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第七十七話【オッサン、水晶窟探索】

 迷宮地下の洞窟を、俺は淡く光る水晶を辿って進んでいく。

 明かりが弱くなったらマッチ棒を点火して水晶に落とし、明かりを足していきながら進んで行く。

 マッチ棒の本数は限られている。出来れば無くなる前にニーナ達を見つけ出したい所だが。


「ニーナ! クロエ!」


 俺は声を出して彼女達を捜索する。

 声は洞窟内に響き渡り、遠くまで聞こえる筈だ。


 ……が、返ってくる答えはない。

 よほど深くへと潜ったのか、それとも声が出せない理由があるのか。

 何にせよ、余り良い状況とは言えない。彼女達の行方も帰り道も、何もかも分からないのだ。

 キューちゃんも心配そうに俺の後ろを付いてきている。

 

「心配するなキューちゃん、すぐにニーナ達に会えるさ」

「きゅう……」


 彼はいつもニーナと一緒だったからな、寂しさと不安で入り混じった気持ちだろう。

 俺はキューちゃんをなだめつつ、一歩一歩と進んで行った。

 

 ……む、分かれ道か。

 通路上に水晶が生えて少し危険な道と、生えてない安全な道が目の前に現れる。

 彼女達なら歩きやすい安全な道を選ぶだろうか。

 それとも好奇心で危険な道を進むだろうか。


 立ち止まる訳にもいかないが……ん? よく見ると歩きにくい道の方向に何か落ちている。

 これは……戦闘科のワッペンか!

 これが落ちてるって事はこっちの道に行った可能性が高いな。


 勝手に外れる物でもないし、きっとわざと落としていったんだろう。

 ニーナかクロエ、どちらの物かは分からないが、誰か来る事を予想してたのだろうか?

 もしかしたらブローチもわざと……?


 とにかく進んでみるしかないな。

 俺はキューちゃんを抱き上げ、水晶を踏み抜いて怪我をしないようにゆっくり進んで行った。

 この道はまるで、半端なスパイクトラップの様に水晶が生えている。

 本当に危険なこの道を進んだのだろうか……と少し不安になるが、あのワッペンを信じるしかない。


 この道は危険なだけでなく、狭く曲がりくねり非常に歩きにくい。

 ニーナ達も進むのに苦労している筈だ。

 このまま追いつければいいのだが……。


「きゅ……? きゅっ! きゅきゅう!」


 しばらく進んだ先で、キューちゃんが何かに気が付いたように騒ぎ出す。

 視線を進行方向に向けているのでそちらを向くと、広々とした空間があるのが分かった。

 地面は平らで幾つかの水晶片が転がっている。この先にニーナ達が居るのだろうか?


 危険な道を抜け、その空間へと一歩足を踏み入れる。

 天井を水晶が覆い、ひときわ大きい水晶がまるでシャンデリアの様に空間の中央付近でぶら下がっている。

 その光景に暫し圧倒され、俺は「これは凄いな」と小さく呟いた。


「きゅっ!」


 キューちゃんを抱きしめる手が緩んだ隙に、彼はぴょんと飛び降りる。

 そして、とことこと空間の中央へと向かって行くと、俺を呼ぶようにきゅーきゅーと鳴いた。

 一体何があるのかとその場所に近づくと、黒い何か落ちているのが分かった。

 手に取り明かりに近づけると、それが黒い物では無く紺色の物だと分かる。


 そう、それはまぎれもなく、制服の切れ端だった。


 俺がそれを理解した刹那、空間の壁がばきん、ばきんと数か所が割れる。

 否、割れたのではなく"分離した"というのが正しいか。

 分離した破片はふよふよと浮き始め、まるで意志を持っているかのように空間内をぐるぐると回り始める。


「ッ――キューちゃん、危ないッ!」

「きゅうっ!?」


 俺はキューちゃんを抱きかかえ、前方へと走り出す。

 刹那、ひゅんと風を切る音が聞こえ、俺の『逃げ足』が発動する。

 そしてぱりんと割れるような音が後方で鳴り響くのだ。


 ちらりと見ると、キューちゃんが座っていた所に鋭い水晶が砕け散っているのが見えた。

 殺意を持った水晶が、こちらへと向かって"発射された"のである。

 

 ああ、畜生。すっかり油断をしていた。

 迷宮から繋がっていたのだから、ここは紛れもなく迷宮内部に決まっているだろう。

 危険がある事ぐらい察知は出来たはずなのに。


 生きた水晶……"リビング・クォーツ"とでも呼ぼうか。

 そいつらはこの空間をぐるぐると周り、俺達の隙を狙って突撃しようとして来る。

 あんな水晶が突き刺さったら痛い所じゃすまない。下手すれば一瞬でお陀仏だ。


 俺はキューちゃんを抱きかかえながら、何とかこの状況を打破する方法を探っていた。

 制服の切れ端が落ちていたと言う事は、ニーナ達も襲われ服を掠めたのだろう。

 もし逃げきれなければここで倒れている筈だが、その様子は無い。

 彼女達は無事逃げ出したのだろう。つまり、打開策は必ずある筈だ。


 幾つかの水晶がこちらを狙って突撃してくる。

 俺はそれを避けつつ、現状を把握する為に空間を駆け巡った。

 空間には来た道以外に道は繋がっていない、完全に行き止まりという事だ。


 という事は、ニーナ達は急いで来た道を戻ったのだろうか?

 いや、歩きにくいあの道を走って戻る事はほぼ不可能に近い。

 それに戻ったのならば、ワッペンをこの道の方向に置いておく理由はない。

 後を追って欲しいのなら、戻った時に歩きやすい道の方へと置き直すはずだろう。


 つまり彼女達は戻った訳ではなく、ここから続くどこかへと逃げたのだと思われる。

 では一体何処に行ったのか? 答えは必ずどこかにある筈だ。


 もう一度空間をよく確かめる事にする……が、水晶達がそれを許さない。

 少しでも隙を見せれば、すぐに俺を貫こうと飛び掛かってくるのである。

 数が減ればすぐに壁から水晶が剥がれて補充される為、全て避けて全滅を待つには途方もない時間が掛かるだろう。


「くそっ、キリがないな」


 次々と発射される水晶を避けながら、俺は手がかりを探す。

 幸いにも避け続ける事は可能だが、体力が持つかどうか微妙な所だ。

 ニーナ達が見つけた逃げ道を見つけ出すのが先か、俺がやられるのが先か……。


 しかし、ニーナ達はよくこの状況から逃げ出したものだ。

 この部屋に来た時には水晶は一つも空中を漂っていなかったから、逃げた先について行ったか壁に再び張り付いたのか。

 ……そうか、もしかしたら!


 俺は咄嗟のひらめきで、壁の"ある場所"を探す。

 こいつらがニーナ達を襲った後に"再び壁に張り付いた"のだとしたら、"唯一あった逃げ道を塞いでしまった"可能性がある。

 なればその場所はきっと壁が薄く、強い衝撃を与えれば通り道が出来ると俺は考えた。


 壁を叩きながらその場所を探すと、それはすぐに見つかった。

 俺達が来た道の向かい側、少し壁に違和感のある場所。

 壁が薄く、叩くと少し蠢くのが良く分かった。


「ビンゴだ……!」


 俺が逃げ道を見つけたと同時に一気に襲い掛かる水晶達。

 意志があるのか分からないが、どうやら奴らも逃がしたくないらしいな。

 俺はそれをサイドステップで避け、壁から少し距離を取る。

 強い衝撃を与えるならば、この方法しかない――!


「キューちゃん、捕まってろ!」

「きゅうっ!」


 再び一斉に襲い掛かってくる水晶。発動する『逃げ足』。

 俺は強化された脚力で地面を駆け抜け、そのまま壁に向かってドロップキックをした。


 全ての体重をかけた重い一撃。

 俺はそのまま薄い水晶の壁を突き破り、暗い通路へと投げ出される。

 少し擦り傷を負ったが、気にしている暇はない。

 俺は急いで起き上がると、キューちゃんを抱えたまま通路の奥へと走り出した。


                 ◇


 何度か転げそうになりながらも、俺は通路を突き進む。

 ある程度進んだ所で後方を確認し、水晶が来ていない事を確認すると。


「ハアッ、ハアッ……もう大丈夫だろう」


 キューちゃんを地面に降ろして、俺はマッチ棒を擦り水晶へと投げる。

 淡く光り出す水晶、照らされる薄暗い一本道の通路。

 一本道で本当に良かった、曲がりくねっていたら水晶に追いつかれていただろう。


「きゅ……きゅ? きゅきゅ!」


 地面に降ろされたキューちゃんは何かを感じ取ったようで、一目散に通路の奥へ向かって駆け始める。


「おいキューちゃん! ……何があるって言うんだ?」


 彼がああやって進むという事は、外に繋がる場所があるのだろうか。

 もしかしたらニーナ達もそこから逃げ出したのかもしれない。

 俺は彼の先導を頼りに進む事にした。


 しばらく進んで行くと、ひときわ広く明るい空間が目の前に現れる。

 その空間に足を踏み入れると、天井に大きな穴が開いていて、そこから光が入ってきているのが分かった。

 地面には動物の骨が転がっていて、何か危険なものが潜んでいるのを感じさせられる。


「きゅっきゅうー!」


 キューちゃんは空間の中心で俺を呼んでいる。

 易々と踏み入れていいのかどうかは分からないが、彼を信じて進んでみるとしよう。

 俺は空間の中心へと向かって歩き、奥の暗がりの方へと眼をやった。


「きゅっ!」


 キューちゃんは一足先に暗がりの方へと進んで行く。

 一体何があるのだろうかと目を凝らすと――。


「……! ニーナ! クロエ!」


 すうすうと水晶の壁にもたれかかりながら寝るニーナとクロエの姿がそこにはあった。

 二人とも服はボロボロだが、怪我はしていないようだ。

 丈夫に出来た制服に救われたな、と俺は安堵して近づこうとした――瞬間。


「"ニールーン"……また来客か」


 空間に重々しい声が響き渡る。

 それはニーナ達の寄りかかる壁の方から聞こえてきた。


「"クォツ・ルカーン"……水晶の間……ここへと続く道は閉じた筈なのだが」


 壁――否、壁だと思っていたものはゆっくりと首を持ち上げる。

 その存在に、俺は驚きを隠せなかった。


 水晶の鱗に身を包む龍――"水晶竜(クォーツ・ドラゴン)"。

 本の中に出てくるような存在が、今目の前に現れたのである。

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