第六十八話【"さらばランパート和平使節団"】
あれから時は少し進んで――。
「いやあ、一族共々すっかり世話になってしまったのぉ!」
マグトラの城門前、ドワーフ達とマグトラの住民が集まっていた。
タイト村の村長が笑いながら町長へと話しかける。
昨日の宴会の後、ドワーフ達はマグトラの宿に泊まり一夜を過ごした。
もうすっかりお互いに敵意は感じられない。あっという間に仲良くなってしまったな。
「今後は積極的に交流させてもらおうかの、マグトラの町長よ」
「ええ、これからは敵ではなくパンドラを共に生きる同志として」
町長と村長は共に固い握手を交わす。
それを見たドワーフ達、見送りに来ていた住民たちから歓声が上がった。
一時はどうなるかと思ったが、戦争回避だけじゃなく和平への道を歩み始めたのは喜ばしいことだ。
勿論、タイト村の全員が納得したわけでは無いだろうし、今後も文化の違いだとか困難にぶつかるだろう。
それでも、この両者の様子を見る限りは明るい未来が待ってる……そんな予感がする。
「姐さんもたまには村に戻っておいでよ。親御さんも寂しがってるし」
「そうっスね……うん、今度家に帰って、もう一度お父さんとお母さんに向き合ってみるっス」
スピネルもまた、村長たちと村へと帰るようだ。
変な奴だったが別れとなると少し寂しいものだな。
「スピネルおにいちゃん、またね!」
「きゅっきゅう!」
「フッ……ニーナクンもキューちゃんも元気で」
手を振るニーナに前髪をなびかせて答えるスピネル。
……最初から最後まで変わんねえなぁコイツ。
そして彼は最後に俺の方を見て、ちょっとニヤリと笑うと。
「そうそう、ジムクンは次会う時に、ちゃんと挨拶が出来るようになっていたらいいね」
なんて事を言い出した。余計なお世話だ、まったく。
……練習するか、真面目に。
「よォし皆の衆! 村に帰るぞぉ!」
「応ッ!」
そう言うとゾロゾロと村へと歩いて帰っていく。
「また来いよー!」
「また宴会しようなー!」
マグトラの住民達も手を振って帰っていくドワーフ達を見送る。
……なんだかこういうのって、いいな。
「ジムさん、改めまして有難うございました。戦争を回避するだけでなく、こうして和平の道まで歩めるとは思いませんでしたよ」
町長が俺に振り向いて頭を下げる。
住民からも感謝の声が挙がった。なんか照れ臭いな本当。
「頭を上げてください町長さん、どちらかと言えばラルフさんの功績なんですから」
「いや、魔石窟が見つからなければこの和平はあり得なかった。ラルフさんもそう言ってましたよ」
そうだったのか、ラルフの奴そんな事を……。
なんだかこのままじゃ埒が明かないな。素直に受け取っとくか。
そういえばラルフはどこに行ったんだろうな? さっきから姿が見えないが。
「おうい、ジム!」
と、そんな事を考えているとラルフが街中からこちらへ向けて歩いてきた。
「ラルフさん、何してたんだ?」
「トランパル行きの馬車を捕まえてた所だよ。名残惜しいがそろそろ戻らなければね」
ああそうか、俺たちもお別れの時間か。
ここに来たのもマグトラとドワーフの戦争を止める為。
それが終わってしまえば、またトランパルでいつもの生活の始まりだ。
「町長さん、また来るっスよ!」
「またな、アルマ。エレクによろしく言っておいてくれ」
町長はにこりと笑ってアルマに微笑みかける。
その様子は子供を送り出す親のようだった。本当仲がいいんだな。
そして彼はこちらへと視線を向け、手を差し出してくる。
「ジムさんもどうかお元気で、マグトラはいつでも貴方達を歓迎しますよ」
「ああ、是非また寄らせてもらうよ」
俺は握手を返し、彼らに別れを告げる。
ラルフが用意してくれた馬車は近場にあった。
俺たちは荷物を詰め込むと、馬車に乗ってマグトラの街を見る。
次来たときはニーナ達とめいいっぱい観光を楽しまなきゃな。
「ではお願いします」
ラルフが御者に出発の合図を出す。
馬車はゆっくりと動き出し、トランパルへと向けて走り始めた。
「じゃあな! 街の救世主達!」
「元気でね、ハンサムさん!」
住民たちに見送られながら、俺たちは魔石の町を後にする。
いい住民ばかりだったな。マグトラは暖かい街だ。
「ばいばーいっ!」
ニーナが馬車の外に向けて手を振った。
住民らや街が見えなくなった頃、こちらへと振り向きにっこり笑いかける。
「いい人たちだったね、パパ!」
「ああ、そうだな」
おれはぽんぽんとニーナの頭を撫でてやって、街の方向へと眼をやった。
「……さて、ジム。報酬の話なんだが」
しばらく街の方角を見ていた後、ラルフが語り始める。
そういえば依頼だったんだよなこれ。途中から全く考えてなかったが。
「金貨十枚でどうだろう」
「……はっ!?」
あまりにも桁が違う報酬に俺は思わず驚いてしまう。
「いやいやラルフさん、それはあまりにも多すぎないか?」
「君がやってくれたことを考えるとこれでも少ないくらいだよ。戦争を止め、なおかつ和平まで成し遂げたんだ。これぐらいさせてくれ」
「いやしかしだな……」
「では、これはニーナちゃんに対する報酬も含んでる事にしよう。あの会議が無事に終わったのもニーナちゃんのお陰もあるからね、何か好きなものを買ってあげるといい」
……まあ、そこまで言うのならしょうがないか。
しばらくは豊かな生活が送れそうだ。これもニーナやキューちゃんのおかげだな。
「ああそうそうアルマ、エレクが君を昇進すると言っていたよ」
「本当っスか!? いやぁ嬉しいっスね……!」
アルマの方も何か良いことがあったらしいな、よかったよかった。
まあ、俺は商人組合の仕組みはいまいち分かっていないんだか……。
まあこうして、俺たちはそれぞれ嬉しい報酬を得てトランパルに帰還することとなった。
ニーナには何かアクセサリーか何かでも買ってやろうかな……キューちゃんはいつもよりちょっと高級なお肉だな。
帆馬車に揺られる中、そんな事を考えていた。
◇
ん? ここは――ああ、クソッ、またなのか。
真っ暗な空間、石畳の道、遠くに見える光。
そして……白い人影に連れて行かれるニーナ。
今度こそ、今度こそ追いついてみせる。
二度と会えないなんて、そんなの御免だ。
無我夢中だった。
転びそうになりながらも持ち直し、どんなに苦しくて血反吐を吐きそうになっても走り続けた。
でも彼女には追いつけなくて。
いくら叫んでも、その声は届かなくて。
ニーナは光に包まれ、消えてゆく――。
――――――
――――
――
「ッ! はあっ、はっ……ああ、くそっ」
息を荒げながら俺は目を覚ます。冷や汗なのか寝汗がすごい。
また同じ夢を見るなんてついてないな、本当。
みんなが眠る馬車の中で一人、俺は夢を呪った。
時は夜。馬車も一度停泊し、ここで寝泊りしていた。
「すぅ……すぅ……」
ニーナは俺の隣で気持ちよさそうに寝息を立てている。
俺はあんな夢を見た後だから、彼女が側に居る事に安堵を覚えて。
無意識のうちに手が伸びて、気がつけば俺はニーナをぎゅっと抱きしめていた。
「ん……ぇ、ぱぱぁ……?」
彼女の声を聞いた時、俺は我に帰る。
何やってるんだ、夢じゃ無いんだぞ、馬鹿。
「ごめんなニーナ、起こしちゃったな」
「んー……へいき……」
寝惚けながら答えるニーナ。
彼女を完全に起こすわけにはいかない、今すぐ離れないと。
「ふぁ……こわいゆめでも、みたの?」
……。
「……まあ、そんな所だ」
俺はそう答えるしかなかった。
すると、ニーナは俺の頭に手を伸ばしてきて。
「えへ……もう、こわくないよー……」
と、頭を撫でてきた。
俺の気持ちを理解してるのか、はたまた寝ぼけているだけなのか。
でも、自然と彼女を抱きしめる手は強くなってしまって。
「あふ……きょうのパパはあまえんぼー……」
そんな事を言われてしまう。
まったく、こんなんじゃ保護者失格だよな。
「――ありがとな、ニーナ」
「すぅ……んぅ……」
「ははっ、ねてら」
俺は彼女から離れると、ぽんぽんと頭を撫でてやる。
そして再び、彼女の側で眠りにつくのだ。
願わくば、彼女との関係がずっと続く事を祈って。
評価・感想・レビューを頂けると大変励みになります
書いていただければ幸いです





