表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/123

第四十七話【青年、迷宮測量士になる】

迷宮(ダンジョン)測量士(マッパー)?」


 聞きなれない単語に俺は言葉を返した。


「そう、それがアンタに依頼したい仕事だよ、ジム・ランパート。その『逃げ足』を活用して迷宮に巣食うモンスターや罠を回避し、迷宮の地図を完成させるのがアンタの仕事だ」


 迷宮の地図を作る仕事―― その発想に当時の俺は驚いた。

 地図を作り安全を確保する事で、迷宮に挑む冒険者を手助けする。

 とても重大で責任のある仕事だ。


「だが、俺みたいなズブの素人が迷宮に挑んでも大丈夫なのか?」

「勿論危険だし、死ぬかもしれない。仕事を受けるか受けないかはアンタに任せるさ」


 俺は少し言葉を詰まらせた。

 懸念はやはり、命の保証はないと言う事だろう。

 熟練の冒険者達が何人も命を落としているという事実。それはかなり重いものだった。


「お待たせしました、ヘレン様」


 俺が少し考えていると、ウェイターが料理を運んでくる。

 どれも見たこともないような豪華な料理だった。

 後々聞いたが、全部合わせて銀貨数十枚くらいしたらしい。

 見知らぬ男に奢る金額じゃないだろうってツッコんだっけ……懐かしいな。


「さ、そんな難しい顔してないで、まずは食べようじゃないか」


 ヘレンはナイフとフォークを丁寧に使い、マナー良く食べ始める。

 この時の俺はテーブルマナーなんて知らなかったから、見様見真似で食事をしたっけ。

 あの時のことは、未だに「あんな肉の食べ方をする男は初めて見た」とネタにされる。仕方ないだろう全く。


 料理は非常に美味かった。

 肉は柔らかく、野菜は新鮮。おまけにデザートまで付いてくる。

 空腹だった俺は半ば感動しつつ、あっという間に平らげてしまった。


「ふう、ご馳走様でした……さて、答えは決まったかい?」


 食べ終わり、紙ナプキンで口を拭くヘレンがこちらに問いかける。

 食べてる最中も俺は考えていたが、答えはすでに決まっていた。


 確かに命を落とすかもしれない。もう二度と地上の土を踏めないかもしれない。

 しかし、だからと言って今の生活を続けたいかと言われたら、それも違う。

 俺に訪れた恐らく唯一のチャンス。これを逃したらきっと一生靴磨きをする羽目になるだろう。

 だとすれば、俺の答えは一つしかない。


「……ああ、引き受けよう」

「迷宮に潜ってからやっぱりやめた、は聞けないよ。本当にいいんだね?」

「一生靴磨きして死ぬよりも、迷宮の中で死んだ方がよっぽどいい死に方さ」

「はっ、そういうの嫌いじゃないよ……分かった、ギルドからも装備等の支援をさせて貰うよ」


 ヘレンは少し嬉しそうな様子で頷いて、俺に手を差し伸べる。


「これからよろしく頼むよ、ジム」

「ああ、こちらこそ」


 俺はヘレンと握手を交わした。

 こうして俺は、迷宮測量士としての初めての一歩を踏み出したのだ。

 迷宮には一体何が待ち受けているのだろうか?

 この時の俺は命の危険を心配するよりも、消えかけていた冒険心が再び揺れ動くのを実感し、喜びに満ちていた。


「さ、そうと決まれば早速明日行って貰おうかね。ギルドの場所は分かるかい」

「いや、悪いが教えてもらえると助かる」

「そうか、なら後で教えとこう……ああ、そうそう」


 そう言うとヘレンは俺に銀貨数枚を押し付けた。


「宿代だよ、取っておきな」

「……本当、なんでそんな良くしてくれるんだ? 会ったばっかりの奴だろうに」

「それほどアンタの働きに期待してるのさ。それに……死にかけてはいたものの、アンタのその目が気に入ったんだ」


 そう言うと彼女は再びにっ、と笑って。


「ああでも、言っておくがこれ全部貸しだからね。働きで返してもらうよ」

「……なんか嵌められた気分だ」


 けたけたと笑うヘレンを他所に、俺は若干肩を落とした。


 その後、ヘレンに宿を紹介してもらってそこで一晩過ごした。

 久しぶりのベッドは暖かく、少し涙が出そうになったっけ。

 俺はこれから始まる生活に希望を抱きつつ、ゆっくりと目を閉じた。


==============================================


 これが、俺とヘレンとの初めての出会いだ。

 あの時ダンジリアに来てなかったら、ヘレンに見つけてもらっていなかったら―― きっと今も靴磨きをやっていたんだろうな。

 そう考えると、彼女には感謝してもしきれない。……まあさっきも言った通り、感謝の言葉を述べると嫌がられるんだが。

 

 さて、彼女に救われて次の日の朝、俺は早速ヘレンのギルドへと向かったんだ。

 ダンジリアの大通りに面した小さな一軒家、そこが彼女のギルドだった。

 最初見た時は、なんかカフェみたいな所だなって思ったっけ。

 その出来たばかりの小さなギルドから、俺の迷宮測量士としての新しい生活が始まったんだ。


 ここからのお話は、ヘレンと出会った後の話。

 俺が迷宮測量士として活躍し始めるきっかけとなったお話だ――。


==============================================


「ごめんください」

「と、とと……い、いらっしゃいませーっ!」


 俺がギルドに入ると、大量の書類を運ぶ少女が居た。

 金髪に緑色の透き通った眼、フリルの付いた可愛らしい受付嬢の服。

 そう、彼女はシエラ・メル・ルナルモア。まだこの時は十代後半くらいの見た目だったっけ。


「……持とうか?」

「いえ、大丈夫ですっ! すみません散らかってて……!」


 彼女はどすっと受付に書類を置くと、こちらを向いてぺこりとお辞儀をする。


「シエラ・メル・ルナルモアですっ! ジム・ランパートさん……でいいんでしょうか?」

「ああ、そうだよ」

「お待ちしてましたっ! お母さんからお話は聞いてます、奥の部屋へどうぞっ!」


 この時、俺はヘレンに子供が居た事に驚いた。

 エルフの見た目の年齢は信用できないよな、本当。


 俺は案内されるがまま、ギルドの奥へと向かって行った。

 この頃のギルドはまだ出来たばかりで、冒険者は殆ど居なかったっけ。

 今の忙しい状態のギルドを考えると、何だか感慨深い物があるな……。


 シエラは俺をギルドマスターの部屋まで案内すると、扉をコンコンと叩いた。


「お母さーん! ジム・ランパートさんが来ましたよっ!」

「仕事中はギルドマスターって呼びなッ!」

「あっ、ごめんなさいっ!」


 部屋の中から大きな声が聞こえてくる。

 当時はこんなやり取りも日常茶飯事だった。

 今もうっかりお母さんと言いそうになる時があって慌ててるっけ、全く彼女らしい。


 シエラに扉を開けてもらい、俺は中へと入った。

 当時のギルドマスターの部屋はまだ綺麗に整頓されてたっけな。

 今の地図で溢れ返る部屋からは想像もできない。


「全くシエラったら……やあ、待っていたよジム。ようこそアタシのギルドへ」


 ヘレンは机に寄りかかりながらこちらを見ていた。

 机の上には読みかけの本と紅茶の入ったカップが置いてあった。

 俺を待ってる間に、また一人で勉強でもしていたんだろうな。

 

「思ってたよりも小さくて驚いたかい?」

「まあ、カフェかと思った……かな」

「はっ! 言うねぇ。でもまあしょうがないか、民家を改造して作ったからね」


 ふっ、と笑いながら机に寄りかかるのをやめ、懐から地図を取り出した。


「早速だけど仕事の話といこうじゃないか、迷宮測量士さん?」

「まだ見習い未満だけどな」


 そう言うとヘレンは机の上に地図を広げる。

 地図を覗き込むと、ダンジリア近郊を写していた。


「このダンジリアから南東に行った辺りの丘に岩場が出現した。その岩場には大きな穴蔵があってね、内部は広大な迷宮になっていたのさ……つまり、新種の迷宮さ」


 地図を指差しながら、彼女は俺に説明をしてくれた。


「ギルドはこの新種の迷宮を、"洞窟の迷宮"と呼称、アンタの仕事はこの内部の地図を完成させて持ち帰ることだ、簡単だろう?」

「言うのはな……勿論魔物もいるんだろ?」

「ああその通り、そこでアンタの逃げ足が活きてくるのさ、ジム」


 この時俺は不安でたまらなかった。

 逃げ足だなんて使う機会が全くなかったものだから、実戦で使えるかは分からなかったんだ。

 ヘレンはそんか俺を察してか大丈夫だって言ってくれたっけ。


「昨日も言った通り、装備はギルドで用意したよ。着替えもある」

「着替えも?」

「流石にそのボロで行くわけにはいけないだろう?」


 この時の俺はろくに着替えもなかったもんだから助かった。

 ずっと放浪の旅を続けてたからな、着替えを買うお金もなかったし。


 そうして、俺はヘレンに案内されて別室で装備に着替えた。

 カンテラ、背負いカバン、魔法紙、ペン――そして真新しい麻布の服。

 服は丁度いい大きさで着心地がよく、動きやすかったな。


「ほお、様になってるじゃないか」


 外に出るとヘレンが待っていてくれた。

 俺の服装を見てうんうんと頷くヘレン。少し照れくさかったっけ。


「さ、行きな! 必ず生きて帰ってくるんだよ!」


 全ての準備が終わった後、ヘレンはそう言って俺を見送ってくれた。

 俺はああ、と頷くとギルドマスターの部屋を出てシエラに挨拶し、ギルドを出た。

 ダンジリアの南東、そこが俺にとって初めての迷宮が存在する場所。

 不安と期待の入り混じった感情を胸に、俺はその場所へと向かって一歩足を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ