第六十五話【オッサン、会議に出る】
時は進み夜。満月が辺りを照らしている。
ドワーフ族の村長と話し合いをする事になった俺達は、急遽街の外に話し合いをするためのテントを設置する事になった。
乗り掛かった舟、俺もテントの設営を手伝う。野営には慣れてるからお手の物だ。
流石にドワーフ族全員を入れる事は出来ない為、村長と数人のドワーフの護衛、ラルフと町長、そして俺達が中で話し合いをする事になった。
「……俺達必要か?」
「君達は功績者だからね、居てくれると助かる」
ラルフはそう言うが……まあ出て欲しいというのならしょうがないか。
待たせている外のドワーフ達には、マグトラ側からスープとパンが配られている。
最初は毒が入ってるんじゃないかと疑っていたみたいだったが、一人、また一人と食事を始め、最終的にはちょっとした宴会のような様子になっていた。
「全く楽しそうじゃのォ、早く話し合いを終わらせて混ざりたいもんじゃ」
少しだけ羨ましそうに外を見ながら村長は言った。宴会好きなんだなこの人。
暫く見た後、村長はラルフの方へと向き直った。
「さて、ちゃっちゃと始めるとしようかのぉ、マグトラの」
「ええ、まずこの話し合いの場に参加してくれた事への最大限の感謝を、タイト村の村長殿」
「こちらこそ、ウチの馬鹿孫とスペッサルティンのとこの不良娘が世話になったようじゃの」
ん?馬鹿孫と不良娘だって?
隣に座るアルマとスピネルは、ちょっとばつが悪そうにしていた。
スペッサルティンの不良娘はまあ分かるが……まさか馬鹿孫って――
「スピネル、お前村長の孫だったのか?」
「フッ……隠しているつもりはなかったんだけどね」
手で前髪をなびかせ、スピネルは何故かドヤ顔。
いやまあ驚きではあるが……何か腹が立つなコイツ。
「全くスピネルと来たら、成人を迎えたというのに髭も付けんで遊び呆けとる」
「お爺様は古いんだよ、これからは髭無しドワーフの時代さ」
「お前だけじゃわいそんな事言っとるの! 全く恥ずかしい!」
家族喧嘩が始まってしまった……というか何だよ髭無しドワーフって。
「まったく……まあ馬鹿孫の事はいいわい」
「ひどいやお爺様」
「こほんっ! とにかく、そっち側の話を聞くとしようかの」
鋭い眼光がラルフの方へと向けられる。
敵意があるわけではないが、全てを信用したというわけでもなさそうだ。
ぴりりと緊張が走る中、ラルフは穏やかに語り始める。
「ではまず、盗賊の一件について……実を言うと、タイト村に忍び込んだと思われる盗賊達は、こちらが既に拘束している」
「ほう、マグトラの盗人かと思うてたが……その口振りからすると違うと言いたいようじゃな」
「ええ、マグトラとは一切の関係は無い。寧ろ取り調べた結果、彼らはマグトラでも盗みを働いていた可能性がある」
そうだったのか……あいつらろくな事してないな。
もしあのまま野放しだったら、何処かに逃げ延びてまた盗みを働いてただろう。捕まってよかった。
「だから言っただろうお爺様、そう考えるのは短絡的過ぎるって」
「……うむ、今回はスピネルの言い分が合ってたようじゃの。その件については謝らせてもらおう、済まなかった」
と、村長は頭を下げて謝罪した。
頑固な人だと思っていたが、意外と話の分かる相手だな。
「――じゃが、そう思わざるを得なかった原因は分かっておるな?」
「近郊で行われてるマグトラの魔石採掘、ですな」
「その通り、正直言ってわしもそれを容認した訳ではない。しかし今は魔石を必需品として扱う時代じゃ、仕方ない部分もある。なんとか耐えてくれと住民を抑えている状態じゃった」
村長は目を閉じながら、思い返すように言う。
「じゃが、御神体を盗み出そうとした愚か者どもがマグトラへと逃げていくのを見てわしは思うた。欲深いマグトラの者どもが賊を雇い、遂にわしらの物に手を出し始めたと。……まあ、それも勘違いだったみたいじゃが」
そこまで言うと村長は再び目を鋭くして、ラルフへと迫った。
「のうマグトラの、ワシらの文化を尊重したいと言うのならば……ゼロとは言わん、少しでも魔石の採掘を止める事はできんか? 魔石は神の宿る石、お主らがカルーンを大切にしている様に、ワシらも魔石を大切にしとるんじゃ」
その頼みはドワーフにとって切実なものなのだろう。
しかし、トランパルを始めとする各街はマグトラの魔石に依存している。
その量を減らせ、というのは無理があるというものだ。
「……それは約束出来かねる」
「ハッ! じゃろうのう、期待はしとらんかったわ。じゃがそれではワシらの文化を尊重しているとは言えんのではないか?」
ラルフの答えを予想していたが、呆れた様に鼻で笑って答える村長。
このままでは戦争までには行かないまでも、彼らと和解する事は出来ないだろうな。
さて、どうする……ラルフ?
「一つ、まだ貴方達に話していない事がある……魔石窟についてだ」
「……魔石窟、とな?」
ラルフはここで魔石窟の話を持ち出す。
何か考えがあるって言ってたな、一体なんだというのだろう。
「古の坑道は貴方達もご存じだろう、マグトラとタイト村のちょうど中間辺りにある廃坑だ」
「ああ、かつてワシらの先祖が御神体を掘り起こした場所じゃな。で、そこがどうしたんじゃ?」
「ここに居る彼――ジム・ランパートとその仲間達は今日、古の坑道へと出向き御神体を掘り起こした空洞を見つけた。そこは空洞自体が巨大な魔石という今までにないスケールの魔石だった」
「……! 真の話か、それは?」
驚いた顔でこちらへと目線をやる村長。
まあ、普通は信じられないよな……前代未聞のデカさだもの。
「最初は俺も信じられませんでしたが、この眼でしっかりと見ました。アルマとスピネルもその場所を見てます」
「……奴らが見たというのなら、本当なのだろうな。」
髭をなでながら村長はそう呟いた。
未だに信じられないと言った様子、まあ中々信じられなくても仕方がない。
明日にでも連れて行って実物を見てもらうしかないな。地図はちゃんと書いてきたし問題ない。
「して、マグトラの。そこをどうするつもりなんじゃ?」
「我々はそこをドワーフ族の聖地として祀ろうと思っている。道を整備してマグトラとタイト村それぞれに巡礼路を作り、盗掘者が出ないようマグトラから衛兵を派遣する。魔物などの問題はトランパルの冒険者ギルドが引き受ける……と、ここまで考えている」
なるほど、御神体を掘り出すんじゃなくてあの空洞全体を大切に祀ろうと考えた訳か。
これなら盗掘者も防げるし、何よりドワーフの文化への理解を深める事が出来るだろう。
彼らが良ければ、ドワーフ側からもガイドを求めればなおいい。面白い事になりそうだ。
「どうだろう、村長殿。これなら我々もドワーフの文化を学び、共有し、尊重する事ができると思うのだが」
「……ふむ」
村長は何か考えているようだ。流石に今までの確執があるだろうし、即決は出来ないか。
村長が良くても、他の住民から反対が出るかもしれない。過激派が出る事だって考えられる。
それほど、魔石採掘の問題はドワーフにとって大きいのだ。
「ほいっ! そんちょーさんっ!」
「むっ、ホイ! ……どうしたんじゃい、若いの」
突然元気よくドワーフ流の挨拶をするニーナに、村長が返す。
思わぬ挨拶に村長の声のトーンも優しいものになる。
ニーナは膝上にキューちゃんを乗せ、満面の笑みでこう言った。
「えっとね、わたし、ドワーフさんたちのことについてもっと知りたいな! なんでおひげ付けてるのとか、ききたいこといっぱいあるんだ! だからね、えっとえっと……文化のこと、おしえてくださいっ!」
「きゅー!」
……ふっ、なんとも好奇心旺盛な彼女らしい答えだ。
正直、夜も遅いし途中で寝ちゃうんじゃないかって心配になったが、ニーナもニーナなりに考えてたんだな。
村長は少し驚いた様な表情をした後。
「……ナッハッハ! 幼子にまで言われてしまうとはのぉ!」
そう笑って、機嫌よく言葉を続けた。
「あい分かった、賭けてみようじゃないか、ドワーフと他種族が共存できる道を、その計画に!」
「……! ありがたい、村長殿!」
こうして、ドワーフと他種族の未来がかかった魔石窟聖地化計画は、今ここにスタートしたのだった。
様々な困難が待ち受けているだろうが、きっと両者の未来は明るい物になるに違いない。
何故なら彼らも俺達と同じ、パンドラに生きる者なのだから。
「さ、そうと決まれば宴会じゃあ! ゆくぞ皆の衆! ナッハッハッハ!」
そう言って椅子から飛び降りると、ドワーフの護衛を連れて外へと向かった。
彼らが外に出た瞬間、ちょっとした歓声が挙がる。
どうやら相当盛り上がってるらしい。……スープとパンだけでよくそこまで盛り上がれるものだ。
「ドワーフは本当に宴会が好きなんだな」
「まあ村の楽しみの一つっスからね。さ、私達も行くっスよ!」
アルマがぴょんと椅子から飛び降りるのに続いて、俺達も続いて椅子から立ち上がる。
ニーナが横で俺を見上げてにこりと笑っていた。
「パパ、なかなおりできてよかったね!」
「ああ、そうだな」
誰かさんの後押しのおかげだな、本当。
さ、楽しい宴会のはじまりだ!





