第七十話【オッサン、学校に行く】
次の日の朝、俺達はラルフが言っていたセレスティアル学園へ向かっていた。
「せーふく♪ せーふく♪」
「きゅっきゅっきゅー♪」
ニーナ達は楽しそうに歌を歌いながら先頭を歩いている。
相変わらず楽しそうなもんだ、なんてふっと笑って俺は彼女を見ていた。
しかし俺にはよくわからんが、制服ってそんなに良いものなのか?
教えられた道を歩いていると、ちらほら学生服を身にまとう人々や薔薇の印章を胸に付けている者が目に付いた。
学校は資金さえあれば全ての年代の人が通えるが、学生服を着ている者は殆ど若者だ。
学生服が嫌な人間は、校章を胸に掲げるのがその代わりなのだろう。
まあ、時には無理して着てしまう人もいるみたいだが……。
そのまま道なりに進むと、遠方から柵に囲まれた大きな敷地と建物が見えてくる。
入口には道中で見た薔薇の校章と同じものが掲げられていた。
どうやら見えてきたらしい──セレスティアル学園が。
「わぁ……すごい……!」
「きゅーっ!」
その規模たるや、ギルドの何倍もの大きさの建物と敷地を有していることがひと目でわかるほど。
冒険者の学園だし、訓練所も併設されてるだろうから、大きな場所だろうとは思っていたが……まさかこれ程とは。
その大きさに圧倒されながら、俺たちは校門を潜り抜け中へと入っていった。
校庭では生徒達が話していたり、木製の訓練人形に向かって技を試していたり。
隅で魔法の練習をする者もいれば、気晴らしに遊んでいる者もいる。
第一印象としては、とても自由で生き生きとした学園と言ったところか。
雰囲気は悪くない、ここならニーナも自由に学べそうだ。
俺はあの学生服を着て、この学園で友人を作って楽しく学ぶニーナを幻視した。
……うん、良いものだ、なんて言ったらまた親バカだなんて言われてしまうな。
キョロキョロと辺りを見回していると、一人の人物がこちらへと歩いてくるのが見えた。
眼鏡をかけたすらっとした体格が印象的な女性だ。胸には薔薇の校章を付けている。
教本らしきものを手にしている姿から察するに、教師の一人だろう。
「おはようございます、入学希望の方ですか?」
「ああ、はい。俺じゃなくてこの子ですが」
「ふふ、可愛いお子さんですね。入口に入ってすぐの所に職員室があります、そこで受付をやっていますよ」
「これは親切にどうも」
親切に教えてくれた教師に感謝すると、ニーナを連れて校内へと入って行った。
校内に入るとすぐに受付に気が付いた。
入口近くにあるのも、防犯の為とか色々あるんだろうな。
受付にはニーナと同じくらいの女の子が、親御さんに連れられて入学手続きを行なっていた。
女の子は栗色の髪のツインテール。制服を着ているが、その仕草は見るからにお嬢様といった感じだ。
親の方は栗髪の短髪で恰幅が良く、背広を着た男性。見るからに貴族といった印象を受ける
やっぱり小さな子供で学校に通えるのは、そういう身分の人ばかりなんだろうか。
……なんだかちょっと場違いな気がして来たぞ、俺達。
「では今日からよろしくお願いしますよ、先生方」
女の子の父親がそう言うと、自分の娘に頑張るんだよと一言言って去っていく。
女の子の方は「おとうさま、がんばりますわ」とお淑やかにお辞儀をすると、職員室から出てきた教師に連れられて学園の奥へと連れられて行った。
「頑張ってね、クロエちゃん。……では、次の方どうぞ」
受付の女性がこちらを見てにこりと笑う。
女性はニーナを一瞥すると、先程の貴族と同じ要件だろうと察したらしい。
「お子さんの入学手続きでしょうか?」
「そうです、詳しく説明を受けたいのですが」
ラルフから軽くは聞いていたが、ちゃんと詳しく聞いておかないとな。
「ではご説明させて頂きます。セレスティアル学園は"次世代を担う冒険者を育てる"事をモットーに活動させてもらっています。我が校には五つの科があり、その全てが冒険者としての経験を積めるようになっています」
なるほど、本当に冒険者の為の学校って感じなんだな。
先ほどの小さな子供も、冒険者を夢見て入学してきたんだろう。
「ここの学校での経験は、迷宮測量士としても活かせるのでしょうか」
「ええもちろん、卒業生の中には迷宮測量士としての道を歩んでいる方もいらっしゃいますね」
それは嬉しい限りだな。
測量士としても学園の経験を活かせるのならいい事だ。
まあ将来何になるかはニーナ次第だが。
「どの科に所属するか決めてないのでしたら体験入学もできますよ、いかがですか?」
「ふむ……ニーナ、どうする?」
ニーナの方を見ると、彼女は俺を見上げてにこりと笑って。
「うんっ! たいけんにゅーがくするっ!」
と、大きく頷いた。
「よし分かった、じゃあ早速お願いできますか?」
「はい、では手続きをしますので少々お待ち下さいませ」
受付の女性はそう言うと、一度職員室の奥へと入っていった。
五つの科か……ラルフから少しは聞いているが、どんな感じなんだろうな。
ニーナがうまく馴染めるといいが……なんて考えていると。
「ねえパパっ」
「ん? どうした?」
「そういえば、たいけんにゅーがくって何するの?」
……何も知らずに答えてたのか、お前。
◇
「お待たせしました、まず初めに学園内を案内致しますね」
受付の女性が戻ってくると、俺達を連れて学園内を案内し始める。
受付の仕事は良いんだろうかとちらりと受付見ると、別の人が既に受付に座っていた。
手慣れてるなあ、なんて感心しつつ、俺は女性の後へとついていく。
学園内の長い廊下を歩いていると、様々な人が目に入る。
両手剣を背負った戦士の生徒、沢山の本を抱えた生徒、楽しく雑談しながら歩く生徒達。
学生服や私服に、それぞれの科を表すワッペンを付けている。
これでどこの科の所属か見分けてるんだな。
「あちらに見えるのが教室です、丁度授業中ですね」
「わぁ、学生さんがいっぱいっ」
ニーナは目を輝かせて教室の中を覗いている。
そんなに制服が気になるのか、それとも授業を早く受けたいのか。
何にせよ、興味を持ってくれている事はいい事だ。
「あんまり騒がしくしちゃ駄目だぞ、迷惑だからな?」
「はーいっ」
とまあ、一応の注意はしておく。
ニーナも周りが見えなくなるとついはしゃいでしまうからな。
まあ子供らしいといえばそうなんだが。
ここの教室は戦闘科の教室らしく、近接武器の使い方を説明している最中のようだ。
ん、よく見るとさっきの女の子も居るな。
戦闘科に入ったのか……小さいながらも逞しいというか何というか。
「戦闘科では武器の扱い方から魔物との戦い方、危険度の低い迷宮での実習を行なっています」
「迷宮での実習?」
「はい、幸いにもトランパルは迷宮が沢山ありますから、測量済みの迷宮に生徒達を連れて実習訓練を行ってるんです」
なるほどな、俺とニーナが測量した地図も、もしかしたらここで使われてるのかもしれない。
冒険者を助けるだけでなく、次世代を担う冒険者を育てる為にも使われている……。
そう考えると、よりこの仕事が誇らしく感じるな。
「続いては魔法科の教室へと行きましょうか」
「はい、お願いします」
……そうして俺たちは女性に案内され、各教室を回った。
魔法科、探索科、生産科、総合科……どの教室も生徒達が一生懸命勉強に励んでいた。
魔法科は文字通り魔法の使い方を学ぶ科。
探索科は採取や迷宮探索に関する事を学ぶ科。
生産科は様々な素材から物を作り出す事を学ぶ科。
総合科は冒険者として総合的な事を学ぶ科……。
軽く説明を受けたが、どれも冒険者として活躍するのに適していると感じた。
この中で生産科は冒険者向きではないと思われるかもしれないが、魔物の素材から即席の武器を作り出したりと色々応用が効く……らしい。
まあ俺がニーナを通わせたいのは生産科じゃなく、もちろん探索科だ。
やはり彼女には迷宮測量士になって欲しい。
大変な仕事だがやりがいはある。あの子も楽しそうに迷宮に挑んでいるし、適性はあるはずだ。
だが最後に決めるのはもちろん彼女。強制はできない。
「——さて、これにて案内は終了です。これから体験入学として一つの科に所属してもらう事になりますが、気になる科はありましたか?」
受付の女性がこちらへ向いて聞いてくる。
「ニーナ、どこが良いか決まったか?」
「んーとね……」
一体ニーナはどこを選ぶのだろう?
俺は少し期待しながらその答えを待つ。
彼女は一拍置いた後——。
「せんとうか!」
少し意外な答えを、元気よく出してきた。





