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第三十八話【オッサン、追跡する】

 その日の夜――。


「あ゛~♪」

「き゛ゅ~♪」


 風呂あがりのニーナとキューちゃんが、早速ウィンドメーカーで遊んでいる。

 やれやれ無邪気な事だ、と俺はミルクを飲みながらその様子を見ていた。


 すると突然、コンコンと扉を叩く音が聞こえる。

 こんな時間に誰かと思い扉を開けると、そこには寝間着姿のニャムが居た。

 手にはクッキーなどのお菓子の入った籠を持っている。


「にゃっほ~こんばんはおっちゃん」

「ニャムじゃないか、どうしたんだこんな時間に」

「いやー、今日は助かっちゃったから改めてお礼をね? 忙しくてちゃんと言えなかったしさー」

「俺とお前の仲なんだから、別に気にしなくて良いのに……それって手作りか?」

「あったり~、味見したから味は保証するよー」


 全く、変な所で真面目だなコイツ。

 まあ甘い物をつまみながらミルクを飲むというのも中々オツな物だ。有難く頂くとしよう。

 

「頂くよ、ありがとう」

「お礼を言うのはこっちの方だよー、本当助かっちゃった」


 にへーと気の抜けたように笑いながら、こちらにお菓子を手渡すニャム。

 お菓子の甘い香りがふわっと漂う。これは美味しそうだな。


「あっ、おかしだ!」

「きゅぅーっ!」


 匂いに誘われてか、いつの間にか子供達も寄って来ていた。

 寝る前にお菓子は駄目……と言いたいところだが、俺も食べたいので今日は不問とする。


「ニーナはともかくキューちゃんは食べれないぞ」

「きゅう~……」

「よしよし……キューちゃんおちこまないで、ジャーキーあげるからっ」

「きゅっきゅー!」


 そう言うとニーナ達は、冷蔵樽の方へと走って行った。

 樽の中には燻製肉(ビーフジャーキー)もしまってある。市場で買ったキューちゃんのおやつだ。

 ニーナはそれを使って芸か何かを覚えさせようとしているみたいだが、一体何をさせる気なのやら。


「あ、そうそう、ここでよもやま話~」

「どうしたんだ急に」

「いやね? ちょっと見ちゃったんだよねー、シエラちゃんのヒ・ミ・ツ」


 シエラのヒミツ? 一体なんだそりゃ。


「……一応聞くが、俺が聞いても良い物なんだよな?」

「当たり前でしょー、おっちゃんのスケベ」

「誰がスケベだ!」

「じょーだんじょーだん。えっとね、仕事が終わった後、シエラちゃんがこそこそとギルドの外に出ていくのを見たの」


 仕事が終わった後、って言うとシエラは今夜勤だから昼って事だよな。

 確かにギルドの玄関口は道具屋のカウンターから見える位置にはあるが、よくシエラを見つけたもんだ。


「シエラちゃんにその事を聞いてみたんだけどさ、はぐらかされちゃって……ねえ、気にならない? 気になるよね?」

「悪い顔してるなお前……で、要するに何が言いたいんだ」

「またまたぁ、おっちゃんも分かってる癖にー。要するに後を付けて調べてみれば? って話だよー」


 こいつ、自分が気になる事を他人に調べさせる気だっ!

 ……だがしかし、ニャムの言う通り確かにシエラの行動は気になるな。

 トランパルは広い街だ。街も広ければ色んな人が集まる。

 当然、悪い意思を持つ人間も居るだろう。何かよくない事に巻き込まれてないと良いが。


「ま、どうするかこうするかはおっちゃんの自由だよ。私は気になるけどねぇ」

「遠回しに調べてくれって言うんじゃないよ、まったく……まあ気にはしておこう」

「やったね! じゃ、何か分かったら教えて頂戴ねー。じゃあねぇー」


 と、彼女は終始気の抜けた感じで話して帰って行った。

 

 俺はニーナにお菓子を渡し、自分も一つ摘みながらミルクを飲む。

 うーん、上品な甘さとミルクのコクが混ざっていい感じだ。良い物を貰った。

 しかしシエラの秘密か……人の秘密をついて回って調べるなんて、そんなストーカーみたいな事出来る訳がない。

 いやしかし心配だな……何かあった時にヘレンに何て言えばいいんだ?

 ううん……。


                  ◇


「……結局、追って来ちまったな」

「きゅー?」


 そう独り言を呟くと、それに反応してかキューちゃんが一声鳴いた。


「だめだよキューちゃん、しずかにしてなきゃ」

「きゅっ」


 しーっ、と人差し指を口元で立てるニーナ。

 それを理解したのか、キューちゃんの鳴き声も小さくなった。


 次の日の昼頃。俺達はギルドを出るシエラの後を追って街中へと出た。

 ニーナとキューちゃんは勿論勝手についてきた。……まあ、静かにしてるから良しとする。


「良いか? シエラの事が心配で来てるんだからな、問題ない事を確認したらすぐに帰るぞ?」

「りょうかいですっ、たいちょー」

「きゅっきゅー」


 敬礼しながらニーナは言った。誰が隊長だ誰が。

 

 俺は建物の影に隠れながら、シエラの後を追った。

 大通りから外れて人混みを避けるように進む彼女。どうもきな臭い感じだ。

 嫌な予感がするが、もしも悪い輩に絡まれていたら俺が助けてやらないといけない。


 シエラは誰も居ない事を念入りに確認しながら歩いている。

 幸いにもこちらには気付いていない様子だ。

 どんどん人の居ない寂れた道へと進んでいく彼女。一体何処まで行くつもりなんだ?


「ちょっとドキドキするね、パパっ」

「きゅぅーっ」


 探偵気分なのか、少し楽しそうにしているニーナ達。

 周りは少しおどろおどろしい風景になってきているが、本当に芯の強い子供達だ。

 まあ、迷宮に連れ回してこういった雰囲気に慣れているってのもあるんだろうけど。


 そうして、シエラを追って十数分。ようやく彼女は立ち止まった。

 その場所は舗装もされていない小さな空き地。ここで何をやろうと言うのだろう?

 彼女はキョロキョロと誰も見ていない事を再度確認すると、草むらから何かを取り出した。


「……木剣?」


 そう、練習用の木剣である。大きさはショートソードぐらいといった所か。

 彼女はそれを取り出すと空き地の中央付近で構え、やああと声を出して大きく振る。剣の素振りだ。

 ……素人目から見ても、それはでたらめに振り回してるようにしか見えないが。


「わあっ、れんしゅうしてるんだねっ!」

「きゅっきゅー!」


 ここでニーナ達が堪え切れずに声を出してしまう。

 シエラは物音にびくっと身体を震わせ、驚いた様子でこちらに剣を向けた。


「だ、誰ですかっ!? 大人しく出て来なさいっ!……で、出来れば、そっと来てくださいっ」


 その手はプルプルと震えている。……何だか申し訳なくなるな。これ。

 俺は両手を挙げ、敵意が無い事を表しながら物陰から出た。


「すまん、俺だ」

「シエラおねえちゃんこんにちはっ!」

「きゅっきゅー!」


 呑気に挨拶をする一人と一匹。全くこの子達ったら。

 

「ええっ、ジムさんにニーナちゃん、キューちゃんまでっ!? ど、どうしてここが分かったんです?」

「後を付けてたんだ、ニャムからギルドから抜け出してるって話を聞いて、少し心配になってな。正直すまなかった」

「ああっ、頭を上げてくださいっ! こそこそしてた私も悪いですし……」


 俺は頭を下げて謝罪した。

 彼女がこんな所で隠れて剣の練習をしているだなんて、全く予想もしていなかった。

 それにしても、どうして彼女は剣の練習なんかしていたのだろうか?


「しかし、どうしてこんな所で剣の練習を? トランパルにも訓練所はあるだろう」

「その、剣を振るうのに慣れてなくて、人前でやるのはちょっと恥ずかしいかなーって……あ、アハハ」

「なるほどな……じゃあどうしていきなり剣の練習なんか始めたんだ?」

「そ、それは……」


 彼女は少し言葉を詰まらせた。そんなに深刻な理由なのか?


「わ、笑わないで聞いてくれますか?」

「勿論、笑ったりしないさ」

「わたしもっ! ききたいききたいっ!」

「きゅっきゅー!」


 ニーナ達も便乗して囃し立てる。

 どうやらやましい事じゃなさそうだが……その理由とは?


「その、私……! 冒険者になりたいんですっっ!」

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