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第八十・五話【オッサン、本を読む】

 本という物は良い、知らない知識を沢山授けてくれる。

 かく言う俺は幼少の頃から本で全てを学び、その知識を今まで活かして来た。

 本から得た知識が無ければ今の俺は無かったし、もしかしたら早死にしていたかもしれない。

 百聞は一見に如かず、という言葉もあるにはあるが、本で得られる知識も捨てたものではないのである。


「ほへー……」

「きゅー?」


 今、俺達は机の上に置いてある本の山に囲まれている。

 ここはトランパル大図書館、この地域最大の図書館だ。


 俺とニーナは椅子に座り、周りに合わせて静かに本を読んでいた。

 もっとも、ニーナはちゃんと内容を理解出来ているのかよく分からないような声を上げているが。

 ちなみに彼女の読んでいる本は"はじまりのひ、みちびきのかみ"という、大五神に関する児童書である。

 信心深いとも言えない彼女が何故そのチョイスをしたのかは分からないが、まあどんな事でも興味が湧いたのなら良い事だ。


 俺はドラゴンについての文献を読んでいる。

 というのも、ドラゴンがヒントとして出したあの古ドラゴン語を解読する為だ。

 

『"クルゥーン・リロゥ・セン・ズィ・クルゥラ・セン"、"ンノゥ・ニールーン・セン"』


 あの言葉は一字一句ちゃんと俺の頭の中に入っている。忘れる筈もない。

 ヒントを解けば、ニーナについて理解が出来るという事らしい。

 少しでも彼女について知りたい俺は、その翻訳をする事にしたのだ。


 しかし、実際はかなり難航している。

 古ドラゴン語は既に失われて久しい言語、かつて古代帝国によって行われた"竜狩り"の際に文献は殆どが燃やされてしまった。

 数少ない残った文献も国が管理する程の歴史的文書、そう簡単に見る事が出来るものではないのだ。

 そう言った物を研究している学者が知り合いに居れば良かったのだが、都合よくそんな知り合いは居ない。


 結局のところ、地道にドラゴンに関する文献を漁り、古ドラゴン語についての記述を探すしかないのである。

 少なくとも進展はあった、今読んでいるこの文献にはドラゴンによって作られた建造物についてなのだが、彼らはかつて石版などに文字を書いたそうだ。

 殆どは竜狩りの際に消えてしまったものの、残された石版についての記述と、そこに描かれていた古ドラゴン語について書かれていたのだ。


 その言葉は"セン"、意味は"技能"……つまり、俺たちが使っている『スキル』の事。

 かの水晶龍(クォーツ・ドラゴン)……クィスルと言ったか。

 彼はニーナのスキルについて言及したのかもしれない。


「……『万能』か」


 ポツリと一言、オレは小さく呟いた。

 

 一切前例のない、彼女の固有とも言えるスキル……『万能』。

 クィスルは、それ(万能)に彼女の秘密が隠されていると言いたいのだろうか?

 だとしたら、一体何が隠れているのだろう……俺は残りの単語をなんとか埋めることが出来ないか推理を始めた。


 "ニールーン"は人間、"リロゥ"は童……つまり幼子という事はクィスルが言っていたので分かる。

 "ンノゥ"もクィスルが言っていたが意味はよく分からない。

 あの時の話の流れを考えると、否定形の意味として考えてみるのが妥当だろうか。

 

 推理した結果を持ってきていた紙に書いていく。


『クルゥーン・幼子・技能・ズィ・クルゥラ・技能、否定・人間・技能』


 前半はまだ文章には出来ないが、後半は何となく文章にすることができる。


『人の技能では無い』


 ……つまり、人間のスキルではないと言う事。

 ここから導き出されるのは、ニーナは特殊な生まれか、もしくは人間ではないのかもしれないという可能性である。


 人じゃないという可能性に関してはあまり考えられない。

 彼女は年相応……いや、少し好奇心は旺盛すぎるが、見た目も性格も少女のそれだ。

 人間に化けた何かと考えるなら、なぜ化けるのか理由が分からない。

 化けていたとしても、これほど長い期間大勢の人と触れ合い、一緒にいる中で尻尾を全く出さないと言うのはあまりにも上手過ぎるだろう。


 という訳で人外説はすぐに否定され、特殊な生まれだと考えるに至った。

 きっと前半の文を解読すれば、その生まれについて何らかが分かるのだろうが……今のところお手上げ。

 ニーナの秘密に一歩近づいたようで、まだまだ先は見えないままだ。


 それにしても調べ物のし過ぎで少々疲れたな……ニーナはどうしてるだろうか。


「ふむふむ……へぇ……!」


 どうやら楽しそうに本を読んでいるみたいだ。

 本に熱中しているのを見ると、昔の自分もこうだったのだろうかと考えてしまう。

 キューちゃんは相手にしてくれなくてつまらないのか、ニーナの横でうずくまって寝ていた。

 まあ図書館で騒がしく遊ばれても困るしな、人の目もあるし。


「今良いところか、ニーナ?」


 おれはひそひそとニーナに話を聞く。

 ニーナは少しうきうきとしながら言った。


「うんっ、あのねあのね、だいごしんのかみさまってみんなおもしろいんだよ」

「へえ、例えば?」

「んっとね、モルガさまはね、がんこだからつねにおもたいよろいをきてるんだって。あとあとウィアナさまはしっとぶかくて、スーラさまはゆうずうがきかない? んだって」


 ……なんだそりゃ、大丈夫かその児童書。


「あとねあとね、ツァルさまはにんげんからかみさまになったんだって、だからとってもえらそうなの」

「ふーん、カルーン様は何て書かれてるんだ?」

「みんなのお父さんみたいなかみさま……だって」


 そう言うとニーナはにこりと笑うと、


「きっとパパみたいなかみさまなんだね」


 なんて、俺に笑いかけた。

 ……少し気恥ずかしくなった俺はニーナの頭をわしゃわしゃ撫でてやる。

 ひゃっ、と小さく声をあげて彼女は喜んでいた。まったく。


                 ◇


 結局、あれ以降の進展はなく俺達はギルドへと戻る。

 いくつか読み切れなかった文献を何冊か借りてきた。

 ニーナはあの変な児童書が気に入った様子で、それを借りてきている。

 こうやって本を読む事が習慣付けばいい事だ。

 まあ座学が苦手な彼女に習慣付けるのは相当難しいと思うが……。


「きゅうー……」


 キューちゃんはあまり構ってもらえなくて不機嫌そうにしている。

 ニーナはそのことに気付いていないのか、例の書物に夢中だ。

 仕方ない、ここは俺が構ってやらないとな。


「よしキューちゃん、少し運動するか」

「きゅ? きゅっきゅ!」


 俺がそういうとキューちゃんはニーナの側からこちらへと走ってくる。


「あっ、わたしもあそぶっ!」


 するとニーナも一緒についてきたのである。

 キューちゃんもニーナの方に振り向いて嬉しそうにぐるぐると周りを回っている。

 やれやれ、やっぱり身体を動かす方が好きみたいだな。

 結局この後、ニーナとキューちゃんが疲れ果てるまで遊びに付き合わされるのであった。

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