第七十二話【オッサン、お披露目される】
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「つ、疲れた……」
夕方、学園から帰る途中の公園。
俺はベンチに座ってぐったりとしていた。
生徒達に捕まった俺は、あれからずっと自由時間になる度に質問攻めに遭ったりしていたのだった。
「あーたのしかったー!」
「きゅーっ! きゅっきゅ!」
一方ニーナは俺の隣で足をぱたぱたとさせながら至極満足そうにしている。
キューちゃんもベンチに飛び乗りニーナに構ってもらおうと必死だ。
全く元気なことで……オッサンの俺はもうクタクタだ。
「ねえねえパパっ! クロエちゃんのおうちってすごいんだよ! だいごーしょう? ……なんだって! それにね、色んなこといっぱい知ってて——」
ニーナはクロエの話ばかりしている。よほど彼女の事が気に入ったらしい。
まあ初めての同世代の友達だもんな。
「今日はあんまり話せなかったけど、明日はいっぱい話せるといいなー」
「明日も行きたいか? 学校」
「うんっ!」
俺の問いに、彼女はにこりと笑って返事を返した。
理由はなんであれ、学校に行きたいと言ってくれて良かった。
明日は学費を持って、学校に正式入学の手続きをしに行こう。
「遊ぶだけじゃなくて勉強もしっかりやるんだぞ?」
「う、うんっ! もちろんがんばるよ!」
……この子、座学は苦手だったっけ。本当に大丈夫だろうか。
そういえば、帰りに学園から大きな紙袋を渡されてたんだったな。
疲れて大して説明を聞いてなかったから、中身がどんなものかは分からない。いやちゃんと聞いとけよ、俺。
俺の隣に置いてあるそれを手に取り、中身を見てみる。
何か紺色の布……いや、これは服だな。取り出してみてみると、それは——。
「わあっ、せーふくだ!」
「きゅっ!」
ニーナが嬉しそうにそれを見つめている。
そう、セレスティアル学園の制服だ。
最後に必要だろうって渡してくれたんだな、ありがたい事だ。
冒険者の学園というだけあって、制服も動きやすさを重視した作りになっている。
なおかつ見た目も良い。年頃の女の子が喜びそうなお洒落な衣装だ。
……さすがお金を掛けているだけはある、なんて考えた俺は少々ゲスいか。
ニーナも早速着てみたいとうずうずしているようだ。
元々それが目的だったもんな……やれやれ。
「着てみたいか?」
「うんっ、はやくかえろっ!」
ぴょんとベンチを飛び降りると、俺の手を引っ張って早く早くとせがむニーナ。
元気なもんだなあ、本当……。
◇
ギルドに戻った後、早速着てみると部屋に閉じこもったニーナ。
キューちゃんは誰も入らないように見張りとして扉の前に座っている。
まったく良くできた忠犬……いや、忠グリフォンか? なんでもいいか。
部屋に入る前に、俺は彼女に頼み事を受けていた。それは……。
「——でまあ、お前たちを呼んだって訳だ」
「にゃるほどねぇ~、急におっちゃんに部屋に来いって言われたから、何されるのかと思っちゃったよ」
「何もせんわ、失礼な」
ニャムが少し眠そうにくぁーっとあくびを一つ。
「わーっ、楽しみですね! ニーナちゃんの制服姿!」
「まあ、採寸取ってないから少し心配だけどな」
「きっと似合うと思いますよっ! でもいいなぁ、制服……」
シエラが少し羨ましそうに、部屋の扉を眺めている。
そう、仲のいい二人にも是非見せたいとせがまれたのである。
俺が呼びに行った時、彼女たちはちょうど仕事終わりで部屋に戻ろうとしている最中だった。
二人仲良く話している所に俺が来たという構図だ。
まあこうしてダンジリア旅立ち組が揃った訳だが、ニーナはまだ着替えに時間がかかっている様子。
俺たちは寝室の扉の前で談笑しながら、彼女が着替え終わるのを待っていた。
「にしても、ニーナちゃんが学校に通うとはねえ……だいぶ太っ腹じゃん? おっちゃん」
「あの子自身の望みだからな。それに使えるお金もあったし、メリットを考えた結果通わせるのがいいと思ったのさ」
「とかなんとか言っちゃって、本当は娘の制服姿が見たいだけなんじゃないの〜?」
「人を親バカみたいに言うなよな」
指先で俺をつんつんとつつくからかい調子なニャム。
俺だってちゃんと考えてニーナを通わせてるんだぞ、まったく……。
「でも良いですよね、学校! 私も子供の頃通いましたっ」
「えっ、シエラ学校に行ってたのか?」
「はいっ! ミアちゃんともそこで仲良くなったんですっ! 勉強は全然ダメだったんですけどね、えへへ……」
それは意外だったな、シエラ達も学校に通ってたのか。
どんな学校かは分からないが、あの土壇場の底力はそこから来てるのかもしれないな。
「みんなおまたせっ!」
「きゅっ!」
意外な事実を知った所で、扉の方向から声が聞こえてくる。
扉を少し開けて、ニーナがひょっこり頭だけを出しこちらを見ていた。
キューちゃんはぴょん、と扉から飛び退いて俺達の方へと来る。
一緒にニーナの制服姿を見る気なんだろう。
「にゃっほ~ニーナちゃん、学校に通えて良かったねぇ」
「ニーナちゃんこんばんは、入学おめでとうっ!」
二人もそれぞれニーナに向かって祝福の言葉をかける。
その言葉を受けて、ニーナはえへへと少し照れ臭そうにしていた。
「ニーナ、サイズは大丈夫か?」
「うん、ピッタリだったよ!」
そういうと彼女は勢いよく扉を開けて——。
「じゃじゃーんっ!」
と、制服姿をお披露目したのである。
紺色を基調とした動きやすい制服で、胸元の白いリボンが可愛らしさを強調している。
薔薇の校章とワッペンも付けて、立派な戦闘科の生徒に早変わりだ。
ニーナはぐるりとその場で回って制服を見せびらかすと。
「どう? にあってる?」
と、にっこり笑って聞いてくる。
「とっても可愛いよニーナちゃん! よく似合ってるっ」
「きゅっきゅう!」
シエラとキューちゃんがきゃっきゃと喜びながらニーナに駆け寄っていく。
そんなに制服がいいのかはよくは分からんが、まあ似合ってるのは確かだな。実に可愛らしい。
「……おっちゃん、ニヤついてるよ?」
「なっ……こ、こほんっ。ニーナ、よく似合ってるぞ」
ニャムにニヤニヤと笑われながら俺は言葉を紡ぐ。
彼女に「ほんと親バカだねえ」とからかいを受けたが、しょうがないだろう似合ってるんだから。
「わーいっ! やったあ!」
当のニーナは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。
よほど着れて嬉しいのだろうな。
「明日から学校に行くのが楽しみだな」
「うんっ!」
明日から新入生として通うことになる彼女。
迷宮に連れて行ける時間が減ってしまうのは少し寂しい気もする。
しかし、彼女が色んなことを学んで将来に活かせるのはいい事だ。
未来の迷宮測量士──あるいは冒険者として、是非頑張って貰いたいな。
「あ、そうだおっちゃん、学校の話聞かせてよ、面白そうだし」
「あっ、私も気になりますっ!」
俺がニーナをまじまじと見つめていると、ニャム達が今日の学校訪問について気になり始めた様子。
「いいぞ、そうだな……まずセレスティアル学園に辿り着いた俺たちは——」
俺は快く応えて、セレスティアル学園での出来事を話し始める。
なんだか今日は誰かに話す事が多いな……なんて、この時俺は思っていた。





