第五十九話【オッサン、魔石の街へ着く】
マグトラ――。
その街の歴史は古く、トランパルが物流の中心地になる前から存在している街だ。
豊富な鉱物資源が近くの山脈に存在する為、鉱業を発展させてきた。
生活に必要不可欠な魔石の産出地でもあり、この地域のほとんどがマグトラの魔石に依存している。
俺達がマグトラに入って一番最初に眼にしたのは、立ち並ぶ無骨な石の家の数々だ。
灰色の石レンガを積み上げて出来たそれは、どんな災害にも耐えうるような強固な印象を抱かせる。
明かりが灯ればまた違った雰囲気を楽しめるのだろうな、なんて俺は思っていた。
馬車が止まったのは、広場に面したとある施設の前。
他の家よりも一回り大きい。吊り下げ看板には役所の文字とマグトラの町章が描かれていた。
「さ、マグトラの役所に付いたっスよ! 早速町長に会いに行くっス!」
アルマは御者に少し待つように言うと、ぴょんと馬車を飛び降りた。
俺とニーナも彼女に続いて馬車を降り、役所の内部へと入って行く。
内部は小さなギルドのような作りだった。
受付があって、小さな掲示板があって……冒険者の姿もちらほらと見える。
マグトラには冒険者ギルドが無い。役所がギルドの代わりになってるのかもしれないな。
先に進んでいたアルマは受付嬢に話しかけている。
幾つか言葉を交わした後、受付嬢はその場から居なくなった。町長を呼びに行った様だ。
暫くすると少し厳つい顔をした中年男性が役所の奥から現れ、こちらへと歩いてきた。
「トランパルからよくぞおいでなさいました、私がマグトラの町長です」
「どうも町長さん! いつもお世話になってるっス!」
「やあアルマ、パクトロスさんには迷惑をかけてないか?」
「も、勿論っスよ!」
どうやらアルマと町長は顔見知りの様だ。
アルマと幾つか言葉を交わすと、町長はこちらへと手を伸ばして握手を求めた。
「ご丁寧にどうも、ジム・ランパートです」
「ああランパート一家の。なんでも凄腕の迷宮測量士だとか」
トランパルでの活動はどうやらマグトラまで響いているようだ。
何だか恥ずかしいような、そうでないような。
……しかし、ランパート一家の方で知られてるのは予想外だったな。
「そちらのお嬢さんはニーナちゃんかな?」
「うんっ! それでこっちはキューちゃん!」
「きゅっきゅ!」
町長がニーナの方を向くと、ニーナは元気よく返事を返した。
まあ、ランパート一家で知られてるならニーナも知ってて当たり前……か?
「俺達、随分と有名なんですね……」
「エレクから色々聞いているんですよ、彼とは昔馴染みでして」
なるほどそう言う事か、あの人語るの大好きそうだしな。
しかしマグトラの町長と面識があるとはな……思った以上に顔が広いのかも。
「さて、本題に入らせて下さい。どうぞこちらへ」
俺達は役所の奥に案内され、席に座る。俺を挟んでニーナとアルマが居る状態だ。
両手に花……というよりは子供達とその保護者みたいな感じだな、これ。
町長は対面に座って、一枚の手紙を取り出した。
「これは先日ドワーフの村から送られてきた手紙です。村が盗賊に襲われた事、御神体が壊されてしまった事、そしてマグトラへの攻撃を計画している事が書かれています」
俺は手紙を手に取りすらすらと読んでみた。急いで書いたのか少し字が乱れている。
恐らく戦争反対派のドワーフが書いた物なのだろう、その文面から必死さが伝わって来る。
手紙からは戦争の準備は着々と進んでいて、一週間もあれば侵攻の準備が整うという事が分かった。
「こちらも万が一の為にと防御を強化している所ですが、怒り狂ったドワーフ達を止められるかどうか……」
「それをさせない為に私達が来たっスよ、町長さん! 安心してくださいっス!」
アルマがぽんと胸を叩いて調子よく言う。
何とも重要な役回りだ、気を引き締めて取り掛からないとな。
「町長さん、例の廃坑についての情報を教えて下さい」
まず第一に聞きたかった事は廃坑について。
少しでも情報があればどう行動すれば良いのか作戦が立てられる筈だ。
「そうですね、語れることは少ないのですが……私達は"古の坑道"と呼んでいます。かなり複雑な地形で、魔石を求める魔物が住み着いています」
「魔物についての情報はありますか?」
「はい、野良ゴーレム、ストーンイーター、コボルト……後は分かりませんが、かなり多様性があるとだけ」
なるほど……野良ゴーレムは厄介だが、他は手を出さなければ無視できそうだ。
コボルトは相手に通訳出来る奴が居れば交渉出来るかもしれないな。坑道にわざわざ連れて来る可能性は低そうだが。
後は未確認の魔物に要注意だな……俺が知っている奴だと良いんだが。
「パパ、ストーンイーターってなに?」
「でっかいミミズみたいな奴だ、こっちから手を出さなければ攻撃してこない大人しい魔物だよ」
「うー、ミミズかぁ……」
ニーナはしかめっ面をして嫌そうにしている。
この子、ミミズ苦手なんだっけな……前に散歩してた時、干からびたミミズを見つけて大慌てしてたっけ。
ストーンイーターを見つけたらニーナは多分パニックになるだろう……注意しとかないと。
「大体分かりました、早速古の坑道に向かうとします」
俺が頷くと、町長は安堵したような表情を浮かべる。
「ありがとうございます、ランパートさん。アルマ、案内は出来るな?」
「勿論っスよ! そうと決まったら早速出発っス!」
アルマはぴょんと椅子から飛び降りると、急いで外へと駆けて行った。
せっかちだな……まあ急がないといけない状況だと言う事は分かっているんだが。
「やれやれ、アルマは変わらないな」
「そういえば、彼女とは面識が?」
「昔、彼女はマグトラに住んでたんですよ、役所勤めでして。エレクと出会ってトランパルへと行くまではずっとここで過ごしてましたね」
そうだったのか……まあ確かに、彼女の村から一番近い人間の街ってここだしな。
役所勤めって事は、今のシエラみたいな感じだったんだろうか?
……何となく、フリルの付いた受付嬢姿の髭面少女を思い浮かべてしまった。
「さ、彼女が待ってますよ」
「はは、そうですね。それでは町長さん、また」
「幸運を祈ってます、ランパートさん。カルーンの加護があらんことを」
俺は町長に別れを告げると、アルマを追って外へと向かった。
アルマは一足先にカバンを背負って俺達を待っていた。
馬車の荷台には俺とニーナのカバンが取りやすい位置に置かれている。
多分彼女がやってくれたのだろう、気遣い上手だな……。
「遅いっスよジムさん! 時間は刻一刻と迫ってるんスから!」
「悪い悪い、早速坑道に向かうんだろ?」
「それもそうっスけど、一度立ち寄る所があるっス!」
俺はカバンを背負いながら、彼女の方へ話しかける。
そう言えば採掘のアテがある、かなんか言ってたっけ。
「さ、行くっスよ! マグトラから少し歩いた所に"あの子"が居るっス!」
「あの子?……ってちょっと待ってくれ、早い早い」
走って街の外に行くアルマを俺達は走って追った。
まったく、せっかちにも程があるだろう……。
◇
「ぜえっ……ぜえっ……つ、着いたっスよ……」
「急ぎすぎだろお前……」
途中からくたくたになりながら走るアルマについて行き、俺達はある小屋に辿り着いた。
そこは狩人達が使っているであろう簡易的な小屋で、なめし台や解体場が設置されている。
今は狩りのシーズンじゃないのかしんと静まり返っているが。
「……こんな所に"採掘のアテ"って奴が居るのか? アルマ」
誰も居なさそうなこの小屋に、本当に何かあるのだろうか?
そもそも狩人と採掘はあまり関係なさそうに思えるが……。
「――時間通りだな、アルマの姐さん」
「ハッ、その声は……」
そう思っていた矢先の事、突如声が頭上から聞こえてくる。
見上げると小屋の屋根に一つの小さな影。あれは……誰だ!?
「フッ……"スピネル・マグネタイト"、見参――」
それは少年……いや、髭の無いドワーフの青年(?)だ!
彼は屋根から飛び降りようと身構え――たがそれをやめ、ぐるぐると屋根を歩き回った後。
「……そこの髭無し種族の男、僕を下ろしてくれないか」
と、俺に向かって悲しい眼をして懇願してきた。
また変な奴が増えた……俺はこの時心底思った。





