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第六十九話【オッサン、相談する】

 俺達がマグトラからトランパルに戻り、数日が経った頃――。


「……そうですか、何度も同じ夢を見る、と」

「ああ、ミアならこういうの良く分かるんじゃないかと思ってな」


 俺はミアの店に訪れて、最近よく見る夢の事について相談していた。

 最近よく見る夢――ニーナが俺の前から居なくなってしまう夢だ。

 マグトラで見た時は酒のせいだと思っていたが、その後も繰り返し見ているのだ。

 何かの暗示なんだろうか……そう思った俺は、夢の意味とかに詳しそうな相手――ミアに相談する事にした。


「子供が居なくなる夢というのは、その子が何かトラブルに巻き込まれる予兆、あるいは既に巻き込まれていたり、悩んでいるという意味があると言います」

「トラブルに巻き込まれる、予兆……」

「はい、他にも自立を願っているという意味もありますが……ジムさん、前に私が皆さんを占った時の事、覚えてますか?」

「ん、ああ。ちゃんと覚えてるが」


 そう言うとミアは申し訳なさそうに俯いて言葉を続けた。


「その、あの時言えなかったのですが……ニーナちゃんの星に、不吉なものが見えまして」

「どんなものだ?」

「瞬く大きな星と小さな星が離れて行き、小さな星はゆっくりと消え、やがて見えなくなる……この場合、小さな星はニーナちゃんを意味していて、何処か遠くへと行ってしまう事を意味していました」

「……大きな星ってのは何を意味しているんだ?」

「申し訳ありませんが、詳しい事までは……ですがニーナちゃんの親族、或いは親しい人だと言う事は分かります」


 親族……ニーナの本当の親御さんか。

 彼女は遺物の少女――つまり、"異世界から来た"可能性が非常に高い。

 そうと考えると既に彼女は別れを経験している事になるのだが……。


「それが過去に起こった事だという可能性は無いのか?」

「ありません、水晶は常に未来を映しますので……申し訳ありません、ジムさん」

「いや、謝らなくていい。それに、あの場でそんな事言ったらニーナも動揺するからな」


 あの場で嘘のは、ミアなりの気遣いだったのだろう。

 俺はそれを責める事はしないし、ニーナを出来るだけ悲しませないようにしてくれたのに感謝した。


 しかし未来に起こる事だとすると、やはりニーナとの別れが――。

 ……いかんいかん、本当に起こるかも分からないのに動揺してどうする、俺。らしくもない。

 とにかく、夢の意味については良く分かった。まあ単なる偶然かもしれないが。

 ……ニーナにちょっと、最近悩みがないかとか聞いてみるか。


「ありがとなミア、とりあえず今後の方針が決まったよ」

「……このような結果しかお伝え出来なくて、申し訳ありません」

「大丈夫だって。それに言ってたじゃないか、占いは当たらぬ時もある……だっけか」


 落ち込む彼女を、俺は大丈夫だとなだめる。結果が結果なのだからしょうがない。

 こういう時は悩むもまず行動だ、早速ニーナに会いに行こう。


「またニーナを連れて遊びに来るよ、今日はありがとう」

「いえ、お役に立てたのであれば何よりです。紅茶をまた淹れて差し上げますね」


 そう別れの挨拶を交わすと、俺は店の扉を開け、ギルドの方へと向かって歩いて行く。

 さて、ニーナはちゃんとお留守番してるかな?

 俺はそんな事を考えながら、目線を上げて真正面を見た――。


「るーららー♪ るんたったー♪」

「きゅっきゅきゅー♪」


 ……まあうん、噂をすれば、って奴だな。

 

                  ◇


「ごちそうさまでしたっ!」

「きゅぷ……」


 食べ終わったニーナが手と手を合わせて言う。

 キューちゃんもお腹をまん丸にさせて寝転がっている。

 これが我が家のいつもの夕食後の風景だ。


 ああ、変わった事が一つ。キューちゃんが赤いスカーフを着け始めた。

 どうもあげたお小遣いでニーナがキューちゃんに買ってあげたらしい。

 これからは彼のトレードマークになるだろうな、洗い物は増えたが良いことだ。


 俺はその様子にふっと微笑むと、食器を片付け始めた。


「わたしも手伝う!」

「ああ、ありがとうニーナ」


 ニーナが自分とキューちゃんの食器を洗い場に持って来てくれた。

 こういう事を手伝ってくれるのはもはや日常である。本当にいい子だ。

 ……そういえば聞かなきゃならないんだよな。


「なあ、ニーナ」

「なーに?」

「最近その、どうだ、何か悩みとかないか?」


 ここはストレートに質問する。

 遠回しに聞いても、彼女がちゃんと答えてくれるか分からないしな。

 

「なやみ? んー……あっ、きいてきいて」

「おっ、何だ?」

「キューちゃんがね、なかなかおすわりおぼえてくれないのっ!」


 いやいや、犬じゃないんだから……。

 当のキューちゃんもなんだか微妙そうな顔付きになっている。

 まあ、大きな悩みはなさそうだな……難しく考えすぎたか。


「あっ、あとね……わたし、がっこーにいきたい!」

「ふーん、学校か――えっ、学校?」

「うんっ!」


 そう元気よく答える彼女。

 俺は正直耳を疑ったが、彼女の決意は固いようで。


「がっこーに行って、いっぱいおべんきょーして、たくさんおともだち作るんだ!」


 と、にこりと笑ってそう言った。

 確かに学校に行けば、効率的に様々な事を学べるだろう。

 しかし学校、学校かぁ……。


 パンドラの学校事情はそう明るい物ではない。

 大きな街にしか無いなど、理由は様々な物があるが……やはり一番足を引っ張るのは、高い学費だろう。

 一つの学科に一年在籍する為には、金貨十枚もの学費がかかる。並の人間にはかなり痛い金額だ。

 その分学べる事は確かに多いのだが、やはりそれらが原因で学校に通う人はそこまで多くはないのが現状である。


 かく言う俺も、実は学校に行った事が無い。

 文字は親から学んだし、知識は本を読んでほとんど得た。

 田舎の出にとっては高い学費を払うより、その方が安上がりだったのだ。


 多分、少し前ならニーナに申し訳ないが無理だと謝っていただろう。

 だが偶然か運命か、数日前にちょうど金貨十枚を報酬として受け取っている。

 つまり、ニーナを学校に通わせる事が可能なのだ。


「ちゃんと勉強するか?」

「うんっ! わたしがんばる!」

「よし、約束だ。明日学校に行っていろいろ聞いてみような」

「ほんと!? やったぁー!」


 ぴょんぴょん跳ねて喜ぶニーナ。

 喜びのあまりか、しまいには満腹でダウンしているキューちゃんを抱っこしてぐるりと一回転。

 そんな彼女の姿を見て、ああ許可してよかったなと微笑ましく思う。

 まあ、キューちゃんは少しだけ迷惑そうにしていたが。


「そういやなんで急に学校に行きたいって思ったんだ?」

「学生さんのおようふくがかわいかったの、えへへ」


 ……これまた女の子らしい理由だこと。


 とにかく、明日は早速学校に行ってみるとしよう。

 まあ、トランパルにある学校と言うと、エムリック魔法学園ぐらいしか分からないんだが。

 そうだな、こういう時は……。


                  ◇


「……なるほど、それで私のところに来た訳だね、ジム」

「ああ、ラルフさんならいい場所を知ってると思ってな」


 ニーナ達が風呂に向かった後、俺は一度ギルドマスターの部屋に寄ってラルフに相談していた。

 トランパルの内情に詳しい彼なら学校のことも知っていると思ったのだ。


「報酬をニーナちゃんを学校に通わせるための資金にするなんて、いい選択をしたね」

「あの子もかなり乗り気だったからな。……で、学校についてなんだが」

「そうだね、ここトランパルには色んな学校があるんだが、冒険好きなニーナちゃん向けの学校といえば――」


 ラルフは少し考えたあと、こう答えた。


「……"セレスティアル学園"だろうか」

「セレスティアル学園?」

「ああ、優秀な冒険者を輩出している学園でね、ギルドも支援している。ニーナちゃんにぴったりなんじゃないかと思うんだ」


 なるほど、確かにニーナの性格を考えれば最適な学園かもしれない。

 冒険者への理解を深めるために通わせるのもいいだろうな。


「学科はどんなものがあるんだ?」

「戦闘科、魔法科、探索科……冒険者として役立つ学科が揃っている。たしか迷宮測量士向けの科もあったはずだ」


 ふむ、ラルフが挙げてくれた中からすると探索科が一番だろうか?

 その辺りは実際に学校に行ってみて調べるしかないな。


「ギルドから少し離れているが、大きな建物だからすぐに分かる筈だ。薔薇の校章が目印だよ」

「なるほどな……ありがとうラルフさん、早速明日行ってみるよ」

「いいってことさ、ジム」


 俺はラルフに礼を言って部屋を後にする。

 学校……俺にとっても未知の世界だ。一体どんな所なんだろうか? ニーナはやっていけるだろうか?

 俺は期待とちょっとした不安を胸に自室へと戻って行った。

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