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第八十一話【オッサン、見守る】

 猛暑も過ぎ去り、そろそろ夏季の終わりを迎えようとしていた頃。


「キューちゃん、いっくよー!」

「きゅっきゅぅー!」


 俺達は今、ギルドの近場にある公園に来ている。

 今日は学校がお休みで、ニーナもキューちゃんと久々に思いっきり遊びたいと言い出したのだ。

 学校に通い始めても休日に迷宮へと行ったりしていたが、遊ぶことはあまり無かった気がする。

 そんな事もあって、今日はめいいっぱい羽を伸ばすことにしたのである。


「てぇい!」

「きゅーっ!」


 彼女はディスクと呼ばれる木製の円盤を投げ、キューちゃんに取りに行かせる遊びをしている。

 このディスクは遺物を元に作られた玩具で、本来は犬相手に使うものなのだが……


「きゅうっ!」


 意外にもキューちゃんは上手く空中でキャッチできるのだ。

 多少高くてもジャンプと同時に自慢の翼を懸命に羽ばたかせてディスクに到達。

 上手に嘴でディスクを捉え、キャッチする。

 そのまま滑空して着地すると、ディスクを咥えてニーナの元へと戻っていくのである。


「上手上手っ!」

「きゅっきゅっ♪」


 ニーナに褒められて頭を撫でられると上機嫌になるキューちゃん。

 嬉しさのあまりか、ニーナの周りをぐるりと一回転。

 その様子を見てニーナも嬉しそうに笑い、俺もベンチから微笑ましい表情で見つめるのだ。


 しかし本当に子供達は仲がいい。

 主人とペットという関係よりも深い関係と言ってもいいだろう、本当に信頼し合っている。

 やはり似たような境遇というのが大きいのだろうか?

 まあ時には喧嘩もしたりもするんだが、そんなのどこにでもあることだしな。


「おや、貴方は……」


 俺がキューちゃん達を眺めていると、何処かで聞いたことのある声。

 その方向を見ると、老人が一人こちらを見て立っていた。

 カルーン大聖堂の大司教、カールス・ウァールデントさんだ。

 今日は司教服では無く一般人の装い。いわゆるオフの日って事だろうか。


「これはこれは、こんな所で会うなんて奇遇ですねウァールデントさん」

「どうもジムさん、隣よろしいですかな」

「勿論ですよ」


 俺は少し横にずれて席を譲ると、大司教は隣に座る。

 会うのは多分大聖堂の時以来だな、元気そうで何よりだ。

 俺達は暫くニーナとキューちゃんが楽しそうに遊ぶのを眺めていた。


「まるで本物の姉弟のようですなぁ」


 眼を細めながらそう言う大司教。

 やはり他人から見てもそう見えるのだろうか?


「ええ、本当に仲がいいですよ、ニーナとキューちゃんは」

「確か噂で聞いたのですが、片や遺物として迷宮で見つかった少女、片や森で見つかったはぐれ子グリフォンだとか」

「ええ、その通りです。親の居ない似た境遇だからこそ、何か惹かれ合うものがあるんでしょうかね」


 そう話しているとニーナ達も大司教の存在に気付き、


「あっ、だいしきょー?のおじいちゃん! こんにちはーっ!」

「きゅーっ!」


 と手を振って挨拶をする。

 ニーナは相変わらず大司教について分かってなさそうだ。とっても偉い人なんだぞ、まったく。

 そんなニーナ達に大司教はゆっくりと手を振って返事を返している。


「すみません、元気なもので」

「ほっほっほ、無邪気で良い子じゃないですか」


 にこにこと笑いながらそう言うと、大司教は「ああ、そういえば」と話を切り出した。


「ドラゴンの件についての手がかりは何か掴めましたかな」

「……! どうしてそれを?」

「ほっほっほ、今や貴方達ランパート一家の存在はトランパル中に知れ渡っているのですぞ、ジムさん。最近図書館でドラゴンに関する文献を読んでいると噂になっているのを聞いたのです」


 なんてこった、そんなに有名人になっていたのか俺達。

 ……まあよくよく考えてみれば、様々な組織のトップと面識があって、大富豪にも恩があるもんな。

 噂が知れ渡るのも時間の問題だったか……これからは身の振り方を少し考えないといけないだろう。


「して、ジムさんは一体何のためにドラゴンについて調べているのですかな?」

「……それは言えません、こればかりは俺が解決するべき問題なので」

「ふむ……何やら事情がありそうな様子、そう言うのでしたら深くは聞きませんよ」


 そう言うと、大司教は真剣な眼差しで俺を見る。


「しかし、我々は皆、ジムさんの味方である事は覚えておいて下さい、一人でどうにもならないと思ったらいつでも言って下され」

「……感謝します、ウァールデントさん」

「ほっほっほ、いいんですぞ」


 頭を下げて礼を言う俺に、大司教は優しい笑みを浮かべていた。

 思えばこの街の住民は皆優しい。困っている人に手を差し伸べてくれる人ばかりだ。

 本当、頭が上がらないな……。


「ジムさーん!」


 そう思っていると、公園の入り口から俺を呼ぶ声が。

 頭を上げてその方向を見ると、受付嬢姿のシエラが手を振っていた。


「どうやらお呼びの様ですな、ニーナちゃん達は私が見ておきましょう」

「助かります、ウァールデントさん」


 俺は大司教に礼を言うとベンチを立ち、シエラの方へと向かった。


「シエラ、どうかしたか?」

「ジムさんご指名の依頼ですよっ! もうすっかり有名人ですね!」


 ああ、なるほどな。ジョンやダルパから噂を聞いたのだろうか?

 ダルパはともかく、ジョンが話を盛ってないといいんだがな……。

 俺はニーナ達は大司教に任せて、シエラに連れられてギルドへと向かった。


                 ◇


「どうも、貴方がジム・ランパートさんでしょうか」


 ギルドの客室へと連れてこられた俺を迎えたのは、裕福そうな服を着た男性だった。

 恐らくダルパの知り合いだろうか?


「ええどうも、俺がそうです」

「ああ良かった! 噂はかねがね聞いております、なんでも凄腕の迷宮測量士で、"英雄"と呼ばれているんだとか」


 え、英雄?


「……あの、何でしょうか、その英雄って」

「おや、あのドワーフとの戦争を止めた上、かのジルアート氏の娘さんをドラゴンに乗って救った英雄だと聞いたのですが……」


 ……話が盛られるのは覚悟していたが、英雄は言い過ぎだろう。

 俺はその言葉に苦笑いして返す事しか出来なかった。


「ええい、この際英雄でなくてもいい! 兎に角話を聞いてもらえませんか?」


 良いのかそれで……だいぶ大雑把すぎないか?


「……ええもちろん、何やら訳がありそうですし」

「良かった! では早速本題に入らさせて頂きます」


 俺が了承すると、男性は地図を取り出して机の上に置いた。

 男性が指を指すのはマグトラの更に北、"ロシナ山脈"。

 その標高の高さ、山の険しさから未だに未踏の地が多い場所でもある。


「私は、ロシナ山脈の麓にある小さな鉱山街"アロット"の副町長を務めています。我が街はマグトラ程ではありませんが、魔石の採掘や貴金属の採掘などで生計を立てていました」

「立てて"いた"、か」

「はい……ある日の事です。いつものように鉱夫が鉱山へと向かうと、まるで山が抉れたように巨大な渓谷になってしまっていたのです!」


 なるほど、恐らく迷宮の一種か……。

 迷宮は時として地形を侵食し、全く別のものへと変えてしまう事がある。

 攻略すれば元の地形へと戻るとはいえ、近隣の住民からしたらたまったものではない。


「街の若者を何人か向かわせましたが、内部は魔物が住み着いていて近づけず、終いには暴れグリフォンも現れる始末でほとほと困り果てていたのです」

「……暴れグリフォン?」

「はい、恐らく渓谷の主とは違うのですが……奇怪な魔術を使うグリフォンでして、しかも喋るのです」

「喋る? グリフォンが?」

「はい、恐らく魔術の類の物だと思うのですが……どうやら過去に子を人間によって奪われたらしく、酷く人間を憎んでいるようでした」


 ……いや、まさかな。

 確かにロシナ山脈はグリフォンが生息する地域として知られているし、一番近場だが。


「そのグリフォンが何か言っていたかは覚えているか?」

「"私の息子を返せ"と……」

「そのグリフォンにはすぐ会えるのか?」

「ええ、渓谷に入れば恐らくすぐに……一体、グリフォンがどうしたというのです?」


 ……賭けてみる可能性はありそうだな。


「いや、丁度迷子の子グリフォンを保護していたんだ。もしかしたらその子の母親かもしれない」

「なんと……! もしかしたらそのグリフォンの怒りも鎮められるかもしれませんね!」

「ああ、渓谷に関してはまた考えないと行けないが、受けない手はなさそうだ。この依頼受けさせてもらう」

「ああ……ありがとうございます!」


 そう言うと男性は、依頼の詳細を語り始める。

 要は俺に渓谷の調査、出来るならば攻略をして欲しいらしい。

 攻略の部分はラルフに相談するとして、俺が行うべきは調査の方か、そこは通常の迷宮探索と変わらないな。


 しかし気がかりなのはやはりグリフォン。

 もしキューちゃんの母親がその暴れグリフォンだとしたら喜ばしい事だが……。

 ニーナがどう思うか、だな。

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