第五十三話【青年、初めての遺物探し】
探すと言っても、まず何処から探し始めたら良いのか分からなかったのをよく覚えている。
辺りはエンシェント・フレアのおかげで瓦礫や残骸だらけ。
ホブゴブリンは何も持ってなさそうだったし、とりあえず残骸を退けながら探すしかないと考えていた。
エンシェント・フレアで全部吹き飛んでしまったんじゃないか、なんて最悪な事も考えつつ俺とクレアは手分けをして遺物を探し始めた。
「んー……うえっ、骨出てきた」
「ふふ、骨苦手なのね?」
「むしろ平気なのかお前は……」
「授業でよく見たもの……あ、私一応、エムリック出てるのよね」
雑談を交わしつつ、残骸を一つ一つ取り除いて探していく。
「エムリックって?」
「知らないの? "エムリック魔法学園"。トランパルにあるかなり有名な魔術学校なのよ。私、飛び級で卒業したんだから」
えへんと誇らしげに語るクレアを、その時の俺はふーんすげーと眺めていた。
後々聞いた話だが、エムリック魔法学園はかなりの名門で、卒業後は王宮魔術師になる者が殆どだそうだ。
幼い彼女があんな魔法を扱えたのも頷ける。
「しかしそんな有名な学校の出のお嬢様が、どうして冒険者なんかに?」
「……あの人の影響、かしら」
「あの人……あっ」
この時、彼女の表情が暗くなるのを見逃さなかった。
あの人―― 多分、亡くなった相方の事だろう。
「すまない、余りにも不躾過ぎた」
「いいの、大丈夫だから……そうね、いい機会だからジムには話してあげるわ」
そう言うとクレアは、ゆっくりと語り始めた。
亡き相方との思い出を思い出すかのように。
「彼……エリックは私の幼馴染だった。子供の頃、いつも一緒に遊んでたの――」
エリックは元々、冒険心の強い少年だったらしい。
彼は将来立派な冒険者になるんだ、というのを常日頃クレアに語っていたという。
そして二人が成長し、クレアが学園を出る頃。"一緒に冒険者にならないか"と誘ってきたのだ。
出世コースまっしぐらだったクレアは、決まった道よりも幼馴染と未知を探索したいという気持ちが勝ち、王宮魔術師になる事を止めて冒険者になったのだという。
「私とエリックは、もうすぐCランク冒険者に昇格する目前だった。それで未踏の迷宮――この洞窟の迷宮に挑んで、成果を上げようとしたの。でも……そこからは貴方も知ってる通り」
顔に暗い影を落とし、そう語るクレア。
どう声を掛けてやればいいのか分からなかった。最も親しい人間を失うなんて――。
「ちょっと湿っぽくなっちゃったわね、ごめんなさい」
「いや、良いんだ……なあクレア、これから君はどうするんだ?」
俺が聞けたのはその一つだけ。
冒険者へと導いてくれた幼馴染が死んだ今、彼女はどうするんだろうか。
王宮魔術師への道に戻るのだろうか。それとも――
「これから……そうね」
クレアは残骸を探す手を止めて考える。
彼女自身も、まだどうするか決めていなかったのかもしれない。
しかし答えはすぐに出た様で、吹っ切れたように笑ってこう言った。
「私、エリックの夢を継ぐわ。立派な冒険者――Sランク冒険者になるの」
かけがえのない親友の夢を継ぐ。なんて前向きな言葉なんだろうか。
俺はその言葉に心を打たれていた。
「……ふっ、立派な夢だ」
「でしょう? ジムも私に負けないくらい立派な迷宮測量士になってよね」
「なんで俺まで?」
「あら、私みたいな人間が減ればいい言ってたじゃない。それってとっても立派な事だと思うわ」
「いや言ったが……ええい、分かった分かった。俺もSランク級の迷宮測量士になってやらぁ!」
「ふふ、約束よ?」
ちょっと恥ずかしい事言ってしまったな、なんて後悔しつつ俺はそう言った。
……あの時の約束、俺は果たせてるだろうか?
「……あっ、なにか見つけたわ」
「ん? 何だ何だ?」
そんな風に雑談してると、クレアが何かが見つけたようで。
そくささと近寄ってみてみると――。
「こ、これは……!」
真ん中に無数の穴の空いている平たい円盤の付いた三脚と、鍋が置きやすそうな爪のような置き台で構成された――
そう、あの「ポータブルなんとか」だ!
俺はこの時、初めてポータブルなんとかと出会い、そして今の今まで愛用している。
今思えばこれも運命的な出会いだったに違いない――が。
「なんだこれ?」
「さあ……学者さんに聞けば分かるかも?」
残念ながら、この時の俺はどうにもそれが有用なものには見えなかった。
◇
「ふう、こんなものか……思ったよりも少なかったな」
「これでも多い方なのよ、遺物って本当に珍しいんだから」
俺とクレアは掻き集めた遺物を一箇所に集め、それを眺めていた。
この頃の遺物は、まだ迷宮の攻略難度が高かったせいか全体量が少なく、かなり珍しい物として扱われていた。
今のような遺物商人も殆ど居なかったんだ。
「でも、本当にいいのか? 全部貰って」
「ええ、元はと言えば私はワガママでついてきたんだし、お詫びとして取っておいて欲しいの」
「……別に気にする必要ないと思うんだけどな」
「ダメ、私が気にするから」
半ば押し付けられるように遺物を貰うと、俺はしぶしぶカバンの中に入れ始める。
全て入れ終えると、俺は帰還魔法の巻物を取り出した。
用も全て済んだし、あとは帰るだけだ。
「……読むか?」
「この間読んだし、譲ってあげるわ」
何だよそれ、なんて笑いながら言い、俺は帰還魔法の巻物を読んだ。
間も無く目の前に魔法陣が展開され、脱出の準備が出来る。
俺とクレアは魔法陣に乗り、洞窟の迷宮から帰還した。
視界が歪んでいく中、俺は大切な何かを忘れているような、そんな気がしていた。
――――――
――――
――
そして、真夜中。ダンジリアへと帰還した俺逹は……。
「で、精鋭の冒険者を待たずに自分達で勝手に守護者を倒し、攻略したと……」
ギルドマスターの部屋で、二人並んで正座をさせられていた。
ヘレンはふう、と溜息をつきながら目の前を行ったり来たり。
心底呆れたのか、それとも怒っているのか、どちらもか――
とにかく俺達は叱られている事に変わりはなかった。
「……一応弁解を聞こうかねぇ?」
「あの、ヘレンさん」
「さんは余計だよ、クレア」
「……えっと、ヘレン。今回の件は私の独断行動のせいなの」
「ほう?」
クレアは俯きながら話を続けた。
「あの人を殺したゴブリンの一味がどうしても許せなくて、家宝の魔道書を持ち出したの。それで私……ジムの制止を振り切って最上級魔法を使った」
俺はクレアの素性について詳しく聞くことはなかったが、只ならぬ人物であるということはなんとなく予想がついていた。
最上級魔法の載った魔道書を持つ家系……何となく魔術の名家的な予感を感じたのもこの時だ。
「だから悪いのは全部私。ジムは悪くないのよ、ヘレン」
「……ふぅん」
ヘレンは暫く考えたあと、こちらをちらりと見て。
「女の子にここまで言わせるなんて罪な男だね? ジム」
「えっと……俺?」
「……アンタ、約束忘れた訳じゃないだろうね?」
約束……そう、この時俺はすっかり忘れていたのだ。"クレアのフォロー"を
「一つ、クレアをフォローする事。一つ、絶対に守護者とやり合わない事」
「……わ、忘れた訳じゃ」
その時、ヘレンの眼光が恐ろしく鋭くなるのを感じて黙り込んでしまった。
そしてクレアの方をにこりと笑って見て。
「クレア、今日は疲れただろ? 宿でゆっくり休むといいよ」
「え、ええ……その、ジムは?」
「ジムはここに残れ、いいな」
め、命令口調……!
この時、俺は生きた心地がしなかったな。
「あの、悪いのは私なのだから、私が残るべきじゃ――」
「いいんだよクレア、それに夜更かしは肌に悪いよ。今日はゆっくりおやすみ、いいね?」
「あ……はい」
優しい笑顔で威圧し、クレアを黙らせたヘレン。
もはや彼女に逆らえるものはここには居らず。
「その、ジム……頑張ってね?」
クレアも立ち上がってヘレンに催促されるがまま外へと連れていかれた。
ヘレンと二人きりになった俺。秒針を刻む置き時計の音のみがその場を支配する。
「……さぁて、ジム?」
ニコニコと笑ってはいるがその威圧感は本物で。
「覚悟しろよ」
「ヒッ……」
彼女が目を見開いた時、俺は死を覚悟した――。
「なにやってんだいジィィムッッ!!」
「は、はひぇぇっ!!」
その声はダンジリア中に響いたとかなんとか。
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……とまあ、これが俺の初めての迷宮測量の全容だ。
今考えると、本当危険な橋を渡ってたなって思うよ。全く若い頃は無茶をしたもんだ。
え? クレアはどうしたのかって?まあまあ、そう慌てるな。
このお話には、もうちょっとだけ続きがあるんだ――





