必ず取り返してみせます。今回は大人しく引き下がって貰えませんか」

「……」


 こういう時、戦闘が出来ないというのは辛いな。

 ……ニーナには謝るしかないか。


「……分かった、迷惑をかける」

「いいのです、もし同じ立場ならきっと私もそうしたでしょうから」


 母グリフォンの優しい言葉が身に染みる。本当にありがたいな……。


 俺は失意のまま掻き集めた荷物を自分のカバンへと回収すると、再びグリフォンの背に乗った。

 測量はまだ途中だ、最深部を見てから帰らないとな。

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