第七十三話【オッサン、再び授業参観】
次の日、セレスティアル学園にて。
「入学金、確かに頂戴致しました。では手続きの方ですが――」
俺は学園の受付で、正式な入学手続きを行なっていた。
これで晴れて、ニーナはセレスティアル学園の学生になったというわけだ。
制服を着た彼女は昨日出来た友達に会いたくてたまらないようで。
「ねえパパっ! 早くきょーしつ行こっ! はーやーくーっ!」
「わかったわーかった、だからそんなに引っ張るなって」
ぐいーっと俺の服を引っ張って、必死にアピールするのである。
よほど昨日の歓迎が楽しかったと見えるな。
まあ、積極的に行きたがるのは悪いことではないが。
「あら、ニーナちゃんごきげんよう」
そんなやりとりをしていると、後ろから声をかけられる。
振り向くと、スカートの裾をもってうやうやしくお辞儀をするクロエの姿が。
彼女もまたニーナと同じ制服姿だ。
「あっ、クロエちゃんおはよっ!」
「きゅっきゅ!」
ニーナ達は彼女の姿を見るや否や駆け寄って、嬉しそうに挨拶をする。
余程クロエがお気に入りらしいな。
「ふふ、キューちゃんもごきげんよう」
クロエもそれに対して嫌な顔をする事はなく、快く受け入れてる。
歳が近いのもあってか二人の仲は良好なようだ。
「ニーナちゃんのお父さまもごきげんよう」
俺の方へ向くと、先程と同じように挨拶をするクロエ。
本当に礼儀正しいな、親のしつけの賜物というか何というか。
「ああ、ごきげんよう。ニーナと仲良くしてやってくれな」
「ええ、もちろんですわ」
そう返事を返し、クロエはにこりと笑う。
昨日見せた暗い顔は何処へやら。
彼女が無理をしてないか俺は少し心配になった。
そんな心配を他所に、学校の鐘は鳴る。
「あら、もうこんなじかんですのね」
「パパぁ、早くしないとじゅぎょーにおくれちゃうよーっ!」
少し緊張感に欠けているクロエとぶーぶー文句を言うニーナ。
そんな様子を見て受付の人も少し苦笑い。
「元気なお子さんですね」
「ハハ……元気過ぎて困る時もありますけどね」
「なんでしたら、手続きはまた後でも大丈夫ですよ」
「すみません、助かります。……よし、ニーナ行くぞ――」
俺は振り返ってニーナ達を連れて行こうとする。
が、そこにニーナ達の姿は無く。
「パパー! 先にいっちゃうよーっ!」
と、廊下の方で手を振るニーナとくすくすと笑うクロエの姿。
ちゃっかりキューちゃんも彼女達の傍にぴったりくっ付いていた。
……元気なのは良い事だが、最近自由奔放過ぎやしないか、少女よ。
◇
「おはよう諸君! 今日もいい天気だな!」
教室に入って少し待っていると、教師が機嫌よく入室。
「せんせーおはようございまーすっ!」
「ごきげんうるわしゅう、先生」
ニーナ達を含む生徒は、全員挨拶を教師へと返した。
「全員元気がいいな! 感心感心ッ!」
その返事を聞いて満足気に頷く教師。
……相変わらずの戦士っぷりというかなんというか。
俺とキューちゃんは昨日と同じく保護者席に座り、教室の様子を見ていた。
……何人かの生徒達からの熱い視線を受けているのを感じる。
また質問攻めに遭うんだろうなぁ、と俺は若干苦笑い。まあ、好かれる事に悪い気はしないんだが。
「さて、今日の授業の内容だが……みんな楽しみにしていた"迷宮実技"だ!」
教師がそう言った途端、急にわっと歓声が挙がる。
握り拳を振り上げ喜ぶ生徒、気合に満ちた表情を見せる生徒など、その反応は様々。
確かな事は、全員が全員嬉々としてその迷宮実技に挑もうとしている所だろう。
そんな中、未だに状況が掴めずぽかんとしているニーナとクロエの二人。
その様子に教師は察してか。
「みんな静かに! 今回初めて迷宮実習に挑む者も居るんだから、軽く説明をさせてくれ!」
と手を叩いて場を落ち着かせる。
生徒達もそれを言われてニーナとクロエの事を思い出したか、すぐに静かになった。
多少静かになったのを見た教師はコホン、と一つ咳払いをして話し始める。
「えー、迷宮実習とは、その名の通り"迷宮で行われる実習"の事だ。それぞれパーティを組んで迷宮内での活動や罠の察知方法、魔物との実戦を学んでもらう。勿論、危険度は低いとはいえ怪我の危険があるから、よく注意するように!」
そういえば昨日案内して貰った時に言っていたな、迷宮で行われる実技があるって。
まさか入学して早々に行われる事になるとは、何たる偶然。
「ニーナとクロエはまだ経験が浅いから、俺と一緒に行動するように! はぐれない様にな!」
「はーいっ!」
元気に返事を返すニーナ。その様子をクロエはくすりと笑って眺めていた。
「とてもたのしそうですわね、ニーナちゃん」
「うんっ! めいきゅーってとってもおもしろいんだよ! いっぱいあんないしてあげるね!」
流石は見習い測量士、迷宮はお手の物といった調子だ。
そんな様子に教師はハハハと笑って。
「おいおい、先生の仕事を取らないでくれよ? ハッハッハ! ……さて、全員準備が出来次第校庭に集合、その後出発して近場の迷宮に向かうぞ! 以上ッ!」
と言い、自分も準備をするためか教室を去って行った。
生徒達は各々の武器を取り出して整備を始めている。
一部の生徒は整備する必要が無いのか、楽しそうに話をしていたりもする。
「わたくし、めいきゅうは初めてで……ちょっとしんぱいですわ」
「だいじょうぶっ! わたしがちゃんとまもってあげるから!」
二人もそんな生徒の一部だ。
まあ整備する武器もまだ持ってないしな、当たり前か。
しかし、ニーナは普段迷宮に連れられているせいか自信満々だな。
クロエに守ってあげる、だなんて胸を張って答えて、妙にやる気に満ちている。
その自信が空回りしないといいのだが……。
準備が終わった生徒は武器をしまい、それぞれ立ち上がって校庭へと向かい始める。
ニーナとクロエはそれについて行くように席を立ち、同じく校庭へと向かって行った。
「俺達も行くか、キューちゃん」
「きゅっ!」
保護者もついて行っていいのか迷ったが、まあ俺もキューちゃんも迷宮での探索は慣れたもの。
特別に許してくれる可能性もあるし、後をついて行ってみる事にしよう。
◇
校庭では非常に多くの生徒が集まっていた。
どうやら戦闘科だけでなく、他の科の生徒もいる様だ。
迷宮実習は一つの科だけで行われる事ではないらしい。
戦闘科はというと、一番最初に集まったのか点呼をしている最中だ。
「――点呼完了ッ! よーし、戦闘科は全員揃ってるな!」
鎧を着込んだ戦闘科の教師がうんうんと頷くと、再び説明を始める。
「見ての通り、迷宮実習は他の科と共同で行う。各科を交えたパーティを組んで迷宮に挑むんだ。パーティを組むのも実習の一つだからな、バランスを考えたパーティを組む様に! それじゃあ一時解散、パーティを組んだらその場で待機だ!」
教師がそう言うと生徒はそれぞれ散り、各々がパーティを組み始める。
仲良しの者と組む者、バランスを考えて組む者様々。
早く迷宮に行きたいのか、あっという間にパーティが組まれていく。
一パーティ大体三~四人程。一般的な冒険者のパーティと一緒だな。
ニーナとクロエは事前に教師と一緒に居る事を言われたからか、教師の元へと集まっている。
とりあえず俺は隅っこで様子を伺う事にしよう、下手に入っていって邪魔するのも悪いしな。
「大体パーティは組んだかな……よし、今回の迷宮は三ヶ所用意してある! 草原、荒野、遺跡だ! パーティを組んだものは行きたい迷宮を申告するように!」
なるほど、選択制なのか。
確かに、この人数が一つの迷宮に押し寄せたら教育どころじゃないな。
……ん? 教育どころじゃないといえば、教師の数はどうするんだろう。
生徒同士で組んだパーティはざっと見ても数十組ほど。
対して教師は見る限り、留守番の教師除いて三人のみだ。
学生のみで迷宮に挑めという事なのだろうか……? それは少し放任主義すぎる気もするが。
「ヘーイ! 待たせたなッ!」
そんなことを考えていると、学校の外からどこかで聞いたような声が聞こえて来る。
その方へ向くと、大勢の集団がこちらへと向かってきているのが分かった。
先頭には、俺たちも知っている顔なじみの奴――。
「ジョン!?」
「オウッ! 見慣れた顔がいるか思えばハンサムじゃないか!」
そう、あのナンパ野郎ことジョン・ガルフだ。
まさかこんな所で会うとは思ってなかったが、どうして学園に来たんだこいつ?
ジョンの後ろの人々を見ると、様々ではあるが武装をした人物たち。
どこかで見た顔も……ああなるほど、冒険者たちだ。
「さて見ての通り、一つのパーティに一人現役の冒険者が付いてもらう事になる! 全員Aランク以上の実力の持ち主だ! 彼らから実戦を通して様々なことを学んでくれ!」
戦闘科の教師が声を張って、校庭にいる全員に話す。
なるほど、冒険者を雇って教師にしてしまおうと言うわけか。冒険者の学園ならではの解決方だな。
冒険者は仕事が貰え、学園は現役の知識を学ぶことが出来る……実にいい事じゃないか。
生徒たちのパーティに冒険者たちがそれぞれ割り当てられていく。
ニーナとクロエ、教師のパーティにも冒険者が割り当てられた……のだが。
「あっ、ジョンさんだっ!」
「今日一日、よろしくおねがいしますわ」
……偶然か、運命か。何故かジョンが来た。
いや、実力はあるのは分かってるんだが。
「ヘーイプリティガールズ、俺が来たからには安心しなッ!」
こんな調子だから心配なんだよな……。
「よし、じゃあ地図をもらったら各自出発! 夕方頃には戻るように! 解散っ!」
戦闘科の教師がそう言うと、それぞれ迷宮に向かって出発していく。
他の科の教師も各迷宮に向かう様子だ。
「さて、俺たちも行こうか!」
「せんせー!」
「おっ、ニーナどうした?」
「わたしたちはどのめいきゅーにいくの?」
「ああ、それはな……"荒野の迷宮"だ!」
なるほど、ニーナの目的地は荒野の迷宮か……ジョンも居るし問題ないだろう。
しかし心配になってしまうのが親心。
「あの、先生」
「む、どうしましたかな? ジムさん」
「俺もついて行って大丈夫ですか?」
なんて、聞いてしまうのである。
……これじゃ親バカだなんて言われても仕方がないな。
教師は少し考えた後に、にかっと笑って。
「いいですとも! あの凄腕迷宮測量士が付いてきてくれるなんて、こちらとしても大歓迎ですよ! それにこの子たちの勉強にもなるでしょうしな!」
と、快く受け入れてくれた。
「わーいっ! パパといっしょにめいきゅーたんさくだー!」
「ふふ、ニーナちゃんは本当にお父さまがすきですのね」
「うんっ!とってもかっこよくてやさしいんだ!」
「そうなんですの、ふふ……」
ニーナ達は俺を見てわいわいと騒いでいる。
仲が良さそうで何よりだな、本当。
……む、クロエがじいっと俺の顔を見つめている。
やっぱり父親が恋しいんだろうか……せめて寂しい思いをさせないように、頑張らなくちゃな。
「よしっ、じゃあ出発しよう!」
「オーライハンサム! 大船に乗ったつもりでいてくれよッ!」
「ハンサム呼びはやめろって!」
入れた気合をジョンに少し削がれつつ、俺たちは迷宮へと出発した。





