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第六十話【オッサン、坑道探索】

「フッ……助かったよ」


 屋根からドワーフの青年スピネルを降ろすと、何事もなかったかのように前髪を手でなびかせる。

 彼も背負いカバンを持っておりそこそこ重かった。オッサンに無茶させやがって……。

 しかし、なんでこんなに自信満々な顔ができるんだコイツ……?


「降りれないんなら、何故屋根なんかに登ったんだ……?」

「その方がかっこいいだろう? フフッ」


 ……馬鹿と煙はなんとやら。


「おっと挨拶挨拶……ホイ!」

「え、ああ、ホイ!」


 忘れてたと言わんばかりにドワーフ流の挨拶するスピネル。

 俺もそれに続いて挨拶をする。やっぱり必要なんだなこれ。


「ほーいっ!」

「きゅーいっ!」


 ニーナとキューちゃんもそれに続く。キューちゃんは必要か? とも思うが気にしない。

 一通り挨拶した後、ふむ、と呟きながらスピネルは俺達の周りをぐるりと回る。

 そして俺に目線を合わせると、溜息をついて両手を首の高さまで上げて。


「……やれやれ、キミ下手くそだね。もっと練習したらどうかな」


 ……年下にムキになるのはどうかと思うが、無性に腹が立つなオイ。


「ホイ! ……相変わらずっスねぇ、スピネル君」

「ホイ! アルマの姐さん、元気そうでなによりだよ」


 ドワーフ流の挨拶をすると、スピネルが手を差し伸べアルマと握手を交わす。

 十中八九、コイツが"採掘のアテ"って奴なんだろうな。


「紹介するっス! スピネル・マグネタイト君っていって、こう見えても村一番の採掘士なんスよ! 手紙を書いてくれたのもこの子っス!」

「よろしく頼むよ、アゴヒゲクン」


 誰がアゴヒゲクンだこの野郎。

 しかし手紙の主はこいつだったのか……まさかこんな奴だとは思わなかったが。


「……ジム・ランパートだ、こっちはニーナ。一応、期待はしておくぞ」

「フッ……どうやらあまり信頼はされていないようだ。しかし僕は結果で示す男、必ずや御神体を掘り起こして見せるよッ」


 そう言うとビシッと謎のポーズを決めるスピネル。

 ……正直、苦手なタイプかもしれん。


「ああ、スピネル君のカッコつけは気にしないでいいっス」

「……ひどいや姐さん」


 アルマに言われ、スピネルは少ししゅんとした表情になった。

 彼女を姐さんと呼んでる辺り、どうやら頭が上がらない様子だ。


「二人はどういう関係なんだ?」

「同じ学校の先輩後輩、って関係っスね。スピネル君とは家も近いから良く遊んだりしたんスよ」


 なるほどな、近所のお姉さんって感じなのか。

 ……にしては変わった呼び名をしているが。


「さっきからその姐さんってなんなんだ」

「姐さんは外の世界に飛び出した村で唯一のドワーフ……僕たち同年代のドワーフからしたら、英雄みたいなものなのさ。だから僕は敬意を込めて姐さんと呼んでいる」


 どうやら村を飛び出すという行為はドワーフの若者にとっては凄い事らしい。

 よほど拘束が凄いのか、それとも外の世界は危険だと教えられているのか……。

 まあとにかく、アルマが同年代のドワーフから敬われているというのは良く分かった。

 若いドワーフと話す時は彼女が居れば安心だな。


「スピネルくんはなんでおひげないの?」

「もさもさしてて暑いし動き辛いし全然スマートじゃないからさ! ……あと一応、君より年上だと思うよ、僕」


 ニーナがそう言うとスピネルはやれやれと言った様子で答える。

 まあ、何となくそんな気はしていた、そういうタイプみたいだしな、お前……。


「さて、自己紹介も済んだ事っスし、早速古の坑道に行くっスよ!」


 アルマはそう言うと、先導して歩き始める。

 全くせっかちだな、なんて苦笑いしながら俺達は彼女について行った。


「やれやれ、アルマの姐さんは相変わらずだ。遅れるなよ、アゴヒゲクン」

「いい加減それ止めないと怒るぞ」

「……ジムクン」

「まあ許す」


 スピネルは意外と素直だった。


                  ◇


 崖下に沿って歩く事、数十分。ぽっかりと空いた大きな横穴まで辿り着いた。

 入口にはもう使われていないさび付いた線路、横倒しになっているトロッコなどがある。

 どうやらここが古の坑道で間違いないようだ。


「わあぁ……!」

「きゅーっ! きゅっきゅ!」


 普段見れないものを見て、ニーナ達は大興奮だ。

 この子達は本当、冒険家としての気質があるよな。未知を知るのが楽しいみたいだ。

 将来は迷宮測量士じゃなくて冒険者になったりして……なんてな。


「さ、ここが古の坑道っス! 魔物がバンバン出てくるから注意するっスよ!」


 背負いカバンからツルハシを降ろし、ふんすっと気張るアルマ。

 四人と一匹での行動は初めてだ、慎重に行かないとな。


「ちなみに、僕達は戦闘能力は皆無だ。野良ゴーレムだけは何とか出来るけどね」

「一番厄介な奴だと思うんだが、何とかなるのか?」

「コツがあるのさ、まあ楽しみにしててよジムクン」


 ふっと前髪をなびかせると、アルマと同じようにツルハシをカバンから降ろし、華麗な構えをする。

 構えは必要か? と言いたくなったが言った所で答えは分かってるしやめた。


「十分注意していこう、町長は他にも何か居るかもしれないって言ってたしな」

「うんっ! いざ、しゅっぱーつ!」

「きゅっきゅー!」


 俺がそう言うとニーナは調子よく返事をする。

 キューちゃんもそれに続き、二人は俺達の前を歩き始めた。

 気分は探検家だな、まったく。


 おっと、忘れるところだった。帰還魔法の巻物を読まないとな。


「パパはやくーっ!」

「ちょっとまってくれよー」


 ……これでよし、と。さて、ニーナを追うか。

 ん? 一瞬ガサリと物音のような物が聞こえたような。

 立ち止まって見渡しても、草むらや残骸しか見当たらない。

 動物か何かだろうか……魔物だったらすぐに飛び出してくるしな。

 俺は何かちょっとした不安を抱えながら、ニーナ達を追って坑道へと入って行った。


「……ククク」


                  ◇


 坑道の中は非常に暗くデコボコしていて、カンテラで照らして進まなければいけなかった。

 壁に掛けられた松明の燃えカスや、腐食した坑道の支え木を見て、この坑道の古さが良く分かる。

 急に崩れたりしないだろうな……なんて思いながら、ニーナにカンテラを持ってもらって俺は地図を書いていた。


「わあ、ここの坑道は凄いっスね……小さいっスけど魔石が壁中に散らばってるっス」

「へえ、分かるんだな……俺にはただの斑な石壁にしか見えないが」

「まるで星のように散らばってるっスよ! この小さな魔石を無視できる程、大きな物が沢山とれたって証拠っス!」


 そう言うものなのかね、確かによく見ると店で売ってるような石が転がっているのが分かるが……。


「僕も入るのは初めてだけど、確かに凄いね。これは期待できるんじゃないかな」


 スピネルも歩きながら地面の石を手に取ってまじまじと見つめながら言う。

 やはり分かる人には分かる凄い坑道らしい。

 と考えると、何故廃坑になったんだろうか? まだ取れそうな魔石は沢山ありそうなのに。


「ふんふんふ~ん♪ まっせき~まっせき~♪」

「きゅっきゅ~♪」


 そんな考えを他所に、ニーナ達はウキウキ気分で歌を歌いながら先陣を切っている。

 全く無邪気なもんだ……まあ、緊張感が適度に解れていいんだけどな。


 と、そんな時である。

 ぴくっと立ち止まって真剣な表情をするニーナ。

 それに続いて俺達も立ち止まる。

 

「どうした、ニーナ?」

「……声がきこえるの、パパ」


 声? 耳を澄ませると確かに声のようなものが前方から聞こえてくる。

 この声は何処かで聞いた事が――


「Ja……Ra……」

「……ゴーレムか」


 あの独特な発音は聞き間違えようがない。

 しかし困ったな、前方に居るって事は避けようがないか。


「僕に任せたまえ、ジムクン」


 スピネルがツルハシを握りしめ、前へと進む。

 倒すコツがある、とは言ってたが……大丈夫か?

 俺達はゆっくり彼の後について行った。


 暫くすると、その声の主が見える。

 全身の魔術模様を青に淡く光らせる、全長二メートル程の小さな石人形。野良ゴーレムだ。

 奴らは魔石を食料としていて、この坑道にも魔石を求めてやって来たに違いない。


 幸いにもこちらにはまだ気が付いていない様子。地面の魔石に夢中らしい。

 さてスピネルはどうするのか――と思った次の瞬間、ツルハシを片手に走り出した!


「……! Ha、Ga――」


 ゴーレムがその物音に気が付き、顔面のコアを赤く光らせる刹那。

 スピネルは急いでゴーレムの身体を駆けあがり、コアに思いきりツルハシを突き立てた。

 パリンと割れ、ツルハシが突き刺さるゴーレムのコア。スピネルは飛び退き、宙で一回転した後見事に着地した。


「――ゴーレムのコアは中央からやや右下辺りが弱点さ」


 ふっ、とそんなことを言って決めポーズをする。

 それと同時にゴーレムは光を失って、その場に崩れ落ちた。

 ……悔しいけど、カッコいいと言わざるを得ない。認めてやろうじゃないか。


「す、スピネル君凄いっスね! 何処でそれを身に着けたんスか?」

「本を読み、練習した。ただそれだけの話さ」


 そう言うと前髪を手でなびかせて、渾身のドヤ顔をこちらへと向けた。

 ……やっぱり訂正、苦手だコイツ。


 まあ、野良ゴーレムは何とかなるという事は分かった。

 他の魔物が大人しい奴だと分かってる以上、ちょっとは安心して進めるな。


 俺達は坑道の奥へ奥へとゆっくり進んで行った。

 その先に待ち受ける者を知らずに――。

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