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第六十一話【オッサン、絶体絶命】

 廃坑探索は順調に進んでいた。

 ニーナとキューちゃんが先導して、明かりを灯しながら警戒する。

 俺は内部の地図を事細かく書いていく。

 アルマとスピネルは壁に魔石の鉱脈がないか調査する。

 それぞれの担当をそれぞれがしっかりこなし、いいコンビネーションを発揮していた。


「む、ニーナちゃん止まってほしいっス」

「はーいっ!」


 時々怪しい場所を見つけると、アルマとスピネルが採掘を始める。

 その間は俺たち二人と一匹で周囲を警戒だ。


「華麗に決めるよ……フッ! ハッ! イヤーッ!」

「黙って掘れんのかお前は」


 まあ、スピネルが妙にうるさいのが難点だが……。

 しかし、採掘のアテと言っていただけあって、その手際の良さは眼を見張るものがある。

 ちょうど見つけた魔石の鉱脈も、あっという間に掘り抜いてしまった。


「うーん、大きな魔石っスけど……御神体には程遠いっスね」


 しかしここもハズレらしい。これで五回目だ。

 こうもハズレばかりだと、本当に出るのか不安になってくる。


「フッ、中々見つからないからこそ燃えるね……次へ行こうか」

「すっすめーすすめー♪ らんぱーといっかー♪」

「きゅっきゅきゅー♪」


 しかし不安を微塵も感じさせない二人と一匹の姿を見てると、なんだか難しく考えてる俺が馬鹿らしくなってくるな。


「……ふふっ、ニーナ、なんだよその曲」

「"すすめランパートいっか"ってきょくだよ!」


 そのまんますぎないか?

 まあ変な曲だが、不安な気持ちは吹き飛ぶな。

 俺はニーナの頭をわしゃわしゃと撫でてやった。


「ひゃーっ!」


 ニーナはきゃっきゃと喜んでいる。こいつめ。

 一人で不安がってちゃダメだな、気合いを入れ直さないと。

 気がつくとキューちゃんがそばに近寄って来て、こちらを見上げている。


「きゅっ!」

「おっ、キューちゃんも撫でて欲しいのか?」

「きゅうーっ!」


 しょうがない子達だな、まったく。

 俺は屈みこんでキューちゃんの頭に手を置いた――瞬間。


 ひゅん、と何かが頭上を横切る音が聞こえた。

 同時に聞こえる何かが岩に当たる音。そして地面に落ちる音。

 俺は恐る恐る落ちた物を見つめる。


 それはカンテラに照らされ、キラリと鈍く光る鋭い矢だった。


「――走れッ! 撃たれるぞ!」


 おれは急いでキューちゃんとニーナを小脇に抱えると、無我夢中で走り始めた。

 アルマとスピネルも慌てて俺に追従する。

 同時に、いくつかの足音が後ろから聞こえてくるのが分かった。


 今の矢を撃った者は何者だろうか? 逃げる最中、俺は思考を巡らせる。

 魔石を狙ったコボルトか? いや、洞窟にわざわざ弓を持ってくる道理がない。

 それとも矢を生成して射出する魔物が? いや、少なくともあれは人為的に作られた矢だった。

 今までの情報から察することが出来るのは、ただ一つ――。


「ぱ、パパっ! 前にだれかいる!」


 目線の先には、曲剣で左手を叩きながら俺たちを待ち構えている一人の人間。


 ――ドワーフの村から逃げてきた、盗賊団の一味の一人だ。


「逃げた先でとんだ大物が掛かったなぁ、おい?」


 曲剣を構え、こちらへとじりじりと迫ってくる盗賊の一人。

 俺たちはその場で立ち止まるしか無かった。

 後ろからも弓を持った盗賊と、短剣を持った盗賊が走ってくる。


 まずいな、俺だけならまだ『逃げ足』で逃げることが出来るが、ニーナ達を連れている為それも叶わない。

 相手は武器を持った男三人。こちらは武器など持っていない。

 まさに絶体絶命、そうとしか言いようがなかった。


「兄貴ィ、こいつらですぜ、魔石を掘りに来たって奴ァ」


 弓を構えている男―― 子分Aとしよう、そいつが曲剣を持った兄貴にそう言った。

 

「馬鹿野郎、見りゃ分かるわ! ったく……」


 苛立つ盗賊の兄貴は、曲剣をこちらへと向けて威圧的に言う。


「おいお前ら、大人しく言う事を聞けば命だけは助けてやるよ」

「……何が目的だ?」

「あん? 決まってんだろ、魔石だ魔石」


 盗賊の兄貴はきっとこちらを睨み付ける。

 俺は震えるニーナとキューちゃんを降ろすと、後ろに隠れてろと小声で言って下がらせた。

 ニーナ達をアルマとスピネルと共に囲んで守っている状態だ。


「この廃坑は魔石の宝庫らしいじゃねぇか? 大きな魔石は裏ルートで高く売れるのよ、それを掘り出して欲しいって訳だ」

「嫌だと言ったら?」

「この状況で言えるんなら、どうぞご勝手に」


 クッ、今は従うしかないのか……。

 この状況はあまりにも不利すぎる、下手に抵抗したらニーナ達に危害が行きかねない。


「なぁに、俺は約束は守る男だ。大人しく従って魔石を渡してくれたら解放してやるよ」

「流石兄貴ィ!」

「いよッ! 盗賊一の男前!」


 子分たちがそれぞれ兄貴を褒め称える。

 信用ならないが、この状況じゃ何を言っても無駄だ。

 今はとにかく、奴らを満足させることに集中しよう。


「……ひとまず従うしかなさそうだな」

「パパ……」

「心配するな、ニーナ。少しの辛抱だ」


 クソッ、時間が無いってのにこんな事になるとは……。

 俺達は盗賊達と共に進む事になってしまった。

 御神体になりそうな大魔石を見つけたら間違いなく取られてしまうだろう……それは何としても防がなくては。


                  ◇


 俺達は前方と後方を見張られながら、ゆっくりと廃坑内を探索していた。

 掘った魔石は片っ端から取られ、奴らが持っていた革袋の中にしまわれる。

 幸いにもまだ大魔石は見つかっていない。このまま奴らが満足してくれたらいいのだが……。


「ジムさん、どうするんスか? このままじゃ大魔石も取られかねないっスよ」


 ひそひそとアルマがこちらに話しかける。

 そんな行動をしても止められない辺り、盗賊達はよほど俺達を逃がさない自信があるのだろう。


「隙を見て逃げるしかないが、監視が厳しい。もう少し我慢してくれ」

「了解っス……」


 アルマはしぶしぶそう言うと離れていく。

 彼女が焦る理由も分からなくもない、事態は一刻を争うのだ。

 まったく、急がないといけないのに最悪な奴らに捕まってしまった。


「フッ……良い汗をかいた……」


 スピネルはというと、マイペースにツルハシを振っている。

 ……この危機的状況を分かっているのだろうか、アイツ。


 ニーナ達は不安そうにキョロキョロと周りを見ていた。

 そうだよな、悪人に囲まれるなんて初めての経験だ。


「大丈夫だ、ニーナ、キューちゃん。俺が何とかしてやるからな」

「うん……」

「きゅう……」


 ニーナ達を安心させる為に言葉をかけ、頭をぽんぽんと撫でてやる。

 この子達の為にも、早く状況を打破しなければな。


「へっへっへ……良い感じに溜まって来たな。これなら数ヶ月は遊んで暮らせるぜ」

「やりましたねェ兄貴ィ!」

「いよッ! 盗賊一の男前!」


 満足そうな兄貴とそれに続く子分Aと子分B。

 人が掘った物を横取りして良い気になりやがって……。


「なあ、いつまで掘らせるつもりなんだ?」

「そうだなぁ、この袋がいっぱいになるまで……ん?」


 盗賊兄貴は何かに気が付いたようで、視線を前方へと向ける。

 ゴリゴリと何かを砕くような音、うねうねとしたその身体――。


「ひっ……!」


 次に反応したのはニーナだった。

 彼女の方をちらりと見ると、何か見てはいけないものを見てしまったかのように顔はどんどん青ざめていく。

 この反応は多分――。


「なんでぇ、ストーンイーターじゃねぇか」


 巨大ミミズ……ストーンイーターだ。

 奴は小さな魔石を一心不乱に食べていた。ゆっくりと迫る盗賊兄貴にも気付かずに。

 邪魔だと言わんばかりに曲剣が振り下ろされ、ストーンイーターの頭部は跳ね飛ばされた。

 血を吹き出し、力無く横たわるそれは死んだミミズにそっくりだ。


「ったく、気持ちわりぃ奴らだぜ。おら、とっとと行くぞ」


 死んだストーンイーターを跨いで進む兄貴。

 俺も続いてストーンイーターを跨ごうとした、その時。


「い、いや――」

「あん?」


 ニーナの様子がおかしい。

 声を震わせ、顔から血の気が引いている。

 俺が声を掛けようとした、次の瞬間。


「ミミズいやああああっ!」

 

 涙目になりながら半狂乱になり、子分達の方へと全速力で走り始めた。

 呆気に取られている子分達の間をすり抜けて、ニーナはカンテラを持ったまま暗闇の中へと消えて行ってしまった。


「お、おいてめぇら! ガキが逃げたぞ! とっとと追え!」

「う、ウッス! 行くぞォ!」


 慌てた子分達は二人とも急いでニーナを追いかけ始める。

 意図はしていなかったが、陣形が乱れた。今がチャンスだ!


「二人行くんじゃねえよ馬鹿! 一人は残って――」

「今だ! 走れ!」


 俺は指示を出しキューちゃんを小脇に抱えると、アルマとスピネルと共に後方へと走り出す。

 慌てふためく子分達の足を払い地面に倒すと、そのまま走り去った。


「あっ、クソッ! 待ちやが……ぬおぉっ!?」


 兄貴は暗い中慌てたせいか、ストーンイーターの死体に躓いて転んだらしい。


「畜生! ぶっ殺してやるからなァ!」


 そんな声が俺達の後ろから響いてきた。

 次捕まったらただじゃすまないだろう、俺は前方で揺れる小さなカンテラの光を追って走り続けた。

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