第三十七話【オッサン、ドワーフと遭遇】
ドワーフ―― 彼らは多種多様の種族が集まるパンドラの中でも、特に変わっている種族の一つである。
身長が大人でも子供位の大きさにしかならない小人種族で、主に山岳地帯に村を作り暮らしている。
魔法が使えない代わりに採掘技術や鍛冶技術などが非常に発展している。
後述の理由もあってか、ドワーフ製の装備は市場で家が一軒買える程の値段で取引されているぐらいだ。
彼らが最も変わっているという点は、魔石を"神が宿る石"と崇めている事。
理由は様々な説があるが、"魔法が使えない"という点で、魔力を秘めた石を神の力と考えたのが始まりだとかなんとか。
その為、魔石を魔法や遺物に利用する他種族を非常に嫌っている。見ただけで侮蔑の言葉を投げかける程に。
基本的に好んで戦いを起こす性格ではない為か村からは出てこないが、稀に過激派のドワーフが鉱山街を襲撃したりするなど問題も発生している。
その他にも可愛らしい童顔を隠すために男性は髭を蓄え、女性は付け髭をしたり口元を隠したりする文化があったり、成人の儀式に石を食べたりする等……とにかく変わった種族、らしい。
実は俺は本で読んだ知識はあったものの、実際にドワーフを見たことは無かった―― 今の今まで。
「ははぁん……その顔、お客さんドワーフを見るのは初めてっスか?」
付け髭を撫でながら、少し得意げそうに語る少女……いや、女性?
とにかく、目の前に珍しい種族であるドワーフが踏み台の上に立っていた。
「あ、ああ、すまない。少し驚いてしまった」
色々と根掘り葉掘り聞いてみたくなった好奇心を抑え、俺は伝票を取り出して彼女に渡した。
まさかこんな所でドワーフに会うとは夢にも思わなかった。
ニーナは俺が驚いている理由も分からないのか、頭の上にハテナマークを浮かべていた。
「はい、どうもっス! ええと……ギルドの道具屋さんっスね」
「ああ、在庫が少ないから出来れば早く届けてくれるとありがたい」
「了解っス、すぐに配達に行くっスよ!」
伝票を受け取ると"速達"と書かれた箱にひょいっと入れるドワーフの女性。
これでニャムが在庫切れで困る事は無いだろう、ひとまず目標は達成だ。
「ねえねえ、なんでおひげ付けてるの?」
ニーナが同じくらいの歳だと思っている様子でドワーフに聞く。
「……こほん。一応、キミよりずっとお姉さんなんスよ?」
「ええっ! そうなんだ……ごめんなさい、おねーさんっ!」
「よろしいっ! ちなみに髭は気にするな、っス!」
どうやら髭については触れられたくない様子。
まあ顔を隠したいから、なんて言うのはドワーフからしたら恥ずかしい話なんだろう。
しかしこうもフレンドリーな感じだと、俺の知ってるドワーフ像とは余りにもかけ離れてるな……。
本当に彼女はドワーフなんだろうか?
「ああっと、次の人が待ってるっスから、用が済んだら退いて欲しいっス!」
「おっとすまない、すぐ退けるよ」
ドワーフの女性に催促されるがまま、俺達は列を離れる。
「またねっ、小さなおねーさん!」
「はい、またねっス! あと小さなは余計っスよ!」
ニーナは手を振って、彼女に別れの挨拶を告げた。
まあ確かに同年代だと思ってもしょうがないよな、身長的に。
……しかし惜しいな、色々と聞いてみたかったんだが。
「珍しいだろう、ドワーフが街で働いてるだなんて」
と、聞き覚えのある声が横から聞こえてくる。
その方向へと向くと、先ほど案内をしてくれた初老の男が居た。
「ああ、先ほどの人……ええと」
「エレクだ。"エレク・パクトロス"。この商人組合の会長を務めている」
商人組合の会長? まさかそんな凄い人物だったとは。
……昨日といい今日といい、凄い人物に会ってばっかりだな。
「あっ、さっきのおじさん!」
「やあ、また会ったねお嬢ちゃん」
気の良い挨拶を交わす二人。
エレクはニーナの言葉に気を悪くする様子も無く、ニッコリと笑顔で返していた。
「すみません、うちの子が」
「いや良いんだよ、子供は元気なのが一番だ。そうそう、彼女の話なんだが、あの様子だと君も気になってるんだろう?」
「ええ、まあ……ドワーフなんて初めて見ましたから」
「ふふふ、無理もない。彼らが人里に下りて来る事なんて滅多にないからね。君の好奇心を満たせるかどうかは分からないが、私の知っている事を教えよう」
ありがたい申し出だな、是非教えてもらおう。
「ではお言葉に甘えて」
「そうだね、まずは彼女、"アルマ・スペッサルティン"について話そうか」
「……良いんです? その、個人情報とか」
「なあに、彼女は気にしないさ。そういう性格なんだ」
性格で片付けて良い物なのかはさておいて……アルマって言うんだな、あのドワーフの女性。
ちらりと横眼で見ると彼女も気が付いたのか、にこりと笑って手を軽く振ってくれた。
「彼女はここから北に位置する鉱山街"マグトラ"近郊の出身でね、他種族に興味があって里を出てきた数少ないドワーフの一人なんだ。……まぁ、彼女自身が家を出たかったってのもあるみたいだけどね」
「スペッサルティンって変わった苗字ですね」
「ああ、ドワーフ族は苗字に鉱物や金属の名を付けているのが特徴なんだ。彼女の村には"アダマンタイト"だとか"ミスリル"だなんて苗字のドワーフも居たらしいよ」
そりゃ何とも豪華な苗字だこと……。
マグトラと言えば魔石鉱山で有名な場所だな。
そこにドワーフの村があるとするならば少なからず衝突があったんじゃなかろうか?
彼女が家を出たがったのもその環境の可能性があるな。
「彼女の村は酪農が盛んでね、至る所にヤギやヒツジが居たよ。何とも喉かな風景だった」
「まるで見てきたかのようですね」
「実際見てきたのさ!」
……な、何ぃ!?
「ええと、大丈夫だったんです?」
「いやぁ、あの時は大変だったね。彼女に頼み込んで連れてってもらったは良いものの、最終的には戦斧を持ったドワーフ達に追い回されて泣く泣く帰って来たんだ」
はっはっはと笑い事かの様に言うエレク。いや、殺されかけてるから。
しかしちょっと羨ましくもあるな……ドワーフの村か、一度行ってみたい。
まあ多分、行ったら行ったで同じ結末を迎えるのは、火を見るよりも明らかなんだが。
「本で書かれている様な石を食べるとか、そう言った風習はもう昔の話らしい。今では畜産物と野菜類中心の食生活だそうだよ」
「意外と普通なんですね」
「そりゃあ勿論、彼らだって僕たちと同じだからね。ちょっと背が小さくて顔が幼いだけさ!」
にこりと笑ってそう答えるエレク。
まあそりゃそうか、石を食うだなんて考えられないもんな。
「とまあ、こんな所か。後は髭の文化は変わっていない所とか、思ったよりドワーフは好戦的だって事かな、ハハハッ!」
「な、なるほど……勉強になりました、ありがとうございます」
自虐気味に笑う彼に苦笑いしつつ、俺は礼を言った。
しかしまあ面白い話を聞かせてもらったな、ドワーフの村に行った人間などそう滅多には居ない。
ドワーフとも知り合えた?し、良い事尽くめだ。
「おおそうだ、君達の名前を聞いてなかったね、済まない事をした」
「いえいえ、お気遣いなく。ジム・ランパートと言います。この子はニーナ」
するとニーナはキューちゃんを指差して、
「そしてこの子がキューちゃんっ!」
「きゅっきゅ!」
と言い出した。
まぁ確かに忘れちゃいけないよな、うん。
「ほお、では君があの噂の"ランパート一家"の!」
「ら、ランパート一家?」
「そう、なんでも"子連れで迷宮を測量し回ってるイカしたハンサムがいる"と聞いたもので、どんな人物かと思っていた所だ。まさか君だったとはなぁ、ハッハッハ!」
……言いふらしたのはジョンだな、間違いなく。
まったく誰がイカしたハンサムだ。
「有名な君と知り合えるとは、カルーンのお導きに感謝だね! これからもご贔屓に頼むよっ!」
「え、ええ、よろしくお願いします……ではこれで自分達は失礼しますね」
にこやかに笑いながら握手を求めるエレクに若干押されつつもそれを返し、俺達は彼に別れを告げる。
またいつでも寄ってくれよと言って彼は手を振って見送ってくれた。
……なんともフレンドリーな人だったな。本当。
こうして俺はお使いを無事終わらせ、帰路に着いた。
ニーナとキューちゃんも珍しい物が見れてご機嫌そうだ。よかったよかった。
ちなみに、ちゃんと帰りにウィンドメーカーを買って帰ったのは言うまでもない。





